京王線の駅で古着を回収。下北沢から衣類循環型社会を目指して

近年、深刻な課題となっている衣料廃棄物。環境省「令和4年度循環型ファッションの推進方策に関する調査業務」によると、国内で使用後に手放される衣類の量は年間約73万トン。そのうち約49万トンが、リサイクルもリユースもされずに廃棄されると推計されている。サステイナブルファッションが注目されて久しい昨今だが、捨てられた衣類の7割近くがいまだに「ゴミ」として焼却処分されているのが現実だ。では、手放された大量の衣服をどう循環させていくのか。衣類循環型社会のインフラ構築を目指し、京王電鉄が新たな試みを始めている。

京王線の駅に出現した古着回収ボックス

京王線の古着回収ボックス
ミカン下北のA街区あずま通り側エレベーターホール前に設置された古着回収ボックス。

京王井の頭線下北沢駅の高架下にある商業施設「ミカン下北」内に設置された、大きなオレンジ色のボックス。中に入れられるのは郵便物ではなく、着なくなった古着だ。2024年5月より、京王電鉄が外部のパートナー企業とともにスタートした取り組み。鉄道事業の新たな付加価値の創出や地域の課題解決を目指す、KEIO AREA OPEN INNOVATION PROGRAM(京王エリア オープンイノベーションプログラム)「ROOOT(ルート)」の一環として、駅での古着回収を実施している。

古着の街として知られる下北沢をはじめ、京王線・井の頭線の一部の駅や沿線の商業施設に専用ボックスを設置。上述したミカン下北のほか、池ノ上駅、東松原駅、明大前駅、永福町駅、久我山駅の6ヵ所で実証実験を行なっている。

京王線の駅で古着を回収。下北沢から衣類循の画像_2

古着回収ボックスを通じて回収可能なものは幅広い。着なくなった洗濯後の衣類(クリーニング不要)のほか、バッグや財布、帽子、スカーフ、ネクタイ、ジュエリー、着物、タオル、おもちゃなど、再利用可能な衣類や小物類を出すことができる。ただし、汚れやほつれのある衣類や、下着、靴下、靴、寝具類、敷物は対象外。回収ボックスの利用に特別な手続きの必要はなく、誰でも気軽に利用できるのがうれしい。

回収した古着を循環させ、駅利用の新たな価値を生み出す

京王線の駅で古着を回収。下北沢から衣類循の画像_3
2024年6月1日に開催された、笹塚駅広場でのフリーマーケットの様子。

本プロジェクトは、アップサイクルやリユース、リサイクルなどの事業を展開する株式会社FASHION Xと共同で進められている。京王電鉄が2023年10月から募集した外部企業のさまざまな提案の中から同社のアイデアが採択され、今回の導入に至った。

古着回収の実証実験開始から約1ヵ月、確かな手応えを感じていると京王電鉄SC営業部の角田さんは話す。「古着の回収量は順調に推移しており、お客様からの感謝の声もいただいています。6月1日には、笹塚駅広場でフリーマーケットを開催し、回収した古着をリユース品として販売しました。今後はリユースのみならず、クリエイターと連携したリメイクやアップサイクルのほか、寄付することも検討しています」

目標は、回収した古着を京王沿線のさまざまな地域で循環(リユース・リサイクル・アップサイクル)させる仕組みを作り、駅利用の新たな価値を生み出すこと。「古着回収ボックスがあることで『駅に行く』『鉄道を利用する』という来駅目的の多様化、リアルな移動のきっかけにつながれば」と角田さんは意気込む。

実証実験の期間は6月末までの予定だったが、古着回収ボックスの効果が見え始めているため、当面は設置を継続するという。夏の衣替えをして、着なくなった服の整理に困っている人もいるかもしれない。自宅のクローゼットに眠っている服を、この機会に持って行ってみてはどうだろう。