このところ、利便性や快適さを求めて使用している人が増えている月経カップ。「ナプキンを替えるタイミングを気にしなくてよくなった」「生理の失敗がなくなり、冷えから解放された」などという話も聞くけれど、「なんとなく手が出せない」という声も。そこで、実際に愛用している元宝塚歌劇団員の咲希あかねさんと読者3人に、使い始めたきっかけや使っていて感じることを話していただいた。
咲希あかねさん「宝塚時代に月経カップのことを知っていたら…」
布ナプキンや月経カップを使うようになり、生理期間の身体も心も快適になったことから、「こんなに楽にしてくれるアイテムならたくさんの女性に知ってほしい!」と、2021年にフェムケアアイテムのオンラインセレクトショップ「Femone(フェモネ)」を立ち上げた咲希あかねさん。宝塚時代、生理中に困ったことや月経カップを使うようになってどう変わったのか、その選び方や使い方のコツなどの話は、生理期間を快適に過ごす選択肢の参考になるはず。
咲希あかね
1985年東京都出身。2005年、第91期生として宝塚歌劇団に入団し、2017年退団。退団後は舞台やコンサートで活躍しながら、ヨガインストラクターとしても活動し、2021年12月、フェムケアアイテムのオンラインセレクトショップ「Femone」を立ち上げる。
女性ばかりの環境でも、生理の悩みを話すことはほぼなかった
—— 経血の量が多かったり、生理痛はひどい方だったりしましたか?
量はそれほど多い方ではないと思います。宝塚の公演は、30分ほどの休憩を挟んで一部、二部が計3時間。すぐにトイレに行けないので、紙ナプキンやタンポンを使っても休憩までもれないか不安になる方もいましたが、私はそこまでではなく紙ナプキンで大丈夫なくらいでしたから。ただ、様々な衣装があり太ももあたりまで見えるものもあるので、経血の漏れには気をつかっていました。また、銀橋という舞台前方にあるエプロンステージに立つと、お客様にとても近くなるので、届かないとは分かっていても、匂いに敏感になっていました。経血が流れ出てくる感じがありますよね。舞台上などで感じると集中力が妨げられ、舞台ではベストをお届けしたいと思うものの、ミスをないようにいつも以上に意識してしまうことも。生理痛はかなりひどく、貧血にもなってクラクラし、「今日は舞台に立つのが不安…」と思う日もありました。
—— 女性ばかりの宝塚。生理の悩みを相談したりは?
健康管理も仕事の一環なので、美味しいもの、身体にいいものなどの食べ物やサプリ、化粧品の話にはなるけれど、生理の悩みを話すことはほぼなかったですね。女性ばかりだから逆に、毎月生理痛があって当たり前みたいな感じだったんだと思います。Femoneのポップアップショップではお客様のお悩みをお聞きしたりするのですが、友人同士でいらして、お友達の話に「そんな悩みがあるなんて知らなかった」と驚かれる方が多いのも納得です。恥ずかしくて話さないというよりかは、それぞれの中にある当たり前のことをわざわざ話さない、ということなのかもしれません。
月経カップを使うようになって、生理中であることを忘れてしまうように
—— 月経カップを使い始めたきっかけは?
私はまず布ナプキンを使うようになり、月経カップに出会った、という感じです。退団後、舞台やコンサートに立ちながら、ヨガのインストラクターも始めたのですが、インストラクターで布ナプキンを使われている方が多く、いろいろ話を聞いているうちに使ってみたくなって。気になることはすぐに取り入れるタイプなんです(笑)。使ってみたら、紙ナプキンを使っていた頃に気になっていた、スレによるできものができなくなりました。なにより冷えがとれて生理痛を感じにくくなり、快適! 「もっといいものがあるかも」と、生理アイテムをいろいろ調べているうちに月経カップを知り、早速使い始めました。吸水ショーツもいろいろ使ってみたのですが、素材的に肌に合わないものもあったので、試してみるのは大切だなと思いました。
—— 月経カップを使ってみて、いかがでしたか?
初めて手にした時は、思っていたより大きくて「これを入れるのか…」とちょっと躊躇したかな。すでに使っている方に相談できたので、持ち方や入れ方のコツを聞いて、とにかく試してみました。初めはトイレよりスペースが広くて、万が一経血が流れてもすぐに流せる浴室で、時間をかけて入れたりしていましたね。たたむと小さくなるし、違和感はそれほど感じなかったと思います。使い始めてみると、経血が出る時のヌルッと感がなくなって、ナプキンを替える手間もなくなり、とにかく楽。もっと早く知りたかった! とつくづく思いました。私は量が多い1、2日目だけ月経カップと、薄めの布ナプキンを併用しています。あとの2、3日は薄めの布ナプキンだけを使っています。
—— 月経カップはメリットばかり?
私にとっては、いいことばかりです。経血が出ていることを忘れてしまうくらいなので、「あ、そういえば今日は生理だったな」という感じで、生理期間の不快感がなくなったので。私は月経カップを使うようになって、冷えがなくなり、生理痛も改善されたように思います。デメリットは特に感じませんが、強いて言えば取り出す時に少し違和感があるので、ちょっと苦手に感じる人もいると思います。カップを押し下げるイメージでお腹に圧をかけながらいきんで、ステムと呼ばれる持ち手部分からカップ下のリムにかけてをつかんで取り出すので、慣れるのに少し時間がかかります。
—— 初心者が挿入する時のコツは?
なるべくカップを細く小さくして、しゃがんだ状態で入れてみてください。どうしても入れにくい場合は、デリケートゾーン用の潤滑ジェルを使っても。生理がない時に試して本番に備えようとされる方がいるのですが、それはおすすめできません。生理期間以外は粘液が出ておらず入りにくいので、痛くて諦めてしまう方が多いからです。初めての方は素材が硬すぎないカップがいいと思います。硬いと漏れにくいのですが、入れにくいこともあるので。
生理期間が快適になると、より自分らしさを楽しめるはず
—— カップのお手入れが大変そうという声もありますが
カップを取り出し経血を捨てた後、キレイに洗い流して水分を拭き取るだけです。基本的には、使う初日と最後の日に煮沸消毒をします。消毒は面倒と思うかもしれませんが、シリコンでできた折り畳み式の専用洗浄カップを用意すれば、カップに水を入れて電子レンジでチンするだけ。外出先などで経血を流した後はデリケートゾーン用の拭き取りシートを使用しています。
—— どんな人におすすめしたいですか?
生理に関する悩みを持っているすべての人に。仕事で力を発揮したいのに、どうしても生理期間はパフォーマンスが低下してしまう、温泉やプールなどに誘われて、生理日と重なるからと断るのが嫌という人にも。できれば中高生にも知ってほしいと思っています。すぐに使って、というわけではなく、こういうものがあることを知って、アイテム選びの選択肢のひとつになればいいなと。生理中にストレスがあると、“来てほしくないもの”になってしまいますよね。ストレスをなくし気持ちを楽にしてくれるものがある、ということを知ってほしいのです。一歩踏み出してトライしてみると、身体や心の変化に気づくことができ、生理に対するイメージも変わるかもしれません。
月経カップを日頃から愛用しているフェムテック調査団メンバー3名に、使用歴や愛用アイテム、使用の頻度などをインタビュー。実際に感じたメリット・デメリットも語ってもらった。
会社員 Mさん:SNSで見て気になってトライ
月経カップ使用歴:約2年
使用アイテム:ソフィ ソフトカップ、ノプラ リング型
海でのアクティビティなどを楽しむことが多いというMさんは、ソフィ ソフトカップのSNS広告を見たことがきっかけで、月経カップの使用をスタート。元々ソフィの製品や10年ほどタンポンを愛用していたこともあり、製品に信頼があったため、使用に迷いはなかった。生理期間中は3日目くらいまでの経血量が多い時に使用。それ以降はタンポンやおりものシートを活用し、体調によってアイテムを使い分けている。
ソフィ ソフトカップに加え、ノプラのLサイズも合わせて愛用中。中に入った経血が目立ちすぎず、他にはないマルチカラーのデザインがお気に入り。ステム(カップを引っ張り出す部分)の形状はリング状が取り出しやすいため、どちらもリング状のステムをチョイスした。月経カップは経血の粘度や色などの状態がわかるので、体調変化の指標にもなっているという。
Mさんが感じるメリット:
・初期投資はかかるが、何度も繰り返し使えるので経済的でゴミも出ない
・外出先で頻繁に交換する必要がなく、ポーチを持ち歩かなくて良いので、トイレ行く時の恥ずかしさがない
・海のアクティビティや月経期間中の家での入浴を楽しむことができる
Mさんが感じるデメリット:
・慣れるまでは手が汚れてしまうこと
・アウトドアシーンなど、手洗い場が整備されていない場所ではカップの交換の際の衛生面が気になる
・洗う手間がかかること
自営業 Cさん:様々なアイテムと併用中
月経カップ使用歴:約2年
使用アイテム:リリーカップワン、ノプラ リング型
雑誌で見て月経カップが気になっていたというCさん。たまたま百貨店で使える商品券を手に入れ、「せっかくだから普段買わないものを買ってみよう」ということで、大丸梅田店にあるフェムテック・フェムケアの売り場「ミチカケ」に足を運んだ。元々セクシェルウェルネスに興味があり、売り場のSNSをフォローしていて「ここなら月経カップが売っているかも」とピンときたという。店員におすすめされたのは初心者向けだというリリーカップ ワン。実際にその店員も愛用していたようで、メリットやデメリットなどの説明に説得力があり、購入に至った。
生理が始まりそうなタイミングはEVEの吸水ショーツを穿き、月経カップは4日目くらいまで活用。家にいて外出しない時は、家族が買ってくる生理用ナプキンを使用することもあるという。リリーカップ ワンに加えて、Mさんと同じくノプラ リング型を体調に応じて使い分けしている。ノプラの方がサイズが大きく経血をよりキャッチするので、経血量が多い日用にしている。ちょっと面倒だという洗浄は、リリーカップ ワンと同時におすすめされた電子レンジで使う煮沸用カップを使用。月経カップに対して最初は少し恐怖心があったものの、自分が挿入しやすい方法を何度か試してみるとうまく入るようになり、3回ほどで慣れて快適になった。
Cさんが感じるメリット:
・買い替える頻度が少なくて済むので経済的
・外出時の荷物が減る
・生理用ナプキンだとかぶれてしまうが、その心配がない
Cさんが感じるデメリット:
・最初は挿入に手間取る
・電子レンジでの煮沸消毒が少し面倒
自営業 Sさん:一度断念したものの再チャレンジ
月経カップ使用歴:約1年半
使用アイテム:エヴァカップ
3年ほど前にチャレンジした時にはうまく挿入することができず、面倒になって一度諦めてしまったというSさん。しばらく吸水ショーツのみで月経期間を過ごしていたものの、周りが月経カップを使い始めたことに影響され、再度挑戦してみることに。潤滑剤を活用すると入れやすくなると聞いたので、合わせて使ってみるとすんなりと挿入することができたそう。
一度挿入への抵抗がなくなると、月経カップの快適さにやみつきに。生理期間の5日目くらいまでは使用しており、たまに漏れてしまうことがあるので吸水ショーツも合わせて穿いている。吸水ショーツ歴の方が長いが、洗濯の手間や複数枚持たなければいけないこと、耐久性などを考えると、月経カップの方が自分には合っていると感じている。最近は月経カップの仲間である、月経ディスクが気になっている。
Sさんが感じるメリット:
・経血が外に出る時のドロッと感がない
・繰り返し使えるので緊急時の防災グッズとして活用できる
・ナプキンを使った時の嫌な匂いがない
Sさんが感じるデメリット:
・カップを取り出す時に少し力がいる
・入れ方が正しくないとたまに少しだけ漏れてしまう
現在日本で購入できる月経カップの中から、おすすめのアイテムをピックアップ。月経カップはサイズ展開があるものもあり、身長・体重ではなく経血量や経腟分娩経験の有無でサイズが分かれている。ステムの形も棒状やリング状などがあり、自分の身体に合ったものを選ぶのがポイント。カップの日々のお手入れは、1日1回水と低刺激性の石けんで洗うだけでOK。アルコールなどの薬剤は腟粘膜に刺激を与えたり、シリコーン素材を傷めるリスクがあるため、使用は避けよう。生理期間の使い始めと終わりには、専用のカップや耐熱容器で煮沸消毒をすることを習慣に。製品の使用期限はメーカーにより異なるが、10年程度のものや、使用頻度に応じて2~5年での買い替えが推奨されるものも。
【月経カップに関する注意事項】
TSS(トキシックショック症候群)は、黄色ブドウ球菌やA群β溶血性レンサ球菌の毒素原性株による、炎症反応症候群。まれな病態だが、発症すると重症化することも。膣内タンポンの長期使用がリスクになることが知られている。月経カップはよりリスクが低いと考えられているが、これまで世界で数例、月経カップに関連すると考えられるTSSが報告されている。月経カップ使用中に、発熱、発疹、血圧低下などの症状が見られた際には、速やかに医療機関の受診を。
答えてくれたのは……池田裕美枝先生
産婦人科医。NPO法人女性医療ネットワーク副理事長。京都大学医学部卒業後、総合内科研修を行い、その後産婦人科に転向。現在は京都大学医学部附属病院産婦人科などで臨床にあたりつつ、京都大学公衆衛生大学院博士課程で研究中。一般社団法人SRHR Japan代表。