2025.12.26

映画通が厳選。今こそ観るべき、社会派映画のすすめ 2025

愛と暴力に満ちたこの世界で、私たちはどう生きるのか。良質な映画は、社会の解像度を上げ、自分自身を見つめ直すきっかけをくれる。なぜなら、映画は社会を映し出す鏡だから。6人の映画愛好家たちが、今観るべき骨太作品12本をレコメンド。ゆったりと過ごせる年末年始にこそ、さまざまな社会問題について考える時間を持ちたい。

愛と暴力に満ちたこの世界で、私たちはどう生きるのか。良質な映画は、社会の解像度を上げ、自分自身を見つめ直すきっかけをくれる。なぜなら、映画は社会を映し出す鏡だから。6人の映画愛好家たちが、今観るべき骨太作品12本をレコメンド。ゆったりと過ごせる年末年始にこそ、さまざまな社会問題について考える時間を持ちたい。

女性の権利に光を当てる

アイスランドがジェンダー平等先進国になるきっかけとなった日/『女性の休日』

映画『女性の休日』の場面写真

© 2024 Other Noises and Krumma Films.

1975年10月24日、アイスランドの女性の90%が仕事や家事をいっせいに休む、大規模なストライキ「女性の休日」が実施された。国は機能不全となり、女性がいなければ社会がまわらないことを示した。インターネットもSNSもない時代に、彼女たちは何に突き動かされ、どのように連帯してこの運動を成し遂げたのか。関係者たちの楽しげでユーモアあふれる証言やアーカイブ映像、アニメーションを交えながら、運命の1日を振り返る。

おすすめしてくれた人:長尾悠美さん(Sister代表)

「ジェンダーギャップ指数が16年連続で1位のアイスランド。今から50年前に起きた『女性の休日』は、社会に不満を抱えていた女性たちによる連帯で、不均衡を可視化することにつながりました。1975年以降も同様のムーブメントは続き、アイスランド社会を大きく前進させてきました。一方、日本では女性の参政権が認められて80年が経った今でも、国会議員に占める女性の割合は2割に満たない状況で、依然としてジェンダー平等後進国とされています。2025年は、女性首相が誕生した節目の年。私たちはこれからどんな未来を選び、形作っていくのか。本作には、そうした問いかけに対するヒントがちりばめられています」

長尾悠美さんプロフィール画像
Sister 代表長尾悠美さん

オンラインブティック「Sister」代表。フェミニズムへの関心が高く、毎年国際女性デーに合わせてイベントを開催。映画や書籍などを通して、女性をエンパワーする活動を続けている。

オンラインブティック「Sister」のサイトはこちら

『女性の休日』
監督:パメラ・ホーガン
2024年/アイスランド・アメリカ/71分
提供・配給:kinologue 
© 2024 Other Noises and Krumma Films.

シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中

少女たちに、自分の人生を自分で選ぶ権利を/『花咲くころ』

映画『花咲くころ』の場面写真

© Indiz Film UG, Polare Film LLC, Arizona Productions 2013

舞台は1992年、ジョージアの首都トビリシ。ソ連からの独立直後に勃発した内戦の傷跡が残る中、14歳の少女エカとナティアは、それぞれに家庭の事情を抱えながらも友情を育んでいた。そんなある日、ナティアに思いを寄せる少年が彼女を誘拐し、結婚を強要する。教育の機会を奪われても抵抗しないナティアに対して、エカは理不尽さに怒りを覚え、抗おうとする。ジョージア出身のナナ・エクフティミシュヴィリ監督が、自らの少女時代の思い出をもとに、少女たちの過酷な現実と成長を映し出した。

おすすめしてくれた人:月永理絵さん(映画ライター・編集者)

「誘拐や暴力によって望まぬ結婚を強いられる、『強制結婚』をテーマにしたこの映画は、不安定な社会において女性や子供がたやすく暴力の矛先になるという事実を、克明に描き出します。強制結婚によって教育の機会も自由も奪われた親友を前に、必死で抵抗する主人公エカの姿は痛ましいですが、その先にはかすかな希望が感じられます。私たちが今、自由に結婚を選択できる権利は、これまでの女性たちが闘ってきたおかげで得られたものなのだと実感しました」

月永理絵さんプロフィール画像
映画ライター・編集者月永理絵さん

出版社勤務後、フリーのライター、編集者に。2015年に創刊した雑誌「映画横丁」の編集人を務めたほか、さまざまなメディアで映画評やコラムを執筆中。著書に『酔わせる映画 ヴァカンスの朝はシードルで始まる』(春陽堂書店)がある。

『花咲くころ』
監督:ナナ・エクフティミシュヴィリ、ジモン・グロス
2013年/ジョージア・ドイツ・フランス/102分
配給:パンドラ
© Indiz Film UG, Polare Film LLC, Arizona Productions 2013

U-NEXTで視聴可能

女性の自由を脅かす社会の相貌を描いた名作、待望の日本初公開/メーサーロシュ・マールタ監督特集

メーサーロシュ・マールタの映画『日記 子供たちへ』の場面写真

『日記 子供たちへ』(1980-83年)© National Film Institute Hungary - Film Archive

1931年生まれのハンガリー出身で、女性監督のパイオニアとして名高いメーサーロシュ・マールタの7作品がレストアされ、日本で初公開されている。代表連作として知られる『日記』3部作では、幼い頃に第二次世界大戦を経験し、社会主義体制下の恐怖政治を生き抜いたメーサーロシュ自身の苦難が自伝的に描かれている。第1部の『日記 子供たちへ』は、1984年のカンヌで審査員グランプリを受賞した。激動の時代の中で闘う女性の姿を誠実な眼差しで見つめてきた彼女の作品群は、いまだに性別による格差や偏見が根強く残る現代においても有効なメッセージを投げかける。

おすすめしてくれた人:長尾悠美さん(Sister代表)

「昨今、日本のミニシアターでは、歴史に埋もれてきた女性映画監督たちの作品が続々と紹介され始めています。1975年にベルリン国際映画祭で女性監督初の最高賞を受賞したメーサーロシュ・マールタも、その中心にいるひとり。2023年の初の特集上映に続き、今年も「日記」3部作など待望の代表作が日本で上映されています。冷戦下で階級格差に翻弄された女性たちを主体的に描き、フィルムの中で小さな革命を起こし続けたメーサーロシュ・マールタ。自身の生い立ちに根差したその視点は、現実を真正面から捉えていて、嘘がありません。絶望や葛藤を抱えながらも、どこか夢を見ているような珠玉の作品ばかりです」

メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章
上映作品:『エルジ』(1968)『月が沈むとき』(1968)『リダンス』(1973)『ジャスト・ライク・アット・ホーム』(1978)『日記 子供たちへ』(1980-83)『日記 愛する人たちへ』(1987)『日記 父と母へ』(1990)
© National Film Institute Hungary - Film Archive

全国順次公開中

2023年に特集上映された以下の5作品は、各種配信サイトで視聴可能
『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』(1970)『アダプション/ある母と娘の記録』(1975)『ナイン・マンス』(1976)『マリとユリ』(1977)『ふたりの女、ひとつの宿命』(1980)

誰もが生きやすい社会とはどんなものか

違いを認め、共に生きる「奇跡」のような場所/『アダマン号に乗って』

映画『アダマン号に乗って』の場面写真

© TS Productions ‒ France 3 cinéma ‒ Longride - 2022

パリのセーヌ川に浮かぶ船「アダマン号」は、精神疾患のある人びとを無料で迎え入れ、創造的な活動を通じて社会と再びつながりを持てるようサポートするデイケアセンター。精神科医療における“均一化”や“非人間化”に抵抗し、相手に寄り添う共感的なメンタルケアを日々行っている。深刻な心の問題やトラウマを抱えた、社会的マイノリティとされる人びとと共に生きることの豊かさを伝えるドキュメンタリー。第73回ベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞を受賞。

おすすめしてくれた人:小川知子さん(ライター)

 「ニコラ・フィリベール監督のドキュメンタリーは、覗き込むとか暴くといった視点がなく、むしろこちらの内面を見透かしているように感じさせます。被写体に近づきながらもその存在や居方を尊重し、ときに相手を傷つけ、自分も傷つくような失敗を重ねながら、お互いにとってちょうどいい距離感を探していく。そんな眼差しは、日々他者と生きる私たちの姿と重なります。介護する側、される側の境界も曖昧で、幻想と現実が区別されることのない、デイケアセンター『アダマン号』は、奇跡のように思えます。でも、そういう居場所が確かに存在していることは、暗闇に向かって走り出す未来を引き止める灯台のようだなと思うのです」

 

小川知子さんプロフィール画像
ライター小川知子さん

映画会社、出版社勤務を経て独立。SPURを含む雑誌を中心に、インタビューや映画評の執筆、コラムの寄稿、翻訳などを行う。共著に『みんなの恋愛映画100選』(オークラ出版)がある。

『アダマン号に乗って』
監督:ニコラ・フィリベール
2022年/フランス・日本/109分
配給:ロングライド
© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride – 2022

各種配信サイトで視聴可能

生きづらい現代社会に必要な優しさ/『夜明けのすべて』

映画『夜明けのすべて」の場面写真

© 瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

瀬尾まいこの原作小説を三宅唱監督が映画化。月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さんはある日、転職してきたばかりの同僚の山添くんの小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。しかし、山添くんもまたパニック障害に悩まされ、生きがいも気力も失っていた。人には理解されにくい症状を抱えたふたりが交流し、少しずつお互いの殻を溶かし合っていく姿を、日常の美しさや季節の移ろいとともに捉えた作品。松村北斗と上白石萌音がダブル主演を務め、同僚役で最高の理解者となる特別な関係性を演じる。

おすすめしてくれた人:鍵和田啓介さん(映画批評家・ライター)

「『男女間であろうと、苦手な人であろうと、助けられることはある』。パニック障害で定期的にコントロール不能な疾患に襲われる山添くんは、PMSに悩む藤沢さんにそうつぶやく。互いの生きづらさを理解しようと努め、同じ方向を見て支え合おうと励むふたりの姿には、感動を禁じえません。ふたりが恋に落ちない点も新鮮です。恋愛感情というある種の”下心”を介さない、より本質的な互助が、そこにはあります。本作は、彼らの周囲を取り巻く者たちも含め、優しい人しか登場しないとの批判も受けているようですが、生きづらすぎる今の社会にはこんな優しさこそが必要なのだと思います」

 

 

鍵和田啓介さんプロフィール画像
映画批評家・ライター鍵和田啓介さん

大学時代よりライター活動を開始。雑誌を中心に、さまざまな媒体でカルチャー関連の記事を執筆している。著書に『みんなの映画100選』がある。また、「ポパイウェブ」の映画紹介ポッドキャスト「PARAKEET CINEMA CLASS」では司会を務めている。

『夜明けのすべて』
監督:三宅唱
2024/日本/119分
配給: バンダイナムコフィルムワークス、アスミック・エース
© 瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

各種配信サイトで視聴可能

幸せのかたちは無限に存在している/『いろとりどりの親子』

映画『いろとりどりの親子』のジャケット写真

© 2017 FAR FROM THE TREE, LLC

さまざまな“違い”を持つ親子300組以上に、10年をかけて取材した世界的ベストセラー、アンドリュー・ソロモンの『FAR FROM TREE』〈日本語版:『「ちがい」がある子とその親の物語』(海と月社)〉を、レイチェル・ドレッツィン監督が映画化。原作者で同性愛者であるアンドリュー・ソロモンと父のハワード、ダウン症のジェイソンと母エミリー、タイピングを覚えるまで言葉を発したことがなかった自閉症のジャックと、彼のためにあらゆる治療法を試したオルナット夫妻ら、6組の親子が登場する。彼らが直面する困難と、“違い”をどう愛するかを学んでいく親子の姿を追う。

おすすめしてくれた人:小川知子さん(ライター)

「本作の原題であり、原作本のタイトルでもある『FAR FROM THE TREE』。これは、”The apple doesn't fall far from the tree(リンゴは木から遠いところへは落ちない)”ということわざの一部で、『子は親に似るもの』という社会や家族の決めつけや呪縛を問い直し、解いていく始まりの言葉です。6組の親子を見ていると、違いそのものを受け入れるという愛情のあり方と同時に、相手に期待してしまう自分の弱さにも気付かされます。自分目線ではなく、相手が期待する未来に寄り添い、応援することこそが、家族という集団のあり方なのかもしれないと、このドキュメンタリーは教えてくれました」

『いろとりどりの親子』
監督:レイチェル・ドレッツィン
2018年/アメリカ/93分
© 2017 FAR FROM THE TREE, LLC

各種配信サイトで視聴可能

不当な差別と向き合う

同性カップルに立ちはだがる法律の壁/『これからの私たち - All Shall Be Well』

映画『これからの私たち - All Shall Be Well』の場面写真

© 2023 Mise_en_Scene_filmproduction

香港で暮らす60代のレズビアンカップルのアンジーとパットは、長年支え合って生きてきた。しかしパットが急死し、突然の別れが訪れる。残されたアンジーは、家族同然に過ごしてきたパットの遺族と葬儀の方法で対立。遺言状がないため、パットの遺産やふたりで買ったマンションは、パットの兄が相続することになる。公私ともに助け合い、豊かに暮らしてきたふたりだったが、同性婚が非合法の香港では、残されたアンジーに法律は何も保障してくれない。

『ソク・ソク』(2019)でゲイカップルの老後問題を描いたレイ・ヨン監督の最新作。同性愛に対する偏見が根強く残る香港の実状を描くと同時に、深刻な住宅不足や就職難、経済格差などの社会問題も浮かび上がらせる。ベルリン国際映画祭2024にて、優れたLGBTQ映画に与えられるテディ賞を受賞。

おすすめしてくれた人:月永理絵さん(映画ライター・編集者)

「この映画を見ると、法制度で保障されない同性カップルがいかに不当な扱いを受けているかがよくわかります。どれほど長い付き合いだろうと、周囲に祝福された関係であろうと、法の前では誰も太刀打ちできない。と同時に、彼女たちを追い詰める側の人々もまた経済的に困窮していることが示唆され、不平等を改善するには、個人ではなく社会を変えなければいけないのだと強く思わされました。同性婚実現への道のりがますます遠のく今の日本で、ぜひ見てほしい一本です」



『これからの私たち - All Shall Be Well』
監督・脚本:レイ・ヨン
2024年/香港/93分
配給:Foggy
© 2023 Mise_en_Scene_filmproduction

全国順次公開中

複雑さから目を背けず、レイシズムに立ち向かう少女の物語/『ヘイト・ユー・ギブ』

映画『ヘイト・ユー・ギブ』のブルーレイ・DVDジャケット写真

© 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

スラム街で育ったアフリカ系アメリカ人の少女スターは、ある夜、幼馴染のカリルが白人警察官に射殺される現場に居合わせてしまう。しかし、無抵抗のカリルを撃った白人警官は罪に問われず、それどころかカリルが極悪人に仕立て上げられていく。スターは悩みながらも、無実の友の声となるべく立ち上がり、大陪審で証言して真実を語る決意をする。2017年に刊行され、数々の賞を受賞した作家アンジー・トーマスによる小説を映画化。今なお根深い人種差別問題を浮き彫りにした一作。

おすすめしてくれた人:鍵和田啓介さん(映画批評家・ライター)

「丸腰の黒人青年が警察に射殺される。アメリカでは何度となく繰り返されてきた悲劇に端を発する青春ドラマですが、黒人vs白人、警官vs一般人、貧困層vs富裕層といった安易な二項対立に回収しない点が興味深い作品です。とりわけショッキングなのは、主人公の黒人少女スターに向けて、警官である彼女の叔父が包み隠さず語るこんな本音。彼は真剣に言います。『自分も夜間に止めた車の運転手が黒人だったら銃を向けるだろうが、白人だったらそうしない』と。そこからは、黒人差別をめぐるひと筋縄ではいかない事情が感じ取れます。叔父が『世の中は複雑なんだ』とため息交じりにつぶやくように、社会について思考する際にまずすべきは、その複雑さから目を背けないことだと思います」

『ヘイト・ユー・ギブ』
監督:ジョージ・ティルマンJr.
2018年/アメリカ/133分

2枚組ブルーレイ&DVD発売中
発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
デジタル配信中(購入/レンタル)
発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

グローバリゼーションの暗部を浮き彫りにする

労働者の尊厳を問う、誰もが他人事ではない物語/『家族を想うとき』

映画『家族を想うとき』の場面写真

© Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

舞台はイギリスのニューカッスル。ターナー家の父リッキーはフランチャイズの宅配ドライバーとして独立する。母のアビーはパートタイムの介護福祉士として1日中働いている。家族を守るはずの仕事が家族との時間を奪い、家族を引き裂いてゆく。

過酷な労働で病院に通えず、53歳で亡くなったイギリス人ドライバーの実話をもとにした、名匠ケン・ローチ監督の復帰作。グローバル経済が加速する今、世界中で起きている働き方問題と、急激な時代の変化に翻弄される現代家族の絆を真摯な眼差しで描いた。

おすすめしてくれた人:横山創大さん(写真家)

「現代社会が抱える労働問題について厳しく追及する、ケン・ローチ監督の作品です。主人公は家族のために安定を求めて個人事業主の配送ドライバーとなるのですが、次第に成果主義と理不尽な契約に追い詰められていき、尊厳が損なわれ、崩壊していく過程が映されています。全編を通して抑制の利いた演出で、丹念に家族の関係を描写しているのですが、後半の感情を爆発させる病院のシーンや、ラストの余韻に引き込まれました。決して他人事ではない、現実の問題として直視させられます」

横山創大さんプロフィール画像
写真家横山創大さん

横浪修氏に師事した後、2017年に独立。雑誌や広告などで幅広く活躍している。2024年に、家族と自身の存在をテーマにした写真集『REMIND』(GEPPO)を刊行。休日は映画館で過ごすことも多い。
 

『家族を想うとき』
監督:ケン・ローチ
2019年/イギリス・フランス・ベルギー/100分

Blu-ray&DVD発売中
発売元:VAP
© Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation,France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

各種配信サイトで視聴可能

「食」の背後にある問題を多角的に捉えた群像劇/『ファーストフード・ネイション』

映画『ファーストフード・ネイション』 の場面写真

© 2006 RPC Coyote,Inc.

架空の大手ハンバーガーチェーンの恐るべき実態を、幹部社員、高校生アルバイト、そして劣悪な労働環境で酷使される不法移民という三者の視点から赤裸々に描き出す、リチャード・リンクレイター監督の群像劇。原作は、世界20ヵ国で140万部を超えるベストセラーを記録したエリック・シュローサーの『ファーストフードが世界を食いつくす』(草思社)。食の安全性や格差社会、労働搾取など、ファーストフード業界が抱えるさまざまな問題を訴える作品。

おすすめしてくれた人:真魚八重子さん(映画評論家)

「ファストフード店『ミッキーズ』で、パテに大腸菌が含まれていることが発覚。同じ頃、メキシコからの不法移民が『ミッキーズ』のパテ作りの仕事に就きます。メキシコでは賃金が安く生きていけない。しかし、屠畜から下処理といった危険でストレスの多い作業を移民に押し付け、安価なファストフードが大量に作られる様には胸の苦しさを覚えます。映画内の下処理作業のスピードも、労働者の安全が守られているとは言えず、同様の状態が今もなおどこかで続いているかもしれません。スピード重視の食を見直すべきという警鐘を鳴らす映画です」

真魚八重子さんプロフィール画像
映画評論家真魚八重子さん

映写技師の仕事に就いた後、映画評論家としての活動をスタート。新聞や雑誌などさまざまな媒体で執筆中。著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『映画なしでは生きられない』『バッドエンドの誘惑~なぜ人は厭な映画を観たいと思うのか~』(共に洋泉社)など。

『ファーストフード・ネイション』
監督:リチャード・リンクレイター
2006年/イギリス・アメリカ/115分
© 2006RPC Coyote,Inc.

U-NEXTで視聴可能

ファッション産業の搾取を糾弾する、ホラーサスペンス/『NOCEBO/ノセボ』

映画『NOCEBO/ノセボ』の場面写真

© Lovely Productions Limited / Wild Swim Films Limited MMXXII. All Rights Reserved.

エヴァ・グリーンが扮する、子供服のファッションデザイナーのクリスティーンは、夫や幼い娘とともに幸せな日々を送っていた。しかし、ある日彼女はダニに寄生される幻覚に襲われ、それ以降原因不明の病に襲われるようになる。そんなクリスティーンの前に、乳母を名乗るフィリピン人女性がやってきて、不思議な民間療法でクリスティーンの信頼を得ていくのだが――。じつはその女性は、クリスティーンの手がけるブランドの服を作るフィリピンの縫製工場の元従業員で、過去のクリスティーンの言動に恨みを募らせていた人物だった。恐怖を煽るだけのホラーとは一線を画す、ファッション産業の倫理的な問題に迫る一作。

おすすめしてくれた人:真魚八重子さん(映画評論家)

「東南アジアに下請けの工場があるファストファッション業界が舞台で、劣悪な労働環境や労働搾取の問題が根底に横たわっています。わたしたちの周りにもある信じられないほど安価な服は、いったい誰の労力で作られているのか。人権問題を突きつける映画です」

『NOCEBO/ノセボ』
監督:ロルカン・フィネガン
2022年/アイルランド・イギリス・フィリピン・アメリカ/97分
© Lovely Productions Limited / Wild Swim Films Limited MMXXII. All Rights Reserved.

Blu-ray&DVD好評発売中
発売元:クロックワークス
販売元:ハピネット・メディアマーケティング

各種配信サイトで視聴可能

若き出稼ぎ労働者たちが直面するつらさ/『青春 -苦-』

映画『青春 -苦-』の場面写真

© 2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing

中国を代表する監督のひとり、ワン・ビンによるドキュメンタリー『青春』3部作の第2部。舞台は農村出身の出稼ぎ労働者が集まる長江デルタ地域で、子供服産業の一大拠点で知られる浙江省織里(せっこうしょうしょくり)。そこに集まる小さな縫製工場で、2014年から19年にかけて撮影を続け、若者たちの働く様子を捉えた。第2部では、主に長時間労働と低賃金のつらさが映し出される。過酷な労働環境でも、そこで生きるしかない若者たちの姿は、観る者に深い思考をもたらす。

おすすめしてくれた人:横山創大さん(写真家)

「低賃金と長時間労働、先の見えない将来の中で、彼らは愚痴をこぼし、冗談を言い合い、時に衝突しながら日々をやり過ごしていきます。日常の労働の反復で、劇的な事件はほとんど起きませんが、第2部の『青春 -苦-』は、3部作の中でも文字通り苦しい場面が多いです。声高に告発するのではなく、ありのままを生々しく差し出すことで、あまり表面には出てこないリアルな中国の姿を垣間見ることができます」

映画通が厳選。今こそ観るべき、社会派映画の画像_24

『青春 -苦-』
監督:ワン・ビン
2024年/フランス・ルクセンブルク・オランダ/226分
配給:ムヴィオラ 
© 2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing

DVD発売中|5,280円(税込)
発売元:シネマクガフィン
販売元:紀伊国屋書店
*3部作セットも11,880円(税込)で発売中