今月のゲスト:松岡宗嗣さん【シオリーヌのご自愛SESSION 第6回】

助産師であり、性教育について発信するYouTuberであるシオリーヌさんが、「自分を愛すること」についてゲストと語り合う連載。今回は、一般社団法人fair(フェア)の代表理事であり、自身もゲイであることを公表しながら、性的マイノリティにまつわる問題について情報発信している松岡宗嗣さんをゲストにお迎え。社会を変えようと活動していく中で直面する課題について、ふたりで語り合った。

マイノリティの生きやすさを、運命に委ねたくない

今月のゲスト:松岡宗嗣さん【シオリーヌのの画像_1

Profile
シオリーヌ●助産師/性教育YouTuber。総合病院産婦人科病棟や精神科児童思春期病棟で勤務したのち、YouTubeで性教育について発信するように。6月末には3冊目となる著書『もやもやラボ キミのお悩み攻略BOOK!』(小学館クリエイティブ)が発売された。

Profile
まつおか そうし●ライター/一般社団法人fair代表理事。大学卒業後の2018年にfairを立ち上げる。性的マイノリティにまつわる政策や法制度の問題について情報発信しており、記事の寄稿や講演活動も積極的に行う。共著書に『LGBTとハラスメント』(集英社新書)が。

「自分らしさ」を奪われない社会に

シオリーヌ(以下S) 松岡さんには、私が4月に著した本『こどもジェンダー』で監修をしていただきました。その節は本当にお世話になりました!
松岡さん(以下M) この本、とても評判がいいですね。絶賛の声が私のところにも届いていますよ。
S よかった〜! ジェンダーやセクシュアリティについては、自分でも勉強してきたつもりでしたが、松岡さんのおかげで無意識のバイアスに思い当たりました。たとえばイラストの、子どもたちの服の色。松岡さんの指摘で、女の子の服に暖色を使いがちだったと気づいたんです。
M この本は、すごくわかりやすく性の多様性を伝えてくれていますよね。自分が小学生くらいのときにこの本に出合えていたらよかっただろうなと思いました。
S 思春期病棟で働いていたとき、10代の子たちから、自分を責めるような言葉をたくさん聞いたんです。だから「今のあなたのままでいいんだよ」というメッセージを伝えたくて、この本を作りました。
M あとがきにある「『自分らしさ』を奪わない」って、すごく強いメッセージですよね。大人や社会に向けて、問いを突きつけている。自分らしくいることが大切だと言われても、現実的にそれができないときがある。そういうとき、「自分が悪いんだ、自分のせいなんだ」と思い込みがちですが、実は社会の仕組みがそう思うように仕向けていたりする。それを理解できると、自分を受け止められるようになることもあると思います。私も子どもの頃は、男の子は女の子を好きになるものなんだと、規範を内面化してしまっていました。大学生になってジェンダーやセクシュアリティについて学んでいく中で、実は社会のシステムやルールに問題があったんだと気づくことができたんです。だから、そこは変えていかないといけないと思って活動をしていますね。
S 私も、最近は国会議員の方にお声がけをいただくことも増えましたけど、どうやって活動したら効果的なのか、全然わからなくて。先日もある議員さんに意見書を提出してほしいと言われたのですが、いったいどうやって書けばいいのか、全然わからない。松岡さんは、ずっとこういう活動をされてきたわけですものね。尊敬します。
M いえいえ、私こそ、シオリーヌさんを見習って自分もYouTubeでもっと広く伝えていくべきなのではと思ったりしています!

「アライ」の立場でできること

S 松岡さんはLGBTQにまつわる情報を日々発信していますが、活動を続けるモチベーションはどこにあるんですか?
M 私は、生きやすさを運命に委ねたくないと思っているんです。特に性的マイノリティとして生きていると、たとえば学校のクラス分けでどんな先生が担任になるかで、その子の生きやすさがガラッと変わってしまったりする。それを「仕方ないこと」で片づけてはいけないと思っています。個人の意識のみをあてにするのではなく、学習指導要領や、その前提となる社会の法律や制度を整えていく必要がある。実は、これまでの人生で私自身は性的マイノリティであることでものすごくいじめられたりした経験はないんです。ネタにしてうまく笑いをとったりして、マイノリティであることに劣等感を抱えつつ、なんとかうまく生き抜いてきたほうだと思います。でも、自分の人生にも今に至るまでにきっといろいろな分岐点があったはずで、何かがひとつ違っていたら、そこには死というものがあったかもしれない。ほかの当事者の皆さんの話を聞いていると、その危うさを実感するんです。自分は幸運にも生きてこられたけれど、本当はそこを運命に委ねたくないですよね。
S 私は性的マイノリティの問題に関してはアライ(ALLY/当事者ではない立場から差別や偏見をなくすために行動する人のこと)でありたいと思っています。でも私のようなマジョリティが発信することで、当事者の方の発言機会を奪ってしまっているのではないかと、悩むこともあるんです。
M それはかなり難しい問題ですね。アライとして発信することは、とても重要なこと。あらゆる問題について言えることですが、差別や偏見の生まれる構造をつくっている責任は、マジョリティの側にあるわけですから。でも同時に、当事者の発信すべき声を奪っているのではないかという視点を持つことはすごく大事です。
S そうですね。当事者の思いの代弁をできると思ってはいけないですね。私は、同性婚訴訟に対してすごく頑張って発信をしているんですけど、その理由は、この訴訟が抱える問題は、マジョリティである自分にとっても他人事じゃないと気づけたから。こうやって当事者ではない人間が発信していくことで伝わることもあると思っています。学び続け、考え続けながらやっていく必要がありますね。
M 私自身も、同性愛の問題では当事者ですが、たとえばトランスジェンダーにまつわる問題では、アライの立場になります。自分が発信する内容で当事者を追いやってしまったり、むしろ差別を温存してしまうのではないかと、すごく怖くなるときも。でもこの怖さを抱えながら活動を続けていくことが大事なんだろうなと思いますね。とはいえ、発信をし続けるのは大変なときもありますけどね、特に私生活が大変なときなどは……。
S わかります! 時にはSNSから距離を置くことも必要です。これも“ご自愛”のひとつですよね。

SOURCE:SPUR 2021年9月号「シオリーヌのご自愛SESSION」
photography: Kae Homma text: Chiharu Itagaki

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