今月のゲスト:伊藤孝恵さん【シオリーヌのご自愛SESSION 第9回】

助産師であり、性教育について発信するYouTuberのシオリーヌさんが、さまざまなゲストと「ご自愛」について語り合う連載。今回は参議院議員の伊藤孝恵さんをお招きし、「ご自愛」を持つために、必要不可欠な政治のあり方をトーク。二人の娘を持つ母であり、子育て支援や性教育について国会で積極的に発言し続けてきた伊藤さんならではの知見とは?

みんなの想いの総和が政治であり、国を動かす力になる

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Profile

シオリーヌ●助産師/性教育YouTuber。総合病院産婦人科病棟や精神科児童思春期病棟で勤務したのち、自身のYouTubeチャンネルで性教育をテーマに発信するように。3 冊目となる著書『もやもやラボ キミのお悩み攻略BOOK!』(小学館クリエイティブ)が絶賛発売中。


いとう たかえ●国民民主党所属の参議院議員(愛知県選挙区選出)。テレビ大阪や資生堂、リクルートを経て、育休中の2016年に初出馬・初当選。待機児童の次女を連れての登院が話題となる。現在、国民民主党副代表のほか、超党派生殖補助医療議連の事務局長などを務める。

性教育は、国会ではアンタッチャブルな議題⁉

シオリーヌ(以下S) 私は昨年、伊藤さんにお声がけいただいて、超党派ママパパ議員連盟の総会で性教育の必要性についてお話しさせてもらいました。最初は「本当に私でいいの?」と心配でしたけど、YouTubeチャンネルの視聴者の方からも、「日本の性教育の現状を変えようと頑張っている議員さんがいるとわかってうれしい」と言ってもらえてよかったです。

伊藤さん(以下I) ママパパ議連はすべての党から現在83名が参加していて、私は事務局長を務めています。シオリーヌさんに講演をお願いした理由は、多くの人に伝わる言葉を持っている方だから。性教育という言葉すらアンタッチャブルだと思っている議員たちに、シオリーヌさんの声を届けたくて。

S 性教育がアンタッチャブル?いったいどういうことですか?

I かつて性教育にまつわる議論が紛糾した苦い思い出が、いまだに尾を引いているんです。すでに子どもたちはデジタルの世界で誤った性の情報に簡単に触れられる時代なのに、一部の議員は「寝た子を起こすな」と真顔で言う。だから23年度から学校で開始予定の性教育のプログラムは、「性教育」ではなく「生命(いのち)の安全教育」という名称になったんです。

S 衝撃です……。いったいどこの世界の話なのかと思いますね。

I それでもやっと半歩前進。それに、この1年ほどで「生理」が政治の言葉になりました。今回、生理の貧困対策が政府の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」に明記されたのはビッグニュース。でもこれだって、自然発生的に盛り上がったわけではない。シオリーヌさんをはじめとするみなさんが各所で動いてくれて、それをNHKの若いディレクターたちが番組で紹介し、時を同じくして私は国会で発言を重ねて。裏には徹底した連携があったんです。

S 努力のたまものですね!でも、そんな調子だと、性教育が政治の言葉になるのは遠い先になりそう。

I だから今、「性教育」に及び腰な政治家に対しては「少子化対策を本気で考えるなら、初潮の段階からの生理教育が必要ですよね」と女性のキャリアの文脈で語ったり、フェムテック市場の可能性を述べたり、あの手この手で「いつの間にか性教育の話をしている」状態にしようとしています。

S なるほど!最近、伊藤さんはプレコンセプションケア(妊娠を考える前段階からの健康ケア)についても取り上げていますよね。これは要するに性教育のことですが、確かに中身が伴っているなら、名称は何でもいいですよね。

I ほかにも小児・若年がん患者が将来、望めば母や父となれるよう「妊孕性の温存(卵子や卵巣、精子の凍結保存)」の公的支援を進めたりも。「生理の話は僕らには関係ない」と言い切る男性政治家には、「月経随伴症状による労働損失は、年間4,911億円ですよ」と言うと、「えっ、そうなの?」と興味を示してもらえたり(笑)。くだらないことのように聞こえるかもしれませんが、性教育という言葉に拒否反応を示す人たちの背景を理解したうえで、コンセンサスをとっていく努力は惜しんではいけないんです。

政治の場に、もっと当たり前の生活感覚を

S 最近、伊藤さんはYouTubeチャンネルを始められましたね。議員さんの生活ぶりを見る機会はそうないので、とても興味深いです。なぜ、あえて日常の様子を配信することにしたのですか?

I 今の日本では、一般の人々が、政治の世界にアクセスするのはあまりにも障壁が高いですよね。政治家になるのも、高学歴者や議員の二世三世、タレントやアナウンサーだけだと思われがち。

S 確かに、政治家は自分からは遠い存在だと思っていました。

I でも、普通の感覚を持つ人、ごく当たり前の生活をしている当事者実感のある人が政治の場には絶対に必要。そういう人が圧倒的に少ないから、今の政治がリアルな暮らしから乖離してしまっているのだと思うんです。だから私は一人の働く母親として、両立の狭間でもがくありのままの日常を、あふれ出る生活感もそのままに配信することに決めました。

S 私も動画でもコラボさせてもらいましたが、「政治家の人を身近に感じられた」「こういう普通の感覚を持った人に、政治家でいてほしい」と、ポジティブなコメントがたくさん寄せられましたよ。

I うれしいなぁ!私の任期はあと1年。次の選挙で当選するかどうかわからない中で自分は何を遺していけるのか考えたとき、未来のインサイドアタッカーが生まれるきっかけをつくりたくて。「この人にもできたなら、私も政治家になれるかもしれない」と思ってもらえたらうれしいですね。あとは、問題提起の意味合いもあります。政治家は滅私奉公、24時間戦うことを求められがち。でもそれはやっぱりおかしいと思うんです。育児や介護の当事者は、いつまでたっても政治に参加できなくなってしまいますからね。

S 議員さんには、健康で幸せな状態でいてもらいたいですよね。そうじゃないと、他人の幸せを心から考えられる仕事はできないと思うから。

I 本当にね。私はシオリーヌさんのような人に政治家になってほしくて熱烈に誘っているわけですが、でも一方では「こんなところに引きずり込むのはよくないのでは」と後ろめたさも感じている。だから急いで現状を変えないと。

自分の価値観で生きる大切さ

S 政治の世界は大変そう。心が折れてしまうときはないですか?

I しょっちゅうですよ!実は私はインポスター症候群という思考傾向があって、自分の成し遂げたことを認めるのが苦手なんです。でも政治家とは、自分の実績を積極的にアピールして誇るもの。私はそれが何とも気持ち悪い。そもそも「私だけが頑張った」「私の党だけが取り組んだ」なんてことは、永田町ではありえない。私に「こんなことを実現したい」という志があっても、野党の一年生議員にできることは限られている。そんなときは与党の仲間にバトンを託すんです。ママパパ議連の仲間をはじめ、受け取ってくれる人は与党にもちゃんといるんですよ。そうやって受け継がれた思いの総和が政治であり、日本をよりよくしていくエンジンなのだと、私は確信しています。


S 私もあまり褒められると、ときどき怖くなるときがあります。でも、そのくらい自分に厳しくないと、発信する仕事は続けていけないとも思っています。

I 臆病なくらいの人じゃないと、いい仕事はできないのかもしれませんね。とはいえ闇の中を手探りで歩くような苦しい時期もきっとある。そんなときに大切なのは、「他人の価値観の中を生きない」ということだと思うんです。誰かの期待にこたえるのではなく、自分が誰とどこで、どう生きたいかを大切にしたいですね。

S 「人に委ねない」ということは本当に大事ですね。でも、それを議員として永田町で貫くのは、ものすごく大変そう。

I そうなんだよ〜! それを分かち合える仲間が欲しい! シオリーヌさんも早く来て……。

S (笑)。今度、改めてお話を聞きにいきます!

SOURCE:SPUR 2021年12月号「シオリーヌのご自愛SESSION」
text: Chiharu Itagaki

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