今月のゲスト:川村エミコさん【シオリーヌのご自愛SESSION 第3回】

助産師であり、性教育について発信するYouTuberであるシオリーヌさんが、さまざまなジャンルで活躍する人と「ご自愛」について語り合う連載。今回のゲストは、お笑いコンビ「たんぽぽ」の川村エミコさん。川村さんの大ファンだというシオリーヌさんが、ときに爆笑しながら、ときに真剣に話を聞いた。

子どもの頃のひとり遊びが、今の充実感につながっている

今月のゲスト:川村エミコさん【シオリーヌの画像_1

Profile
シオリーヌ●助産師/性教育YouTuber。総合病院産婦人科病棟や精神科児童思春期病棟で勤務。YouTubeで性教育について発信中。著書に『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』(イースト・プレス)。4月に新刊『こどもジェンダー』(ワニブックス)も。

Profile
かわむら えみこ●お笑い芸人。2003年、「ホリプロお笑いジェンヌライブ」でデビュー。2008年からは相方の白鳥久美子と「たんぽぽ」としても活動。昨年、初のエッセイ集『わたしもかわいく生まれたかったな』(集英社)を上梓。YouTubeチャンネルもチェック!

相手との関係次第では「可愛い」も悪口になる

シオリーヌ(以下S) 実は私、もともとお笑いがすごく好きで、プロのお笑い芸人を目指そうと思っていたこともあるんです。でも女性芸人としてやりきる自信がなかった。川村さんは、お仕事でルックスをいじられることも多いと思いますが、つらくないですか?
川村エミコさん(以下K) 私個人の考えですが、正直、本当のことを言ってもらえたほうがうれしい。私が芸人というのもあるのですが、いじられて前向きな笑いにつながるなら、それはそれで素敵なことだと思うんですよね。相手との関係性と状況、そして何よりも自分の捉え方によるんじゃないかな。昔、ライブで急に先輩芸人が「川村、可愛いよ」って言い出したことがあって。それまでそんないじり方はしていなかったのに。そのとき、「あれ?」と思ったんです。「可愛いって、全然思ってないよね?」って、ちょっと悪意を感じた。そのときは笑いながら「じゃあ責任取ってくださいよ〜」と返したけど、なんだか嫌だった。時と場合によっては、「可愛い」という言葉だって悪口になるんです。
S 同じ言葉でも人によって捉え方が違うということですね。嫌なことを言われて言い返したくても、相手が上司や仲のいい友人だったりすると、正直指摘しにくかったりする場合もありますよね。
K オススメはですね、何か言われたら、ひとまず「スぺペぺペ!」と叫ぶこと(笑)。たとえば上司に「今日は化粧してないのか?」と言われたら、まずは「スペぺぺぺ!」って一旦バカになってから、「何ですって?」と言えばいい。「はい、それイエローカード!」とか「今そういう時代じゃないですよ〜」とかでもいいですね。深刻にならず、ポップに返せるワザを持っておくといいかもしれない。
S ちょっとギャグに昇華しつつ、言うべきことはしっかり言う。
K そうそう。だってそんなことでつらい気持ちになるのは悔しいじゃないですか。それにもしかしたら、相手だって今、価値観をアップデート中なのかもしれない。だから、「誰でも間違えることはあるし、お互いさまだよ」という気持ちでいたほうが、豊かでやさしい世界になると思う。私も、間違えることはいくらでもあります。小学4年生のとき、新聞部で新聞を書いているときに、同級生のMちゃんのペンを借りたんですけど、色が全然出なかったんです。それでみんなが集まったときに、「あ、そのペン、全然出ないよ」って、自分のペンのことみたいに言っちゃった。そのとき、Mちゃんが傷ついたのを感じたんです。それ以来、人の持ち物や見た目について何か言うときは、すごく気を使っています。
S 相手に対するリスペクトを持ちつつ、みんなで一緒に新しい時代へ向けて変わっていけたらいいですよね。私も「性教育を変えたい!」と掲げていますが、闘う相手が大きすぎて、全然変わっていかなくて。ときどき心が折れそうになるんです。
K そういうときは、手に届く範囲のところで頑張るのがいいのかもしれない。大きな敵と闘うのも大切ではあるけれど、無理をする必要はないと思う。でも、「ちょっと違うな」と思ったことは、少しずつ言っていく。みんながじわじわ変わっていくことで、少しずつよくなっていくんじゃないかな。
S なるほど、今の自分にできる範囲のことを頑張るわけですね。一人ひとりのじわじわした変化、大事ですものね!

小学校の休み時間は、ノートを塗りつぶして遊んでいた!?

S 動画やエッセイを拝見して、川村さんは、自分の好きなことを見つけて楽しむのがすごく上手だなと感じました。
K 小さな頃から、ひとり遊びが得意だったんです。静かな子だったので、学校の休み時間には、ノートを真っ黒に塗りつぶして遊んでいた(笑)。ストップウォッチで、チャイムが鳴ってから先生が教室に来るまで何秒かかるか測って、その下2桁がゾロ目だったら「今日はいい日」とかの遊びも。だから今の子どもたちも、自分の好きなことを見つけて、それを大切にしてほしいと思います。本当は、すべての子をフィーチャーする機会があったらいいですよね。
S 私のYouTubeを見てくれるのは中高生の若い子が多いんですが、なかなか自分の好きなことを見つけられない子が多い印象です。川村さんは、自分の好きなものをどうやって見つけたんですか?
K やっぱり毎日の生活の中で、小さなことでいいから自分が楽しいと思うことを見つけていくのがいいのでは。居酒屋でアルバイトをしていたときに私がよくやっていたのは、次に何の注文が入るかでビンゴをする遊び。バイト仲間と「せせり」とかメニュー名を書いてビンゴにして、先に揃ったほうが一杯おごる、みたいな。最近は、今まで長年の感覚で作っていた料理を、すべてレシピどおりに正確に量って作っています。土井善晴先生のレシピでね。そうすると「自分は意外と甘いのが好きなんだな」とか、発見につながって面白いですよ。自分らしい楽しみ方を見つけて生活を充実させると、自信にもつながると思う。あとは朝、起きるときのアラームを『ラ・ラ・ランド』の挿入曲にして、踊りながら起きるのもオススメ!
S  川村さんは本当に生活を楽しむのがお上手! 社会問題に声を上げ続けていると、時に心が折れそうになることも。そんなときは、世界の小さな楽しさや、身近な生活を豊かにすることに目を向けるのも改めて大切だと思いました。私も川村さんのように年齢を重ねていきたいです!

SOURCE:SPUR 2021年6月号「シオリーヌのご自愛SESSION」
photography:Yuka Uesawa interview & text:Chiharu Itagaki