小久保さんが教える、フランスワインの特徴について
ワインの発祥地はジョージアですが、発展に貢献したのはフランス。世界中の造り手が目指しているワイン大国です。リーズナブルなものから超高級な逸品まで幅広く、フランス全域であらゆる特徴を持つワインが大量に造られているわけですから、世の中にあるほぼすべてのワインのスタイルがフランスに揃っていると言っても過言ではないはず。有識者の方はいろいろなご意見があるかと思いますが(笑)、フランスワインを押さえておけばなんとなく世界のワインをわかった気になれますよ!
フランスワインは一般的にいくつかの品種をブレンドして造られているのが主流。複雑で繊細な味と香りが魅力です。だから普段ワインを飲みなれていない人がプレミアムなワインを飲む機会に恵まれたとしても、そのおいしさを十分堪能することは難しいかもしれません。でも飲み続けていたら、行き着く先はやはりフランス! 舌の経験値が上がったなと思ったら、その都度飲んでみましょう。
産地の特徴を知って、フランスワインの選び方をマスター!
今回取り上げる、6つの産地はどれも地方の名前です。それぞれの産地で造られるワインのスタイルをざっくりと説明しましょう! ブルゴーニュとボルドーはフランスワインの2大巨頭。ブルゴーニュのワインは洗練されたスタイルが特徴です。産地を代表する品種、ピノ・ノワールで造られる赤ワインの味わいはピアノの旋律のようにエレガント。テロワールは畑レベルで変わり、ブルゴーニュワインのおいしさがわかれば大人舌の持ち主になれます!
ブルゴーニュの赤ワインがピアノ曲なら、ボルドーの赤ワインはドラム・ベースがある音楽ですね。重厚でありながらも優雅な味わいは、ワインの女王とも呼ばれています。そんなワインを造ることができるのは、恵まれた気候によって生み出される品の良いカベルネ・ソーヴィニヨン、はるか昔から鎬を削ってきた職人たちが集まっているから。
ロワールだったら、すっきり白! シンプルで飲み飽きず、パリの日常でもっともよく飲まれているテーブルワインでもあります。産地指名するというよりは、お気に入りの銘柄を見つけて選ぶことになるでしょう。
アルザスといえばリースリングが有名。寒い地方なので、おいしい白ワインができます。他の産地に比べるとやや甘口、ドイツ的なワインが造られていますね。ボトルの形は細長く、そんなところもドイツワインとそっくりなんです。
ローヌのワインは赤だったらスパイシーなシラー、白ならまろやかなヴィオニエがよく使われています。この2種のブドウがブレンドされた赤ワインも、ローヌならでは。そんな風に常識にとらわれず、カジュアルに飲めるワインが多く、自然派ワインもたくさん造られている地方です。
プロヴァンスはロゼ一択! フランス3大ロゼワインのひとつに挙げられていて、きれいな酸とフレッシュな果実味をミネラルが引き締めて飲みやすさ抜群。高級リゾート地ですが、南フランスのワインは全体的にリーズナブルなのも嬉しいポイントです。
ワインの聖地・ボルドーのハイコスパ赤「シャトー・ローラン・ラ・ギャルド・プレスティージュ2015」
K トップバッターは、メルローとカベルネ・ソーヴィニヨンのワインで、典型的なボルドーブレンドの1本!
Z 水色はダークチェリーのように濃いのに、そこまで重たくない。タンニンはしっかりありますが。
K メルローが70%だからまろやかに感じるんだと思います。ブドウ由来のフルーツ感というよりは、熟成から生まれた香りがしますね。果実味に頼らず、旨みを感じられるのがボルドーの赤ワインの特徴ですね。同じボルドーブレンドでも、ニューワールド(ワイン新興国)の暖かい産地だとフルーティさが強い。
Z ボルドーブレンドはカベルネ・ソーヴィニヨンが主体になることもあるんですか?
K はい、ありますよ! メルローが多いと土や木のようなニュアンス、カベルネ・ソーヴィニヨンが多いと青野菜やブラックベリー系のテイストが感じられます。
A ボルドー地方には聞いたことがある地区がたくさんありますね! メドックやマルゴーとか。このブライという地区は初めて聞きました。
K AOCはブライ・コート・ド・ボルドー。ブライ地区はちょっとマイナーなので、掘り出し物があるかもしれないですね。メドックはどうしても高額ワインになってしまいますから、¥3,000台でこのクオリティはめっちゃ優秀です!
ブルゴーニュ発! 世界一メジャーな白「アントワーヌ シャトレ シャブリ クラシック」
K やはりブルゴーニュは高級ワイン産地というイメージ! 赤だとピノ・ノワールとガメイ。白だったらシャルドネとアリゴテですね。ロマネ・コンティなどの超高級ワインもあるけど、高額じゃないものももちろんあります。でも基本的にブルゴーニュと名前が付くだけでちょっと高くなっちゃいますね。
Z “シャブリの白”といえば、私でも覚えているパワーワードです!
K 冷涼なところなのですっきりした酸が特徴。シャブリっぽさと言ったら、樽香を効かせていないシュッとした味わいですね。ところが一口にシャブリと言っても味はピンキリなので、今日はさらに知識を深めましょう!
A シャブリ地区では、さらに畑単位でランク付けがされているという細やかさ。 一番上等なのが「グラン・クリュ」、次が「プルミエ・クリュ」、それから普通の「シャブリ」で、一番下のランクは「プティ・シャブリ」です。
Z 例えるならブルゴーニュ地方は東京都で、シャブリ地区は港区、グラン・クリュが麻布ってことですね! もし自分が麻布出身だったら高らかに声を上げていきたいですから、畑レベルで格付けしちゃうシャブリの民の気持ちがわかります。
K このシャルドネはノーマルシャブリですね。ノーマルシャブリの中ではすごくおいしい、このおいしさは普通じゃない(笑)! 酸が穏やかで、バランスが良い。もし銘柄チョイスでなく、シャブリというエリアからざっくりワインを探すなら個人的には「プルミエ・クリュ」以上がおすすめです。
ロワールらしいすっきり系自然派「シュヴェルニ・ブラン キュヴェ・ドメーヌ」
K ロワール地方からAOCシュヴェルニーのワインをどうぞ! シュヴェルニー地区は1993年にAOCに格付けされた比較的歴史の浅いエリアで、その中心に当たる場所にあるワイナリーです。
A 引き締まった酸と果実味が爽やか! ほんのりミネラルも感じで飲み心地が良い。
K うまいですね〜! ソーヴィニヨン・ブランとシャルドネのブレンドなんですけど、ソーヴィニヨン・ブランが使われているからすっきり系に仕上がっています。ほどよいバランス感は造り手の個性ですね。極力添加物を使っていなくて、僕的には自然派ワインです。
A この白ワインのように、すっきり辛口白がロワールのスタイルですか?
K そうですね、このエリアではソーヴィニヨン・ブランが一番有名。あとミュスカデもおすすめです。ミュスカデはすごくすっきりしていて、甲州のようなブドウ。自然派ワインにもよく使われていますよ。赤だったら、カベルネ・フランやガメイもあります。
プロヴァンスの太陽と海風を感じるロゼ「キュヴェ・マリー・クリスティーヌ プロヴァンス ロゼ」
Z ボトルのフォルムもエチケットもモダン!クルーザーの上でセレブたちに飲まれている様子が目に浮かびます、交ざりたい♡
K リゾート地らしい、パリピ感がありますよね(笑)。でも実際は18世紀まではなんとフランスの王室御用達だったという由緒あるワイナリーなんです。再興して味わいもボトルデザインもアップデートされ、改めて認められています。プロヴァンスといえばロゼ、ほぼロゼしか造っていないエリアなんですよ。
A プロヴァンスのロゼはどんな品種で造られているんですか?
K サンソーやカリニャンが多くて、ガブガブ飲めちゃう辛口のロゼがプロヴァンスのスタイルですね。
A このボトルデザインから想像して、さぞやパンチの効いた味わいだろうと思っていたら、優しい味わいで飲み飽きない。全然イケイケじゃないです! むしろ親しみやすいくらい。
K それがプロヴァンスのロゼらしさなんです! コクやキレとか、突出した何かがあるわけじゃない。
Z おいしいワインってそういうことですよね、バランスが良い。
K そうそう、味わいチャートにしたらきれいな五角形になる感じです。南フランスでは生活に根付いているワインで、食事にも合わせるものだから、飲み続けても疲れない味わいなんですよね。カリフォルニアのロゼは派手でハリウッドっぽいけど、プロヴァンスは奥ゆかしさがあってさりげなく品がある。
A わかりやすさを求めない、フランス映画っぽいですね。それでいてリーズナブルですし、ありがたい!
アルザスらしさが詰まった個性派ブドウのワイン「フェルナン エンジェル ゲヴェルツトラミネール レゼルヴ」
K 久しぶりに飲みましたが、おいしいですね! ゲヴェルツトラミネールという品種はすごく香りが個性的で、ライチのようにエキゾチック。アルザスはリースリングが有名ですが、ゲヴェルツトラミネールも並んでこのエリアを象徴するブドウなんですよ。
Z ブドウ由来の果実味と柔らかな口当たりなんですけど、キレのある酸がグッドバランスです。
K ゲヴェルツトラミネールはやや高級品種なので、単一ワインでこれだけのクオリティがこの価格というのはかなりお買い得! しかもブドウはすべて有機栽培で、自然派寄りの造り方をしています。
Z アルザスと聞くと甘口ワインなイメージがありますが、実際はどうなのでしょう?
K ドイツの影響が強くて一部では甘く造られたりもしますけど、実のところは辛口主体なんですよ。あとアルザスはフランスの中では珍しく単一で造ることが多いので、品種の個性はわかりやすいと思います。
Z ドイツっぽいけど、実際にドイツワインと比べるとどうなんですか? もっと洗練された味になっているとか?
K 気候も似ているし、ライン川を挟んで戦争を繰り返した影響で、ドイツ文化が背景にあるので、スタイルは似ていますね。ザワークラウトなどが食べられているエリアだから、ペアリングもばっちり!このワインはボディがしっかりしていて、リースリングほどではないけど酸もあり、ソーセージとかもやはり合いますね。
A アルザスワイン飲んだら「ドイツっぽいスタイル」と言っておけば、間違いないですよ!
ローヌの真骨頂! ヴィオニエとルーサンヌのブレンド「エステザルグ コート・デュ・ローヌ ブラン プレン・シュッド」
K これはAOCコート・デュ・ローヌ、ローヌ全域を指すアペラシオンで造られたワイン。今日はヴィオニエとルーサンヌのブレンドした白ワインをチョイスしました。
Z ローヌのヴィオニエというと、どういう味わいが特徴ですか?
K 黄桃のような熟した果実味と、花っぽい香り。まったりしていてクセのあるフルーティさが特徴的で、個人的にも好きな品種です。ブレンドされることが多いですが、単一ワインもあります。この白にブレンドしているルーサンヌは補助品種ですね。
A ルーサンヌをブレンドすることでどんな良さが生まれますか?
K 味がもったりしないんです。酸味のたつルーサンヌとまろやかなヴィオニエは相性抜群で、この組み合わせはローヌらしいスタイルですね。一番このエリアを象徴するのはシラーにヴィオニエをブレンドする造り方なんです。
Z へー! 赤ワインですが、白ブドウを混ぜちゃうんですねっ。
K シラーって結構スパイシーな品種なので、ちょっとヴィオニエを混ぜてバランスを取るのが狙い。このスタイルは世界各地でマネされています。
Z ヴィオニエはほわほわといい香りを漂わせながら、主役にも脇役にもなれる柔軟さ。一番モテるのはこういうタイプです!
A 本の中でもやんちゃなシラーを手なずけていたしね(笑)。このワインは自然派の造り手ですか? すごく飲み心地が良くて!
K 造っているのはローヌ地方のアヴィニヨンの南西側に畑を構えるエステザルグ協同組合。可能なかぎり、有機栽培かつケミカルなものを使わず、自然派っぽい味わいに仕上げています。
フランスワインのラベルの見方がわかれば、好みのワインにたどりつける!
ワインのラベルには産地や品種を示すさまざまな情報が記されていますが、一般的に旧世界(ヨーロッパ)のラベルの方がわかりづらい傾向。でも、わかるようになると好みのワインのたどりつく確率が上がります!
フランスワインで今回覚えておきたいのは、AOCという地理的表示で伝統的な階級制度です。AOCは“どの土地の条件をクリアしているか”という証明書で、“より地域が限定されていると格上”という考え方がベース。これがわかるとラベルでワインの価値を見分けられるようになりますよ。
例えば、Appellation(アペラシオン)Bordeaux(ボルドー)Controlee(コントローレ)という場合は、ボルドー地方全体で栽培されているブドウを集めて使っているという意味。Appellation(アペラシオン)Medoc(メドック)Controlee(コントローレ)という場合は、ボルドー地方にあるメドック地区に限定したブドウを使っているので、より高級に。Appellation(アペラシオン)Margaux(マルゴー)Controlee(コントローレ)という場合は、 ボルドー地方にあるメドック地区の中にあるマルゴー村に限定したブドウを使っているので、さらに高級になります。記載の仕方に決まりはなく、裏面に書いてもいいし、記載自体しなくてもいい。
ただ、証明書が取れていない=おいしくないというわけではないし、最近は囚われない造り手も増えています。とくに自然派ワインだと、そういう格付けが嫌いだからと言って、あえてAOCを取らない造り手もいます。
AOCを取れるということは、規範や条件をクリアしているということなので味が保証されている。それはワインにとって強みでありブランド力に。偽物が出てくることがないので、生産者を守るということにも通じます。ひとつの物差しとして参考にするのは良いと思いますよ!
〜今回の「ベストうち飲み賞」を発表します!〜
Z ぼんやりしていたフランスの産地のことが、だいぶ明快になりました。じつはそんなに小難しい話ではないという気付きにも! 「エステザルグ コート・デュ・ローヌ ブラン プレン・シュッド」は、自分で買いたくなるほどのおいしさでした。
A 「シャトー・ローラン・ラ・ギャルド・プレスティージュ2015」にも「ベストうち飲み賞」を捧げたい!
K 今回紹介したのはフランスの数ある中からピックアップした産地で、そこが持つスタイルの一例に過ぎません。地方&品種は同じで違う地区を試したり、その産地の他の品種を飲んでみたり、ひとつの軸から枝分かれするような楽しみ方がおすすめです! 味もわかるようになると思いますよ。
A なんとなくワインを飲んじゃうより、わかることが増えると楽しくなりますから、まずは今回ご紹介したラインナップを起点にして始めてみてはいかがでしょうか!