“芸術の秋”がやってきた。この季節のワードローブに欠かせないアイテムがブラウスだ。今年は時代を象徴する画家が手がけた絵画を手がかりに、珠玉の一着を見つけたい。作品に描かれる個性豊かな人物と装い、時代背景に思いを馳せて――。美術ジャーナリストの朽木ゆり子さんの作品解説とともに、名画とブラウスの関係を巡る旅に出発しよう
お話を聞いた方
朽木ゆり子さん
くちき ゆりこ●東京都生まれ。ジャーナリスト、ノンフィクション作家。現在ニューヨークを拠点に活動中。代表作に『フェルメール全点踏破の旅』(集英社)ほか多数。
SOURCE:SPUR 2021年11月号「名画ブラウス」
photography: Ayaka Yamamoto (model)〈KiKi inc.〉,Takehiro Uochi(still)〈TENT〉 styling: Sumire Hayakawa 〈KiKi inc.〉 hair: Keiko Tada 〈mod’s hair〉 make-up: Tamayo Yamamoto model: Miki COTE, Maryam, Kaylie BEAN
乙女の純真をうつす白
"白と黒"というシンプルな色調のみで構成された今季のヴァレンティノより。クラシックな佇まいのフロントを彩るのは、緻密に編まれたレースと、フリル。繊細なディテールが施され、よりロマンティックな風合いに。画家・ルノワールが描く無垢で可憐な女性像を彷彿とさせ、センチメンタルな気分を誘う。
ロマンティックな乳白色をまとう
定番カラーは淡く、まろやかなシェードの白。細部に凝らした技巧と、洗練された佇まいで、ノーブルなオーラを放つ
気品あるレース地の襟と、ボリュームスリーブが乙女心を刺激する。パール風のボタンが遊び心を感じさせて。
揺れるラッフルショルダーと、控えめなレースが清楚な印象。軽やかなリネンが肌をやさしく包み込む。
経年変化を楽しめる「硫化染め」という手法で仕立てた生地を採用。襟や袖口のフリルが華やぎを添える。
コペンハーゲン発祥のコンテンポラリーブランドより。トレーサビリティに基づくオーガニックコットンを使用。
ローズのモチーフで飾られたガーリーなスタイル。たっぷりと寄せられたギャザーが、メリハリのあるシルエットを実現。
シグネチャーである透かし模様のレースを存分に堪能できる一枚。可憐なブラウスもハリのある生地で牧歌的になりすぎない。
「肌の上で光が踊っている白いブラウスの少女」
ルノワール《花の帽子の女》
Pierre-Auguste Renoir "Woman in a Flowered Hat"
女性のワードローブにブラウスが加わったのは19世紀末。ベル・エポックと呼ばれる時代に、ブルジョア階級の女性にもさまざまな仕事が開放されるようになった頃だ。男性が作業着や軍服など、上下別の衣服を身につけるのを見てきた当時の女性たちは、その実用性に気がつき、シンプルなブラウスとスカート(ときにはその上にジャケットを羽織ることも)を"仕事着"として徐々に愛用するようになったのだ。
しかし、簡素な仕事着だったブラウスは、すぐにさまざまな方向へと進化していく。ピエール=オーギュスト・ルノワールの作品《花の帽子の女》で描かれている少女がまとう白いブラウスは、柔らかな布地をたっぷりと使ったロマンティックなスタイル。 ルノワールが描く人物はいつもその時代に流行している服を着ていたといわれるが、華やかなレースや刺しゅうで装飾されたフェミニンなブラウスは、昼間の外出着として人気があった。
この絵の少女は、ブラウスの胸元を大きくはだけているわけではないのに、コケティッシュでおおらかに見える。もちろんそれには、暖かな色調の肌に、光が踊っているような筆さばきや、身体表現を彫刻的なボリューム感でとらえるルノワール独特の才能が貢献している。それと同時に、しなやかな布地、襟のレース、胸元を彩るプリーツといった、繊細なディテールが、少女のみずみずしさを強調するのに役立っている。
これとは反対に、ハイカラーで肩幅が広く、前身頃にタックがあしらわれたマニッシュなブラウスも同時に流行した。こうして白いブラウスは永遠の定番となったのだ。