形だけの生理休暇、クライアント先での経血漏れ……それぞれのリアルな生理事情【インタビュー vol.1 前半】

SPUR.JPフェムテック調査団では、女性の身体にまつわる「フェムテック」アンケートを実施。寄せられた2,681名分の回答には生理に悩む人が87%という結果になりました。その背景や詳しい事情をさらに詳しくリサーチするべく、働く環境やライフスタイルが異なる女性たちにインタビュー。すると、それぞれ百人百様な生理の悩みを抱えていることが浮き彫りになってきました。

パートナーには言える生理の苦痛、上司には……

新卒から勤めるアパレル関連会社で企画を担当しているBさん(仮名、31歳)。生理が原因でパートナーとのトラブルや訪問先の会で冷や汗をかくような辛い思いをした経験があるといいます。


「結婚する前、付き合いたての時に生理のイライラでパートナーに八つ当たりしてしまったことがありました。憧れブランドの服を彼からもう着なくなったというので譲り受けたものの、着るのがもったいなくて、大事に部屋に飾っていたんです。それなのに、ある日突然『フリマアプリに出品していたのを忘れていて、売れてしまったから返して』とさらっと言われて。些細なきっかけですが、いつも以上にヒステリックになり大喧嘩することに」。その後、気まずく思ったBさんが生理周期と心のバイオリズムを意識してみたところ、この時のヒステリックな反応は生理直前のイライラからだったとわかったそう。

「当時は『生理だから怒りっぽくなっている』とは伝えなかったけれど、結婚後は生理周期アプリを利用して、毎月生理が始まる前に自己申告し、旦那さんとコミュニケーションを取るようになりました。彼も理解してくれているので、心身の調子を気遣ったりスケジュールを調整してくれたり。正直に話すことで生理前後も良い関係で過ごすことができています」

パートナーには話せる生理の悩みも、男性上司にはまだまだ気軽に話せないというBさん。そんな折、「事件」は起こりました。

「男性上司と一緒に、取引先のオフィスで2〜3時間ほどかかる大事な会議があった日でした。運悪く生理2日目で、しかも会社を出る前にトイレに行くタイミングを逃し、そのまま社用車で取引先へ直行。会議中『これは漏れている……』と思いながらも途中でトイレへ行くこともできず、経血が漏れて椅子についてしまったことがあります。幸いにも椅子はビニール製だったので、立ち上がる際にささっと拭き取ることができ、取引先にも上司にも気づかれずにすみました。帰社も社用車での移動だったので、ファイルをお尻の下に敷いて座り、誰にもバレずになんとかやり過ごしました」

「もし男性上司に気づかれていたらどうして欲しかったですか?」という私たちの質問に、Bさんは当時のことを振り返りこう語りました。「その時は誰にもバレなくてよかったし、気づいたとしても見て見ぬふりをしてほしいと思っていました。でも今、改めて考えると、もし気づいていたらさりげなくフォローをしてほしかったかもしれません。会議後に『お化粧室、大丈夫?』とかフォローしてくれるだけでも救われたかも……。やり方に正解はないし男性側も声のかけ方がわからず難しいと思うけれど、何もしないより助けてもらう方が嬉しかったかも」

Bさんは今、会社のロッカーに1本のズボンを常備しています。苦い経験から数年の間に、2人の後輩から「汚れてしまって……」というSOSが寄せられたそう。過去の失敗から生まれた「ロッカーのズボン」は後輩女性たちのピンチも救っています。

管理職になりさらに強く感じた、男性中心で回る社会

海外の赴任先や出張先ではナプキンの確保に奔走するというAさん(仮名、34歳)。「海外のの田舎町では粗悪メーカーのものしかなくて、漏れないナプキンを求め中心部までわざわざ片道30分かけて買いに行っていました。海外出張では愛用の日本のナプキンを多量に持ち込むため、荷物が嵩張りパッキングに困ります。また、トイレ事情の悪い国では日中も夜用ナプキンを利用することも」

海外では生理のストレスを様々な場面で実感したというAさんですが、日本に戻ってからは別の問題に直面しています。 

「日本企業では男性が管理職の大半を占めていますが、 “生理休暇” という制度があることすら知らないのではと気になっています」。昨年管理職に昇進したばかりのAさんは、男性中心の働き方が基準となって社会が回っている現状に疑問を感じていました。

生理トラブルは女性が仕事をする上で少なからず支障になるもの。けれど、勤務先は7〜8割が男性、さらに多くの人が新卒から長く勤めているという日本の企業。周りが男性ばかりなのでいざという時話せる相手も少なくて……。そういう生え抜きの男性社員が役職につくことが多いけれど、彼らには慣れ親しんだ“居心地の良い”会社を大きく変えることは難しいのかもしれません」

そんな中、希望の光となったのが人事のトップとして外資系企業から転職してきた女性でした。「彼女のように外から来た人はなんのしがらみもないので、不条理な因習をさらっと変えてくれる。例えばそれまでは国内外問わず転勤が当たり前の空気でしたが、彼女の働きかけで管理職でも転勤拒否ができる制度が導入されたりもしました」

そんな変革を目の当たりにし、女性が働きやすい環境を整えるためには、女性がトップになる必要があると気づいたAさん。彼女自身も管理職に昇進し部下を持つようになったことで、さらに確信を強くしたと言います。

「着任してすぐに新任管理職を集めた研修に参加したのですが、『部下のメンタル管理も管理職の仕事』という話までで、生理休暇に関する話はありませんでした。現状ほとんどの管理職が男性ですが、女性の総合職採用もここ10年ほどで積極的に行っているので、女性の部下も多いんです。それなのに、上司が生理休暇制度に無知だったら、どうなると思いますか? 女性の部下が勇気を出して『生理休暇を取りたい』と申し出た際に『何それ?』『有給?無給?』となる可能性がかなり高いはずです」

社内に無給の生理休暇はあるけれど、ただでさえ男性上司へは申請しにくい上に、彼らが制度の詳細を知っているかどうかも怪しいのが現状。実際、社内で生理休暇を取った人の話は聞いた事はないそう。「生理休暇は女性が働く上で持っている権利のはず。でも、このまま誰も利用しなかったら会社としては『必要ない制度なのでは?』と間違った認識をしてしまいます。部下のためにも、体調が悪い時には休みやすい環境に、そして生理休暇をより有効性のある制度に変え、女性も働きやすい環境を作っていきたいと思います」

後編に続く>


photography:Chisato Hikita

FEATURE