K 今ジャパニーズウイスキーのヴィンテージや人気商品は本当に手に入らないんですよ。価格も高騰し続けていて、一般の人には到底手が出せません。
Z そもそも、プレミアムウイスキーはなぜあれほど高額なのですか?
K いろいろな要因があって。サントリーの「響30年」が2004年にウイスキーの世界的な品評会「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ」で、最高賞トロフィーを受賞し、それをきっかけにジャパニーズウイスキーが有名になったんです。さらに、ニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝をモデルとしたNHKの連続テレビ小説『マッサン』が放映されてから、国内でもウイスキーに興味を持つ人が一気に増えました。10年ほど前から始まった世界的なウイスキーブームと相まって、ジャパニーズウイスキーの需要に供給が追いつかず、今も希少性が上がり続けているんです。
A 「山崎55年」がオークションで約8000万円という高値で落札されたというニュースもありましたよね。
Z それに比べてこの「サントリーウイスキーオールド」の親しみやすさよ!! トレンド路線というよりはクラシックなイメージのあるウイスキーですが、改めておすすめされる理由は?
K おっしゃる通り、このウイスキーは今そこまで注目を浴びていません。というのは、やはり世の中的に缶ハイボールにもなっている「角瓶」や「トリス」、もしくは「山崎」のような高級銘柄が目立つ存在。でも私は「サントリーウイスキーオールド」を隠れた名品だと思っているんです!
Z 大好きワードきました! “隠れた名品”その心は!?
K というのは、「角瓶」と飲み比べるとよくわかるのですが、「角瓶」はちょっと若い雑味を感じるんですよね。それに対して「サントリーウイスキーオールド」はシェリー樽由来の甘みがあることによって、エグ味がほぼありません。
A わかります! ふわっと芳醇な甘み、すごくシルキーできれいな飲み心地ですね。
K そうなんですよ。改めて飲んでみると、「あれ、これいいじゃん」ってなる!「サントリーウイスキーオールド」はシェリー樽比率の高いブレンデッドウイスキーになります。
Z 「角ハイボール」と唐揚げの組み合わせも最高だけど、「サントリーウイスキーオールド」はリッチな味わい。香りも豊かで、ロックでもストレートでもいいですね。
K 実は過去に一度、「サントリーウイスキーオールド」が販売量世界1位を達成した時があったんですよ。
A すごい、過去にはチャンピオンに輝いていたなんて! 実力派なわけですね。でも決して「俺が、俺が」とは主張しない健気なやつじゃないですか(泣)。
K それだけ良いウイスキーということなんですよね。というもの「サントリーウイスキーオールド」は日本人好みの味に造られていて、和食に合わせるという方針なんです。特に寿司と「サントリーウイスキーオールド」の水割りを合わせるのがおすすめです。
K 最近、ジャパニーズウイスキーは基準が変わったんですよ。日本洋酒酒造組合に所属している会社で造られるウイスキーは、ジャパニーズウイスキーと名乗るためにクリアしなくてはいけない条件があります。その定義の中に、アルコール度数40%以上、3年以上熟成というのが含まれています。正直いうと、組合に所属していない会社もあり、その基準を満たしていないものもあります。現状は自主的なものです。でも、大手と言われる会社はほぼ所属していますね。
A スコッチウイスキーやアメリカンウイスキーと同様に、ジャパニーズウイスキーにもクオリティを守るために規定があるんですね!
K 「キリン シングルモルトジャパニーズウイスキー富士」は、その条件に則って造られた新しい商品、昨年発売されました。「山崎」、「白州」と並ぶ国内の3大シングルモルトでありながらも手に入りやすく、現状は一番安価です。
Aシングルモルトとは、単一の蒸溜所で造られた大麦麦芽のみを使用したウイスキーでしたよね。
K このウイスキーが製造されている、キリンの富士御殿場蒸溜所には、とても複雑な製造設備があって、世界5大ウイスキーのうち4つをカバーするノウハウを持っているんです。スコッチウイスキーを造る機械ではシングルモルト、アメリカンウイスキーとカナディアンウイスキーを造る機械ではグレーンウイスキーを。それらを混ぜてブレンデッドウイスキーも造れます。なので、このシングルモルトのほかに「富士」はシングルグレーンとシングルブレンデッドもラインナップしているんですよ。
Z 技術力が素晴らしいですね!! 飲んでみるとバニラ香が印象的で、舌にピリッとする余韻がありますね。
A ベンチャーウイスキーの「イチローズモルト&グレーン ホワイトリーフ」、こちらは初めていただくウイスキーです。
K 厳密にいうとこれはジャパニーズウイスキーではなく、ワールドブレンデッドなんです。ベンチャーウイスキーが所有する秩父蒸溜所はかなり小さな蒸溜所。ブレンデッドウイスキーを造るためのグレーンウイスキーを自社で造れないので海外から輸入し、国内で追熟させてブレンデッドしているんです。だからワールドブレンデッドというネーミングに。日本洋酒酒造組合の規定に則ればジャパニーズウイスキーとは言えないものの、ウイスキー好きの間では大人気なんですよ。
A 味わいの魅力も教えてください!
K 創業者の肥土伊知郎さんはベンリアックでウイスキー造りの修行をされ、ジャパニーズウイスキーブームが始まる前に、イチから蒸溜所を立ち上げた人。非常に丁寧な造りで、かなり高品質なウイスキーです。ウイスキー好きなら海外の人でも伊知郎さんの名前を知らない人はいないくらい。そして今や、秩父蒸溜所のシングルモルトは、ネットで抽選販売になるなど、普通には買えません! そんな大人気のウイスキーの中で、比較的入手しやすい数量を生産しているのが今回おすすめする「イチローズモルト&グレーン ホワイトリーフ」になります。
Z その話を聞いてから飲むと、さらにありがたみが増しますね。
K ワールドブレンデッドである「イチローズモルト&グレーン ホワイトリーフ」は、厳密にはジャパニーズウイスキーという括りではないけど、今国内の酒造会社が造っているブレンデッドウイスキーの中で、安価なカテゴリーでは一番おいしいと思っています。
A こっくり奥深くて、レモンピールやオレンジのようなニュアンスを感じます。爽やかな飲み心地。伊知郎さん、好きです!
K 香りも華やかですよね。日本で造る高品質なウイスキーを売りにしている蒸溜所なので、元々の原酒が素晴らしい! それを丁寧にブレンドして安定的においしく造れる技術がある。そういう職人さんたちの集まりなんです。
上級者の入り口に「シングルモルト宮城峡」
K まずは香りを嗅いでみてください! いきなりピート、焦げた香りがしませんか。
Aたしかにスモーキーなフレーバーがふわり。日々の緊張感から、一気にネジを緩めてくれますね。
K ニッカウヰスキーの「宮城峡」はシェリー樽強めのウイスキーなんですけど、ジャパニーズウイスキーの中でもスモーキーフレーバーといえばこちら。甘みもあり、バニラ香もあり、樽感もしっかり。複雑なフレーバーが楽しめる、ちょっと上級者向けのバランスのいいウイスキーだと思います。
Z 口当たりはとても軽やか、ワンランク上なリッチな味がします!「宮城峡」はニッカウヰスキーの中で、どういう存在なのでしょうか?
K ニッカウヰスキーは、余市(北海道)と仙台(宮城県)に大きな蒸留所を持っています。実は「余市」の方が強いピート&強い味わいで、「宮城峡」の方がマイルドだといわれているんです。ニッカウヰスキーの製品の中では、飲みやすいものとして世の中的には認識されているんですけど、実際に飲んでみるとすごく複雑で良いウイスキーだなと思いますね。
Z ウィスキー界隈には控えめを装いつつ、主人公を凌ぐ優秀サブキャラが充実ってことですね!「余市」ではなく、「宮城峡」を選ばれた理由は?
K 「余市」と「宮城峡」、どちらが手に入りやすいかというと「宮城峡」なんです。余市のような強いフレーバーは、スコッチをよく飲んでいるウイスキー好きに好まれるので、さらに上級者向けで人気も高い。「宮城峡」は上級者の入り口となってくれるウイスキーかな。