#2【性的同意】今回の刑法改正、何がどう変わったの? 弁護士の寺町東子先生にインタビュー/【性的同意】について、今、改めて考える。被害者にも加害者にもならないために

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2023年6月16日に改正され、7月13日に施行される刑法は「画期的ですごく意味がある」という寺町先生。特に大きな改正点は、①レイプの罪名が『強制性交罪』から『不同意性交罪』へ変わること、②性的同意年齢の引き上げ、③性犯罪に関する公訴控訴時効の延長、など。この変更にどんな意義があり、どのようなケースの救いになるのか、詳しく解説してもらった。

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寺町東子

弁護士・社会福祉士・保育士。性犯罪の撲滅を目指す活動を積極的に行い、性暴力被害者からなる一般社団法人「Spring」の理事も務める。Twitterアカウント、@teramachi_tokoでは性的同意に関する事柄をはじめ、大人として知っておきたい法的知識を随時ツイートしている。

東京きぼう法律事務所

——『強制性交罪』が『不同意性交罪』になる、この名称の変更がなぜそんなにすごいのでしょうか?

今回の改正刑法には“同意しない意思”という言葉が入っています。平たく言えば「同意のない性行為は犯罪になりますよ」と条文にはっきり書かれているのが、とても画期的なのです。

今までの法律で性犯罪が罪に問われるのは、暴行または脅迫を用いた場合、そして心神喪失と抗拒不能に乗じた場合とされていました。ところがこれらの文言は人によって解釈の差が大きいところに問題があったのです。たとえばレイプ被害に対して「抵抗しようと思えばできたよね?」などと言って被害届を受理しない、裁判官が無罪判決をくだす、などの事例が過去にたくさんありました。でも改正された刑法では、性被害において“同意していない”こと及びアルコールや薬物を摂取させた場合や、上司と部下等の社会的地位を盾にした場合など、同意しない意志を表明することが困難とされる8つの類型を証明できればそれは処罰対象になります。この状態に乗じて性行為に及んだ場合も犯罪になるので、「同意があったと思った」などの言い訳も防ぐことができるのです。


注釈)具体的な状況としての8つの類型の詳細は、衆議院のHP刑法「第百七十六条」をチェック! https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21109058.htm 

暴行・脅迫やアルコール・薬物を摂取していた、睡眠・意識不明瞭の状態、拒絶するいとまがない、予測と違う事態に恐怖や驚愕を与えられた、虐待に起因する心理的状況にさせられた、経済的・社会的地位を利用されたなど様々なものがあります。

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日本の成年年齢は長らく20歳(2022年からは18歳)であったにも拘らず、性的同意年齢だけは13歳のままでした。中学生に性行為に関してだけ大人と同じ判断能力を求めるのはどうなのか? そんな声が年々高まり、今回の引き上げに至ったのです。

——性的同意年齢が13歳から16歳に引き上げられるというのは、どういうことなのでしょうか? 

性的同意年齢とは、性的行為をする・しないを自己判断できるとされる最低年齢のことです。日本では明治時代から変わらず13歳とされ、これはG7の中で一番低いものでした。それがイギリスやアメリカの多くの州と同様に、16歳に引き上げられることになったのです。今までの刑法では、たとえ中学生の性被害でも、暴行や脅迫、抵抗できなかったことを証明できなければ、加害者は処罰されませんでした。

でもこれからは同意の有無に関わらず、16歳未満への性行為は一律処罰対象になります。ただし、中学生の頃って恋愛に目覚める多感な時期でもありますよね。たとえば同級生同士がお互いの同意のもとにキスしたり、ハグしたりといった事例までNGにならないよう、13〜15歳に対する性行為で罪に問われるのは相手の年齢が5歳差以上の場合という限定がつきました。ここで誤解しないでほしいのは、年が近い者同士の性行為でも同意がなければそれはもちろん犯罪だということです。

——性犯罪に関する公訴時効の延長で、どのようなケースが救われるのでしょうか?

強制わいせつが7年、強制性交(今後は不同意性交)等が10年だった公訴時効が、いずれも5年延長されることになりました。さらに犯罪行為が終わったときに被害者が18歳未満だった場合、18歳になるまでの年月も公訴時効までの期間に加算されることに。子供の頃に被害を受けて大人になる前に時効を迎えてしまった、大人になってから幼い頃の性暴力を認識したという事例は多々あるのですが、その方たちが法的に闘える余地がだいぶ広がったのではと思います。とはいえ昔のこととなると、物的証拠を集めるのもなかなか難しい。当時を思い出してフラッシュバックで気分が悪くなる方もいらっしゃるでしょう。どこへ相談するか迷ったら、カウンセリングも受けられるワンストップ支援センターのような機関に連絡してみるのもひとつの手。心のケアをしながら何が今できるのか、一緒に考えてくれる人は必ずいます。

——この改正には他にどのような内容が盛り込まれたのでしょうか?

わいせつな目的で16歳未満の子供に会うことを強要する「面会要求罪」や、盗撮行為を取り締まる「撮影罪」などが新設されました。さらに膣または肛門に身体の一部、物を挿入する行為も性交とみなされ、不同意性交罪の処罰対象に。この変革は普通の人の様々な働きかけが大きな力になって実現したものだと私は考えています。具体的には性犯罪への無罪判決が相次いだ2019年に立ち上がったフラワーデモ、#metooの声の高まり、性被害当事者団体「Spring」によるロビイング活動などですね。今回の刑法改正は、一人一人の声には世の中を動かす力があるのだと象徴する出来事なのです。

性犯罪・性暴力の相談窓口
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/avjk/consultation.html

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