2025.11.30

未来に向けた対話のために。【若者気候訴訟】について知ろう

気候変動がもたらす悪影響は、人権侵害である。全国の17人の若者たちが立ち上がり、大手電力会社を相手に民事訴訟を起こしている。日本で初めて若者によって起こされた気候訴訟では、何が問われているのか。 注目されている裁判の行方を追う。

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2025年5月22日の第3回口頭弁論期日に、法廷へと向かう原告たち(撮影:森山拓也)

世界各地で増える気候訴訟

2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択されたパリ協定では、「世界の平均気温上昇を、産業革命以前と比べて1.5℃以内に抑える努力をする」という世界共通の目標が掲げられた。これを受けてIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は、平均気温上昇を1.5℃以内に抑えるためには、世界全体でCO2排出量を、2019年比で2030年までに48%、2035年までに65%削減し、2050年にはカーボンニュートラル(温室効果ガスの「排出量」と「吸収量」を差し引きゼロにすること)を実現していく必要があると示している。

猛暑や豪雨など、地球温暖化によるさまざまな影響が日々の生活の脅威となりうることは、周知の通りだ。そうであるならば、化石燃料を燃やし続けて温暖化の原因を作り出している国や企業に、法的責任はまったくないのか。両者の行為は、人権侵害にあたらないのか。それを明らかにするべく近年増加しているのが、司法の判断を仰ぐ気候変動訴訟だ。

2019年にオランダの最高裁判所が、温室効果ガス排出削減目標の引き上げを国に求める判決を下したことを皮切りに、2024年末までに世界で起きた気候訴訟は約3,000件にのぼる。現在日本で行われている「明日を生きるための若者気候訴訟」もそのひとつである。

2024年8月、全国から集まった16歳から30歳の若者たちが、日本の火力発電所を運営する大手電力会社10社(JERA、東北電力、J-POWER、関西電力、神戸製鋼所、九州電力、中国電力、北陸電力、北海道電力、四国電力)を相手に、名古屋地裁に提訴した。 名古屋で訴訟を起こした理由は、国内最大の火力発電所が愛知県碧南市にあるためだ。

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被告10社の2019年度および2021年度のCO2排出量(若者気候訴訟公式HPより抜粋)

日本の事業用発電のCO2排出量は、世界の上位16番目の国の排出量に相当するほどの量である。電源構成は火力発電への依存度が高く、現在発電量の約7割を占め、このうち石炭火力は約3割となっている。被告10社のCO2排出量(2019年度)は計3億3740万トンで、日本のエネルギー起源CO2排出量の33%にあたる。

原告団は、被告10社が平均気温上昇1.5℃以内の国際目標に整合する水準まで、CO2排出量を削減することを求めている(2019年比で、2030年までに48%、2035年までに65%)。この削減水準に反して石炭火力発電所を運営し、大量のCO2を排出し続けることは、国際合意に違反し、「不法行為」に当たるとの主張だ。

提訴から1年以上が経った今、原告たちはどんな思いで裁判を闘っているのか。ふたりのメンバーに話を聞いた。

気候変動は、自然災害ではなく「人災」。原告・堀之内来夏さん

若者気候訴訟の原告 堀之内来夏さん

原告のひとりである堀之内来夏(ほりのうちこなつ)さんは、立命館大学国際関係学部グローバルスタディーズ専攻の4年生。気候変動に危機感を抱くようになったのは、ロサンゼルスに住んでいた高校時代だった。干ばつの影響で山火事が頻発し、住んでいた地域に有害な煙が押し寄せてくることがあった。空気が汚染されるたびに、学校の授業やクラブ活動が制限された。

大学進学のため2022年に日本に帰国すると、夏のすさまじい暑さで心身に不調をきたすようになった。気候変動の影響によって日々の暮らしや健康が脅かされていると感じるようになり、将来への恐れや不安を抱くようになった。また、「気候正義」の観点からも、先進国に住む者として責任を感じるようになったという。

「これまで化石燃料を消費し、温室効果ガスを大量に排出してきたのは先進国であるにもかかわらず、温暖化による深刻な影響を受けているのは、主にグローバルサウスと呼ばれる発展途上国の人々だという現状があります。そういった不公平さを是正していかなければなりません。私は日本で暮らす者として、自分自身が加害者であり、同時に被害者でもあると強く感じています。猛暑の中、ゼーゼーと息を切らしながら外を歩く愛犬の姿を見たとき、人間の活動が原因で罪のない動物たちが苦しんでいることは由々しき事態だと思いました。気候変動は、自然災害ではなく『人災』なのです」

誰かが変えてくれるのを待っているだけでは、手遅れになってしまう。自分や大切な人たちが暮らす世界を、自分の力で守り、変えていかなければならない。そう確信した堀之内さんは、NPO法人気候ネットワークの代表を務める浅岡美恵弁護士らが気候訴訟の準備を進めていると知り、迷わず原告になることを決めた。

若者に危機感を持ってほしい

若者気候訴訟の原告 堀之内来夏さん

2025年5月22日の第3回口頭弁論期日で、堀之内さんは法廷に立ち、裁判官らに意見陳述を行った。「法廷で意見を述べるときは不安で仕方ありませんでしたが、当日、国際NPOのAVAAZ(アバーズ)のメンバーが集めてくださった世界中の方々からの応援メッセージを読み、とても勇気づけられました。それまでの緊張感が、幸せな気持ちに変わりました」

満席の傍聴席に対して、被告側は全員オンラインでの出廷だった。10社すべてが、原告らの請求は2030年・2035年という「将来時点の請求」であり、いま裁判で審理する対象として適格ではないこと、原告らが気候変動によって被る権利利益の内容が不明確であることなどを主張し、全面的に争う姿勢を示している。

「私の訴えが、裁判官や被告側にどの程度届いたのかはわかりません。ですが、期日の後の報告会や交流会を通して、多くのサポーターの方々と関わる機会に恵まれていることは、大きな励みになっています。応援してくださる方にお会いするたび、自分たちの活動が広がっていることを実感し、手応えを感じています」

声を上げることの大切さを再確認する一方で、日本の若者たちにはもっと危機感を持ってほしいと堀之内さんは語気を強める。

「気候変動対策は、未来を守るための政策です。温室効果ガスの排出量を減らす“緩和策”が喫緊の課題であるにもかかわらず、日本政府はいまだに防災インフラの整備や熱中症対策などといった、気候変動の被害を最小限に抑えるための適応策に力を入れている印象を受けます。以前、気候変動問題について学生たちとディスカッションをする機会があったのですが、日本で緩和策を実施するのは経済的に難しいんじゃないかという消極的な意見が多く、残念に思ったことがありました。同世代の若い人たちには、諦めずにもっとちゃんと怒ってほしいです。感情的になることはネガティブに捉えられがちですが、私たち一人ひとりが声を上げ、パワーを持って行動すれば、社会は変わっていくと信じたいです」

「やらない後悔よりも、やってからの後悔の方がずっといいよ」。堀之内さんの活動をいつも応援してくれていた、亡き祖母の言葉が心の支えになっている。胸もとのネックレスは、祖母から譲り受けたもの。法廷に行くときは必ずお守り代わりに身につけているという。「訴訟の道のりは決して楽ではありません。若い人たちをもっと巻き込んでいくためにどんなアプローチができるのか、これからも原告団の仲間たちと一緒に考えていきたいです」

現代世代が将来世代に対して負うべき責任。原告・横山椋大さん

若者気候訴訟の原告 横山椋大さん

2025年7月から若者気候訴訟の原告に加わった横山椋大(よこやまりょうた)さんは、京都大学大学院地球環境学舎の修士課程に在籍している。大学1年生のときに見たオーストラリアの山火事のニュースをきっかけに、「気候変動は自分たちの世代の問題だ」という認識が強まり、環境学を専門的に学び始めた。以来、学問に軸足を置きながら脱炭素推進に向けた活動に取り組んできた。しかし、日本政府や企業の動きの鈍さに、「本当に変革をもたらすことができるのか」と限界を感じる部分もあったという。

そんな中、国際司法裁判所(ICJ)が2025年7月23日に、気候変動に関する国家の義務について初めて勧告的意見を発表した。各国は平均気温上昇を1.5℃に抑える目標の実現に最大限貢献すること、CO2排出削減の努力を怠ることは国家の不法行為となることを明確に示す内容だ。

「司法は、気候変動問題にアプローチするためのひとつの手段になるのではないかと思い、若者気候訴訟への参加を決めました。ICJの勧告に法的拘束力はありませんが、現在提訴されている気候変動訴訟の追い風となることは間違いないと思います」と横山さんは話す。

原告になった背景には、気候変動に伴う人権問題を解決したいという強い思いがある。

「高校時代にサッカー部に所属し、また卒業後も外部顧問として部活に関わっていたのですが、僕が選手だった頃と比べると、暑さの影響で中止になる試合がかなり増えました。原告のひとりである安倍ふゆみさんは小学校の教員で、彼女の法廷での陳述内容によると、ここ数年は猛暑日が多く、子どもたちが外で遊べる時間が極端に減っており、運動会などの行事も開催時期をずらしたり午前中のみの開催になったりしているそうです。気候変動によって教育や運動の機会が奪われているのは、子どもたちにとって切実な問題です」

ブリュッセル自由大学などの国際研究チームの分析によると、2020年に生まれた子どもたちは、祖父母世代にあたる1960年生まれの人々に比べて最大7倍多く異常気象に遭うとされている。この研究結果は、2021年に米科学誌「サイエンス」に掲載され、世界的に広く知られるようになった。

「気候変動は今の世代よりも将来世代の方が悪い影響を受けやすく、子どもたちの権利を脅かしています。また、温室効果ガスは日本のような先進国が排出してきたにもかかわらず、途上国の方々が被害を受けやすい構造なので、そういった公平性に関する議論もあります。つまり気候危機は、生きる権利や健康、居住の権利など、さまざまな基本的人権と密接に結びついており、早急に解決しなければならない問題なのです」

必要なのは、“良い再エネ”の導入

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2025年9月17日、若者気候訴訟の第4回口頭弁論期日で、横山さんは初めて法廷に参加した。満席の傍聴席とは裏腹に、その日も被告席は空のまま。オンラインでつながれた画面上に、小さな顔が見えるだけだった。「意見陳述をしても誰に話しているかわからないし、自分たちの声が届いているのかどうかもわからない。そんな異常な光景が広がっていて、原告への誠実さに欠けると感じました」

被告である主要な電力会社は、CO2を多く排出する火力発電所を動かし続けている。日本の火力発電事業者らのCO2排出削減策は、科学に基づき国際的に合意されている水準とはいえず、それに反してCO2を排出し続けることを、原告側は不法行為であると述べてきた。

「被告らは『ゼロエミッション火力』と称して、火力発電延命のための技術ともいえるアンモニア混焼や、CO2を吸収して地中に埋めるCCS(炭素回収貯留)を対策に掲げ、石炭火力を稼働させ続けようとしています。しかし、いずれも未だ極めてコストが高いことに加え、削減効果も全く期待できず、適切な削減対策といえないのが現状です。我々原告は、被告らのこうした対応が不十分な削減計画であると訴えています」

政府のエネルギー基本計画によると、日本における温室効果ガス排出量の8割以上をエネルギー起源CO2が占めている。化石燃料エネルギー依存からの脱却が必要不可欠であり、そのためには石炭火力発電を減らしてCO2排出削減を行うと同時に、再生可能エネルギー(再エネ)による発電への迅速な転換が求められる。段階的に火力発電を減らし、再エネの導入と省エネを進めていけば、電力不足になることはないというのが原告側の主張だ。

「複数の国際研究機関は、再エネで電力の90%を賄うことが技術的・理論的にも可能であるというシナリオを示しています。問題は、政策ベースでそれが実現できるのかということです。昨今の世論は再エネに対する風当たりが強いですが、地域と再エネが共生し、マルチベネフィットを生んでいる好事例があります。例えば最近注目されているソーラーシェアリングは、太陽エネルギーを太陽光発電と農業生産で共有する取り組みです。このような“良い再エネ”の事例が蓄積されつつありますが、実施するにあたって手続きが厳しく設けられ、自治体によっては税金をかけられる場合もあります。再エネをひとまとめに規制するのではなく、良い再エネ導入を促すための規制緩和や経済的インセンティブが必要です」

一方で、再エネ転換に向けた政府の動きは鈍い。ドバイで開催されたCOP28では、2030年までに再エネ発電容量を世界全体で3倍に引き上げるという目標が採択されたが、2025年の政府のエネルギー基本計画で示されている2030年度の目標は、到底3倍には届いていない。2050年ネット・ゼロの実現についても、「不確実な要素が多く、現時点で正確に将来を見通すことは困難である」と消極的であり、目標達成までの道のりは険しい。

「先日、ガソリン税の暫定税率を2025年12月31日までに廃止する法案が可決されましたが、これは明らかにカーボンニュートラルに逆行する政策です。世界的に脱炭素の機運が高まっている中で、ガソリンを消費させるインセンティブを働かせてどうするんだろうという疑問があります。こういった目の前の生活を楽にするためだけのポピュリズム的な政策が優先されていくと、ますます未来の視点が欠けてしまうので焦りを感じています。加えて、高市首相は今年の11月に開催されたCOP30の首脳級会合を欠席しましたが、もしも今後アメリカに同調して気候変動対策に後ろ向きな立場をとることになれば、日本の国際的な信頼度は明らかに落ちると感じています」

日本の美しいアイデンティティを守っていきたい

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横山さんの研究室のデスクに飾ってある紅葉の葉。日々の暮らしにも季節感を取り入れているという

三重県出身の横山さんは、幼い頃から野山を駆け回り、自然と触れ合う機会が多かった。学部時代に鳥取の農村に移住し、フィールドワークを行った経験もあり、日本人と自然との関係性が切り離されていくことに危機感を抱いているという。

「学部時代にCOP28に参加したとき、島嶼国の方々と話す機会を得ました。その際に彼らが、気候変動対策は『アイデンティティ』を守ることだとおっしゃったのが印象に残っています。そのときに、そもそも私たちはなぜ気候変動に立ち向かい、脱炭素を進める必要があるのかを改めて考えました。学部時代に神道の精神に触れ、鳥取の山奥での暮らしを通じて実感したのは、日本には1年を通じて移りゆく美しい景色と、それを尊ぶ文化やアイデンティティがあること。しかし、日本が誇る四季折々の豊かな風情が気候変動によって失われかけています。例えば去年の京都では12月に桜が咲いていましたが、我々は今後、季節外れに咲く桜を見て美しいと思えるでしょうか。旬の食材を使わなくなった和食は、本当に世界に誇れる文化といえるのでしょうか。そういった日本のアイデンティティや精神性を、今後も守っていきたいと思っています」

気候変動問題は、人類共通の課題だ。今行われている若者気候訴訟は「未来に向けた対話をする訴訟」だと横山さんは言う。

「1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された『地球サミット』で、21世紀に向けた持続可能な社会を築くための行動計画『アジェンダ21』が採択されましたが、当時も今も課題はほぼ一緒です。僕は今25歳ですが、30年以上前から言われ続けてきたことに、なぜこれまでの大人たちは向き合ってこなかったのかという思いはあります。取り返しがつかなくなる前に今なんとかしなければならないし、将来、自分はできることをやったとしっかり言えるようにしたい。そのためにももっと世論を巻き込み、訴訟の動きを加速させていきたいです。日本において若者はマイノリティですが、環境問題に熱心な若者となると、さらにマイノリティです。同じ志を持つ仲間を増やし、訴訟を通じて社会に変革の機会をもたらすために、これからも僕たちは闘います」

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2025年9月17日の第4回口頭弁論後、名古屋地裁前に集まった原告と支援者たち(撮影:森山拓也)

不公正だと思っても、どうせ社会は変わらないのだろうか。今の社会が正しいという根拠など、どこにもないはずだ。この地球上で暮らす限り、気候危機に無関心でいられても、無関係でいることはできない。17人の若者たちが、社会を変えようと懸命に活動し、発信している。自分たちや次世代、さらにその先の将来世代の人権を守るために。そして、「明日を生きる」ために。

若者気候訴訟の第5回口頭弁論期日は、2026年1月8日に開かれる。自らの想いを法廷で伝える原告たちの姿を、傍聴席から見守りたい。

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