2022.05.31

ファッション業界は海の豊かさをどう守る? 知っておきたい、人気ブランドの社会的取り組み

「海が深刻な状況に陥っている」と叫ばれて久しい。世界では年間約800万トンのプラスチックごみが海に流入し続けているといわれているし(重さにしてジェット機5万機相当)、生分解されずに年々増え続ける海洋プラスチックごみの量は、2050年までに世界中の魚の重量を超えてしまうのではないか、というショッキングな予測も発表されている(※)さらに、紫外線や打ち寄せる波の影響を受けて粒子化されたマイクロプラスチックが海中に漂い続け、それをプランクトンや魚が食べてしまう、マイクロプラスチックの食物連鎖の問題も無視できない。

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getty images

SDGsの目標14には「海の豊かさを守ろう」とあり、2025年までに海洋汚染を防止し、大幅に削減することが求められている(ターゲット14.1)。一刻の猶予もならない状況下において、環境問題で厳しい目を向けられるファッション業界はどんなアプローチをするべきなのか。6月8日の「世界海洋デー」に向けて、当事者である私たちひとりひとりが今一度しっかりと考えてみたい。ここではその道しるべにもなる、人気ファッションブランドの社会的な取り組みを紹介する。

※出典:WORLD ECONOMIC FORUM(2016)

ケニアの浜辺に漂着したビーチサンダルをアップサイクル【クロエ】

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Lou フリップフロップ¥81,400(税込)/クロエ カスタマーリレーションズ(クロエ)

ガブリエラ・ハーストのクリエイティブ ディレクター就任以来、サステイナビリティを強く推進しているクロエは、海洋汚染問題にも積極的に取り組んでいる。2022年春夏コレクションでは、ケニアを拠点とする社会的企業「Ocean Sole(オーシャンソール)」とのパートナーシップのもと、新たなシューズライン「Lou」が登場した。ケニアの浜辺には、世界中の国々から流れ着いたビーチサンダルが大量に打ち上げられる。「オーシャンソール」の職人たちは、これらを回収して洗浄し、色鮮やかな玩具やアート作品へと生まれ変わらせることで、年に100万足のビーチサンダルをアップサイクルしている。クロエ「Lou」ラインのサンダルを彩るマルチカラーのソールは、この「オーシャンソール」とのコラボレーションによるもの。クラフト感あふれる陽気な一足とともに、プラスチックごみの削減に努めたい。

https://www.chloe.com/jp

科学×アート×教育の力で、科学探査船「タラ号」の活動をサポート【アニエスべー】

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アニエスベーは長年にわたり、海の重要な生態系を守ることの重要性を発信し続けてきたブランド。アニエスベー本人が2003年に立ち上げた「Tara Océan(タラ オセアン)財団」を通じて、気候変動や環境汚染が海に及ぼす影響を調査する科学探査船「タラ号」の活動をサポートしている。これまでにさまざまな地域で、サンゴ礁やプランクトン、マイクロプラスチックなどをテーマとするプロジェクトを遂行。日本支部の「タラ オセアン ジャパン」により、日本沿岸のマイクロプラスチック調査のために実施されたクラウドファンディングでは、目標金額500万円を上回る資金集めにも成功した。

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こどもタラ新聞 第3号。アニエスベー公式オンラインブティックより閲覧、ダウンロードできる。

特筆すべきは、タラ号には科学者のほかに、アーティストもクルーとして乗船していること。海で起きている現実をアート作品として可視化させることにも注力している。さらに、子どもたちにも環境問題やタラ号の活動を知ってほしいという思いから、「こどもタラ新聞」を不定期で発行。2022年で3回目となる「タラ号ポスターコンクール」(※)を6月8日の「世界海洋デー」に合わせて開催するなど、未来を担う子どもたちへの啓発に取り組んでいるのもアニエスベーならでは。

(※)小・中学生を対象に、2022年6月8日(水)〜7月31日(日)の開催。

https://www.agnesb.co.jp/news/?category=sustainability

海洋汚染への危機感をコレクション全体で表現【ボッター】

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ニナ リッチの元アーティスティック ディレクターでもある、ルシェミー・ボッターとリジー・ヘレブラーのデザイナーデュオが手がけるBOTTER(ボッター)。ともにカリブ海諸島にルーツを持つ2人にとって、海はかけがえのない存在だ。2017年のブランドデビュー当初から、コレクション全体を通じて海洋汚染問題への強いメッセージを投げかけている。
「グローバル ウォーニング(地球への警告)」と題した2022年春夏コレクションでは、海洋環境保護団体の「PARLEY FOR THE OCEANS(パーレイ・フォー・ジ・オーシャンズ)」と協力し、コレクションの60%に海洋プラスチックごみをアップサイクルした素材を使用。ダイビングフードやフィッシングルアーのアクセサリー、フィッシングネットを彷彿させるトップスなど、ウィットに富んだアイテムで環境問題への強い危機感を表現した。
また、2020年にはルシェミーの出身地であるカリブ海キュラソー島沖に、地元のダイビングスクールと連携してサンゴ礁ファームを設置。近年急速に衰退しているサンゴ礁の保全と再生にも力を注いでいる。社会的主張を独創的なクリエーションに落とし込むことで、サステイナブルなファッションのあり方を探究する、彼らの真摯な姿勢に今後も注目したい。現在ドーバー ストリートマーケット ギンザにて、春夏コレクションのポップアップが開催中(※)。ルアーを使ったインスタレーションも展示されているので、この機会にぜひ足を運んでみてほしい。

(※)開催期間は2022年6月8日(水)まで。

https://botter.world/

10分走るごとにペットボトル1本分のプラごみを回収する、グローバルイベントを開催【アディダス】

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スポーツを通じて、プラスチックごみ問題の解決を目指すことを訴え続けているアディダス。2015年に海洋環境保護団体「パーレイ・フォー・ジ・オーシャンズ」とパートナーシップを結んで以来、海沿いで回収されたプラスチックごみのアップサイクル素材を使用したシューズを、累計5,000万足以上販売してきた。また、2017年からパーレイとともに実施している世界的イベント「RUN FOR THE OCEANS(ラン・フォー・ジ・オーシャンズ)」が今年も開催中(※)。参加者が10分走るごとに、ペットボトル1本分相当の重さのプラスチックごみを、アディダスとパーレイが沿岸地域から回収する。「アディダス ランニングアプリ」などで登録すれば誰でもエントリーできるうえ、ランニング以外にサッカーやテニスなどのスポーツを通じても参加できる。自分自身のためだけでなく、海のために運動する。普段何気なく楽しんでいるアクティビティを、ビーチクリーンというポジティブアクションにつなげて。

(※)開催期間は2022年6月8日まで。

https://shop.adidas.jp/runfortheoceans/

ペットボトルごみに第2の命を与える、キッズウェアコレクション【H&M】

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買ってもすぐにサイズアウトしてしまう子ども服。でもそれを購入することが、海に流れ着くごみの削減につながるとしたら? 環境先進国スウェーデン生まれのH&Mは、2030年までにすべての原材料をリサイクルもしくはサステイナブルに調達されたものにする方針を打ち出している。その一環として取り組んでいるのが「bottle2fashion(ボトル・トゥー・ファッション)」プロジェクトだ。飲料メーカーのダノン・アクア社とタッグを組み、インドネシア諸島の海岸や陸地で回収したペットボトルごみをリサイクルして、再生ポリエステルに変換。それをキッズコレクションのTシャツやパンツ、ソックスなど、約40種類のアイテムに採用している。2021年に本プロジェクトを通じてリサイクルされたペットボトルは750万本以上。そのうち663,869本がキッズアイテムのファブリックに生まれ変わった。
ファストファッションがもたらす環境への影響は否定できない。しかし「ファストファッションだから買わない」と安直に考えるのではなく、そこからもう一歩踏み込んで、ファストファッションをどう選ぶかが大切だ。そのためには私たち自身が情報を見極め、自分の中での判断基準をしっかりと持つ必要がある。誠実さが求められるのは作り手だけではない。買う側も同じ熱量で向き合い、責任を持って選択していかなければならない。

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