ロンドンの「膣ミュージアム」からもらった、前向きでパワフルで真面目なエネルギー クラーク志織さんがルポ

皆さんロンドンにVagina Museum(膣ミュージアム)があるのをご存じですか?  ペニスのミュージアムはアイスランドにあるのに、「どうしてヴァギナのミュージアムは存在しないのだ?」という疑問を抱いた創立者によって2017年に作られた世界初の婦人科解剖学に特化したミュージアムです。

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・婦人科解剖学と健康に関する知識の普及と意識の向上
・人々に婦人科解剖学に関する問題について話すための自信を与えること
・身体と婦人科解剖学にまつわるスティグマを払拭すること
・フェミニズム、女性の権利、LGBTQ+コミュニティ、インターセックス(※)コミュニティのためのフォーラムとして機能すること
・ヘテロセクシャルやシスジェンダーを普通とする振る舞いへ異議をとなえること
・交差型、フェミニスト、トランスインクルーシブな価値観を促進すること

この6つのミッションを掲げ、人々に健康についての正しい知識を広め、膣や外陰部を取り巻く問題について、皆がもっとオープンに話せるようになることを目標としているそうです。一体どのような所なのかとても気になる!ということで実際に行ってみました。

※インターセックス/LGBTQとはカテゴリーが異なり、医学的には性分化疾患(DSD)といわれる。性分化のステップの何らかにトラブルが生じ、性染色体、性腺、内性器、外性器が非典型的である生まれつきの状態。

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イーストロンドンのBethnal Green駅から徒歩5分くらいの場所にあります。生理の歴史に関する企画展も行われており、まずはそちらから見ることにしました。様々な時代の様々な地域で、生理が恐れられたり崇められたり蔑まれたりしてきた事例を取り上げ、生理が人類の歴史の中でどのように捉えられてきたのかを振り返る展示でした。 

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また、現代の生理を巡るムーブメントも取り上げられていました。生理の未来はどうなっているか、自分なりの予測をタンポンや紙に書いて飾るコーナーも。私も「ハッピー&パワフル」と書いて飾ってみました。

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お土産コーナーのステッカー

次に、常設展へ。解剖学、健康、外陰部の多様性、アクティビズムという4つの観点から膣や外陰部についての情報を得られる展示です。こちらの展示室で一番目を引いたのが、壁一面にズラーッと飾られた何十枚もの外陰の写真たちです。「外陰の多様性」というタイトルがつけられたこの写真たちの周りには「色」「形」「毛」「テクスチャー」などについての解説文がちりばめられており、同じ「外陰」といっても個々にそれぞれ違いがあることを非常にわかりやすく学べます。正直、こんなに沢山の外陰がずらっと並んでいるのを見るのが初めてだったので、部屋に入った瞬間はドキッとしてしまったのですが、見慣れてくると「いや、ほんとうにただの身体の一部だよな」と冷静な自分になっていったのが興味深かったです。

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人口の約1.7%の人がインターセックスであると言われていることや、トランスジェンダーの人に性器についてむやみに質問をするのは失礼にあたること、人種間での医療アクセスの不均衡や、セックスワーカーの権利などについても取り上げられており、多様でインクルーシブな視点を学ぶことができました。

「前向きで、パワフルで、真面目」なパワーを取り戻そう!

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そして、実は、私がこのミュージアムで一番エンジョイしたのはミュージアムショップでした。ショップにあった沢山の商品たちは、可愛くてカラフルで楽しくて見ているだけで元気が出たし、「ヴァギナや生理のことを、こんなに明るく堂々と表現していいんだ!」とすごく新鮮に感じたのです。

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ショップをウロウロしている時に、ミュージアム内に展示されていたテキストのことを思い出したりもしました。そこには、「多くの親は子どもにVulva (外陰)という言葉を使うことをためらい、子どものたった1%しか正しい名称で呼ばない」という調査結果があると書かれていました。

確かに、男性は子どもの頃から自身の性器の名称をおおっぴらに笑って口にできる雰囲気があるのに、女性は「ヴァギナ」や「膣」という単語を口にするのすら抵抗がある人が多いかもしれない。それって、「女性の性器は男性がエロティックに消費をする対象である」という男性中心的な社会の価値観の反映だと思うのです。

いやらしいものかどうかは男性が決め、女性からは自分の身体のことなのに主体性が取り上げられてしまっているように感じます。実際に私もこの記事を書くにあたって、最初は「膣」「ヴァギナ」という言葉を出すことに非常にドキドキしました。自分は何かいけないことをしているのではないか?という気持ちにもなりました。

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けれど、冷静に考えれば考えるほど、これは多くの女性が持っている身体の一部(ということは世界の約半分くらいの人が持っていることになる)でしかない。

それなのに持っている本人ですら名称を口に出すのをはばかられるほどスティグマまみれなのは変ではないか? 人類の半分くらいが自分の体の一部を「恥ずかしいもの」「口に出してはいけないもの」そんな風に思い込まされてきたなんてとっても寂しいことだし、恥と思っているからこそ気軽に話題にも出せなくなっているようだ。

そんな背景もあり、正しい知識にアクセスできなくなり、そのせいで冷静な議論ができなくなったりもしている。

そして、世の中が勝手に思い描く「普通」にはまらない人々への無理解や偏見にも繋がってしまっているとも思うのです。こんな状況、一体誰が得するのだろうか? なんだか、いいことがないぞ。

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このミュージアムは、今まで家父長制社会によって一方的に汚名を着せられていた「膣」という生殖器の不名誉な過去を全力で消し去るかのように、ショップのみならずミュージアム全体が「前向きで、パワフルで、真面目」なエネルギーを放っている気がして、私はそれにとても勇気づけられたのです。

「前向きで、パワフルで、真面目」。それこそが「ヴァギナ」がずっと奪われてきたものなんじゃないのかなと思うのです。口に出すことすら恥ずかしいものだと思っていた身体の一部が、実は素敵でクールな存在だったと思えるようになるって、なんだか自分が少しパワーアップしたような、なかなかいい気分でした。皆さんもロンドンを訪れた際は、ぜひ立ち寄ってみてください!

https://www.vaginamuseum.co.uk/

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イラストレーター

Shiori Clark/クラーク志織

雑誌やWEBメディア、広告でイラストレータとして活動すると同時に、フェミニズムやSDGsについて考える連載を執筆。ロンドン在住。
instagram(@shioriclark)

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