助産師であり、性教育について発信するYouTuberのシオリーヌさんが、さまざまなゲストと「ご自愛」について語り合う連載。今回は参議院議員の伊藤孝恵さんをお招きし、「ご自愛」を持つために、必要不可欠な政治のあり方をトーク。二人の娘を持つ母であり、子育て支援や性教育について国会で積極的に発言し続けてきた伊藤さんならではの知見とは?
政治の場に、もっと当たり前の生活感覚を
S 最近、伊藤さんはYouTubeチャンネルを始められましたね。議員さんの生活ぶりを見る機会はそうないので、とても興味深いです。なぜ、あえて日常の様子を配信することにしたのですか?
I 今の日本では、一般の人々が、政治の世界にアクセスするのはあまりにも障壁が高いですよね。政治家になるのも、高学歴者や議員の二世三世、タレントやアナウンサーだけだと思われがち。
S 確かに、政治家は自分からは遠い存在だと思っていました。
I でも、普通の感覚を持つ人、ごく当たり前の生活をしている当事者実感のある人が政治の場には絶対に必要。そういう人が圧倒的に少ないから、今の政治がリアルな暮らしから乖離してしまっているのだと思うんです。だから私は一人の働く母親として、両立の狭間でもがくありのままの日常を、あふれ出る生活感もそのままに配信することに決めました。
S 私も動画でもコラボさせてもらいましたが、「政治家の人を身近に感じられた」「こういう普通の感覚を持った人に、政治家でいてほしい」と、ポジティブなコメントがたくさん寄せられましたよ。
I うれしいなぁ!私の任期はあと1年。次の選挙で当選するかどうかわからない中で自分は何を遺していけるのか考えたとき、未来のインサイドアタッカーが生まれるきっかけをつくりたくて。「この人にもできたなら、私も政治家になれるかもしれない」と思ってもらえたらうれしいですね。あとは、問題提起の意味合いもあります。政治家は滅私奉公、24時間戦うことを求められがち。でもそれはやっぱりおかしいと思うんです。育児や介護の当事者は、いつまでたっても政治に参加できなくなってしまいますからね。
S 議員さんには、健康で幸せな状態でいてもらいたいですよね。そうじゃないと、他人の幸せを心から考えられる仕事はできないと思うから。
I 本当にね。私はシオリーヌさんのような人に政治家になってほしくて熱烈に誘っているわけですが、でも一方では「こんなところに引きずり込むのはよくないのでは」と後ろめたさも感じている。だから急いで現状を変えないと。
自分の価値観で生きる大切さ
S 政治の世界は大変そう。心が折れてしまうときはないですか?
I しょっちゅうですよ!実は私はインポスター症候群という思考傾向があって、自分の成し遂げたことを認めるのが苦手なんです。でも政治家とは、自分の実績を積極的にアピールして誇るもの。私はそれが何とも気持ち悪い。そもそも「私だけが頑張った」「私の党だけが取り組んだ」なんてことは、永田町ではありえない。私に「こんなことを実現したい」という志があっても、野党の一年生議員にできることは限られている。そんなときは与党の仲間にバトンを託すんです。ママパパ議連の仲間をはじめ、受け取ってくれる人は与党にもちゃんといるんですよ。そうやって受け継がれた思いの総和が政治であり、日本をよりよくしていくエンジンなのだと、私は確信しています。
S 私もあまり褒められると、ときどき怖くなるときがあります。でも、そのくらい自分に厳しくないと、発信する仕事は続けていけないとも思っています。
I 臆病なくらいの人じゃないと、いい仕事はできないのかもしれませんね。とはいえ闇の中を手探りで歩くような苦しい時期もきっとある。そんなときに大切なのは、「他人の価値観の中を生きない」ということだと思うんです。誰かの期待にこたえるのではなく、自分が誰とどこで、どう生きたいかを大切にしたいですね。
S 「人に委ねない」ということは本当に大事ですね。でも、それを議員として永田町で貫くのは、ものすごく大変そう。
I そうなんだよ〜! それを分かち合える仲間が欲しい! シオリーヌさんも早く来て……。
S (笑)。今度、改めてお話を聞きにいきます!
SOURCE:SPUR 2021年12月号「シオリーヌのご自愛SESSION」
text: Chiharu Itagaki