2021.01.20

「"おいしい"から世界を知ろう『エシカル・チョコレート』」

持続可能な未来のために、世の中は今、変わろうとしている。それはチョコレートの世界も同じ。ただ甘いだけじゃない、 "知識を得て選び、味わう"時代へと転換しているのだ。

チョコレートが語る5つのエシカル・トピックス
チョコレートが私たちのもとに届くまでには、実は多くの社会・環境問題が関わっている。その現状と課題を専門家に聞きつつ、真摯にモノ作りを行う生産者の逸品を紹介。

お話を伺ったのは

渡辺龍也さん
東京経済大学教授、日本エシカル推進協議会理事。NPO/NGO活動および国際開発協力、特にフェアトレードや倫理的消費の研究を行う。日本フェアトレード・フォーラムの初代代表(現在顧問)も務める。著書に『フェアトレード学』(新評論)など。

山﨑 恵さん
輸入販売会社「プレス・オールターナティブ」広報。"地球上で起こる社会・環境などの問題解決を事業に"という信念のもと創業。1986年、会社として日本で初めてフェアトレードを開始し、「第3世界ショップ」を運営。https:
//www.p-alt.co.jp/

Fair Trade

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公正な取引で、チョコレートの未来を支える

 現在、世界のカカオ生産の約7割がコートジボワールやガーナなど西アフリカ諸国が占める。「その起源は植民地時代にさかのぼり、ヨーロッパ諸国の支配のもと森林は伐採され、カカオの生産が始まりました。ある調査ではコートジボワールでは8割の森林が失われ、その大半はカカオ農場へと姿を変えたそうです。しかし、独立後も外国企業による格安の買い取り価格のために貧困から抜け出せず、安上がりな児童労働に依存する生産者も根強く存在しています。その問題解決策のひとつが、作物を適正価格で継続取引することで、生産者の人たちが貧困から抜け出せるよう支援するフェアトレードという仕組みです」
(渡辺さん)。

「フェアトレード認証の取得に加え、一部の生産者の間では、地域開発に使える"フェアトレード・プレミアム"で得た追加資金で学校建設や診療所の修繕を行う動きもあります」(山﨑さん)。その一方、「カギになるのは、世界のチョコレート市場を握る大手メーカーです。彼らがフェアな取引に真剣に取り組むことが、最も有効な方法なのです」(渡辺さん)という現実も。

GEPA
「ゲパ」はドイツ発のフェアトレードカンパニーの先駆け。フェアトレード原料配合率65〜100%を実現したチョコレートで、マスコバド糖もオーガニック&フェアトレード。(右)「ビオ ストロベリーホワイトチョコレート」(40g)¥370・(左)「ビオ マスコバドミルクチョコレート」(100g)各¥790/おもちゃ箱

Organic

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健康、生態系の持続のためにもオーガニックに注目

化学肥料や殺虫剤などの化学物質を排除し、生態系の持続に貢献するオーガニック農法。「チョコレートの原材料であるカカオ豆の場合、その割合は生産量の4%どまり。オーガニックの認証を得るには3年かかり、認証費用も高いのに、高値での買い取りは保証されないので、カカオ生産の大半を占める零細農家は手を出しません」(渡辺さん)。

「弊社が取引しているドミニカ共和国の農家は、森林を伐採して人工的に生み出したカカオ農園ではなく、さまざまな植物と共生するナチュラルな環境でカカオ栽培を行うところ。オーガニック農法による味わいの向上を目の当たりにすることで、作り手の意識もだいぶ高まりました。そこで得た知識や技術を生かし、オーガニック農法で野菜を作る生産者たちが出てきたほどです」(山﨑さん)

JEAN-MICHEL MORTREAU
(右)6カ国から厳選したカカオで作るシングルオリジンのガナッシュを食べ比べできる。フランスの有機認証を取得したオーガニック素材にこだわる。「ジャン=ミッシェル・モルトロー ヴォヤージュ・デュ・カカオ -édition2021-」1箱(7個+2枚入り)各¥2,750/薬糧開発 ※販売期間は3月14日まで

Bardon
(左)勝田佳捺絵さんが途上国の児童労働問題を意識し、彼らの生活水準向上を基準に原材料を選び、一から手作り。ペルー産カカオ84%のオーガニックローチョコレートには10種のフルーツと6種のナッツを。「ドライフルーツ&ナッツの板チョコレート」¥1,400/Bardon

Bean to Sweets

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チョコレートの新世界を、目で、舌で、確かめて

カカオ豆からチョコレートバーになるまでのすべての工程を一貫して行うのが"ビーントゥバー"。「日本以上にヨーロッパでは、ひとつの原産国・産地のカカオで作るシングルオリジンがスタンダードに。カカオ豆の種類・製造法によって味に大きな違いがあるので、個々の魅力を知ったうえで好みのチョコレートを見つけられたら、楽しみが増すと思います」(山﨑さん)。

2021年は、ビーントゥバーの製法に基づいて作られるボンボンショコラやペーストといった"ビーントゥスイーツ"へと進化する傾向も。味の精度も上がっている。「チョコレートバーについては、日本人は欧米人ほどたくさん食べません。ボンボンなどのスイーツに昇華することで世の中に広まる予感がします」(渡辺さん)

Dari K
"カカオを通して世界を変える"を信念に、現地の人々に技術を提供し、それに見合った価格でカカオを買い取る仕組み作りから行うブランド。なめらかなガナッシュに、カカオを粗く砕いたニブをまとわせて。食感も楽しい。「カカオバル」1箱(3粒入り)¥1,250/Dari K 大丸東京店

Employment Support

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おいしいチョコレートを支える、雇用や支援にも目を向けよう

「日本国内でも、高い意識を持ってチョコレート作りを行う、個人の起業家や小さな団体が増えました。しかし業界全体で言えばごくわずかで、少量生産ゆえに単価も高め。環境や生産者に配慮したチョコレートが浸透するには、主要メーカーの取り組みが欠かせません。一方で、国連総会は2021年を児童労働撤廃国際年とする決議を採択、2025年までにあらゆる児童労働撲滅を主導する動きがあります。チョコレート業界も、今以上にエシカルに向かう道筋がはっきりすると思います」(渡辺さん)。

「ハンディキャップのある人が得意なことを生かして活動する福祉施設に、パッケージのデザインを仕事として依頼しています。社会問題はまだまだ山積みではありますが、まずは身近なところに目を向けて、行動することが、状況を変える一歩になると信じています」(山﨑さん)

第3世界ショップ
ドミニカ共和国の小規模農家が栽培するオーガニックカカオを、スイスの生産団体が直接買いつけて作る。包材のカラフルなデザインはハンディキャップのある「スタジオクーカ」のアーティストによるもの。「ARTBOX 粒ミルクチョコレート」1箱(9粒入り)¥1,300/第3世界ショップ

Wasteless

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ゴミをいかに減らし、再生利用するか

 スーパーフードでもあるカカオは本来、フルーツ。豆を覆う白い果実は、農家が自分たちで食べる以外は廃棄されていたが、一部ではそれをジュースにする動きが。また、「私たちが取引する農園では、カカオの殻を砕いて植物に混ぜ、肥料として再利用。商品の包材には、土に返る生分解性プラスチック素材を使っています。こういったエシカルな活動は、一足飛びにここまできたわけではなく、時間をかけて歩んだ結果なのです」(山﨑さん)。

「森林管理のもとで生産されたFSC®認証素材の包材を使用することは、先進国では当然の動きになりつつあります。急激に進む森林破壊を食い止めるためにも、日本でもさらに浸透するでしょうし、その必要があると思います」(渡辺さん)

cocowell
(右)貧困問題に直面するフィリピンで、ココナッツ産業の持続的発展に貢献。有機ココナッツのオイルとシュガー、ココアパウダーだけで作る。ヤシ殻は活性炭として空気や水の浄化に利用。「ココナッツ生チョコ」1箱(18粒入り)¥1,800/ココウェル ※3月末までの限定販売

KOA
(左)スイス発のブランド。これまで廃棄していたカカオ豆を覆う果実を搾ってドリンクに。結果、産業廃棄量は40%以上改善、農家の収入も30%上昇。「コア カカオフルーツジュース」(180g)¥1,000/デシーマジャパン ※日本橋三越本店バレンタイン催事での販売は2月2日〜14日

 

幸せを連れてくるエシカル・チョコレートカタログ
エシカルな精神と高い技術をもって作られるチョコレートは、確実に増えている! カカオ豆がもたらす幸せ、おいしさの可能性を、今こそ味わって。

1.DANDELION CHOCOLATE
原産国を訪れ、生産者との交流の中で最高のカカオ豆を厳選。人気ブランドの新作はドミニカ共和国、シエラレオネ、タンザニア産のシングルオリジンカカオ豆70%から作るボンボン。ジャスミン茶や紅茶、ほうじ茶によって、カカオの個性を引き立てて。「ボンボンショコラ 6個詰め合わせ」1箱¥2,400/ダンデライオン・チョコレート ※2月1日から数量限定販売予定

2.imalive chocolate
米国オーガニック認定を受けた生カカオを48℃以下の低温処理で仕上げるロータイプ。有機ナッツやドライフルーツをオン。
「イマリブチョコレート オハナデコラン」(ザクロ・ミントブルー)各¥1,250/伊勢丹新宿店 ※スイーツコレクションでの販売は2月5日〜14日

3.Andaz Tokyo
ホテルでは革新的な試み、フランスのKAOKA社のオーガニックチョコレートを使った見目麗しいスイーツを期間限定で展開。シグネチャーは、香りのよい「リオアリバ エクレア スモール」
各¥200/アンダーズ 東京 ペストリー ショップ ※販売期間は3月14日まで

4.NELLEULLA
ラトビアの首都・リガ発の「ネレウラ」は女性の雇用を支援。自由な発想にあふれたレシピ考案から製造まで、一貫して行う。ベルギーチョコレートに、フリーズドライした地元産のベリー果実をぎっしり。
「チョコレートバー」(150g)各¥1,380/セブンシーズ・パスタ

5.PLAYin CHOC
有機のココアペーストやココナッツクリーム、ココナッツシュガーなどで作る風味豊かなグルテンフリーチョコ。包材も、おまけの紙製パズルもすべてリサイクル可能な素材を使用。
「PLAYin CHOC パズルチョコレート」1箱(2個入り)各¥460/ディーン&デルーカ 六本木

6.バターのいとこ
バターは牛乳から5%しか取れず、その残りは無脂肪乳や脱脂粉乳に。那須の酪農家が、愛情を込めたその「残り」を主役にゴーフルを考案。
「バターのいとこ CACAO」1箱(3枚入り)各¥900/伊勢丹新宿店 ※スイーツコレクションでの販売は2月5日〜14日

7.ROOSIKU
エストニアの古い学校を改築して工場に。オーガニック素材を用い、乳製品は使わずヘーゼルナッツやバニラで乳味を演出。コーヒーやスパイス、ストロベリーなど味も多彩。包材は生分解性フィルムを使用し環境にも配慮。
「ローシク オーガニックチョコレート」(37g)各¥500/ビープル バイ コスメキッチン

8.imperfect
農家の自立支援、生産地の環境保全などサステイナブルな取り組みで育てられたカカオ豆を使用。板チョコレートにナッツ類をのせたり、ごまや香辛料を練り込んで。
「チョコレートバーク」(ナッツ&クランベリー・セサミ&チャイ)各¥780/imperfect表参道

9.PIETRO ROMANENGO
創業1780年のイタリアの菓子店。職人が石臼でカカオを練るところから包装まで、一貫して完全手作業で行う。
「ピエトロ・ロマネンゴ タブレット チョコレート」 (カカオ40%の「ミルク」・未焙煎のカカオで作るロータイプの「サンテ」)各¥1,620/ノンナアンドシディ

10.La Casa Di Tetsuo Ota
一流シェフも愛用するアマゾンカカオ。それに魅了された太田哲雄シェフが現地に赴き、農家から直輸入。
地元産の山葡萄や浅間山の湧き水を加えて作る「TETSU 山葡萄のカカオペースト」「同 カカオナッツペースト」(170g)各¥2,000/ラ・カーサ・ディ・テツオ オオタ

SOURCE:SPUR 2020年3月号「"おいしい"から世界を知ろう『エミシカル・チョコレート』」
photography: Shinichi Sasaki 〈SIGNO〉 styling: Masayo Kooriyama 〈STASH〉 text: Yukino Hirosawa

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