進化するアップサイクルフレグランス。【ミラー ハリス】の自然愛に満ちたものづくり

廃棄する資源に新たな命を吹き込み、付加価値を与えるアップサイクル。すでに多くの企業が実践しており、その技術は日々進化を続けている。もちろんビューティ業界も例外ではなく、近年注目されているのが香水原料のアップサイクルだ。原料の再利用、もしくは製造時に出る副産物を再抽出して新たに作られた成分は、通常の香料よりも複雑で豊かな香りを生み出すという一石二鳥な側面も。本記事では、ヴィーガンフレグランスを手がける英国ブランド、ミラー ハリスが開発したアップサイクル原料にフォーカス。伝統的なルールに縛られない、未来あるものづくりの魅力に迫る。 

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ミラー ハリスのアップサイクル原料を使用したフレグランス「ミリカミューズ オーデパルファム」(左)と「イドラ フィグ オーデ パルファム」(右)。

自然を第一に考えた、ヴィーガン志向のフレグランスメゾン

コロナ禍を経て、香水をよりパーソナルなものと捉えるようになった人は多いだろう。まわりにどんな印象を与えるかよりも、より自分らしく、心地よく感じられる香りを求める傾向にある。ではその香りは、地球にとっても心地よいものなのだろうか。SDGsへの取り組みが加速する中、香水の製造過程における環境負荷にも目を向けたいところだ。

天然の香料として広く知られているエッセンシャルオイル(精油)は、香水を作る上で欠かせないものだが、そのオイルを抽出するためには大量の植物が必要となる。例えば希少なローズオイルの場合、1ccを抽出するために使われるバラは2,000本以上。大量の植物が消費されるということはつまり、それらを育てるために大量の水がいるということ。栽培後、エッセンシャルオイルを抽出する蒸留過程でも多くの水が使われている。

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ローズオイルを抽出する蒸留過程。©︎Getty Images

香水製造における水の大量消費を重要視すべき課題と捉え、アップサイクル原料の開発に注力しているのが、フレグランスメゾンのミラー ハリスだ。2000年に調香師のリン・ハリスがロンドンで立ち上げて以来、天然原料にこだわり、自然を第一に考えてきた。サプライヤーは、企業のCSRを評価する国際機関、EcoVadis社の評価システムで上位5社の企業に贈られる金賞を獲得。信頼できる香料パートナー企業との密接な協力関係のもと、最高水準の天然成分を世界中から調達している。

さまざまなニュアンスを含む、アップサイクルローズの馥郁たる香り

ヴィーガン志向に加えて、環境保全にも真摯に向き合うミラー ハリスは2022年、ブランド初のアップサイクル原料を配合した「ミリカミューズ オーデパルファム」を発売した。華やかな赤いベリーを用いて、食前酒をモチーフに調香されたフルーティ フローラル ムスク調の香りには、トルコ産ダマスクローズとインドネシア産パチョリのアップサイクル原料が使われている。

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「ミリカミューズ オーデパルファム」(50ml)¥18,260。ストロベリーやベイベリー(ミリカ)の華やかなトップに、アップサイクル原料のローズとパチョリ、さらにはレユニオン島のパートナーから仕入れたラムが重なり、ラオス産のベンゾインの樹脂がグラマラスなラストを飾る。静寂で優雅なひとときへといざなう温かみのある香り。

エッセンシャルオイルを抽出する最もポピュラーな方法に、水蒸気蒸留法がある。植物原料を窯に入れて加熱し、水蒸気とともに芳香成分を気化させた後、冷却して液体に戻す。このときにできるのが芳香成分を微量に含んだフローラルウォーター(芳香蒸留水)と、そこから分離したエッセンシャルオイルだ。「ミリカミューズ オーデパルファム」では、ローズ エッセンシャルオイルを抽出するときにできる副産物のローズフローラルウォーターを再利用することで香気成分を抽出し、独自のローズの新鮮な香りを再現することに成功した。

新たに開発されたアップサイクルローズには、フレッシュなローズの花びらの香りに独特の奥深さと、フルーティでスパイシーなニュアンスが付加される。つまりローズフローラルウォーターを再利用することで、100%天然原料でありながらユニークなプロファイルを持たせることができるのも大きな魅力だ。

水の無駄遣いを減らすべく、セージの芳香蒸留水を代用した最新作

2023年6月に発売される「イドラ フィグ オーデパルファム」にも、新たなアップサイクル原料が使われている。「ミリカミューズ」とは打って変わり、フルーティなフィグ(イチジク)を中心に、シトラスとウッディノートが調和する爽やかな香りに仕上がっている。「エーゲ海の真珠」とも称されるイドラ島をインスピレーション源に、穏やかで複雑な調香の中に溶け合うのが、アップサイクルのハイドレイト セージとオークウッドだ。

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2023年6月14日発売予定の「イドラ フィグ オーデパルファム」¥25,300(100ml)。トップはセドラとレモンの爽やかさと繊細なスパイスで幕開け。フルーティなフィグ、シーソルトが調和し、ラストではベルベットムスクが、サンダルウッドとアンブロクサンのウッディノートと溶け合う。

上述の通り、フレグランス製造工程における水の使用量の削減は、ミラー ハリスが重視している課題のひとつ。この最新作の製造にあたり、使用する水の一部(最終製品の約7%)を、セージの芳香蒸留水(ハイドレイト セージ)で代用した。水蒸気蒸留法により、セージの葉からエッセンシャルオイルを抽出する際に得られる芳香蒸留水。これを一部水の代わりに使用することにより、微かなセージの香気成分が得られるほか、よりフレッシュな香りのレイヤーを作り出すことができる。

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ワイン樽に使用されるオークウッド。©︎Getty Images

また、ラストノートにブレンドされているオークウッドは、ワイン樽の製造過程で生まれた廃材をアップサイクルしたもの。品質面で樽に適さないオークウッドを回収してチップにした後、蒸留法を用いてエッセンシャルオイルを抽出した。原料となる木材にはフランス林業公社(ONF)が管理するフランス国内の森林から切り出されたオーク材のみを採用。持続可能な森林管理のもとに林業が行われていることを保証する国際基準「PEFC」の認証を受けた材で、サプライチェーン全体を見据えたサステイナブルなプロセスの確立にも積極的に取り組む姿勢が垣間見える。

「80% done is better than 100% perfect(100%の完璧より、80%の実行を)」。決して十分ではないと謙虚に自覚しつつも、小さな一歩を積み上げる努力を怠らない。自社のサステイナブル・マニフェストでそう宣言するミラー ハリスは、世界各地の生産者への技術的・財政的な支援を行っているほか、サプライチェーン全体の二酸化炭素排出量を測定し、排出量を確実に相殺するアクションにも力を入れている。地球の未来を守るための彼らの地道な取り組みは、今後私たちにどんな景色を見せてくれるのだろう。きっと記憶に残る美しい情景とともに、豊かな香りを運んでくれるにちがいない。

インターモード川辺 フレグランス本部
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