今月のゲスト:染矢明日香さん【シオリーヌのご自愛SESSION 第2回】

助産師であり、性教育について発信するYouTuberであるシオリーヌさんのトークセッション連載。今回のゲストは、正しい性の知識を広める活動を行うNPO法人ピルコンの創設者であり代表の染矢明日香さん。シオリーヌさんが活動を開始して間もない頃からの知り合いだという二人が、日本の性教育の現状と未来について熱く語り合う!

性教育は、人生を主体的に生きるための武器になる

今月のゲスト:染矢明日香さん【シオリーヌの画像_1

Profile
シオリーヌ●助産師/性教育YouTuber。総合病院産婦人科病棟や精神科児童思春期病棟で勤務。YouTubeでは性教育について発信。昨年12月、初の著書『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』(イースト・プレス)を上梓。

Profile
そめや あすか●NPO法人ピルコン理事長。慶應義塾大学在学中に避妊を啓発する学生団体ピルコンを立ち上げ、2013年にNPO法人に。性の健康を伝えるイベントの運営や講演、政策提言などの活動を精力的に行なっている。


性教育の大切さを訴える動きは徐々に加速中!

シオリーヌ(以下S) 私は、性教育の活動を始めてまだ5年ほど。染矢さんは2007年から活動されていますけど、その頃と今を比べて、流れが大きく変わってきているなと感じることはありますか?
染矢明日香さん(以下A) かなりありますね。まず、性教育に対する社会のまなざしが変わってきた。「性教育は必要なこと」という考えが強くなっています。最近は、性暴力に関する刑法改正の市民運動が盛り上がっていて、国も2021年度から性暴力予防のための「生命(いのち)の安全教育」という授業の導入を決定しました。もうひとつは、性教育に携わる若い人が増えたこと。私が活動を始めた頃は、同年代で性教育について発信している人はあまりいなかったけれど、今は大学に性教育サークルができたりと、時代が変わってきた感じがあります。すごく心強いですね。手に取りやすいさまざまな性教育に関する本も、ハイペースで出版されています。
S ポップで接しやすい本がすごく増えましたね。あとは、SNSが広がったのも大きかったのでは。
A 性教育の話は、表立って話しづらいテーマ。でも匿名性のあるSNSでは気軽にできるので、うまくマッチしたのかなと思いますね。性の話をするのって、「いやらしいこと」と思われがちですが、実は自分とも相手とも向き合うし、信頼関係を築くツールになるんです。パートナーや友達、家族と性について話し、相手の価値観を理解することで、いい関係につながる。
S 安心して性の話ができる関係を作っておくと、政治の話や社会問題のことなど、なんとなく話しづらい話題についても話せるようになっていきますよね。
A 私が性教育を学んでよかったなと思うことのひとつは、自分の人生に主体性を持てるということ。生理や他人の性欲に振り回されるのではなく、自分で生理サイクルを調整したり、嫌なことは断ったりできるようになると、すごく快適に生きられるようになるんです。
S 私は、性教育は「ご自愛」のスキルを教える教育だと思っているんです。生理が重すぎるなら婦人科に行くとか、ピルを使って避妊のコントロールをするとか、「自分を大切にする」ための具体的なアクションを伝える教育だなって。
A 自分を大切に、と言葉で言うのは簡単だけど、大切にするやり方がわからない子だっているんですよね。普段の人間関係の中で、その子がちゃんと大切に扱われているのかどうかで、全然違ってくるなって思ったことがあって。
S わかります! 精神科で働いていたときに、繰り返し自傷してしまう子や摂食障害の子たちとたくさん話しましたが、その子が自分のことを大切にできないのには絶対に理由があるんですよね。親に大切にされなかったとか、学校でいじめられていたとか。そうやって周囲の人に大切にされない状況にいる子に、「もっと自分のことを大切にしなきゃダメだよ」って押しつけるのは、とても残酷。誰かから大事にされた経験がないと、自分のことを大事にできないんですよ。だから私たち大人が一生懸命に性教育を伝えることで、「あなたのことが大事なんだよ」というメッセージを伝えられたらと思いますね。

連帯して声を上げることで少しずつ社会を変えていく

A 今の日本では、国の仕組みとして、すべての人に必要な性教育が届けられる体制が整っていません。若い人たちに性を教えると、性的なことに目覚めて、危ない行動をするのではという思い込みがあるのかもしれない。だけどそうではなくて、幼い頃から年齢に応じてきちんと学んだ子たちは、ちゃんと性行為に対して慎重になるし、自分を大切にできるようになります。たとえばオランダでは、0歳から性教育のガイドラインがある。日本も国際標準に合わせて、もっと変えていく必要があります。
S 本当にどうして変えられないのでしょうね。4月から全国の小中学校の授業で導入される「生命の安全教育」だって、かなり大きい変化だとは思います。でも、その中でも、妊娠・出産の仕組みの詳しい説明はせず、ふわっと扱うだけなんですよね。
A 性被害を防ぐための知識や、性的同意については教えるけれど、性行為については教えないという指導要領のままで。そしてそれにもかかわらず、刑法上の性交同意年齢は13歳のまま、という本当にひどい状況なんですね。
S 突破口を開くには、どうしたらいいんでしょうね。
A やっぱり、声を集めることだと思います。私たちは「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」という活動を行なっていて、集まった10万筆超の署名や要望書を、男女共同参画担当の橋本聖子大臣(当時)らにお渡ししたんですね。市民の声を受け、政府の計画の中に、ずっと時期尚早だと見送られてきたアフターピルの薬局での販売について「検討する」という文言が入ったんです。だから、たとえあゆみが遅くても、声を上げるのは決して無駄じゃない。国際的な包括的性教育のガイダンスでは、「社会に呼びかける」という記載がちゃんとあるんです。自分の権利を知って、政治家に声を届けるというのも、性教育のプロセスのひとつなのかなと思います。特に今まで女性の声は無視されがちだったので、今こそなんとか女性たちの声で変えていきたい。みんなで連帯して、数の力で変えていきたいですね。
S 気がついた人から、少しずつでもいいので、どんどん声を上げていって、アクションを起こすことで政治が変わったという体験を増やしていきたいですね!

SOURCE:SPUR 2021年5月号「シオリーヌのご自愛SESSION」
interview & text: Chiharu Itagaki

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