“農家シェフ”クリストフ・エイが語る、ロワール発サステナブル・ガストロノミーの未来

フランス・ロワール地方でサステナブル・ガストロノミーの発信地として注目される「フルール・ド・ロワール」を率いるスターシェフ、クリストフ・エイ。自家菜園や和牛牧場を持つことから自身を“農家シェフ”と名乗る彼は、ガストロノミーをどう変えていくのか。フランス発祥のグルメガイドアプリ「LA LISTE 2027」の日本先行レセプションにゲストとして来日した彼に、土地の食材と人に向き合う、サステナブルな料理哲学を聞いた。

フランス・ロワール地方でサステナブル・ガストロノミーの発信地として注目される「フルール・ド・ロワール」を率いるスターシェフ、クリストフ・エイ。自家菜園や和牛牧場を持つことから自身を“農家シェフ”と名乗る彼は、ガストロノミーをどう変えていくのか。フランス発祥のグルメガイドアプリ「LA LISTE 2027」の日本先行レセプションにゲストとして来日した彼に、土地の食材と人に向き合う、サステナブルな料理哲学を聞いた。

INDEX

世界を旅した料理人が、故郷・ロワールの食材と作り手に目を向けるまで

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2025年フランス・デザート選手権で優勝を飾った「MA COLLECTION D’AGRUMES(私の柑橘コレクション)」。柑橘の葉を使ったビスキュイとソルベに、すだち、マンダリンのソースを合わせた一皿。

ロワール地方の家畜農家に生まれ、食材に囲まれて育ったエイ。ポール・ボキューズのもとで経験を積み、アメリカの名店で働くなかで、料理への視野を広げていったという。

「調理の技術があれば、フランス料理は世界中のどこでも作れます。その土地の食材を知ることが、料理を考える楽しみになっていました。フロリダで農家を訪ね、有機農法の先進的な取り組みや、現地で手に入る食材に触れました」

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故郷で料理をする今、その関心は、食材の向こうにいる作り手へと向かっている。食べ手の期待や贅沢の捉え方の変化について尋ねると、エイは自身の経験を振り返りながら語った。

「1980〜90年代を、私は『迷子の時代』と呼んでいます。原産地がどこであろうと世界中から食材を集め、生産者が誰なのかというところには、あまり目が向いていませんでした。今は、誰が生産し、その裏でどれだけの人が働いているのかを意識するようになっています。小さな生産者のことや、信頼できる作り手の物語も大切になってきた。私自身も、地域で経済が回るように、その仕事が消えてしまわないようにと考えています」

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ロワール川沿いに佇む「フルール・ド・ロワール」。17世紀の旧施療院を改修し、ホテル&レストランとして再生した。歴史を感じさせる端正な建物と緑豊かな庭が、美食を楽しむ滞在をかなえる。

海から遠いロワールで、川の恵みを美食の主役に

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「Carpe à la Chambord(鯉のシャンボール風)」ロワール川の鯉にトリュフとエクルビスをバラに見立て、シュヴェルニーの赤ワインソースを添えた一皿。ワインは少しずつ煮詰め、果実味と軽やかな酸味を残す。土地に伝わる料理を、エイの感性で磨き上げたスペシャリテ。

その土地の自然や人の営みを、どう一皿に表現するのか。彼の哲学を映す料理として挙がったのが、ロワールの鯉を使う一皿だ。

「フランスで食べられている魚は、ほとんどが海の魚です。でも、私の故郷は海から少し遠いところにありますから、ロワールでとれる川魚の鯉を使っていて、それがシグネチャーな一皿となっています。伝統的な料理を今の感性で進化させることは、『歴史のバトンを渡していく』ことにもつながります」

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自家菜園で育つ旬の野菜が、レストランの一皿に。食材を選ぶだけでなく、育てるところから料理に関わるのが、エイの名乗る“農家シェフ”のスタイル。

近くにある食材を選ぶことは、土地に残る味を受け継ぐことでもある。何を新しく持ち込むかだけでなく、何を見直し、手渡すか。その姿勢は、食材を育てる現場にも通じている。自家菜園では野菜やハーブを育て、地域の種子保存機関と連携し、絶滅が危惧される野菜の復活にも取り組む。土地にあるものを見つめ直すことが、新しい料理の出発点になるのだ。

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レストランのまわりは、樹木や草花に囲まれていて、豊かな緑が滞在のひとときを彩る。

日本の和牛や柑橘が、ロワールの料理に新たな表情をもたらす

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「Bœuf Wagyu de notre élevage(自家飼育の和牛)」和牛に、豆類、自家菜園のショウガ、ガルムを合わせた。日本で生まれた食材を、土地の恵みとともにエイ自身の料理へと昇華させた一皿。

地元への愛着は、異なる食文化への好奇心とも共存する。その一例が和牛だ。ニューヨークで初めて口にして、その味に惹かれたという。淡路島の生産者を訪ねた経験もあるエイは、2018年にフランスで和牛を取得し、自ら育てる取り組みへと踏み出した。菜園では日本の柑橘類も育て、料理に生かす。海外で出合った味が、ロワールで新たに根を下ろしていくのである。

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自身の牧場で37頭から育て始めた和牛は、現在120頭に増えているそう。どんな環境で、何を食べて育つのか。エイのおいしさへの探究は、牧場から始まっている。

では、地元産か海外産かを問わず、食材を選ぶ際に何を大切にしているのか、エイが挙げたのは、生産者と、その仕事を知ることだった。

「どの食材を選ぶときも、まず生産者を見ています。どういう方法で育てているのか、動物にはどういう餌を与えているのか。そうした育て方を、自分で確かめてから選んでいます。ロワールではヤギのチーズもたくさん作られていますが、そこでもヤギに何を食べさせているのかといったことを、きちんと見ています」

産地の名前を知るだけにとどまらず、食材を育む人の仕事に触れてから、厨房に迎え入れる。エイの地産地消は、異なる土地との出合いや、生産者との関係を通じて深まっている。

その味を育んだ人や土地を知ると、食の楽しみはもっと広がる

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生産者への関心と同じように、エイが大切にするのが食べ手との交流である。店では、自ら注文を取り、素材や原産地についてゲストに話すこともあるという。

「私、人間が大好きなんです。どんな食材を使い、原産地はどこなのか。そうしたお話をしながらやり取りするのがとても好きなんです。世界中から訪れる皆さんも、ここではどんな食材を使っているのかに関心を持ってくれます」

生産者の仕事を知り、食材を選び、その魅力を料理にする。エイの関心は、皿を仕上げた先にも続いている。食材の背景を伝え、ゲストと語り合う時間もまた、彼の料理を味わう楽しみのひとつなのだ。次の食事では、おいしかった素材について、ひと言尋ねてみたい。旅先でも、日本のいつもの店でも、その味を育んだ人の話が、食事の記憶に加わるかもしれない。

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インテリアデザイナーのカロリーヌ・ティシエが内装を手がけたレストラン。ロワール川の砂州を思わせる壁の曲線と柔らかな色調が、窓の向こうに広がるブロワの街並みと響き合う。

Christophe Hay/クリストフ・エイプロフィール画像
シェフChristophe Hay/クリストフ・エイ

1977年、ロワール地方で5世代続く家畜農家に生まれる。ポール・ボキューズに才能を認められ、アメリカでもシェフを務める。2014年、故郷で「ラ・メゾン・ダ・コテ」を開店し、ミシュラン二つ星とミシュラングリーンスターを獲得。2022年、ブロワに「フルール・ド・ロワール」を開業。自家菜園、トリュフ農園、和牛牧場を持ち、地域の食材を生かす料理を追求する。「LA LISTE 2025」で倫理・環境責任賞を受賞。

SHOP DATA

Fleur de Loire/フルール・ド・ロワール

SHOP DATAの画像_11

ロワール川のほとり、古都ブロワに佇むホテル&レストラン。17世紀の旧施療院をクリストフ・エイが改修し、美食の拠点へと生まれ変わらせた。シェフの名を冠したミシュラン二つ星レストランをはじめ、カジュアルに楽しめるレストラン「アムール・ブラン」、全44室の客室、シスレーのスパを備え、食と滞在をゆったりと堪能できる。

26 Quai Villebois Mareuil, 41000 Blois
TEL +33 246680120

LA LISTE とは?
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2015年にフランスで生まれたグルメガイドアプリ「LA LISTE」。アルゴリズムを用い、世界のレストラン、ホテル、パティスリーを紹介する。2027年度版の日本先行レセプションは2026年10月5日、フランス大使公邸で開催。世界TOP1000へのノミネートや各分野の特別賞を紹介する機会として案内され、エイもゲストとして来日した。
https://www.laliste.com/