毎月のイライラや憂鬱から解放されるためにはどうしたらいい? 2,681人を対象に行った調査で「みんなの生理悩み」ワースト1だったPMS問題に、産婦人科医と心療内科医が回答。今日からできるセルフケア、そこから先の医療との付き合い方、社会や周囲を変えるアクションまで、専門家の視点からアドバイスします。
答えてくれるのは……
藤沢女性のクリニックもんま 院長
門間美佳先生
日本産科婦人科学会専門医。思春期から更年期まで幅広い女性のかかりつけを目指し、予防医療や漢方にも力を入れる。院内に13歳〜18歳の女性がワンコインで相談できるユースクリニックを併設。
SAHANA Retreat Spa & Clinic 院長
内田さやか先生
心療内科医・内科医・産業医。心と体の繋がりに着目し、東京・表参道に心身を癒す会員制スパ併設の心療内科を開設。心身の両面にアプローチしながら、LINEを使ったサポートやオンライン診療も手がける。
2,681人へのアンケートでわかった、生理のお悩みワースト1
フェムテック調査団が2,681人に向けて行ったアンケートで浮き彫りになった、みんなの生理悩み。圧倒的多数だった「PMS(月経前症候群)」については、
"恋人の前で、大した理由もなく泣いてしまった。不安定になって、人に当たる/PMSの影響で、彼氏や家族にイライラをぶつけてしまい、より自己嫌悪に陥った/イライラや落ち込みから被害妄想的になり、相手を攻撃してしまった/普段はなんでもない雑談の些事がひっかかり激しく抗議。職場でほされた/イライラしていて隠せなかったのか不機嫌な表情をしていたのか、お客様からクレームが寄せられた/普段なら抑えるところでも、上司に感情的に意見をぶつけてしまったり、彼氏に別れを切り出したりしてしまった/生理を中心に予定を組まざるをえないので、プライベートでの遠距離の人との予定を合わせることが難しく、付き合いが途絶える"
などの深刻な声が寄せられました。この生理悩みワースト1の解決策について、体と心を知り尽くした専門家に取材しました。
生理のお悩みワースト1! 生活に支障があるPMSはクリニックに相談を
Q.PMSって何ですか? PMSが引き起こされるメカニズムと代表的な症状を教えて。
「月経前に3~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものをいいます。情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害などの精神的症状。そして、のぼせ、食欲不振・過食、めまい、倦怠感などの自律神経症状。腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張りなどの身体的症状など、PMSの悩みは十人十色。ホルモンバランスの変化によって引き起こされるとされ、排卵後に多く分泌される黄体ホルモンが主な原因です。黄体ホルモンが増えると体内に水分を溜め込みやすくなり、腸がむくめば便秘やニキビ、脳がむくめば頭痛が引き起こされます」(門間先生)。
「PMSのメカニズムについては、まだ解明されてないことが多くあります。ただ、メンタルに関して言えば、精神の安定に関わるセロトニンの分泌が低下することで、抑うつ症状が出ることがわかっています。一般的な抑うつとPMSのちがいを見極めるポイントは、周期性。毎月生理前にイライラしたり落ち込んだりしやすい場合はPMSを疑います」(内田先生)。
Q.PMS対策、セルフケアで済むときと、専門家の手を借りた方がいいときの見極めは?
「生活に支障を感じるときは、一人で悩まずにクリニックに相談を。治療でラクになります」(門間先生)。
「いちばん知ってほしいのは、PMSの辛い症状は治療できるのだということ。日常生活や仕事に大きな影響があるときは、気軽にクリニックを訪れてほしいですね。パートナーや家族と大げんかしてしまったり、仕事を休んだり遅刻をしてしまったりするなど、生活に支障がある場合はセルフケアでお終いにしない方がいい。きちんと治療をすることで、生活クオリティが変わりますよ。PMSの場合はその時期が過ぎるとコロッと元気になるので、つい忘れて病院に行きそびれてしまうという人も多いはず。周期性があるかどうかだけ確認できれば、受診のタイミングは症状が辛いときじゃなくても大丈夫。思い立ったが吉日です」(内田先生)。
Q.PMSに対してどんなアプローチや治療法をしますか?
「低用量ピルと漢方を処方します。ピルは、排卵そのものを止めるので、PMSを引き起こす原因となる黄体ホルモンの分泌をコントロールできます。漢方では、五苓散というむくみや低気圧による頭痛に効くものが、生理前のむくみや頭痛にも効果的。根本解決には低用量ピルがおすすめですが、抵抗がある人には漢方を処方します」(門間先生)。
「漢方での治療と生活指導が多いですね。セルフケアで体を温めることやリラックスすることなどのほかに、有給を使うことなどの対処法もアドバイスします。よりメンタル不調が強い場合には、抗うつ薬を処方することもあります。根本治療に効果的な低用量ピルは、婦人科で処方してもらうのが基本。低用量ピルを服用すると浮き沈みが出にくくなりますが、漢方でもある程度は落ち着かせることはできます」(内田先生)。
Q.PMSの悩みは、婦人科(または産婦人科)と心療内科(または精神科)のどちらに行った方がいい?
「婦人科が最初でいいと思います。症状によっては、婦人科で精神科をお勧めすることもあります。もともと精神科に通っていた人が、ピルを服用して症状が軽くなり、結果的に精神科の薬が減ったケースもあります。メンタルの不調が生理が始まって2、3日で良くなるならPMSの可能性が高く、婦人科にかかってピルを服用すれば6〜9割は良くなります。生理が始まっても2、3日経っても症状が続くようなら、PMS以外の原因が考えられるので、精神科や心療内科にかかるといいでしょう」(門間先生)。
「まずは気軽に婦人科へ。PMSの場合、根本治療には、産婦人科で処方される低用量ピルが効果的です。メンタルの治療をどうするかは先生によって判断が異なり、心療内科や精神科を紹介する先生もいれば、上手に薬を処方される先生もいらっしゃいます」(内田先生)。
PMS、今日からできるセルフケアは?
Q.PMS時期を少しでも健やかに過ごすために、心がけた方がいいことは?
「なるべくストレスを避けて、規則正しい生活を送りましょう。特に睡眠不足や栄養不足には気をつけてほしいですね。亜鉛や鉄分が足りないと、イライラや抑うつを感じやすくなると言われています」(門間先生)。
「やはり規則正しい生活ですね。バランスのいい食事、適度な運動、睡眠。そして、ストレスを減らすこと。ゆっくりお風呂に入って身体を温めるのもおすすめです。周期が安定している人は、PMSの時期に無理をしなくて済むように余裕のあるスケジューリングを工夫しましょう。難しく考えずに、自分にとって心地いいことを優先して過ごしましょう」(内田先生)。
Q.PMSで自己嫌悪に陥ってしまう人にアドバイスをください。
「心構えとして覚えておいてほしいのは、ダメな自分を許しましょうということ。イライラしたり普段どおりにいかないことがあっても、しょうがないよね、生理反応だよね、と自分を責めないこと。イライラしたりエモーショナルになった自分を許してあげましょう。そして、1日1個自分に丸をつけ、周りの人に感謝できることを見つけること。できなかったことやないことよりも、できたことやあることに目を向けるように意識して」(内田先生)。
Q.PMSが原因で周囲に迷惑をかけてしまったときは、どうフォローすれば?
「まずは早く謝ってしまうこと。その上で、"PMSなんです"とまでは言わないまでも、体調不良などが原因でいつもの自分ではなく調子の悪い自分だったとそれとなく説明できるといいですね。特に職場での大きなトラブルの場面では、クリニックにかかるなど何らかの対処をする意向を見せることで、信頼の回復に繋がります」(内田先生)。
個人差のあるPMSの症状、企業や周囲にできることは?
Q.産業医として、働く女性の生理悩みに課題を感じるケースはありますか?
「とても多いですね。女性が自分の身体を知った方がいいのはもちろん、男性にも生理やバイオリズムについてもうちょっと学んでほしいなと思います。特に女性が多い会社では、ホルモンによるバイオリズムの変化との付き合い方についての研修がもっと広まってほしいですね。50人以上の規模の会社では産業医を置くことが義務になっているので、個別の産業医面談をもっと活用してほしい。診察こそしませんが、悩みの解決に向けて課題の整理や情報収集を手伝ったり、何科にかかったらいいかなどのアドバイスができます。また、人事経由で、職場でこういうことに気をつけてくださいというような意見書を提出することもできるので、職場の理解が足りないというときはぜひ産業医面談を申し込んでみてください」(内田先生)。
Q.PMSで悩む女性のために、職場や企業に取り組んでほしいことは?
「もっと気軽に生理休暇が取れるようになるといいですね。生理休暇は法定休暇なので、企業には従業員を休ませる義務(無給)があります。もともと生理中の月経困難症のために作られた法律ですが、労働者にプラスになる制度修正として、有給化やPMSへの適用を拡大している企業もあります。先進的な企業の中には、生理休暇の名称を「フィーメール休暇」に変更し、生理前後だけでなく不妊治療にも広く適用させることで利用率が増えたというケースも。誰にでも調子を崩してしまうことはあるので、企業には従業員の生理的な課題に寄り添う姿勢を見せてほしい。企業にとってはそれがブランディング、従業員エンゲージメントの向上にも繋がります」(内田先生)。
Q.PMSに悩んでいる周囲の人に対して、どう接すればいいですか?
「社内アンケートで取ったデータによると、上司は生理の相談をしてほしいし生理休暇を取らせてあげたいという人が多数ながら、"自分から声をかけるとセクハラになるのでは"と気にして何も言えないという人が多いことがわかりました。どう接するかはケースによりますが、いきなり"生理なの?"と声をかけたり、相談された際に派手にリアクションしたりせず、ほかの病気に対するときと同じように淡々と受け答えするのがおすすめです。いちばん大切なのは、知識をアップデートし、理解をする努力をすること。特に、マネージャー以上のポストの人は、スキルとして生理についての正しい知識を身につけ、自分の経験則ではなく人それぞれ症状がちがうのだということを理解してほしいですね」(内田先生)。
PMSとPMDD、月経困難症のちがいは?
Q.PMDDって何ですか? PMSとのちがいは?
「PMDDは月経前不快気分障害と言われる症状で、PMSよりもメンタルの不調が重いケースを指します。抗うつ薬の服用頻度や、薬の選択にもちがいが出ます」(内田先生)。
「クリニックでは、PMSとPMDDのチェックリストで問診をし、PMDDの場合は精神科や心療内科を紹介することも」(門間先生)。
Q.PMSと月経困難症のちがいは? 対処法や治療法はPMSとどんな点が異なりますか?
「PMSは月経前に起きる症状。月経困難症はいわゆる生理痛(月経中に起きる腹痛)を専門用語で表したものです」(門間先生)。
「PMSは生理前に起こり、概念は広いですが主にメンタル不調が注目されます。月経困難症は、生理痛の痛みがひどいもの。ピルや漢方、痛み止めで治療できます」(内田先生)。
百人百様のPMS。辛いときは我慢しないで
【クラウドちゃんより】
人によって辛さの種類も程度もちがうPMS。専門家への取材で、治療にもたくさんの選択肢があることがわかったよ。生活に支障が出てしまうほどの辛さを感じたら、PMSの最中ではなくても気軽にクリニックの受診をしよう。生理前の症状に個人差があることを理解し合った上で、「こんなはずじゃなかった」日の自分や誰かを大目に見て助け合えるような、一人で抱え込んで我慢せずに済むやさしい社会を築いていきたいね。
illustration:Misaki Tanaka