「美しいものを見せていればOK」な時代の終わり(編集I)

「浮遊服」――そういわれてもピンと来ないかもしれません。それもそのはず、これはパンデミックを経てデザイナーが初めて本格的にクリエーションを示すこととなった2021年春夏に、突如生まれたモードだからです。クリノリンを思わせるドレスや、たっぷりとしたボリュームを湛えたバルーンシルエット。それでいて重量感はなく、ふわふわと浮遊できるような軽やかさを備えている。それが浮遊服です。

他者と距離を保つ役割を持ったクリノリンが、2021年なぜ再び日の目を見ることになったか?このソーシャル・ディスタンシング時代において、それは理にかなったことのようにも思えますが、もう1歩踏み込んで、4月号では社会とファッションの歴史に詳しい幾田桃子さんにお話を伺いました。桃子さんはル・シャルム・ドゥ・フィーフィー・エ・ファーファーのオーナーであり、教育者であり、社会活動家であり、「MOMOKO CHIJIMATSU」のデザイナーでもあります。こちらの写真でまとっているのは2021年春夏コレクション。

photography:Bungo Tsuchiya<TRON>
photography:Bungo Tsuchiya

クリノリンを思わせる鳥かご風のケープが、まるでまとう人を守ってくれているように見えます。幾田さんがこのコロナ禍で、この服に込めた思いとは?
ただ「美しいもの」を提示していればよい時代は終焉を迎えつつあるな、と感じます。ひとつのモードとその服が生まれた背景、ひいてはそこに至るまでの歴史に目を向けて、現代社会を見つめ直すきっかけにしていきたいです。