自分に合った眠り方、どう見つける? 睡眠記録を活用した、悩み解消策を専門家に聞く。【睡眠を可視化する #1】

心身の疲れをリセットし、健やかな毎日を過ごすために、良質な睡眠をとりたいと願う人は多いはず。その一方、眠りに満足できない原因がぼんやりしていたり、自分なりにしてみた快眠対策がなかなか結果に繋がらないなど、客観視しにくい眠りに不安を感じることもあるのでは?

より良い睡眠への第一歩は、まず、自分自身の睡眠を知ることから。手軽に睡眠データを測定できる睡眠計測デバイスなら、そんな悩みに寄り添ってくれるかも。

計測した睡眠データを参考に、自分に合った睡眠を見つけるアドバイスを、睡眠研究のエキスパート、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 主任研究員の平野有沙先生に伺った。

心身の疲れをリセットし、健やかな毎日を過ごすために、良質な睡眠をとりたいと願う人は多いはず。その一方、眠りに満足できない原因がぼんやりしていたり、自分なりにしてみた快眠対策がなかなか結果に繋がらないなど、客観視しにくい眠りに不安を感じることもあるのでは?

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計測した睡眠データを参考に、自分に合った睡眠を見つけるアドバイスを、睡眠研究のエキスパート、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 主任研究員の平野有沙先生に伺った。

世界で一番睡眠時間が短い、日本の女性たち。家でも外でも働くことや、女性ホルモンが影響

 自分に合った眠り方、どう見つける? 睡の画像_1

先進国の中でも、睡眠時間の長さが最も短い国だと指摘される日本。さらに厚生労働省のデータでは、日本に住む女性は男性よりもさらに睡眠時間が短いと報告されており、睡眠に問題を抱える女性が多いことが見てとれる。

睡眠不足を筆頭にした、眠りに悩みを持つ女性が抱えているものとは何なのか? 根本にある原因から、見つめ直してみよう。


——日本の女性が十分な睡眠時間をとれていないと示される原因として、どんな問題があるのでしょうか?

正確なデータは存在しないので、明らかな原因は解明されていないという前提のもとですが、働く女性において、家事育児を負担する割合が女性の方が大きくなりがちという点が原因の一つかもしれませんね。外でもしっかり働き、家に帰ってきてもなかなか休めないため、十分な睡眠時間を確保しづらい環境になりやすいということが想像できます。

また子育て世代の女性においては、「家事育児はお母さんの仕事」という価値観が根深く浸透してしまっていることも影響していると考えられます。そのほかにも、妊娠中はお腹が大きくて寝返りを打てない、足が攣るなどで眠りづらくなった経験が私自身にもあり、女性は、ライフイベントによって睡眠に影響を受けやすい側面があるのではないでしょうか。

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——女性特有の睡眠の悩みとして、ホルモンバランスの変化が関係していると耳にすることがあります。

体温の低下は深い眠りに重要なものです。排卵後に分泌が増える女性ホルモン、プロゲステロンには体温を上げる作用があるため、月経には「高温期」という時期があります。この間、普段だったらちゃんと体温が下がっていくから眠れるのに、体温が高くなるために入眠しづらくなることもあります


——月経周期の高温期は約2週間続くと言われるので、睡眠に影響を及ぼしやすい期間は月の半分もあるという見方もできそうです。更年期も関係しますか?

更年期になれば、女性ホルモンのエストロゲンの減少により、体温などを調整する自律神経系の機能が弱ってしまいます。そうすると体温の制御がうまくいかず、身体がほてるような症状から、睡眠が妨げられやすくなるとも言われています


——女性の生涯レベルで見ていくと、睡眠状態に変化が起こるターニングポイントはいつ頃に訪れるのでしょうか?

実は20歳くらいになると、生理的に体内時計は夜型にずれる傾向があります。そのため、社会活動に合わせた生活リズムが難しくなってしまうケースも。また、高齢になると深い睡眠の時間が減っていくので、中途覚醒をはじめとした睡眠障害が増えていく傾向にあります。50歳くらいがひとつの目安になりますが、いきなりガクンと睡眠サイクルに変化が起こるというよりも、深い眠りの割合は徐々に減っていきます。

理想的な睡眠のために。 可視化した睡眠サイクルに合わせて、体内時計の調整を

——睡眠記録をとり続けることで、良質な睡眠がとれるようになるのでしょうか?

睡眠を記録することは、眠りへの意識を変えるのに効果的だと思います。
まずは、決まった時間に起きなければならない日と、制限なく寝られる日において、睡眠時間にどれくらい差があるのかを確認してみてください。普段睡眠時間が足りているか否かが客観的にわかります。それぞれの間を探りながら、自分にとっての最適な睡眠時間を見つけていきましょう。

そして、加えて、自分の睡眠タイプ(クロノタイプ)も把握しておくことも大切です。


——自分の睡眠タイプ(クロノタイプ)とは、「朝型」「夜型」などでしょうか?

そうです。単純に朝起きるのが苦痛ではない、夜更かしが出来ない人は朝型です。逆に、朝起きれない、夜でもパフォーマンスを落とさずに夜更かしできる人は夜型と言えます。

「早起きは三文の得」と言いますが、それは朝型の人に言うことであって、夜型の人には当てはまりません。朝型でも夜型でも自分にあったサイクルで生活できていれば、問題はありません。気をつけたいのは、自分の睡眠タイプと、仕事や学校など社会活動をすべきタイムスケジュールがずれているときです。

平日の生活スケジュールが自分の睡眠タイプにあっていないことを、ソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ)と言います。夜型の人が普通の生活スケジュールで無理やり生活しているときも起こりますし、中間の睡眠タイプの人が早すぎる生活スケジュールで生活しているときも起こります。後者は特に若い世代に多く見られる傾向にあり、近年は普通の学生にとって、午前9時頃に開始される1限の授業は早すぎることが指摘されています。

 

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毎日同じリズムで、起床・食事・就寝することで、体内時計を調整。 ①朝起きたら、太陽の光を浴びる ②③④日々同じ時間帯に食事をとる ⑤眠りに着く前は部屋を暗くする

——平日の生活スケジュールと自分の睡眠タイプがあっていない場合、どうしたら良いのでしょうか?

自分の睡眠タイプと社会活動をすべきタイムスケジュールがずれていて、無理をしていることが分かったとしても、体内時計、つまり生活リズムを整えることでチューニングが可能です。

実は、遺伝子レベルで決まっている要素が多い睡眠タイプ。ただし、毎朝同じタイミングに光を浴びたり、朝・昼・晩ご飯を決まった時間にとるなど、身体に「今が朝ですよ、夜ですよ」と教えることで体内時計を調整し、望ましい睡眠サイクルにコントロールすることができるのです。


——睡眠計測デバイスには、入眠から起床までの睡眠経過を見ることができるものもあります。健康的な睡眠がとれているときのサイクルを指針にしたいのですが、どんな経過を辿るのが理想的ですか?

睡眠には、脳が活発に動いていて夢を見ていることが多いレム睡眠と、眠りの深さによって3段階に分けられるノンレム睡眠という種類があります。

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健康な人の一晩の睡眠経過図(Dement and Kleitman 1957より改変)  参照:日本睡眠学会「ノンレム睡眠とレム睡眠:小山純正」健康な人の一晩の睡眠経過図

入眠するとまずノンレム睡眠が起こり、徐々に深いノンレム睡眠に移行。そのあと浅い眠りになり、レム睡眠が出たあとにまたノンレム睡眠に戻るというサイクルを一晩のうち4〜5回繰り返します。正常かつ若い人の睡眠だと、入眠直後に深いノンレム睡眠になり、起きる時間が近づくにつれ、レム睡眠の持続時間は長くなっていきます。

これが高齢になると浅い睡眠の割合が増えてきます。ひどい場合だと、初めに現れる深いノンレム睡眠が見られないというケースも。夜中に何度も起きてしまうというのは、浅い睡眠の状態が長いため、ちょっとの刺激で覚醒してしまうからです。またレム睡眠も減少しますが、レム睡眠がなぜ必要なのかはちゃんとわかってはいません。

睡眠記録を長期的に続けることで、 「睡眠時無呼吸症候群」など発覚のきっかけにも

——睡眠サイクルにいつもと違うパターンが現れていたら、過去の結果と照らし合わせて、その理由を自覚しやすくなりますね。では、睡眠記録を長期的に続けることで、病気のリスクを察知することも可能でしょうか?

自覚するのが難しい病気の発覚に、睡眠記録が役立つ可能性があると思います。例えば、睡眠時に無呼吸になったり呼吸が浅くなる「睡眠時無呼吸症候群」は、寝ている間のことなので自分自身では気づきにくい病気です。睡眠時に呼吸を十分にできていないと、血中酸素の数値が下がります。そのため血中酸素の数値を参考にすると、「数値が低いから、病院に相談してみた方が良いかも」などアクションのきっかけになるかもしれません。

また、睡眠時間や睡眠の質に問題があると、あらゆる病気のリスクを高めると言われています。代表的なものだと、癌、糖尿病、動脈硬化やうつ病などです。睡眠時間が足りていないと病気のリスクは高まりますが、必要以上に寝ればいいというわけではありません。睡眠記録を通して、自分にとってベストな睡眠のとり方を知っておくことは、とても良いことだと思います

【睡眠悩み別】快眠に導くアクションと心構え

睡眠記録によって自分の眠りの傾向が掴めたら、それに合わせて、良質な睡眠に導く行動を毎日のルーティンに落とし込もう。ただし、念頭に置いておきたいのは「主観的に感じている睡眠悩みは、日中のパフォーマンスに影響していなければ、問題として捉えなくても良い」ということ。

「主観的な眠りと客観的な眠りは、一致しないものです。『寝つきが悪い』『眠りが浅い』などは個性の一つ。それらの悩みによって、日中どうしても眠くなってしまうなどのパフォーマンス低下につながらなければ、ネガティブに捉える必要はありません。まずは睡眠時間が十分なのかを知ること。加えて、自分の睡眠タイプは朝型なのか、夜型なのかを理解した上で、問題がある場合には対処しましょう」と平野先生。

より良い睡眠を目指すために知っておきたい、睡眠悩み別に見る生活習慣や眠りの基本とは?

 

悩み① 夜はなかなか寝付けず、目覚めが悪い

〈解消法〉
朝起きたら光を浴び、決まった時間に3度の食事をとる。睡眠前から徐々に部屋を暗くして。

眠気を促すホルモン、メラトニンは光により抑制されるので、朝起きたら、カーテンを開けて朝日を浴び、身体を目覚めさせましょう。

また身体は、食事をとることで「今はアクティブに行動する時間なんだ」と認識します。朝・昼・晩と、毎日なるべく決まった時間に食事をとることも効果的です。夜になると再びメラトニンの分泌が始まります。部屋が明るいと身体は「まだ昼間なんだ」と勘違いします。眠る時間が近づいたら、部屋の中を暗くすることで、スムーズに眠りやすくなります。

入眠できないとき、アルコールに頼るのは逆効果。睡眠の質を下げてしまうので気をつけましょう。

悩み② 昼間の眠気をどうにかしたい

〈解消法〉
夜の睡眠が浅いときは、足りない睡眠を補うような形で昼寝を。寝すぎには注意!

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仕事中でも、眠気がつらいときは、30分ほど昼寝をしても大丈夫

仕事の昼休憩に睡眠をとるくらいであれば、大きく睡眠のリズムが崩れることはないので大丈夫。30分くらいが目安になります。

ただし、昼寝の時間をとりすぎて夜眠れなくなり、ベッドでスマホをいじるなど、覚醒を促すような行動をするのは本末転倒。その日の体調を考慮しながら、上手に昼寝もとり入れてください。

悩み③ 睡眠時間は確保できているはずなのに、満足できない

〈解消法〉
生活リズムがバラバラだと、睡眠の質に影響。寝る時間と起きる時間はだいたい一定に。

睡眠データを見るとき、入眠した時間と起床した時間が、毎日一定の時刻であるかチェックするのも大切。

例えば毎日8時間の睡眠がとれていたとしても、時間がバラバラではなく、一貫したパターンであるほうが質の高い睡眠をとるのに重要だと考えられています。というのも、身体に備わる体内時計にズレを生じさせないようにするため。
平日の睡眠負債をとり戻そうと、週末に寝溜めすることも、体内時計を狂わせる原因になります。

悩み④ 「良い」とされる睡眠状況と比べたとき、違いがあると不安に思う

〈解消法〉
睡眠は自分軸で捉えること。周りと比較するのではなく、身体の声に耳を傾けて。

必要な睡眠時間や朝型・夜型タイプなど、睡眠には個人差があるもの。指針にすべきは自分の心身の状態です。疲れやすかったり、日中のパフォーマンスが低下しているときは、睡眠に問題がないか注意しましょう。



睡眠のリズムが崩れたとしても、すぐに何かが起こるというわけではなく、少しずつの無理の積み重ねが将来の不調につながる。自分の眠りを俯瞰することでその“少しずつの無理”に目を向けられるようにしてもらいたい」とも話してくれた平野先生。

現在、睡眠サイクルだけでなく、体温から自分の体内時計を可視化するデバイスの開発も進んでいる。可視化された睡眠データと体内時計データを活用できるようになれば、テクノロジーの力で睡眠と健康をサポートする可能性がますます広がりそうだ。

自分の身体が求めている眠り方を読み解く、睡眠計測デバイスという存在。睡眠記録が教えてくれる今の自分を受け止めることで、理想の生活リズムのために何ができるのか、向き合っていくきっかけに。良い眠りは充実した毎日を送るためのベースとなるものだから、テクノロジーを上手に活用していきたい。

平野有沙先生プロフィール画像
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 主任研究員平野有沙先生

東京大学理学部生物化学科卒業。人々が健やかに眠れる社会の実現を目指す、世界トップレベルの睡眠医科学研究拠点である筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構に所属。概日時計と呼ばれる体内の時計システムの設計原理を専門に研究。いまだ多く残される睡眠の謎に挑む。

「筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構」公式サイト