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2025.09.30

都会の中心で畑と笑顔を耕す。コミュニティ農園【原宿はらっぱファーム】の挑戦

高層ビルがひしめく都心の一等地、JR原宿駅から歩いて15分ほどの場所に、テニスコート7面分もの農園が広がっている。「原宿はらっぱファーム」と名付けられたそこは、人と人がつながり、笑顔と資源が循環している場所だった。

原宿の真ん中に生まれた、前例のない期間限定の農園

東京都内の農地面積は約6,290ha(2023年時点)と少なく、都の総面積の3%にも満たない。さらに、ここ10年で1,190haの農地が失われている(東京都産業労働局のHPより)。そんな中で、2025年4月、店舗や住宅などが建ち並ぶ渋谷区の一角に、「原宿はらっぱファーム」は誕生した。

プロジェクトリーダーの安西美喜子さんが、広大な空き地の存在を知ったのは5年前。原宿エリアに移り住んで間もない頃だった。「かつて印刷局の宿舎があった財務省管轄の国有地が、借り手がつかず空き地になっていました。ひと目見た瞬間にインスピレーションが湧いて、ここで農業がしたいと思ったんです」

原宿はらっぱファーム代表の安西美喜子さん

原宿はらっぱファームを手がけた、プロジェクトリーダーの安西美喜子さん

プロジェクトが動き始めたのは、2023年の秋ごろ。安西さんは、地域住民や支援者とともに「都市農地と防災のための菜園協議会」を立ち上げた。

「はじめのうちは、我々協議会が関東財務局と直接交渉していたのですが、自治体もしくは町会でなければ契約の当事者になれないことが途中でわかりました。そこで、民生委員をされている協議会のメンバーの方が、渋谷区長に働きかけてくださったんです。幸運なことに、以前から渋谷区も空き地の活用方法を模索していたという経緯があり、交渉の間に入ってくださいました。それからは、とんとん拍子に話が進んでいきましたね」

交渉の末、国有地である空き地の管理を渋谷区が受託し、協議会が1年限定で区から再委託を受けるかたちで話はまとまった(土地を借りたわけではなく、期間限定で管理する役割が与えられた)。その後、クラウドファンディングで約180万円の資金を集め、原宿はらっぱファームは今年の春に正式にオープンした。

原宿はらっぱファーム 入り口

原宿はらっぱファームの入り口

「実現に向けて動いていたとき、本当にここが農園になるなんて、誰も信じていなかったと思います。まったく前例のない、何もないところからのスタートだったので。オープンに向けて準備を始めると、たくさんの方々が興味を示してくださり、ボランティアで手伝いに来てくださいました」

畑を通じて生まれる、ゆるやかなつながり

原宿はらっぱファームの畑

化学肥料や農薬を使わず、自然に寄り添う有機農法で栽培されている

テニスコート7面分、約1,500㎡の敷地の中には、区分けされた畑がいくつも並び、さまざまな野菜が育てられている。仲間同士でひとつのチームを組み、決められた区画で好きな野菜を栽培する「チームの畑」や、専門家による月1回の講習を受けながら、グループで野菜を育てる初心者向けの「学びの畑」、見ず知らずの人たちが集まり、共同で野菜づくりを楽しむ「つながる畑」などがある。どの畑も、およそ8人1組のグループで営まれている。

「学びの畑とつながる畑は、応募者の年齢や性別、住んでいる場所、野菜作りの経験などから総合的に判断して、属性が偏らないようにグループ分けをしました。普段は交わることのないような人たちが畑を通じて出会い、種や苗の調達から収穫までを分かち合ってもらうことが目的です」

原宿はらっぱファーム 

土を耕す「学びの畑」のメンバー

この場所を拠点に、地域のつながりを醸成したい。そんな安藤さんの思いを体現したグループ菜園は、都市農業が盛んなフランス・パリ5区のコミュニティガーデンに倣って取り入れられた。

「パリ5区のコミュニティガーデンでは、野菜づくりに関することだけではなく、参加者の日々の困りごともみんなで解決し合っているそうで、ここでもそういったつながりが生まれるのが理想。地域で助け合いの意識が芽生えると、防災や防犯の観点でも有効だと思います」

原宿はらっぱファーム

運営スタッフとともに、「みんなの畑」エリアで水やりをするサポーター

ファームの周辺を囲むようにつくられたのは、「みんなの畑」エリア。登録すれば誰でも参加できる開かれた畑で、現在もサポーターを募集している。たまにしか来られない人がふらっと訪れても、水やりや草刈り、収穫などに参加できる気軽さが魅力だ。筆者が現地で取材をしていた間も、数人が見学に来ていた。

「渋谷区に屋上菜園はありますが、地面の畑に限って言うと、ここ以外にはないと思います。郊外に行かなければできないと思っていた野菜づくりが都心でもできると知って、喜んで来てくださる方も多いです。普段はまったく土に触れることのなさそうな人でも、通りがかりに面白そうと言って立ち寄り、楽しんで帰っていかれることも。この農園を始めてから、目に見える場所にあることが大事なんだなと実感しています」

原宿はらっぱファーム 農園の野菜

畑の参加メンバーは約100人。原宿界隈のみならず渋谷区外から訪れる人も多く、中には県外在住の人も定期的に足を運ぶ。

「大学生や、海外から移住された方、子連れの方、飲食店のオーナーや芸能プロダクションの社長、インフルエンサーなど、多彩な方々がここで野菜づくりを楽しまれています。肩書きも地位も関係なく、知らない人同士がフラットに畑を通じて会話し、ゆるやかなつながりが生まれている光景を見ると、とてもうれしいんです」

目指すのは、笑顔と資源の地域循環

原宿はらっぱファームのコンポストボックス

ファームの中心に設置されたコンポストボックス。地域の資源を循環させている

原宿はらっぱファームの中心には、大型のコンポストボックスが設置されている。NPO法人コンポスト東京の代表理事も務める安西さんが推進しているのは、コミュニティコンポストの活動だ。メンバーの家庭や店で出た生ごみ、近所のカフェで出たコーヒーかす、ファームの雑草や野菜残さ、製材所で出た木くずや段ボールなど、地域で活用されず廃棄された有機物を回収してコンポストボックスに入れ、微生物の力により堆肥化。完熟した堆肥を畑で使って野菜を育て、地域へ還元している。

都会の中心で畑と笑顔を耕す。コミュニティの画像_8

コンポスト部の部員たちが、家庭で出た生ごみを小さなコンポストバッグでストック。原宿はらっぱファームのコミュニティコンポストで共同で堆肥をつくっている

「コンポスト部のみなさんは、生ごみを資源として循環させることに楽しみながら取り組んでくださっています。こういったコミュニティコンポストを都市部のいろんなところに作って普及させていくことが重要だと思っているのですが、それを管理できる人はまだまだ少ないのが現状。学校や区民農園など、さまざまな場所でコンポストの指導を行いながら、人材育成のためのカリキュラムを作っているところです」

都会の中心で畑と笑顔を耕す。コミュニティの画像_9

期間限定の原宿はらっぱファームは、国との約束で2026年1月で閉鎖されることが決まっている。ただし、来年以降も何らかのかたちで継続できないか、安西さんたちは可能性を模索しているという。

「建築家の藤原徹平さんが主宰するフジワラボという建築事務所が、ファームの存続を願ってここに小さなパビリオンを建ててくださることになりました。また、オーガニックの土を開発している金澤バイオ研究所からは、来年以降も続けてほしいという嘆願書をいただいています。ファームの活動に賛同し、一緒に考えてくださる方々がいらっしゃるので、多くの方を巻き込んでいけたらと思っています」

アスファルトで覆われた都心で、自然の土に触れられる場所は貴重だ。原宿の真ん中に生まれた期間限定の畑は、さまざまな人たちを引き寄せている。目指すのは、笑顔と資源の地域循環。人と人のつながりがあることで、解決できることはもっとたくさんあると、安西さんは言う。残された期間は約半年だが、どんな実りと収穫があるのだろうか。ぜひ足を運んで体験してみてほしい。

原宿はらっぱファーム

住所:東京都渋谷区神宮前3丁目35-13
開園日時やイベント情報は、インスタグラムで更新中

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