私たちはもっとフェミニズムを語っていい! 田嶋陽子さんとアルテイシアさんの対談本から考える、今を生き抜くためのフェミニズム

日本におけるフェミニズムの第一人者、田嶋陽子先生の本に出合い、人生を救われ、現代を代表するフェミニストの一人となったアルテイシアさん。『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』(KADOKAWA)は、二人が“フェミニズムの今”について、自由に楽しく語り合う対談本。海外や若い世代からの支持が増え続ける田嶋先生と、ざっくばらんな笑える言葉でジェンダーの呪いを解き放ってくれるアルテイシアさんが語る、日本がジェンダー後進国からの脱却を図るためのヒントとは?

二人のシスターフッドが素敵って、よく言われます

田嶋陽子さんとアルテイシアさん

アルテイシア(以下) 田嶋先生と対談したこの本を読み返して、私たちの関係性は、「師匠とへっぽこの弟子」がぴったりだなと(笑)。「シスターフッドが素敵です」って、言っていただけることも多いですけど、私が「老師、聞いてくださいよ!」と喋って、それを田嶋先生が優しく聞きながら、合いの手を入れてくれている感じですよね。まあ、先生は、「私は弟子なんて取らないよ!」って言うかもしれないですけど。

田嶋陽子(以下) いい関係だと思うよ。この本のタイトルに関して、「フェミニズム」と打ち上げところはどうかな? と思うけど、でも、それ以外の言葉がないよね。昔は例えば「マルキシズムとは何か?」と掲げたら、その先1年は講義しなきゃならないみたいなところがあった。フェミニズムだって、そういう新しく作られた言葉を入り口にしてしまうと、自分なりの定義を作らないといけないから大変になるよね。

 最近は、フェミニズムブームが来ているので、10代の子が読むような雑誌でも、「フェミニズムについて語ってください」と言われたりするんです。そういう時は、私はシンプルに「性差別をなくそうという考え方です」と言っちゃう。もうごちゃごちゃ説明しない!
 
 素晴らしい! それでいいんだよ。

 「性別に関わらず、すべての人が平等に同じ権利を持つべき」という考えですと。じゃあ、その対義語は何かと言ったら、セクシストでセクシズムですよと。「あなたはセクシスト(性差別主義者)ですか?」と聞かれたら、「違います。性差別には反対です」と多くの人が答えますよね。じゃあ、みんなフェミニストだよね、というような話を展開していった方が、フェミニズムはみんなのものだと伝えやすいんですよね。

 いいねー。本当にその通り! 

 今って、みんな疲れてるじゃないですか。そういうときは、わかりやすくて笑って元気になれるようなものを、みんなに届くような言葉で伝えたいと思っていて。私が田嶋先生の本を初めて読んだのは、会社員になったばかりの頃で、ボロボロに疲れてたんですよね。そんな時に、たまたま紹介してもらったのが、田嶋先生の本だったんです。モラハラ夫にすごく苦しめられていた友達のお母さんも、図書館で先生の本を読んで、離婚しようと決めたと。

 かっこつけて小難しくしている人の文章を読むと、こういう風には書きたくないなと思うよね。昔は、難しく書けば書くほど、学問的に優れているように見えるというおかしな風潮があったんだよね。フェミニズムもわかっている人ほどわかりやすく書けるものだと思うけど、アルテイシアさんの本は、わかりやすい。気づいたら、家にあなたの本がたくさんあってね。付箋もいっぱい貼ってあるし、中のページにも線を引いてるんだけど、もう全部に、「いいねぇ、いいねぇ、その通りだよ!」って言いながら読んでいる。

 膝パーカッション(共感して膝を打つイメージ)していただけました?

 それはちょっと邪魔だなと思うところはあったけど(笑)。フェミニストの本で、こんなに共感しながら読める本はないよ。あなたは非常に言語化能力も理解度も高くて、フェミニズムも自分なりの血肉にして話してる。言葉が借り物でないの。それって素晴らしいと思う。

 泣き崩れそうです(笑)。

 アルテイシアさんのフェミニズムに対する理解力は、理屈なんだけど、理屈だけじゃない。第六感も含めたあらゆる自分の体験と皮膚感覚を通して発見していったものだということがよくわかる。

「私」を主語にしたフェミニズム

 田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?の書影
2023年2月に刊行された『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』著:田嶋陽子 著:アルテイシア¥1,650(KADOKAWA)

ア 対談本にも書いていますけど、フェミニズムと出合って、「私、怒ってよかったんだ」と気づいたんですよね。それまでは、理不尽なことをされても、自分を責めていたんです。でも、フェミニズムを知ると、世界の見え方が変わって、見えなかったものが見えるようになる。今までは、人にぶつかられても、よく見えていないから「自分の歩き方が悪いんだな」と考えてしまっていたのが、「いやぶつかってくる方が悪いよね」と思えるようになり、「ぶつかるなよ!」と言えるようになって、ぶつかってくる人を避けることもできるし、周りに注意喚起することもできるようになった。フェミニズムって、人権を学ぶことなので、私はこんな目にあっていい人間じゃないと思えるようになる。

 素晴らしいことだよ。

 それと同時に、フェミ眼鏡をかけて解像度が上がると、道に落ちてるゴミも見えてしまう。例えば、周囲のジェンダーの呪いも見えてきてしまって、家父長制眼鏡をかけている人とは話が合わなくなるみたいなこともありますけど、一度見えてしまったら、以前のようには戻れないですよね。そして、先生もよくおっしゃっていますが、すべては構造の問題で引いて見ることができるようになると、「家父長制を憎んで、人を憎まず」と思える。それがまさに、「パーソナル・イズ・ポリティカル(個人的なことは政治的なこと)」なんだなと腹落ちしてくる。

田 視野が狭いと、なかなかこの構造の意味を理解できないんだよね。だから、「自分だけが」とか「あの人だけが」と思ってしまう。そうではなくて、構造は、霧雨のように、誰彼かまわず平等に降ってくるわけ。

 先生はどうですか? フェミニズムに出合って、どんな風に人生が変わりました?

田嶋陽子さんとアルテイシアさん

 私はフェミニズムに出合ったわけじゃなくて、自分が必死に生きてきたら、それがフェミニズムだった、という感じかな。子供時代から女の子だというだけで、世間や先生、親にいじめられてきて、その抑圧から解放されたくて、どうしたらいいか、曲がりなりにもその生き方を自分で編み出してきた。気づいたら、そこにフェミニズムという名前がついていたということでしかないの。私を苦しめてきたのは家父長制で、それを批判しながら生きてきたということかな。

ア 仏を作ろうと思ってたわけじゃなく、木を彫ってたら仏になった、みたいな(笑)。

田 そうだね。心理カウンセラーに相談するという選択肢は、私の時代にはなかったから、本を書くことで自分を解放したんだよね。女だからという理由で進学校に行かせてもらえなくて、高校時代はふてくされて、図書館で貪るように世界文学全集を読んだわけ。そうしたら、そこには抑圧されて死なざるを得ない、美しくすぐれた女性たちがたくさんいた。それが後の『ヒロインは、なぜ殺されるのか』(KADOKAWA)の土台になっている。それと私の女としての息苦しさの根源に向き合った『愛という名の支配』(新潮社)が、私なりのフェミニズムの原点。あなたと同じで、自分が苦しかった体験から編み出したもので、それが、私にとっての「パーソナル・イズ・ポリティカル」。だから、私もフェミニズムに理屈から入ったわけではなく、いわば身銭をきった感じ。一方で、社会はそうやって女性の自由や人権を訴える人たちのことを「女性解放運動家」と呼んだり、今の時代には「フェミニスト」と呼んだりする。そういうことかな。

 対談本にも「フェミニズムなんて言葉を知らない人でも、フェミニズムの生き方をしている人もいる。勉強した長さじゃないの。その人がどうありたいかなの。だからフェミニズムで人を差別しちゃいけないし、されてもいけない」という言葉が出てきますよね。フェミニズムって生き方なんだ、「女らしさ」の檻を破って自由に生きたい人はフェミニストなんだ、と気づいたことで私自身が救われました。

 私は、いちばん私の身近にいて影響を与える存在の母から、「女らしくしなさい」と言われて育ったから、それはおかしいと気づいた時には、すごく苦しかった。自分は母とは違う生き方をしようとしていたわけだし。母は世間を代弁していたから、私は母だけでなく世間を敵に回したことになる。

 そうですよね。先生は「おぎゃあ」と生まれた瞬間から、解像度が高かったわけですよね。

田 みんなそうだと思うけどね。生まれたばかりの頃は、本来、みんなフェミニストであってもおかしくない。でも6ヵ月経つと、女も男も、あの髪の毛の長い人はいつも台所で何かを洗ってる、ちょっと匂いのする黒っぽい洋服を着て鞄を持った男の人はいつも外へ行く、という違いに気づく。性別役割分業意識は、生まれて半年で感じ始めるらしい。

 確かに。家族で旅行に行っても、民宿で必ずお母さんの前におひつが置かれて、ご飯をよそっている姿を見ていたら、それが当たり前になりますよね。

 そういうことよ。それが空気のように性別役割分業を学ばせるやり方。子どもは親や周囲の人たちの一挙手一投足から学んでいく。

性差を埋めていくための教育

田嶋陽子さんとアルテイシアさん

 中高生にジェンダーの授業をするときに、「東大になぜ女子が2割しかいないのか」という話をよくするんです。ハーバード大学、スタンフォード大学、オックスフォード大学といった世界のトップ校は男女ほぼ同数で、理工系のマサチューセッツ工科大学ですら、女性が4割以上いる。だから、東大に女性がすごく少ない理由は、ジェンダーの問題なんです、と。日本でも男女の偏差値分布は同じで、東大に受かるぐらい優秀な女子が東大を受けてないんですよ。そこには親の教育投資が影響していて、「娘には地元の大学に進んでほしい」「浪人させたくない」という親が多いんですよね。

 その通り。本当に昔からよく言っていることだけど、日本は人口の半分である女性を差別して能力を使わせないでおくと、飛行機で言えば片翼飛行状態と同じだから、損しているどころか、墜落して大変なことになる。この国はもう落ちかけているんだから、今、女の人の能力をきちんと認めて使わない限り復活しない。安倍政権になって、2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%に上昇させると目標を掲げたはずなのに、何にもしてないんだから。2030年までにやればいいって誤魔化してさ。

 努力義務じゃダメなんですよね。海外を見ても、罰則として政党助成金を返還させている国は、女性議員がどんどん増えています。だって、日本の男性政治家は、自分のパイを奪われたくないわけだから。現職の男性議員に退いてもらわないと、女性の出る隙がない。罰則がないと、政党は本気で女性を増やそうとしないですよ。

田 フランスの「パリテ法(各政党に対して、男女同数・平等に50%ずつの候補者擁立を義務付けること)」を真似したらいいよね。育児も同じで、子育て支援政策でフランスは出生率増えたじゃない。日本は、女性があまり運動しないじゃない。変わらないことがかえって便利!なんてところがあるんじゃないのかな。夫が持ってきた給料に、妻が補填する程度のほうが、税金がかからなくていいと思うとかね。

 保育園落ちたりマタハラやマミートラックがあったり、出産後に女性が働き続けるのが困難な現状がありますよね。最近、新卒女性のアンケート(※1)を見たら、専業主婦になりたいって思ってる人は、7%しかいないそうです。

田 昔は片働きの世帯数の方が多かったわけだけど、今、専業主婦の世帯って、実際に539万(※2)ぐらいに減っているよね。

 みんな給料が減っていて、男性が大黒柱になるぐらい稼げない現状がありますよね。女性は男性の5倍以上も家事育児を負担していて、若い世代は上の世代を見てきて「外でも働いて、家でも休めないなんてやってられるか!」となる。 だから、結婚したくない人も、子どもは欲しくないという人も増えて当然だと思います。

田 ひとり親世帯の貧困率が約5割(※3)と高いのも問題。政府がひとり親世帯にもっと手当てを出せばいいんだよね。イギリスはもう40~50年前から、ひとり親でも堂々と生きられるようになっているのに、日本だけだよ、こんな旧態依然とした“家族”というかたちに縛られているのは。

 先進国で少子化が改善してるのはジェンダー平等の進んでる国で、男女が共働きで無理なく家事、育児を分担できる社会になってる。なのに、未だに日本は女に子どもを産ませるためのトンチンカンな政策が多い。「#私たちは鮭じゃない(※4)」っていうハッシュタグが流行りましたけど。私たちは魚卵を産むわけじゃなく、産んだら育てないといけないので。

 今やってる的外れな子育て政策を変えなきゃいけない。とにかく私が言いたいことは、女もきちんと税金を収めてフルタイムで働き、男性との月給差をなくすことだよ。そして、男たちにも「ちゃんと飯を作れ」、「子育てしろ」と言って、男を自立させることだよ

 どのイベントに参加しても一番多くされる質問が、「パートナーとのジェンダー意識のギャップをどう埋めていけばいいでしょうか」で。

田 そもそも、よくそんな相手と一緒になったよね。

 「フェミニズムをもっと早く知っていれば、夫と結婚しなかったのに」と言う女性は多いですよ。「あんな無駄な恋愛もセックスもしなかったのに」とか(笑)

田 出直せばいいじゃん、離婚したっていいんだし。

(※1)出典:2023年3月「キャリタス就活・卒業直前に聞いた『キャリアプラン・ライフプランに関する調査』株式会社ディスコ
(※2)出典:総務省統計局「労働力調査特別調査」、総務省統計局「労働力調査(詳細集計)
(※3)出典:2019年11月14日「子供の貧困対策~子供を取り巻く現状と国の取組について~」内閣府子どもの貧困対策担当
※4)自民党少子化対策調査会長の衛藤晟一元少子化対策担当相が奨学金の返済免除制度の導入を主張するに当たり、「地方に帰って結婚したら減免、子どもを産んだらさらに減免する」との発言に対してTwitterで登場したハッシュタグ。

田嶋陽子さんとアルテイシアさん

 とはいえ、ここはフィンランドでもニュージーランドでもなく、ヘルジャパン(※5)ですから。ジェンダーイコール男子は希少種なので、やっぱり男性に教えて育てていく方向しかないんじゃないか? と私は思っていて。

ただ、ジェンダーについて話そうとすると、クソリプを返してくる男性が多いじゃないですか。妻に責められてると勘違いして、防御や反論をしてくる男性が多いので、手紙やメールなど文章で伝えることをおすすめしてます。文章にすれば自分も言いたいことを最後まで言い切れるし、相手も何度も読んで理解を深められるので。私の本やコラムを夫に読ませたら、夫が「今までごめん」と謝ってきた、みたいな話もよく聞きます。私じゃなく目の前の妻の話を聞けよと思うけど(笑)。相手に伝わるコミュニケーションの方法を考えるといいかなと。あとは、こちらの本気度が伝わらないと、「なんでそんなに機嫌悪いの? 生理?」とか返されて噴火してしまうので、伝える姿勢も大事ですよね。

田 私は、大学で「アサーション(「自己主張」という意味の単語で、相手と対等な立場に立って自己主張をするためのコミュニケーションスキルのこと)」という講座を設けたことがあるけど、喧嘩腰にならずにアサート(自己主張)するって大事じゃない? 自己主張をして、その結果を出すにはどういうふうに持っていくか、それにはちょっとした知恵が必要。

 確かに、私を主語にする「Iメッセージ」も効果的ですよね。「あなたはなんでこういうことするの?」じゃなくて、「私はこう思う」と自分を主語にするっていうのは、基本だなと思います。

 ついつい「あなたは…」って、責めちゃうけど、そうじゃなくて、「私は」という主語で通すことが大事だよね。フェミニズムは差別されてる方が主張していくわけだから、そうした場合、そういう技術を少し、取り入れた訴え方が役に立つかも。でもね、怒ってるとね、つい「くそ馬鹿野郎!」とか言っちゃう(笑)。

 「くそ馬鹿野郎!」ってバチギレたくなりますよね(笑)。

 でも、その一言が効くこともある。本気で怒ってるって相手に思わせたら、結構いい結果が出ることもある。やっぱり、本気で伝えることが大事。相手も馬鹿じゃないからね。

 実は私、最近ちょっと優しくなったんですよ(笑)。対談本で「結婚当初、80代の義母にブドウ禁止令を出した」という話をしたけど(※息子のためにブドウの皮まで剥こうとする義母に「二度とブドウ買ってこないでください」と宣告した)、最近、義母に「パンツ禁止令」を出したんですね。義母が息子のためにパンツを買ってきてパンツが無限増殖していくので、「もうパンツは買ってこないでください」と伝えたら、義母が「じゃあ、私の代わりに買ってあげてね」と言うので「パンツは自分で買うんですよ」と優しく言いました。

当然、夫は自分でブドウの皮を剥いて自分でパンツを買ってきています。でも義母だって、パンツを買いたくて買ってたわけじゃないよなと。家父長制社会が、女に「男のお世話係」を押し付けてきたわけで、義母が悪いわけじゃない。「家父長制を憎んで、人を憎まず」なんですよ。そんなふうに意識が変わったので、年輩の方に「出張を許してくれるなんて、優しい旦那さんね」とか言われても、モヤモヤしなくなりました。

 まだそんなことを言われるんだ。

 言われますよ。昔は、「なんで夫の許可が必要なんだ?」とモヤモヤしたけど、「この人たちは何をするにも夫の許可が必要な時代を生きてきた、自由を奪われていたんだな」と背景を想像すると、「ご苦労様でした……」と労わりと友愛の情が湧いて、優しくなれますよね。

(※5)“地獄みの強い日本”という意味合いでアルテイシアさんが使用している言葉。

自分ファーストで、政治や社会を考える

田嶋陽子さんとアルテイシアさん

 実は最近、選挙ボランティアをしたんですよ。

田 そうなんだ。統一地方選挙のボランティア?

 そうです。結果として、私の推しの女性議員さんが当選した上に、東灘区で投票率が2パーセント近く、特に女性の投票率が上がったんです。選挙ボランティア、すごく楽しかったんですよ。今はリモートでも推し議員さんを応援できますよね。

例えば、SNS担当やバナー作成や動画編集とかできる人は大歓迎されますから。特に地方議員さんは身近な存在だし、「タダで会える推し」なので、推し議員を見つけてボランティアをしてみると、政治が近くなるし、興味が持てる。「一人一人の力によって政治が変わるんだ」と実感できると、自己肯定感も上がりますよね。もちろん、リツイートや「いいね!」をして応援することも、立派なアクションだと思います。

 本当にアルテイシアさんの言う通り。助けになるよね。特に、選挙では。

 会う人会う人に、「投票行きますか?」と聞いてましたもん。タクシーとか、信号待ちでも言ってしまいそうになるくらい、投票マシーンとして言いまくってたら、みんな結構聞いてくれるんですよね。「1票で変わるんだ」と言うと、「じゃあ、行かなきゃ」と言ってくれたり。

 それを伝えたらいいね。若い人は自己肯定感が低いところがあるから、「自分の1票なんて」と思っているようだけど、その1票が大事なんだって発信していくのはすごくいい。

 それも、やっぱり教育の責任ですよね。日本は主権者教育や民主主義教育を全然しないから、「政治は自分たちのものだ」「自分たちの力で変えられる」と思えなくて、投票率も世界ワーストレベルに低い。誰に投票したらいいかわからないという若者には、「選択的夫婦別性や同性婚といったわかりやすいイシューがあるから、それで候補者を絞ってみたら?」と言うと「なるほど! それだとわかりやすいですね」って人が多いです。政治はよくわからないけど、ジェンダーには関心が高いという若者は多いので。

 自分が生きやすいような社会を作るには、どの人を選んだらいいか。その時くらい、自分中心になって考えられたらいいよね。何度も言うようだけど、政界と経済界がもっと女性の人権を大事にして女性を活かさないと、この国はダメになる。だって、国民の半分を占める女性の扱いを誤っていたら、うまくいくはずはないんだから。女性も男性と同様に働いて、きちんと税金を納め、その分自分の意見をきちんと言っていかないとね。

一人ひとりがロールモデルになって社会の構造を変えていく

田嶋陽子さんとアルテイシアさん

 私は、自分の世代がもっと声をあげていれば、社会は変わっていたかもしれないという後悔があるんですよ。上の世代が「セクハラで騒ぐなんてプロじゃない」「笑顔でかわすのが賢い女」とか言ってたせいで、セクハラを無くすことができなかったんじゃないか。私たちがもっと本気で怒っていれば、下の世代の被害を止められたんじゃないかって。フェミニズムに無関心であっても、フェミニズムの恩恵を受けていない女性は一人もいないと思うんです。

 そうなんだよ。

 田嶋先生が“ヒステリックに怒る怖い女”みたいなイメージを押し付けられながらも、「セクハラをやめろ!」と怒ってきてくれたからこそ、この社会が少しはマシになったと思うんです。今、私たちがこうやって進学したり、就職したり、選挙に行けたりするのも、ピルを飲んで避妊ができたりするのも、先人たちが闘ってきてくれたおかげなので、そこをフリーライドしてはいけないなと。そういう先輩に対する思いと後輩に対する責任感があるんですよね。

田 後輩のことも先輩のことも考えてるって、実に奥深いよね。私の頃やちょっと後の世代もそうだと思うけど、生き延びるだけで精一杯だったから。私は軽井沢の家があったから、『テレビタックル』で叩かれた収録後は、山にこもっておかゆを食べて寝ていた。

 山姥のように暮らしてたんですね(笑)。

田 本当よ。海岸で砂にじわじわと海水が染みてくるように、みんなはフェミニズムなんて知らなくても、もう世の中はその方向に向かっていると思う。あなたたち一人ひとりが「これが私の生き方」という人生を生きればいい。人は嫌でも幸せそうに生きてる人の後を追いたくなるものよ。だから、自分なりの生き方を正々堂々と見せればいい。

 自らがロールモデルになればいい。

 そう。一人ひとりがロールモデルになることがどんなに大事か。何が正しいか、正解かなんてみんなわからないものなんだから、自分が自信をもってこう生きたいという生き方をしていればいいの。それと、女の人たちは、自分たちがもっと活躍するんだと思って進むこと。まだ男女平等の問題は山積みで、選択的夫婦別姓も実現しないし、女の人の苦労は多いけれど、少なくとも「社会は女に対して理不尽なことをしている」と口に出して言えるようになった。そうした努力は、いろんなところで表面化している。アルテイシアさんたちの活躍もそうだしね。

 ありがたいです、老師……!!

 上の世代の女の人たちだって、皮肉を言いながらも、実はそうした活躍を羨ましがっているわけよ。彼女たちは、自分がこれから生きる上でも、下の世代を指導するにあたっても、少しずつ態度を変えていくはず。皮肉を言うってことは、その人たちも傷ついて何とかしようとあがいてきたわけだから、「あ、この人も変わろうとしてるんだな」くらいに受け取ればいいと思うよ。

 私にとっては田嶋先生がロールモデルの一人でした。憧れの大先輩と対談本まで出せて幸せです。本の巻末には、私から田嶋先生への手紙が載っていてエモいので(笑)、皆さんぜひ読んでみてください!

田嶋 陽子プロフィール画像
田嶋 陽子

たじまようこ●1941年、岡山県生まれ、静岡県育ち。津田塾大学大学院博士課程修了。元法政大学教授。元参議院議員。英文学者、女性学研究家。フェミニズム(女性学)の第一人者として、またオピニオンリーダーとして、マスコミでも活躍。近年は歌手・書アート作家としても活動。著書に『愛という名の支配』(新潮文庫/2022年に韓国版、23年に中国版が刊行予定)、『新版 ヒロインは、なぜ殺されるのか』(KADOKAWA)など。2023年6月30~7月5日まで、ギャラリーコンセプト21にて、第8回田嶋陽子書アート個展『ひと息ついて』を開催予定。2023年11月4日に三越劇場で『田嶋陽子 シャンソンコンサート』を開催予定。

アルテイシアプロフィール画像
アルテイシア

1976年、神戸市生まれ。大学卒業後、広告会社に勤務。2005年に『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。著書に『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』、(ともに幻冬舎文庫)、『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』(大和書房)、『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』(KADOKAWA)、『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』(講談社)など。

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