フェムテックとしての【Apple Watchとアプリ】。生理周期・更年期、妊活など女性の健康課題への取り組みを、Appleヘルスケア担当デサイ博士に聞く

身につけるだけで健康管理や運動量の計測に大活躍のスマートウォッチ。どんどん多機能になりどれを選んだらいいか、すっかり迷子になっているという人も多いのでは?
今回注目したのは、近年ウィメンズヘルス領域に力を入れているApple。Apple WatchやiPhoneで使用可能なヘルスケアアプリでできること、女性のウェルネスにどう役立つのかなどについて、国際女性デーに合わせて来日されていた、同社ヘルスケア担当バイスプレジデントでヘルスケア機能のキーパーソン、サンブル・デサイ博士に直撃! 

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Apple 社 ヘルスケア担当バイスプレジデント/医学博士Sumbul Desai(サンブル・デサイ)

スタンフォード ヘルスケアで副最高医療責任者を務め、スタンフォード大学医学部では戦略とイノベーションの副委員長を務めた経歴を持つ。2017年にApple入社。同社の臨床製品開発、革新的な臨床パートナーシップ、医学研究などの健康機能への取り組みを統括するとともに、規制チームと品質管理チームを率いている。心電図アプリなどの心臓に関する健康機能、聴覚、心の健康、女性の健康、睡眠などApple WatchやiPhoneのヘルスケア機能を牽引するキーパーソン。

Appleがヘルスケア領域に注力するのは、多忙なユーザーのセルフケアをサポートするため

Apple Watchを装着していると、驚くほど多くの健康データの記録やアドバイス提供をしてくれる。心拍数に睡眠時の呼吸数、睡眠、月経周期、運動量などに加え、最近では手首の皮膚温まで計測できるようになった。実はこうした機能は、女性のライフスタイルに多くの変化とメリットをもたらしてくれる。

医師であり開発者であるデサイ博士自身も、その便利さを実感しているそう。

以前からときどき寒気を感じることがあったのですが、月経との相関性に気づいたのは、Apple Watchとアプリで健康管理をするようになってからでした。医師なのに?と言われるかもしれませんが、何か調子が悪いのかなと思い込んでいたのです。今は朝目覚めると血中酸素、安静時の心拍数などもチェックします。Apple Watchは健康状態を知れるということだけでなく、それがどう体調と関連しているのかに気づく洞察力も身につけさせてくれるものだと思います」

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ヘルスケアアプリで、手首皮膚温の記録を確認。基準値に対してのプラス・マイナスの温度が記録される

では、そもそもAppleがヘルスケア機能の開発において、ウィメンズヘルス領域に力を入れているのはなぜだろうか。

「iPhoneやApple Watchは常に身につけるものですから、Appleには、すべてのユーザーがより健康的で素晴らしい人生を送れるようにサポートし、エンパワメントする責任があると考えています。日々の生活の中で、自分のことよりも周囲の人のケアで忙しいことってありますよね。特に女性はホルモンバランスの変化や月経など、女性特有の体調変化などもあり、本来ならしっかりケアしたいところなのに手が回らなかったり。
ですから、まるで“ガーディアン(守護者)”のように、女性をインテリジェントに見守る機能をApple Watchに持たせたいと思いました。忙しくても、自分の代わりにApple Watchが見守り、しっかりとセルフケアをアシストしてくれるようにしたかったのです」 

Apple Watchとヘルスケアアプリでできる・できるようになった3つのこと

「最近追加された3つの機能は、Appleがいかに女性の健康を重視しているかを示していると思います」とデサイ博士。ここからは注目の新機能を中心に、Apple Watchとヘルスケアアプリが、どのように私たちの健康管理に役立つのかをチェックしていく。

皮膚温計測により、排卵日の推定と月経予測の精度が向上

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月経周期記録はApple Watchでも。出血の有無だけでなく、その日の体調なども選択式で記録ができる

まずはApple Watchに導入された、“皮膚温計測”機能から。
「月経周期の把握や排卵日の推定には基礎体温をつける方法がありますが、毎日計測するのは大変なときもありますよね。Apple Watchの最新モデルには、本体の背面に皮膚温センサーを搭載。装着したまま就寝すると、手首皮膚温を計測・記録できます。こうして集めた皮膚温のデータから見えることの一つが、排卵後に起こりやすい体温上昇一般的な月経の周期記録にこの皮膚温のデータを合わせることで、より精度の高い月経予測や過去の排卵日推定ができるようになり、妊娠しやすい時期の予測を立てやすくなりました※1

※1 集積した皮膚温のデータから、基礎体温が高温期と低温期の二相に分かれる「二相性変化」のうち、排卵後によく起こる体温上昇(高温期)を検知し、過去の排卵日を推定・通知する

月経周期の偏差を通知したり、PDFで医師に共有できる

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手首皮膚温に加え、月経や性行為、排卵検査結果なども総合的にグラフ化された「周期の詳細」はPDFに書き出して医師との共有が可能

次に注目したいのが“月経周期の偏差”機能※2
過去6ヶ月間に記録された月経周期の履歴と照らし合わせ、月経不順や不正出血などのイレギュラーが発生した際にユーザーに通知します。これによって異変に気づき婦人科受診のきっかけになると同時に、重要なのが過去12ヶ月の周期の履歴をPDFに書き出せるということ。月経周期のみならず皮膚温の推移なども含めた体調の変化をデータとして医師と共有できるため、スムーズで的確な診察の一助となります

※2 偏差とは「基準との差」という意味。過去6ヶ月間に記録された月経周期の履歴に、月経不順、希発月経(回数が少ない)、過長月経(出血している期間が長い)、不正出血が見られる場合にユーザーに通知する

気持ちとその関連要素を記録し、心の健康状態を「見える化」

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Apple Watchではこのように、自分の気持ちとマッチする画像を選んで記録する

そして3つ目、“心の健康”機能。女性がその瞬間の自分の気持ちを理解していくことは、健康上とても重要なことだ、とデサイ博士。
「日常生活に加えてホルモンバランスの変化や月経など、色々なものを背負っている女性が自分の気持ちを把握し、その原因まで振り返ることができれば、より深く、そして客観的に心の状態を理解して対処できるようになるでしょう。つまりレジリエンスを高めていくことができると考えています。その日、その瞬間の感情を快適、やや快適、不快などの項目から選んで記録できるこのアプリは、心の状態に影響を及ぼす要因や関連事項(日光のもとで過ごした時間、睡眠、エクササイズ時間、マインドフル時間など)も一緒に記録。そうすることで、気持ちと他の要因の因果関係を探りながら、心の健康の『見える化』を実現します」

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自分で記録した心の状態と、その日のアクティビティの関連性がグラフになって表示される

さらにこの“心の健康”機能の中には“うつ病のリスク”という機能も。
悲しい、憂うつなどの感情が定期的に起こる場合には、医学的に用いられる問診のようなアンケートが示され、うつ病や不安症の発生に関するリスクレベルを把握することもできる。さらには“月経周期の偏差”と同様に、その結果を医師に共有することが可能。自分の気持ちや心の状態など、目に見えないことを客観的に伝えることは難しい場合もあるが、ヘルスケアアプリを活用すれば、デリケートな会話での医師とのコミュニケーションもスムーズに取れそうだ。

蓄積したデータを関連づけ、自分を客観的に観察。更年期等の推測に役立てることも

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ヘルスケアアプリには、これらをはじめとした様々なカテゴリがある

加えてデサイ博士より、「女性は特有の周期があるので、睡眠、睡眠時の呼吸数、心の状態といった各種データを月経周期と紐づけて観察してみてほしいですね」というアドバイスも。
例えば月経周期や出血量が変則的になった上に、以前と比べて睡眠の質が低下したり寝つきが浅くなったりしてきたら、更年期が近いのかも?という推測もできるのです。何か異変があった時に、記録したデータをPDFに書き出して持参すれば、明確な症状などがなくとも医師に相談しやすくなりそうです。セルフケア・セルフチェックだけでなく、医療機関への相談ツールとしても役立ててほしいですね」

ほかにもたくさん! 健康管理・維持に役立つ機能

  • 服薬アプリで、薬やサプリメントなどの飲み忘れがないように管理ができる。服薬リストを作成し、スケジュールやリマインダーを設定することで通知を受けられる
  • Apple Watchを装着したまま就寝することで、睡眠パターンを取得。レム睡眠、ノンレム睡眠など4つの睡眠ステージを記録し、色分けされたグラフで確認できる
  • 装着したApple Watchで、心電図や血中酸素レベルを測ることができる。また、心拍リズムから、心房細動の兆候がある不規則な心拍を検出した場合は、通知する機能も搭載

    ※血中酸素ウェルネスアプリ、心電図アプリ、皮膚温センサーによって過去の排卵を推定できる周期記録の利用可否は、Apple Watchのシリーズによって異なる。詳細についてはAppleのサイトや店頭で問い合わせを。

女性の健康課題解決のためにAppleが進む道とは

最後にデサイ博士に、これからのAppleは女性の健康課題解決にどう関わっていくのか、Apple Watchはどのように進化していくのか。Apple Watchとヘルスケア機能の未来について聞いた。

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お話を伺った、Apple社のヘルスケア担当バイスプレジデント、サンブル・デサイ博士

「Appleはすでにハーバード大学やアメリカ国立衛生研究所といったアカデミアと連携し、月経周期や婦人科疾患に焦点を当てた長期研究にも取り組んでいます。これらの研究によって多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、不妊症、骨粗しょう症、妊娠、更年期症状などのスクリーニングや、リスク評価に役立つ情報を得ることができます。その結果をデバイスへと反映させ、新たな機能の開発に役立てようとしているところです。

つまりこれまでもこれからも、Appleのヘルスケア機能は科学に基づいたものであり、科学がAppleのサービスを引っ張っていくでしょう。すでに手首皮膚温や心拍数といったデータによって、ユーザーが疲れているか、回復したかどうかが把握できる他のメーカーが製作したアプリも登場しています。開発チームは常に、私たち一人ひとりの健康課題を解決するための様々なことに挑戦しています。今後も新たな役立つサービスの登場を期待してください」

今やスマートウォッチやスマートフォンのアプリは、「メッセージを確認したり、電子決済ができたりする便利なもの」という概念を超えて「私たちの健康維持を手助けしてくれるもの」という存在になりつつある。アップデートされていく機能やサービスについて知り、活用することで、自分の健康課題に向き合い、快適な生活を送るためのヒントが見つかるはず。

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