「花々の再生力」で持続可能な美しさを紡ぐ。パルファン・クリスチャン・ディオールが描く未来図

1947年の創業当時から、類まれなるエレガンスと革命的なクリエーションで世界中の女性を魅了し続けるパルファン・クリスチャン・ディオール。2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限である2030年まであと8年。中間地点を迎えた今年、メゾンは新たなロードマップ「BEAUTY AS A LEGACY 2030」を発表した。花々のパワーを生態系保全に活用することを中心に据えた、メゾン独自のプログラムに迫る。

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美しさを継承する、花々が主役のサステイナビリティ戦略

パルファン・クリスチャン・ディオールの製品を象徴する成分は、すべて花を原料としている。ムッシュ・ディオールの花への深い愛を受け継ぐメゾンの研究者たちは、最先端の科学を取り入れながら花々の謎の解明に取り組み、他ブランドが真似できない革新的な製品の数々を世に送り出してきた。今後のメゾンの社会的および環境的な責任を果たすためのロードマップとして発表された「BEAUTY AS A LEGACY 2030」の中でも、主役となるのは花々の存在だ。メゾンのフレグランスやスキンケア、メイクアップの原点である花々のパワーを活用し、危機にさらされている生物多様性を保全することに重きを置いている。

植物界で最も高度な進化を遂げたとされるのが、「性別」を持つ顕花植物(花を咲かせる種)。しかし最新の研究によると、生態系のバランスを保つ上で重要な役割を果たす花々は、昆虫や鳥類、哺乳類よりもはるかに早く絶滅する脆弱な存在であることが示唆されている*。「美しさのみを次世代へ継承する」というビジョンを掲げるパルファン・クリスチャン・ディオールでは、花々を栽培、保護し、生態系へ再び導入することが最優先課題であり、メゾンの責務であるとの考えを明らかにした。

*2021年の国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種レッドリストの最新研究によると、花々の絶滅率は、昆虫の2.5倍、鳥類の3倍、哺乳類の1.5倍高いと示唆されている。

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歴史ある香水の街、グラースの花栽培を蘇らせる独自の活動

世界42カ所に点在するディオールガーデンやパートナー農園の生態系を守るべく、力を注いでいるのが環境再生型農業で行う花栽培(再生型花栽培)。農薬や化学肥料を使わない有機農法によって多様な生物を耕地に呼び込み、生態系の回復を促す新しいスタイルの農業のことだ。パルファン・クリスチャン・ディオールは、2006年から10の有機農家と協力し、香水発祥の地で知られる南仏グラースで再生型花栽培を推進。減少傾向にあった花栽培を復活させることに貢献してきた。このグラース地域での活動をモデルに、再生型花栽培の影響力を実証し、他の地域での応用を目指している。

さらに、パリ郊外にある世界最大の農業イノベーションに特化した教育機関「HECTAR(エクタール)」と新たにパートナーシップを結び、再生型花栽培にフォーカスした教育プログラムも開始した。このような活動を通じて、2030年までにディオールガーデンとパートナー農園を100%有機栽培、再生型農業へ移行させることを目標としている。その大きな一歩として、2026年までにそこで栽培されるすべての自然原料が、倫理的バイオトレード連合(UEBT)の認証を受ける予定だ。生物多様性とその地域コミュニティの両方にポジティブな影響をもたらすべく、自然を尊重した製品づくりに注力していく。

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低炭素化に向けて、前進するエコデザイン

今後10年間の行動指針をまとめた「BEAUTY AS A LEGACY 2030」計画では、再生型花栽培以外の重要な取り組みについても言及されている。まず喫緊の課題である気候変動に関しては、地球の温度上昇を+1.5℃に抑えるパリ協定と歩調を合わせることを強調。そのために、原料調達から商品販売までのバリューチェーン全体の温室効果ガス排出量を、2030年までに46%削減(2019年比)することを明確にしている。すでにフランスの全拠点では100%再生可能な電力が使用されており、2023年までにバリューチェーン全体での再生可能エネルギー使用率100%達成を目指す。

また、製品のライフサイクルの全ステップでCO2排出量を削減するべく、すべての製品ラインで低炭素デザイン化を進めている。メゾンを象徴するフレグランス「ソヴァージュ」をはじめ、「ルージュ ディオール」やスキンケアライン「プレステージ」には詰め替え可能なパッケージを採用。2028年までに化石原料由来のプラスチックの使用を廃止*すると同時に、リピート率の高い製品すべてのパッケージをリフィル式、またはリサイクル可能な形態に移行していく。

*流通システムを除く。

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女性管理職比率50%を超える、メゾンの責任ある取り組み

責任ある原料調達と処方への取り組みも加速する。2022年初頭より、「Dior.com」にて新製品の処方に関する情報開示をスタート。ディオール  スキンケアの核となる自然由来成分の配合率から有効成分の効果、原材料の調達地域、有機認証に至るまで、厳格な基準を満たしていることを示す情報が掲載されている。今後も持続可能な成分の配合率を高め、2030年までに成分の8割を生分解性および生態への毒性のない成分に置き換えていく。

多様性を支持し、文化的責任を積極的に果たすことにも傾注するパルファン・ クリスチャン・ディオール。かつてムッシュ ディオールが示した女性へのリスペクトが脈々と受け継がれ、すでにメゾンの女性管理職比率は50%と非常に高い割合*だが、男女間の賃金格差の解消や育児休暇取得の促進など、女性がよりいっそう活躍できる組織の強化に努めている。このほか、メゾンの遺産やサヴォワフェールの継承、生産者の専門技術の認知を高めることにも努力を惜しまない。持続可能な未来を切り開くために研鑽するメゾンの動向に、今後も引き続き注目していきたい。

*総務省の労働力調査(平成29年)によると、日本企業全体の管理職に占める女性の割合は13.2%。