京都市の梅小路公園を舞台に開催される「京都音楽博覧会」(以下、京都音博)。2日間で2万人を超える来場者が集まり、毎年多くの賑わいを見せる。「その日限りの音楽フェスではなく、地域に根付いた持続可能なイベントにしたい」。主催者である京都出身のロックバンド、くるりの岸田繁さんは、2007年の開催当初からそんな思いを抱いていた。京都音博を通じて地域貢献や環境に配慮したさまざまな取り組みを進める中、2022年に始まったのが「資源が“くるり”プロジェクト」だ。10月12日・13日に開催された京都音博2024の様子とともに、プロジェクトの全貌をレポートする。
可燃ごみの発生量はほかのフェスの半分以下。くるりが主催する京都音楽博覧会2024
「環境・文化・音楽を“くるり”とつなごう」をコンセプトに、開催当初からごみの分別の徹底、フライヤーやチラシを作成しないなど、できる限りごみを出さないための取り組みを続けている京都音博。フードエリアで飲食物を購入する際、マイ食器やマイボトルを持参すると割引になるほか、出店しているすべての飲食店ではリユース食器が導入されている。飲食後は廃棄せず、洗浄してエコステーションに返却するため、2023年の開催時はほかの音楽フェスと比べて可燃ごみの発生量を半分以下に抑えることができた。ごみが圧倒的に少ないこともあり、会場全体にはクリーンな雰囲気が漂う。
2022年より始動した「資源が“くるり”プロジェクト」は、ごみを価値ある資源に変えて活用する、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方にもとづいて生まれた。目的は廃棄を削減することではなく、そもそも廃棄が出ない仕組みを作ること。梅小路エリアのまちづくりを推進する株式会社梅小路まちづくりラボをはじめ、さまざまな事業団体や専門家たちと連携しながらプロジェクトを進めている。
フェスで出たごみを価値ある資源に変えていく。地域を巻き込んだコンポスト活動
「資源が“くるり”プロジェクト」の主軸となるのが、生ごみをたい肥に変えるコンポストの活動。2022年にクラウドファンディングで得た資金をもとに、梅小路公園の敷地内にコンポスト・ステーションを設置することから始まった。
狭いスペースを活用した、幅15m、奥行き1mの細長い設計で、支柱には余剰資材の北山杉の絞り丸太を使用。今後解体することになっても、別のものに再利用できるようにデザインされている。ここに京都由来の4つの資源(もみがら、米ぬか、瓦土、落ち葉)と水で作った床材を敷き詰め、京都音博当日に出た食材の余りや食べ残しなどの“食品残さ”を投入する。
完熟たい肥を作るためには、京都音博が終わった後も人手が欠かせない。土の中で微生物が発酵・分解しやすい環境を作るべく、温度やにおい、水分量を定期的にチェックし、必要に応じて養分や水分を追加し、スコップでかき混ぜて空気を取り込む作業が繰り返し必要になる。すると約4ヵ月後には、ふかふかで土の芳しい香りが広がる完熟たい肥が完成する。
たい肥作りは、プロジェクトを監修するサーキュラーエコノミー専門家の安居昭博さんや、コンポストアドバイザーの鴨志田純さんによる指導のもと、環境問題に関心の高い人たちや地元住民のボランティアによる協力を得て進められた。コンポストを通じて地域の人びとの交流が深まり、独自のコミュニティも醸成されているという。環境への貢献にとどまらず、人と人をつなぐ場所としても機能している。
2023年は、約250kgの食品残さのたい肥化に成功。梅小路公園の指定管理者である京都市都市緑化協会に譲渡され、公園内の花壇や樹木の肥料として還元された。また、今年開催された京都音博2024では、来場者が自由に完熟たい肥を持ち帰れるおすそ分けコーナーも設けられていた。
京都音博2024を盛り上げた「資源が“くるり”プロジェクト×KYOTO CIRCULAR」ブース
京都音博2024では、「資源が“くるり”プロジェクト×KYOTO CIRCULAR」と題したブースが設置されていた。京都にゆかりのあるさまざまな事業者が、ユニークな循環の取り組みを紹介し、京都音博を盛り上げた。
会場でひときわ目を引いたのは、端材や未利用材などを集めたみどりのボックス。京都のアート制作現場から出た廃材を回収、販売する副産物産店が展開する「バイバイプロダクツ(BUYBYPRODUCTS)」という活動だ。今回の出展では、京都芸術大学内の廃材や余剰資材を回収し、「みどり市」として来場者に無料で提供していた。
京都に本社を置く村田製作所の子会社、株式会社ピエクレックス(PIECLEX)のブースでは、自社で開発した生分解性繊維を採用したウェアやタオルなどを展示。着用する人の動きで微弱な電気が発生し、抗菌効果を発揮するほか、着なくなった後は資源として回収され、分解されて土に還り、たい肥となる。
ピエクレックスの製品を実際にたい肥化して作られたのが、肉厚な甘長とうがらし。完熟たい肥を利用した野菜作りをしている鴨志田農園の協力のもと栽培された。
そんな甘長とうがらしを使ったミックスジュースをその場で提供、販売していたのが、京都のミックスジュース専門店、CORNER MIX(コーナー ミックス)。マンゴーとパッションフルーツの爽やかな甘みが広がる中、甘長とうがらしのピリッとした辛みが意外にもマッチし、クセになる味わいに仕上がっていた。
ジュースを作る際に使用していたのは電動ミキサーではなく、古いエアロバイクをアップサイクルした「MIX BIKE(ミックス バイク)」。材料を入れたミキサーをバイクにセットし、約1分ほどペダルを漕ぐと、運動の力だけでミックスジュースができあがる。会場では、大人も子どもも楽しみながらジュース作りを体験する姿が見られた。
障害がある人が働く福祉事業所と連携して菓子を製造する八方良菓のブースでは、京都のロス食材を活用した「京シュトレン」がスライスで販売されていた。老舗酒蔵から出た梅酒の梅の実や酒粕、生八ッ橋の製造過程で切り落とされる“みみ”など、京都のさまざまな副産物や規格外品を材料にメニューを開発。和菓子のような奥深い風味が魅力だ。
このほかにも、京都発のコーヒーロースター、小川珈琲のサステイナブルな活動の紹介や、古着の回収コーナー「RELEASE⇔CATCH」なども加わり、来場者がサーキュラーエコノミーを実践できるよう工夫が凝らされていた。
「循環」というテーマのもと、さまざまな専門分野のメンバーが一丸となって取り組む「資源が“くるり”プロジェクト」。京都音博で出た廃棄物を通じて地域との関係性が深まり、資源のみならず人の輪も“くるり”とつながっている。京都という土地柄や資源を活かした独自のプロジェクトが、どのように育まれ、熟成されていくのか、今後の活動からも目が離せない。