日本酒専門家がおいしい日本酒をセレクト! ビギナーも飲みやすいおすすめ銘柄4選【うち飲み向上委員会vol.64】

ユネスコの無形文化遺産に登録されて、ますます注目度が高まる日本の伝統酒。中でも今圧倒的に面白いのは、モダンに進化した日本酒。そこで今回のうち飲み向上委員会では、日本酒ビギナーでも飲みやすい銘柄を紹介。選りすぐりの美酒と出合ったら、日本酒が好きになること間違いなし!

ユネスコの無形文化遺産に登録されて、ますます注目度が高まる日本の伝統酒。中でも今圧倒的に面白いのは、モダンに進化した日本酒。そこで今回のうち飲み向上委員会では、日本酒ビギナーでも飲みやすい銘柄を紹介。選りすぐりの美酒と出合ったら、日本酒が好きになること間違いなし!

初心者も飲みやすい、日本酒の最前線

ライターYOKOMIZO(以下Z) ワイン企画でいつもお話を聞いているソムリエの田邉さんは、日本酒にも精通しているんです。今日は日本酒経験ゼロという酒好きに向けてセレクトしていただきますよ。

田邉公一さん(以下T) 日本ソムリエ協会が認定する日本酒と焼酎の資格「SAKE DIPLOMA」と、それの国際資格「SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL」も取得しています。2000年代からソムリエは、自国の酒の知識を持っていて当然という流れがあり、個人的にはワインと同じくらいの熱量で日本酒にも打ち込んでいます。リアルうち飲みではワインよりも日本酒を飲むことが多いかもしれない(笑)。

エディターAKIYAMA(以下A) 味わいからビジュアルまで、今の気分に合うものばかり。おすすめの飲み方やペアリングも詳しくナビゲート! 最後に「ベスト打ち飲み賞」も発表しますよ。

栃木「仙禽 雪だるま」まるで自然派ワインのような感覚

仙禽 雪だるま
仙禽 雪だるま〈720㎖〉¥1,950/仙禽

Z ビギナーはまず日本酒っておいしいの?という疑問があるかもしれません。私も子どもの頃に嗅いだ日本酒の強烈な匂いがトラウマで、苦手意識がありました。が、しかし! ここ数年そのスタイルは味わいから見た目まで多様化し、酸いも甘いも知った大人になって飲んでみたら深みにハマる予感。これは皆さんにもシェアせねばと思いました。

T 多くの人が同じような体験から、日本酒を敬遠するようになってしまったんですよね。でも今日で変わりますよ。日本酒へのネガティブなイメージが吹き飛ぶ、とびきりのラインナップを揃えましたから。

A 栃木県の仙禽は、まさに日本酒にファッショナブルな一面を加えた酒蔵かなと。蔵元がソムリエであったり、ユナイテッドアローズとコラボをしていたり、気になる存在。ラベルも可愛らしくて、思わず手に取ってみたくなる酒ばかり。

T 酒の造り方は原点回帰していますが、ある意味で消費者がイメージしている日本酒の概念を変えてくれる一本だと思い、選びました。ブランディングなど、今の飲み手側のツボを押さえていて、新しいユーザーを開拓していますね。

Z 原点回帰というのは、どういうことですか?

T 仙禽が採用している酒造り「生酛」は、江戸時代に生まれた伝統的な技法。すべての酒を「生酛」へ江戸返りさせているんです。それだけでなく同じ環境で育った原材料のみを使用する酒造り、ドメーヌ化にシフトチェンジ。生酛は自然に乳酸を発生させなくてはいけないので作業としてはしんどい、さらに作物は有機農業で育てるので病気になりやすく、収穫量が落ちる。リスキーでありながらも、あえて伝統的な手法に挑むのはすごいなと思います。

Z その土地ならではの唯一無二の個性のために茨の道をいく……。コスパ重視の世の中で、なんて素敵な試み。早速一杯いただきましょう。

A たしかに志がかっこいいね。雪だるまは、優しい酸と少し甘めの味わいで、自然派ワイン好きならたまらないはず! わずかな発泡感もあり、心地よい飲み口です

T バランスがよく、体にスッと馴染むような味わいですよね。もろみの発酵が継続している状態で瓶詰めしているから、微発泡に。日本酒を造る工程には、発酵の終わったもろみを原酒と粕に分離する上槽という作業があります。仙禽の雪だるまの場合は、何度も何度もあらごしして、シルクのような飲み口が実現しています。

A ペアリングはいかがでしょうか?

T 旨みもしっかりある冬の酒なので、ペアリングには苺大福やモッツァレラチーズと苺のカプレーゼはいかがでしょう。苺の酸味と同調して、相性がいいと思います。和食ならほうれん草の胡麻和え、胡麻豆腐とどうぞ。6〜8度できっちり冷やしてから飲むのがおすすめです。

仙禽 雪だるま〈720㎖〉をチェック!

山口「3粒 火入れ 雄町」果実を思わせる味わい

大嶺酒造 3粒 火入れ 雄町
3粒 火入れ 雄町〈720㎖〉¥2,530/大嶺酒造

T 山口県美祢市にある大嶺酒造は、水のおいしい日本酒の味わいを知ってもらいたくて選出しました。名水百選に数えられる「弁天の湧水」と同じ水脈を仕込み水に使用していて、カルスト台地の影響でミネラルを適度に含んでいます。この仕込み水が、発酵に良い働きを及ぼしているそう。

A 水のテクスチャーを感じる透明感のある飲み心地。そして、マスカットのようなニュアンスがめちゃめちゃおいしい! こんなフルーティな日本酒があるとは驚きです

T 米表面の脂質やタンパク質は、ご飯として食べるならそれがおいしさになるのですが、酒にした場合は雑味になってしまうんです。米粒の外側を削れば削るほど、吟醸香と呼ばれるフルーティで華やかな香りが出やすくなり、クリーンな酒に。ちなみに「大吟醸酒」というのは精米歩合50%以下。パーセンテージが小さくなるほど、より削られていて雑味がありません。大嶺酒造の日本酒は米の磨いた精米歩合を、商品名の粒数で表していて、この3粒は50%です

Z 雑味が取れて、華やかな香りが生まれるって摩訶不思議。私たちも煩悩や邪念がなくなったら、ゆるふわ系になっちゃうかも。

A そういうことじゃないわ(笑)。こちらはキリッとドライというよりクリーンな味わい、それでいて米のふくよかな旨みも感じられますね。

T 酒米に使っているのは、元祖の米と言われている雄町。この銘柄を選んだ理由も雄町を使っているから。雄町の酒が好きすぎて、「雄町スト」という人たちもいるくらいファンが多いんですよ。まろやかな味の米ですが、スムースでクリーンな印象の味わいは上質な仕込み水だからこそ。

A ペアリングはいかがですか?

T 豚肉のグリルなど、どちらかというと肉料理と相性がよさそう。魚料理の場合は、淡白な味よりもサーモンや鰤など、脂がのった魚を選びましょう。お好みで、ぬる燗にするのもおすすめです。

3粒 火入れ 雄町〈720㎖〉をチェック!

山口「【2024年新酒】OTOKOYAMA 純米 にごり」フレッシュさの中に米の旨みが弾ける

OTOKOYAMA 純米 にごり
【2024年新酒】OTOKOYAMA 純米 にごり〈720㎖〉¥1,760/永山本家酒造場

T こちらも酒処の山口県から、宇部市の永山本家酒造場を選びました。この酒蔵はどちらかというと米の味を存分に引き出して造る正統派で、「貴」という日本酒が有名。でも今日味わってほしいのはビギナーが親しみやすいポップなラベルの「OTOKOYAMA 純米 にごり」です。新酒は日本酒の魅力の一つでもあるので、楽しんでもらえたら。

Z 本日2本目のにごり酒ですが、軽やかさの中にジューシーさがあり、やはり味わいは自然派ワインに通じるものがある。にごり酒ってちょっと重いイメージがあったけど、プチプチと心地よい泡立ちと相まって爽やかなくらいです

A これは生酒ということですが、どういうタイプなんでしょう?

T 火入れと呼ばれる、60℃ほどの加熱処理を一度もしない酒。ビールの場合、生酒に相当するものとして生ビールがありますね。絞りたての鮮度感を楽しむお酒で、フルーティな味わいが魅力。火入れをしないため、酵素が反応して味が変化しやすいデリケートな酒なので、冷蔵保存し、開封後は早めに飲み切ってください。

Z 皆さん、保存には気をつけましょうね。ペアリングのおすすめは?

T マイルドな味わいが、豆乳鍋や胡麻の風味と合うと思います。5〜6度でよく冷やしてから召し上がってください

A 冷たい酒と熱々の鍋、最高ですね! シュワシュワの泡が油分を流してくれて、さっぱりと食べられそう。最近はこうしたフルーティな味わいが日本酒のトレンドなんですか?

T そうですね、今は吟醸ブーム。米の味がする、香りが華やかで、フルーティな味わいが人気を集めています。以前は、淡麗辛口ブームと言われた時代もあり、その中心にあったのは五百万石という酒米です。五百万石は早稲で山田錦より硬質で、淡麗でドライな味わいになる傾向があります。現在はデータ上、生産量1位は今日もたくさん登場した山田錦、五百万石は2位になります。

A たしかに今日いただいている日本酒は、日常的に日本酒を飲まない人でも飲みやすいですし、人気の理由に納得。

【2024年新酒】OTOKOYAMA 純米 にごり〈720㎖〉をチェック!

愛知「醸し人九平次 human2023」フランスの三つ星レストランも認めた逸品

醸し人九平次 human2023
醸し人九平次 human2023 オリジナル化粧箱入り〈720㎖〉¥3,300/醸し人九平次

T 愛知県名古屋市の酒蔵、萬乗醸造が生み出した日本酒ブランドの醸し人九平次は、個人的にも以前から好きで、いいお酒を造ることで非常に有名です。ビギナーの方にも優れた日本酒の入り口として、知っていただきたいなと選出しました。フランスの三つ星レストランにオンリストされて、国内のみならず人気の高いブランドです

Z 美食の街で認められた日本酒、期待が高まります。フーディたちを惹きつける魅力とは?

T 米の味を重視されていて、自社米栽培にこだわり “ドメーヌスタイル”がコンセプト。前出の仙禽と同様に、ワインの世界では当たり前の「自ら原料を育て、酒を醸す」というスタイルを実践しています。味で勝負している硬派な造り手ですが、古いわけではなく非常に革新的。15代目の現当主はものすごく行動力のある方で、ブルゴーニュでゼロからワイン造りを始められたんですよ。

A すごいですね!! しかも世界最高峰の銘醸地で勝負するなんて、さすがとしかいいようがありません。蔵元が造るワインも気になる〜!

T 造っているタイプは、ほとんどが純米大吟醸。その中でも特に好きな「human」という銘柄を、今日はご紹介します。単純に華やかというだけではなくて、米の味を感じられ、かつエレガントに仕上がっています

Z メロンのように艶のある香りで、なんて品のある味わい。シャープでありながらボディもしっかりとした逸品ですね。化粧箱入りで、熨斗もつけられるのでギフトにもよさそう。

A 飲み方やペアリングはいかがでしょう?

T 酒器にこだわらず、ワイングラスでも小さなグラスでもOK。純米大吟醸の推奨温度は8~12度とされていて、冷蔵室保存で大丈夫ですペアリングは名古屋のテロワールに合わせて、うなぎの白焼き、名古屋コーチンの鶏肉の塩焼きがおすすめ。日本酒=魚というイメージがありますが、味わいにコクや深みがある食材とも相性がいいですよ。

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〜今回の「ベストうち飲み賞」を発表!〜

A 改めて田邉さんがビギナーに伝えたい日本酒の魅力とは?

T 日本人の暮らしが西洋化したといえど、やはり日常の家庭料理は和のテイストが多いですよね。多くの日本酒は和食全般と相性がいい傾向があるので、厳密に相性を追求ししすぎなくてもペアリングが成立しやすい。そしてリーズナブル! ボトル1本1,000円台で探したとしても、日本酒はおいしいものに出合える可能性が高いと思います。さらに、日本酒は酸化しにくいので、開封してから1週間から10日くらいは品質が落ちず、おいしく飲めるのも強みですね。

Z 甲乙つけ難いですが、あえて1本を決めるならいかがでしょう?

T ビギナーの初めの一本を選ぶなら、大嶺酒造の「3粒 火入れ 雄町」でしょうか。日本酒はクリアな味わいが多いので、最初にこのおいしさを知ると、他の日本酒にチャレンジしやすくなると思います。また、雄町という原点となる酒米を使っているので、その味わいも知ってもらえたら。でも、今日の4本を飲んでいただけたら、日本酒の柱が米と水であるということがよくわかるし、キャッチーなにごり酒や季節酒もあって、日本酒の印象アップ間違いなし。

A いつもの一杯を日本酒にしてみたら、最高の晩酌になりますよ! 気になった銘柄からぜひ飲んでみてくださいね。

【うち飲み向上委員会メンバー】 
田邉公一
ソムリエ・ワインディレクター。日本ソムリエ協会が認定する日本酒と焼酎の資格「SAKE DIPLOMA」と、国際資格「SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL」を取得。レストランやワインショップ数社の飲料の監修を手掛ける。ワインスクール「レコール・デュ・ヴァン」の講師。近著に『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』がある。
https://twitter.com/tanabe_duvin

ライターYOKOMIZO
おいしいお酒とごはんのためなら、高い海外輸送費も厭わず即ポチ。苦手な家事は休日に大好物の泡を飲みながらやっつけます。最近は海外の料理番組を観て、妄想トラベル。

エディターAKIYAMA
お酒はもっぱら外でハシゴ酒だったのが、ここ4年でうち飲みの魅力に開眼! おいしいお酒を飲みながら、ほろ酔い気分で愛猫と遊ぶのが至福の時間。