S 質の高いものを作るためにプロに入ってもらうことは必須でしたし、そらみさんならドラマのコンセプトや伝えたいこともキャッチしてくれるだろうと思ったんです。最初に、「扱うのは性教育だけど、これは生き方の話になるよね」という話もしましたね。
D そう、それを若い世代に伝えたかったんですよね。私も学校を訪ねて子どもたちと演劇を通した授業を行うのが好きで。自分のなかの「○○すべき」という固定観念に縛られないようにしてほしいという思いなど、エンターテインメントを通して伝わることってたくさんあると思っていましたから。
S ドラマ作りについては、本当に一から教えてもらいました。
D まずシオリーヌさんにどんな登場人物がいて、何が起こるのかなど大まかなあらすじを考えてもらい、私がそれを脚本にして、物語として膨らませて成立するようにしました。あとは群像劇にしたいというアイデアをもらったので、「舞台となる場所を設定しましょう」という話をしましたね。
S 軸となる舞台をどうするか考えたときに、「ユースクリニック」というアイデアが出てきました。「ユースクリニック」とは若者のための医療機関。スウェーデンでは有名な取り組みです。日本ではまだあまり知られていないけれど、いくつかあって、その存在の認知度を高めたいという思いもありました。スウェーデンでは各地方団体から補償が出ているけれど、日本では各施設が知恵を絞って自主的に運営しています。「駆け込み寺」としてあらゆる地域にユースクリニックができればいいなと思って、ドラマを通して周知することで、実現できるシステムが生まれるのを期待しています。
D ドラマを作るにあたって、実際にユースクリニックを運営している人たちにもインタビューしたんですよね。素晴らしい取り組みなのに、知られていないから「子どもたちが来ない」という現状を聞き、とても残念でした。
リアルな葛藤や知識を、物語にのせて届けたい
S 気をつけたのは、「高校時代のあの頃だったら、どう思ったかな」と立ち返ること。今では友達や恋人に対して堂々と話せることも躊躇したり、気まずい思いをしたことってあると思うんです。その肌感覚を一生懸命振り返りました。
D ふんわり想像するのではなく、「気持ちを16歳に戻して書く」ことを脚本家として気をつけました。あとは男の子の描き方が難しかったですね。性に関する問題は女性だけが苦しんでいるというわけではないはず。男性側の気持ちもしっかり考えて作りたかったので、周りの男性たちに丁寧にインタビューして進めました。今回医療従事者に監修してもらったのですが、間にシオリーヌさんが入ってくれたおかげで、正しい情報を物語に織り込んでいくという作業がしやすく、私としては新しいドラマの作り方に挑戦できた結果となりました。
S 医療従事者が使う言葉使いの“正しさ”は担保しつつ、「私だったらどう伝えるかな」という部分を考えたんです。コメントでは「助産師が学生の性行為を否定しないのはよくない」という類のご意見もいただきましたが、私が作りたかったのは”教育ビデオ”ではなかったので、この作品を見てそれぞれが考えるきっかけをつくりたかった。だから、リアルな物語を大切にしたかったんです。
D セクシュアルマイノリティの友人からは、「普通のカップルとして、同性同士のカップルが物語に登場するのがうれしかった」とコメントももらいました。
S 物語のなかに同性カップルが登場するときは未だセクシュアリティの葛藤が中心とされがちですが、その先には当然同じような悩みがあるはずなので、そこを描きたかった。そういった繊細な違いに関しても、そらみさんとはそもそも社会の見方の根本に共通する部分があるから、意思疎通のスピードが速く、スムースでしたね。
D 専門領域は違うけれどお互いをリスペクトしながら、ともに「エンターテインメントを作りたい」という目標に向かって進んだ結果が作品に表れていると思いますし、多くの方に見てもらえるものになってうれしいです。