今月のゲスト:ブルボンヌさん【シオリーヌのご自愛SESSION 第5回】

助産師であり、性教育について発信するYouTuberであるシオリーヌさんが、「自分を愛すること」についてゲストと語り合う連載。今回のお相手は、女装パフォーマーでありLGBTQ+にまつわるコメンテーターとして、雑誌やテレビ、ラジオで幅広く活動しているブルボンヌさん! 華やかなパフォーマンスを支える自己肯定感について思うこととは?

ドラァグで、男/女にまつわる固定観念を吹き飛ばす

今月のゲスト:ブルボンヌさん【シオリーヌの画像_1

Profile
シオリーヌ●助産師/性教育YouTuberとして活躍中。総合病院産婦人科病棟や精神科児童思春期病棟での勤務経験も。著書に『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』(イースト・プレス)。新刊『こどもジェンダー』(ワニブックス)も。

Profile
ブルボンヌ●女装パフォーマー/ライター。ゲイ雑誌『Bʌ́di』の編集主幹を経て、ライター、エッセイストとして活動。女装パフォーマー集団「Campy!ガールズ」メンバー。新宿2丁目のミックスバー「Campy!bar」のプロデュースなども手がける(2021年5月現在は休業中)。

他人の目は気にしない! 輝く場所は自分で決める

ブルボンヌさん(以下B) この連載のタイトル、すごくいいよね。まさに今、私が大切にしているのが自己肯定感で、このテーマで若い世代に向けて学校で講演したりもしているんです。すべてのことは、自分を大切にすることから始まっていると思うんだよね。
シオリーヌ(以下S) 「友達を大切に、家族を大切に」と、他人を大事にすることは教わるのに、自分自身をケアすることはあまり教わらないですよね。
B 本当にそうだよね。でも私の世代に比べると、今の若い世代は自己肯定感が高い人も増えてきていて素晴らしいなって思う。私は比較的保守的な岐阜の地に生まれ育って、もう絶対に自分がゲイだとか言えないって思ってましたもの。高校生の頃、地元の書店で『薔薇族』というゲイ雑誌を見つけて、その文通欄で知り合った人と喫茶店でお茶をしたんです。当時はそれだけで周りから「あいつはホモだ」なんて思われたらどうしようとビクビクしていました。それが今では、女装した格好で住宅街を歩き、タクシーをつかまえられるまでになりました(笑)。
S 堂々とできるようになったきっかけはあったんですか?
B ひとつ印象的だった出来事があって。10年くらい前、今はビジネスパートナーであるうちの社長と、ラブな関係だった時期があるんです。その頃、彼が繁華街で手をつなごうとしてきたのね。私は変な目で見られるんじゃないかとすごく怖かったから、手を振り払ったの。そしたら彼がキョトンとして、「誰だか知りもしない人の目を気にして、今の幸せな気持ちを味わおうとしないのはおかしい」って。そう言われて、自分でもそうだなって気づいたんだよね。「人の目を気にしすぎると、自分らしく生きられないな」って。そこからコツコツ、自己肯定感を高めていきました。
S 私も学生時代は、周囲の目を気にして自分を押し殺したこともたくさんありました。実は大学生のとき、摂食障害になったことがあるんです。当時つき合っていた彼氏に、もっと痩せている女の子が好きだと言われて、ダイエットスイッチが入っちゃった。私は頑張り屋なので、半年で15キロくらい痩せたんですよ。どんどんごはんが食べられなくなって、そのあとに反動で過食して。治るまでに十数年かかったんです。
B ひどい!モラハラだよ!「女の子は痩せていたほうがいい」みたいな価値観は、狭い世界の限定的なものだと早く気づいたほうがいいよね。ゲイ業界では、ある程度の肉づきがあったほうが魅力的だとされているのね。特に都市部は「デブ専」率が高い傾向にあるの(笑)。だからぽっちゃりした冴えない感じの男の子が、新宿2丁目に来たとたんアイドルみたいにチヤホヤされたりするの。そのくらい、同じ人間でも世界が変わると扱いが変わるもの。いじめの問題もそうだけど、「おかしいな」と思ったらその場から逃げるって大事だよね。
S 本当にそう。逃げるってネガティブなことじゃない。
B 自分の輝ける場に行くことを「逃げる」と言っているだけよね。
S 自分にとって居心地のいい人や場所を選ぶ権利は、自分にある。それを忘れずにいたいですね。

あなたは向き合えている? 自分の男性性と女性性

S ブルボンヌさんはいつ女装パフォーマンスを始めたんですか?
B 20歳くらいだったかな。大学生のとき、パソコン通信でゲイ専門チャンネルを開局したのね。その集まりの余興として、みんなで女装したのが始まりだったんです。軽いノリでやってみたら、私、とても筋がよくて(笑)。
S 才能が花開いたわけですね!
B そのとき、ずっと自分が抱えてきた女性性を、初めて発散できた気がしたんだよね。子どもの頃って、ナヨナヨしているといじめられたりするじゃない? だから最初はすごくためらいがあったのね。でも自分の中に確実にある女性性を、濃縮してドンと出せるのがドラァグなんだよね。女性性を思いきりデフォルメすることで、男女にまつわる世間の思い込みについてパロディの形で問いかけているわけ。ところで、私はこうやって葛藤の中で自分の男性性・女性性と向き合ってきたけど、誰の中にだって本当は男っぽさと女っぽさ両方の要素があるはず。でも多くの人は、あまりそこと向き合う機会がないんじゃないかなと。
S  わかります! だからたとえば女性は、働き出すと当たり前のようにヒールを履き、お化粧するのがマナーだと言われて、苦痛を感じて初めて「なぜ女性だからって?」という疑問に突き当たる。逆にそれまでは、疑問を感じる余地もないのかもしれません。
B シオリーヌも私のプロデュースしているミックスバーに来てくれたことがあるけど、ああいう場所では、誰もが心を開いてそういった問題と向き合えるんだよね。普段は知り合わないようないろんな人たちが出会い、お酒も飲みつつ今まで閉ざしていた扉を開けることのできる場所。パンデミックが起こって、3店舗あったお店のうち1店はすぐに閉店の決断をしました。残りの2店も今はずっと休業中。頑張れる場所がなくなってしまい、すごくつらい思いをしています。「不要不急」だと言われたりもしたけれど、私たちはプライドを持ってやっているんですね。今はもちろん無理だけど、この苦境が過ぎ去ったら、また生身で触れ合うコミュニケーションを大切にしてほしいな。
S 本当に。お店が再開したら、また遊びに行きますね!

SOURCE:SPUR 2021年8月号「シオリーヌのご自愛SESSION」
photography: Kae Homma text: Chiharu Itagaki