「低用量ピルの種類は?副作用って?」生理の悩みを軽減するピル服用者のリアルな声と、婦人科医が教えるピルの知識【フェムテック調査団インタビュー】

「ピル」と聞いて何を思い浮かべますか? ピルは、卵胞ホルモンと黄体ホルモンを含む薬剤で、ホルモンの含有量や配合パターンによって様々な種類があります。最近よく耳にする、「緊急避妊薬(モーニングアフターピル)」は黄体ホルモン剤で、無防備な性交渉後に望まない妊娠を避けたい場合に使用するものです。

定期的に毎日服用する「低用量ピル」は、日本では1999年に認可されましたが「副作用が不安」「避妊のための薬」といった意見や誤解などもあり、普及が進んでいないのが現状です。ピルは避妊以外にも、生理痛やPMSなどの生理に伴う不調の治療目的にも使用され、女性が主体的に生理をコントロール出来るメリットがあります。

低用量ピルの副作用はどうなのか? どんな用途で使う薬なのか?誰が使う薬なのか?実際に服用している女性たちのリアルな声を拾い上げるとともに、sowaka women's health clinic 院長、竹元 葉先生に低用量ピルについて知っておくべきことを伺いました。

低用量ピル「ヤーズ」「ヤーズフレックス」
(左から)低用量ピル「ヤーズ」「ヤーズフレックス」


「あの時はおかしかった」半年間我慢した末に病気が判明

今から3、4年前、パフォーマーとして舞台に立つ仕事をしていたMさん(仮名、24歳)は、1週間に3〜4日の頻度で起こる不正出血、そしてそれに伴う貧血の症状に悩まされていました。当時はあまりの忙しさに「ちょっと疲れているだけかも」と思って半年ほど見て見ぬふりをしていたそうですが、男性マネージャーから「常に顔色が悪く、ボーッとしていて様子がおかしい」と心配されて病院へ。

「婦人科で多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断され低用量ピルを処方されたのですが、当時はまさかピルが自分の生活に必要になるものとは思っていなくて驚きました。ピルは保険適用になったものの、『毎月訪れる生理に対してなぜ私だけ2000円弱も払わないといけないんだろう。しかも副作用に耐えてまで』と憤ったことはあります」そう語るMさんですが、それでもピルを飲み始めて良かったと振り返ります。

「私の場合、副作用は飲み始めて1ヶ月ほど続きました。少し情緒不安定になったり、吐気をもよおしたりしましたが、それでも不正出血が止まって正しい周期で生理が来た時は嬉しかったです。ピル服用前は経血量も多くて、パフォーマンスがある日は替えのパンツを必ず持ち歩いていて大変だったのですが、飲み始めてからは経血量が減り漏れる心配もなくなったので、仕事も快適にこなせるようになりました」

Mさんの場合、自分では病院に行くという選択肢に踏み切れず、他人に背中を押されてようやく行くことができました。当時は女性上司に相談しても「若いからよくあること」「私は大丈夫だったからあなたも大丈夫」と言われ、なかなか真剣に取り合ってもらえなかったことも、病院から遠ざかる原因だったといいます。そんな経験もあり、「人の身体の状態はデリケートなことなので、自分の曖昧な知識の上で『それは大丈夫』ということは他の人に押し付けないようにしようと思う」と意識しているそう。

副作用に悩むも、低用量ピルの種類を変えて快適に

現在SEとして働くTさん(仮名、37歳)が初めてその「激痛」に苦しんだのは新卒入社3日前のこと。「腹部に感じたあまりの激痛にはじめは盲腸かな? と思い病院を転々としたのですが、総合病院で『子宮内膜症』の診断を受けました。低用量ピルを飲むことを勧められましたが、入社前でいろいろ不安だったこともあり、結局服用を始めたのは初診から3年後。その間も年に一度激痛があったけど我慢していました。でも3回目に痛みが来た時は本当に内臓が破裂するんじゃないかと思うくらい痛かったので、産婦人科に駆け込みました」

産婦人科に行くこと自体に抵抗があったものの、痛みに耐えきれず受診を決意したTさん。しかし、最初に処方された低用量ピルが体質に合わず、副作用がきつめに出てしまったそう。「足首がなくなるほど浮腫がひどく出てしまったんです。それでも激痛に比べたらましなので2年ほど飲んでいましたが、やはり副作用がきつくてやめることに。ちょうどその後に妊娠したこともあり、しばらくピルとは離れていました」

そんなTさんが再びピルを服用し始めたのは、昨年のこと。勤務中に客先で激痛に襲われ、トイレでただただ痛みを我慢ながら悶えるという事件が。「以前とは病院を変え、家の近くの産婦人科で別の種類のピルを処方してもらいました。値段などは変わらないけれど、今回のピルは浮腫の副作用が出なかったので安心して使えています。LINEアプリと連携していて毎日の服用をリマインドしてくれるので、飲み忘れもそこまで多くありません。生理前のニキビも減ったので、今のピルは前のものより身体に合っているんだなと思います」
このように低用量ピルにも種類があり、自分の身体に合うものを選択できます。

婦人科医に聞く、ピルの基礎知識

今回行ったインタビューの他にも、SPUR.JP読者2,681人にとったアンケートの中で多く見られたのが、低用量ピルに対する悩みや疑問。sowaka women's health clinic 院長、竹元 葉先生に、男女ともに知っておくべき低用量ピルの基本的な知識について伺いました。

Q 生理痛やPMSなど、病院に行った方がよい時のチェックポイント、サインなどを教えてください。
辛いと感じたらその時点で一度相談にきて欲しいです。痛みが強い時は子宮筋腫や子宮内膜症といった病気の可能性も。「我慢できるから大丈夫」とよく言うけれど、生理は我慢しなくていいものです。

Q 低用量ピルの身体への作用、仕組みを教えてください。
排卵・生理の一連の流れは卵胞ホルモンと黄体ホルモンのアップダウンによって引き起こされます。低用量ピルにはこの2種類のホルモンが含まれていて、毎日飲むことで体内のホルモンバランスが一定に保たれるので、排卵を抑制することができます。また、子宮内膜が厚くなるのを防ぐ効果もあるので、生理痛の緩和や、経血量の減少も期待できます。

Q 低用量ピルのメリット、デメリットを教えてください。
メリットはいくつかありますが、まずは生理痛やPMSなどの生理に伴う不調を軽減できること。避妊効果もあり、正しく使用すれば99.7%妊娠しないと言われています。休薬期間に生理が来る事になるので、生理周期を把握しやすくなります。また、ホルモンバランスによって起こる肌荒れやニキビの治療に使われることも。

デメリットは、飲み始めに起こるマイナートラブルとして吐き気や頭痛、不正出血といった副作用がありますが、通常は内服を続けているうちに症状が軽減することが多いです。一番気をつけなければならないのは、血管の中に血液の塊が詰まってしまう血栓症という病気のリスクが上がること。起きてしまうと怖い副作用ですが、その発生頻度は妊婦さんや産後の方に比べるとずっと低いと言われています。安全に飲めるかどうか、喫煙歴や年齢などの血栓リスクをあらかじめ評価した上で内服することが重要です。血栓症は低用量ピルの副作用として例に挙がりますが、実際の数字でいうとそこまで確率の高いものではありません。ピルを服用していない人が血栓症を起こす割合が1万人いたら一年に1〜5人だとすると、ピル服用者は3〜9人と言われています。また、血栓症のリスクは飲み始めが最も高く、その後リスクは徐々に低下する事が分かっています。

薬によって身体との相性があるので一度副作用が出てしまうと諦めてしまう人もいますが、医師と相談して身体に合うものを見つけるのが一番大切です。副作用が全く出ない人も多くいるので、まずは病院で相談してみてください。

Q 日本の病院で手に入る低用量ピルは何種類ありますか?
月経困難症と診断された方に処方する保険適用薬は、ヤーズ/ヤーズフレックス、ジェミーナ、ルナベルLD/ルナベルULD(※フリウェルLD/フリウェルULD)などがあります。保険適用外はマーベロン(※ファボワール)、トリキュラー(※ラベルフィーユ)などがあり、それぞれ値段・効能が異なるので症状に合わせて処方します。例えば「マーベロン」はニキビにも効いたり、「トリキュラー」は不正出血が少なかったり。今は情報が得やすくて患者さんの知識も増えているので、受診の際、ピルの指名をする方もいます。診察の時に気軽に相談してください。
※括弧内は前述のピルのジェネリック医薬品

Q オンラインで購入できる低用量ピルの問題点など注意すべきことはありますか。
医師との通話やビデオ診察がなく、ボタン一つで買えてしまうものは自分の症状に最適な薬でない場合もあるし、極端に言えば本物の薬なのか、確認する術がありません。オンラインで買う場合は、医師から直接診察を受けて、血栓症などの副作用のリスクを確認した上で買うことをお勧めします。

低用量ピルで「生理をコントロール」する選択肢もある

低用量ピルは日本に入ってくる約40年も前からすでに多くの国で服用されており、安全性が確認されている薬だと竹元先生は言います。日本ではホルモンバランスを薬でコントロールすることに抵抗を持つ人も多いため普及が遅れていますが、本来は月経困難症などの症状に悩む人のための薬です。それだけではなく、例えば重要な試験や仕事の日と重ならないように生理開始日をずらしたり、アスリートなどは連続投与が可能な種類のピルによって生理そのものを数ヶ月止めたり、自分の身体と相談しながらピルを使用するという事例もあるそう。

鎮痛剤、漢方、フィトテラピー、そして低用量ピルなど、生理の悩みを解決する方法は色々あります。しかし必ずしも正解があるわけではなく、自分の身体に合った治療法を、信頼できる情報をもとに選んでいく。そして自分の身体のことは自分で決め、快適に過ごせるようにコントロールする術を知っておく。そのためには生理や女性の身体に関する正しい知識と、「こうありたい」という自分の意志を持つことが大切です。

お話しを伺ったのは……
竹元 葉
産婦人科専門医/医学博士/女性のヘルスケアアドバイザー/妊産婦食アドバイザー/ガスケアプローチ 認定アドバイザー。順天堂大学医学部卒 、sowaka women’s health clinic院長。現代女性の健康意識改善に注力。気軽に相談できる医師をモットーに活動中。

※定期的に毎日服用するピルには、避妊目的に使われるもの(OC:経口避妊薬)と生理痛やPMSなどの生理に伴う不調の治療目的に使われるもの(LEP:低用量エストロゲンプロゲスチン配合剤)があります。経口避妊薬と低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤は薬の作用や服用方法はあまり変わりありませんが、使う目的が違うため、自費と保険適応の差があります。

photography:Chisato Hikita