世の中の大事なことは、たいていめんどくさい。「20代・30代の地方議員の女性比率3割」を目指して

政治分野のジェンダー平等を目指し、20代・30代の女性やノンバイナリー、Xジェンダーの地方議員を増やすことを目的に活動する「FIFTYS PROJECT(フィフティーズ プロジェクト)」を主宰する、大学院を卒業したばかりの能條桃子さん。彼女のスマホのロック画面は『崖の上のポニョ』、待ち受けは『借りぐらしのアリエッティ』だ。ジブリ好きというのもあるが、スマホに目をやるたびに宮崎駿さんの名言を思い出すためでもある。

「宮崎さんのドキュメンタリーで『世の中の大事なことはだいたいめんどくさい、めんどくさいっていう自分の気持ちとの闘いなんだよ』って仰っていたんです。『あーもうめんどくさい!』と投げ出したくなっても、大事なことなんだから頑張ろうって」

能條さんがいま力を入れている「世の中の大事なこと」は、2023年4月の統一地方選挙で「20代・30代の地方議員の女性比率をまずは3割に」という目標の達成。その道は、決して平坦ではない。しかし、彼女の活動を通して見えてくるものはたくさんある。地方選を前に、価値ある一票を投じる意味を、いま一度考えてみたい。

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「少子化を語るなら、子どもを産んでから」と言われて

2019年に、若い世代の政治参加を身近にする一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げた能條さんは、U30世代に向けて、SNSやイベントを通じてコツコツと情報発信を続けてきた。

「『NO YOUTH NO JAPAN』の活動を通して、政治家に会う機会が増えました。でも、若い世代の意見やニーズを伝えても『俺たちの頃はもっと大変だった』と昔の話をされたり、『少子化について語るなら、子どもを産んでからにして』で終わってしまう。人権やジェンダーの感覚にギャップがありすぎて、話が通じないなと感じることが多くて。一方でまわりを見渡すと、20代で政治家を志す人のほとんどが男性。話してみると『子どもの時に小泉進次郎に憧れて。テレビに出たい』なんて言う。そんな人が結構多くいるのが現状です。そういう人たちが政党に入って秘書経験を積んでいくのを見ていると、『いまの社会に痛みを感じていて、社会を変えたい』と思う人たちを政治に送り出すために動かないといけないなと」

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「自分が社会の中心にいるためにポジション争いをするような人を、私は支援したいとは思いません。人気取りのために同性婚や夫婦別姓に賛成する人ではなく、誰かのために真摯に社会問題に取り組む人に政治家になってほしい。そのためにはやはり、ジェンダーの視点が欠かせません」

一生「女性議員が少ない!」って言い続けるつもり?

全国の地方議員約3万人のうち、半数以上が60代以上の男性という現実。20代・30代の男性は全体の4%で、女性はたった1%。なり手不足が深刻な地方議員は、圧倒的に高齢男性で占められている。

「年代別の女性地方議員比率を見てみると、50代が20%でいちばん多く、70代、60代、50代と世代が進むほど、女性比率も上がっています。それなのに、50代の20%をピークにまた下がってしまうんです。50代は、消費者運動などの草の根運動に支えられた年代。対していまの若い世代には、地域の課題を見つけて政治家を送り出す市民オーガナイザーや草の根運動が育っていないという背景があります。私たちの世代で、ジェンダー平等への意識は変わっているはずなのに、政治分野は何も変わってないじゃん!と危機感を持ちました」

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「FIFTYS PROJECT」の思いや課題意識、広げていきたいアクションなどをまとめたパンフレット。

世代が進むごとに少しでも女性比率が上がっていたら、変わっていく未来を想像できるかもしれない。しかし、20代・30代の地方議員に女性が増えなければ、国会議員の女性比率向上も、女性総理大臣誕生への道も遠いまま。世襲ではない国会議員の約半数は、地方議員出身者だ。国政への登竜門でもある地方議員に女性が少ない状態では、何も変わらない。この状況を放置して、一生「女性政治家が少ない」と言い続けたくはない。まずは地方議員の女性比率を増やすことを目標に活動しようと、「FIFTYS PROJECT」の立ち上げを決意した。

「『地方議員はもういらない』という意見もありますが、地域のコーディネーターとしてとても可能性のある仕事。地方議員という肩書きがあるだけで、予算を得て新しい取り組みをしたり、問題解決のためのカードが使えたりします。単なる権力闘争の場ではなく、地域で暮らすさまざまな人の声を吸い上げて住みやすくするのが本来の地方議会なんです」

AOCを生んだアメリカの選挙運動がヒントに

2022年8月、政治分野のジェンダー平等実現を目指し、地方議員に立候補する20代・30代の女性(トランスジェンダー女性を含む)やノンバイナリー、Xジェンダーなどの人を増やし、横に繋ぎ、一緒に支援する「FIFTYS PROJECT」を仲間と共同で立ち上げた。

「シスジェンダー女性(戸籍上の性と自認する性が一致している女性)だけではなく、トランスジェンダー女性やXジェンダー、ノンバイナリーを包摂し、ケアする活動にしたかったんです。自分たちが男女二元論の上にいるのが嫌だし、政治の世界にシス男性が多すぎることで声が聞かれづらいという課題は、シス女性だけのものじゃないので。都市に住む所得が高い人だけを対象にしないことも意識しています」

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応援したい候補者を立てて、サポートする。「FIFTYS PROJECT」がヒントにしたのは、アメリカの人気女性議員、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(愛称 AOC)を生み出した「Brand New Congress」の活動。Netflixのドキュメンタリー番組『レボリューション -米国議会に挑んだ女性たち-』でも、その取り組みが紹介されている。

「アメリカには、女性候補を増やすNGOがたくさんあって、女性議員が増えている背景には、そういう団体の貢献が大きい。例えば『She Should Run(彼女が立候補すべき)』という団体では、自分のまわりにいる“立候補してほしい人”の情報をフォームに入力すると、団体が代わりに説得してくれる仕組み。2030年までに25万人の女性候補を立てることを目標にしています。National Organization for Women(全米女性連盟)が主催する『RUN NOW』では、ランチタイムにバーチャル勉強会を開催。候補者やサポーターを育成しています。ゆくゆくは『FIFTYS PROJECT』でも、候補者育成や他薦の仕組みを整えたいです」

「家事の手を抜くな」女性候補に立ちはだかる壁、壁、壁

「FIFTYS PROJECT」で応援する候補者には、クオータ制、選択的夫婦別姓、本格的な性教育の導入、トランスジェンダー差別への反対という4つの項目に賛同してもらうことが大前提となる。2022年の秋にはクラウドファンディングに成功し、「高齢男性中心の政治に嫌気がさした」という政界でキャリアのあるスタッフを雇用。応援する候補者を選ぶため、面接を重ねた。

「50人ぐらいと会ってみて、『ジェンダー平等』という言葉が流行っているわりに、フェミニズム的な価値観が理解されていないのかなと思う場面が多かったですね。有名な大企業で働き、格差の話に無関心な人は、女性が男性と同じようにバリバリ活躍できたら、それがジェンダー平等だと思い込んでいたり、アファーマティブアクション(差別を是正する積極的な措置)は『下駄を履かせることになる』と勘違いしている人もいました。そのような考え方は、『FIFTYS PROJECT』のステートメントに賛同しているとはいえません。政治学者の三浦まりさんの新刊『さらば、男性政治』(岩波新書)には、フェミニズム運動に後押しされた女性候補を立てるのが大事だと書かれていました。権力のある男性の言いなりになる女性を立てても、男性中心の政治は変わりません。
男性優位の政党から選ばれる女性候補は、いわゆる勝ち組女性や、家父長的な女性性のジェンダー規範に則った人が多いように思います。例えば、母親であることを全面に出して、福祉、教育、子育てといった分野を任される。でもそれ以外の分野の話をしだすと、途端に批判されてしまう。『FIFTYS PROJECT』で支援する候補者にも子どものいる人はいますが、母であることはその人の一面に過ぎません。母親代表として議会に入るのではなくて、“人”として議員になる人を応援したいですね」

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プロジェクトを始動してみると、20代・30代の選挙出馬にどれだけの壁があるのかを痛感したという。本人がその気でも、家族の反対で立候補を断念する人もいた。パートナーに「立候補してもいいけど、いままで通り家事も育児もちゃんとやってね」と念を押されたり、実の親から「あなたはそんな子じゃない」と下げられたり。

「選挙運動は精神的にもかなりしんどい面があるので、周囲に応援してもらえないと続けるのが難しい。今後は、候補者の家族を説得するサポートもやっていきたいと思っています。『FIFTYS PROJECT』では、4月の地方選に立候補する27人をサポートしています。プロジェクトを通して候補者同士のコミュニティができて、情報をシェアしたり悩みを相談し合ったりしているのを見ると、本当にやってよかったなと感じます」

女性候補は増やしたいが、票は渡したくない

活動を続けていくうちに、地方選挙ならではの課題も浮き彫りになってきた。

「政党本部が女性候補を増やしたくても、地方議員のジェンダー意識が低く、『票が若い女性に移るから出したくない』というケースがあります。3人出せる選挙区に、2人高齢男性の現職がいる場合、20代の女性に票を取られるのはプライドが許さないからと、公認ではなく推薦にされてしまう。ポスターを貼り替えられるというイジメは、どこでも起きている話です。これは、政党の動きを見ていても気づけなかった、地方選の実態です」

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ハラスメントのない選挙活動を目指し、「FIFTYS PROJECT」が制作した啓発ポスター。

投票や選挙運動への支援につけ込んでセクハラやパワハラをする、いわゆる”票ハラ”も悩ましい問題だ。街宣演説を幼稚園やスーパーの前ですると被害に遭いづらい傾向があるが、護身のためとはいえ、場所選びで母親規範を背負うことになってしまう。中にはSNSが怖くて使えなくなる候補者も。それでは応援するチームや周りの人も疲弊してしまう。

「候補者の心理的安全性のためにも、ゆくゆくは票ハラをする人の票や政党に頼らず、自分たちで選挙運動を回せるようになりたい。それには、応援してくれる人や資金を増やす必要があります。また、選挙で落選した場合のフォローについても課題があります。選挙の当落は運や状況に左右されるので、『落選=能力がない』というわけじゃないのですが、4年に一度、職がなくなる可能性があるわけです。男性の場合、特に自民党では支援者の社長が落選者のためにポストを用意して雇う体制がありますが、『FIFTYS PROJECT』では、そこまでケアするのは難しいのが現状です」

投票だけが応援じゃない。推し候補者をサポートする方法

政治分野のジェンダー平等の第一歩は、地方議員を応援することから。記事を読んだ人が気軽にできる、投票以外のサポート方法は?

「自分の地域で、この人はいいかもと思う候補者がいたら、選挙ボランティアとして手伝いに行ってほしいです。忙しくて難しければ、SNSをフォローしたり、募集していたらカンパをするのもあり。もし、『FIFTYS PROJECT』の候補者に関心を持ってくださるなら、候補者全員のインタビュー記事がアップされているので読んでみてください」

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課題意識はあってもアクションに移せていない人たちが一歩踏み出せるように、タブロイド紙も作成した。

「FIFTYS PROJECT」では、マンスリーサポーターを募集している。4月と5月にはクラウドファンディングも実施する予定だ。

「地方議会選挙のうち、統一地方選挙で選ばれるのは地方議員全体の3割。今後の3年11ヵ月で、地域もタイミングもバラバラに選挙が行われます。ここからの活動を続けていくためには、多くの応援が必要です。ただスポンサーとしてお金を払うのではなく、みんなで一緒に学んで仲間になってもらえる方法を考え中。会社や学校では政治分野のジェンダー平等に関心のある仲間が見つからなくても、『FIFTYS PROJECT』でなら話せる。そういうコミュニティも充実させていきたいです」

選挙権は18歳なのに、立候補できないジレンマ

「NO YOUTH NO JAPAN」では若者の政治参加、「FIFTYS PROJECT」では政治分野のジェンダー平等に向けてムーブメントを仕掛ける能條さん。最近になって、第3のプロジェクトが始動した。

「『代表なくして課税なし』という言葉があります。選挙権は18歳に引き下げられたのに、25歳にならないと議員に立候補できないのが日本の現状です。20代の気持ちは20代がいちばんわかるんだから、20代の代表を立てやすくすべき。同年代の政治家の方が話しやすいし、理解もし合えるはずです。多様な年代の国民がいるのに、代弁するのが一部の年代に偏っていては意見が反映されません。被選挙権年齢引き下げの話になると、未熟さを理由にされることがありますが、政治家の資質に必要なのは経験だけじゃない。未熟なのではなく、世代で価値観が違う現実がもっと政治に反映されるべきです」

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「じつは、先日、神奈川県知事選挙に立候補届を出しに行ってきました。都道府県知事の被選挙権年齢は30歳以上。私は先日25歳になったばかりなので、不受理になりました。不受理とわかっていてなぜ出したかというと、被選挙権年齢の引き下げに向けて、仲間たちと一緒に公共訴訟という形で問題提起をするためです。裁判をする中で論点を整理し、広く問題を知ってもらい、20代のうちに18歳から立候補できる社会にしたい!と意気込んでいます」

 

能條桃子さんプロフィール画像
能條桃子さん

若者の政治参加を促進する一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN」代表理事。デンマークへ留学した際の経験から、『YOUTHQUAKE U30世代がつくる政治と社会の教科書』(よはく舎)を出版。2022年に政治分野でのジェンダー平等を目指す「FIFTYS PROJECT」を立ち上げるなど、精力的に活動している。

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