ブランドのDNAを体感して。アニエスべージャパン新オフィスに込められた思い

社会貢献やアートへの支援、環境保護などを通じて、愛を分かち合うことを呼びかけ続けてきたアニエスベー。サステイナブルなブランドで働くスタッフは、どんな働き方をしているのだろう? 2022年3月に移転したばかりのアニエスべージャパンの新オフィスを訪問した。

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社外の人も巻き込んで
オープンなコミュニケーションが生まれる場所

目黒駅から目と鼻の先にあるビルのワンフロアに、アニエスベージャパンの新オフィスは誕生した。デザインを手がけたのは、隈研吾氏に師事した気鋭の建築家、加藤匡毅氏率いる「Puddle(パドル)」。「社内外の人たちに気軽に立ち寄ってもらえる場所にしたい」というローラン・パトゥイエ代表取締役社長の思いを色濃く反映した、モダンでオープンな空間だ。

エントランスで目に飛び込んでくるのが「b.」の大きなネオンサイン。パリ1号店に着想を得た白いタイルと共に、来客を明るく出迎える。そしてその後ろにあるガラス1枚で仕切られたスペースが、オフィスの心臓部でもあるアトリエ。ここを訪れる誰しもが、ブランドの一番コアな部分を真っ先に体感できるというわけだ。

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企画チームが粛々と作業するアトリエ。その向こうのワーキングスペースまですっきりと見通せる。

天井を抜いた開放的なオフィスに、堅苦しさは微塵も感じられない。ニューノーマルな働き方を推進すべく、デスクはフリーアドレスに。しかも席数に限りがあるため、オフィスワークができるのは在籍スタッフの6割程度となっており、リモートワークが推奨されている。デスクは少ないが、アトリエのすぐ隣にはゆったりとしたオープンスペースが広がる。見渡せば至るところにアートや写真が飾られていて、ギャラリーさながらの雰囲気。朝10時を過ぎ、出社したスタッフが思い思いの場所で作業を始めると、一気に活気が満ちてくる。

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オープンスペースの真ん中には、アニエスベーがサポートする海洋科学探査船「タラ号」の模型と、海の食物連鎖の根幹をなす植物プランクトンの一種を再現したオブジェが。

「以前は部署ごとに壁で仕切られていたので、普段接することのない人もたくさんいました。新オフィスでは、誰がどこで何をしているか一目瞭然。上司にも声をかけやすくなったし、自由度の高いコミュニケーションが生まれています」そう話すプレスの松本美帆さんの後ろを通りがかったマーケティングマネージャーが、カジュアルに話しかけていく場面も。昨今注目されている社員のウェルビーイングという観点からも、まさにこれからの時代にふさわしい職場の理想像を見たような気がした。

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外のテラスガーデンから自然光がたっぷり注ぐ。オープンスペースでカジュアルに打合せをするパトゥイエ代表。

脱炭素、脱プラスチックへの徹底したこだわり

創業時からサステイナブルな活動を続けているアニエスベーにとって、環境への配慮はブランドの根幹を成す大切な要素のひとつ。移転先を決める上でも必須条件だった。新オフィスの電力供給は100%再生可能エネルギー。リアルタイムで電力の消費量を把握し管理できるモニターが設置されており、一歩進んだ省エネを実施している。

さらに、スタッフひとりひとりの節電意識を高めるため、個々人が使用できるデータストレージの容量にはリミットが設けられている。というのも、ストレージの負荷が上がると消費電力も上がっていくからだ。ストレージ量が定められた上限に達すると、IT部門から警告メールが届くため、定期的なデータの断捨離が求められる。アナログでもデジタルでも、余分なものはため込まないのがオフィスルールだ。

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引越し前に盛大な断捨離イベントを行ったおかげで、スタッフが保管する荷物は小さな収納ボックス1個分と実に身軽。 

石油由来の素材はできる限り使わないというのも、新オフィスの大切な信条。スタイリッシュな内装にはウッドやメタルなどの自然素材を使用。床は一見普通のフロアタイルだが、実は木材チップを圧縮して固めたパーチクルボードが採用されている。ペットボトルやプラスチック容器の排除にも積極的で、スタッフはマイボトルを持参している。オフィス内には自販機はもちろん、ペットボトル用のゴミ箱も置かれておらず、クリアファイルも紙製という徹底ぶり。

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アニエスベー本人のアートコレクションがズラリと並ぶ打合せスペース。フロアタイルは廃材の木材チップでできている。

オープンスペースに置かれている趣のあるチェアやテーブルの中には、廃材を使ってアップサイクルしたものやヴィンテージをリメイクしたものも混在する。旧オフィスで使っていたマガジンラックやスツール、倉庫に眠っていたアーカイブ生地やポスターなど、引越しで不要になったものは安易に廃棄せず、寄付するか、フリーマーケットを開催して買い取ってもらった。「廃棄を減らし、長く大事に使い続ける」という創業者、アニエスベーのスピリットが、遠く離れた日本のオフィスにも脈々と受け継がれている。

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輸送で使われるパレットをつなぎ合わせて作ったテーブル。

タラ号への愛を原点に、
広がるサステイナブルな取り組み

アニエスベーを語る上で欠かせないのが、世界中の海を航海してさまざまな環境的脅威を調査している海洋科学探査船「タラ号」の存在。2003年に創業者であるアニエスベー自身が立ち上げた「Tara Océan(タラオセアン)財団」を通じて、環境汚染が海に及ぼす影響を調査するタラ号の活動をサポートしている。新オフィスにはタラ号の写真や模型をはじめ、タラ号にゆかりのあるアーティストの作品がいくつも飾られている。どこにいても視線の先にはタラ号にまつわるものがあり、アニエスベーがいかに情熱を注いできたかを物語っている。

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ガラスの壁に貼られたタラ号の写真はインパクト抜群。

一方、タラ号プロジェクトの支援は、アニエスベーのサステイナブルな取り組みのほんの一部に過ぎない。スタッフの環境配慮や社会貢献の取り組みを促すべく、2019年にサステイナブルコミッティが発足。以来アニエスベージャパン全スタッフが自身の仕事とは別に何らかのプロジェクトに携わっており、その数は30にものぼる。例えばプレスの松本さんは、環境問題に対するキッズエデュケーションのプロジェクトリーダーに任命され、全く白紙の状態からチームと共にプロジェクトを企画。2021年秋には国内沿岸で、子ども向けのビーチクリーンイベントを開催した。また別のプロジェクトでは、顧客や購買客へのノベルティをモノ(グッズ)からコト(体験)へシフトする企画が活発に行われており、廃棄削減に貢献している。各チームのプロジェクトリーダーは、定期的に活動内容をパトゥイエ代表にレポート。その内容が人事評価にも反映されるというから驚きだ。

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カフェカウンターに飾られているのは、タラ号に乗船したアーティストたちの作品。

特筆すべきは、そういったサステイナブルな取り組みに注力しながらも、それらをことさらにアピールするスタンスでは決してないということ。創業以来ずっと「give love」の精神を貫いてきたアニエスベーにとって、サステイナビリティはあえてフィーチャーするものではなく、あくまで日常の一部に過ぎない。外の人間から見れば「意識が高い」ということなのかもしれないが、それをいたってナチュラルに実践しているところがクールだ。「社内と社外に向けてのコミュニケーションハブとして、多くの人にこの場所を体験してもらいたい。今後はアート展やライブなど、さまざまなイベントを開催できれば」と話すパトゥイエ代表。ここを訪れた人はみな、きっと今以上にアニエスベーのファンになるはずだ。

photography: Sachiko Saito text: Eimi Hayashi

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