【アンジェリーナ・ジョリー】とミツバチの親密な関係

世界中の女性たちとともに、ミツバチの保護と生物多様性の保全に努めるゲラン。"ゴッドマザー"として活動をサポートしているアンジェリーナ・ジョリーが来日し、その歩みについて語った

Angelina Jolie / アンジェリーナ・ジョリープロフィール画像
俳優Angelina Jolie / アンジェリーナ・ジョリー

1975年、アメリカ生まれ。人道活動家としても知られ、カンボジアにてMaddox Jolie-Pitt Foundationを立ち上げる。これまで約20年間の活動において、あらゆる分野で貢献。2021年、ゲランとユネスコの共同プログラムである「WOMEN FOR BEES」のゴッドマザーに就任。ゲランのビー アンバサダーとして女性養蜂家の自立をサポートしている。

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©Ian Gavan

「私はしばしば、自分がはたして正しいことをしているのか、もしくは努力が足りているのかと疑問を抱くことがあります。でも、この世界に生きる人間はみんな運命をともにしていると思っていますし、しかも人生は短い。日々家族のため、世界のため、他者のために自分の人生が役立っていると感じられることは私にとっては喜びであり、心にいくばくかの安らぎが得られる。自分が意味のある人生を歩んでいるなと実感できるんです」

俳優・映画監督として輝かしいキャリアを重ねる傍らで、人道活動家としても広く知られるアンジェリーナ・ジョリー。自分のモチベーションをこのように説明する彼女は、国連難民高等弁務官事務所の特使を長年務めたほか、自然保護や教育など多岐にわたる分野で献身的に支援活動に携わってきた。女性のエンパワーメントと生物多様性の保全を目標に掲げる、「WOMEN FOR BEES」もそのひとつだ。ミツバチは、植物の受粉を通じ、生態系の保全や農業生産においてかけがえのない役割を担うが、その数は激減。かねてからブランドの象徴であるミツバチの保護に力を注いでいたゲランが、ユネスコと組み2020年にローンチした、女性養蜂家の養成プログラムだ。

その主軸となるプログラムは、ユネスコが指定する生物圏保護区(注:豊かな生態系を有し、地域の自然資源を活用した持続可能な経済活動を進めるモデル地域)で展開され、すでにカンボジアやルワンダで実施。これにゲランが独自に連動する形で、日本や世界各国においても、現地のNPOなどと連携して女性養蜂家の育成支援が行われている。

慈しみ育てることは人間の生来の能力

アンジェリーナは、彼女自身にインスパイアされたフレグランス「モン ゲラン」をゲランが発表したことを機に結んだパートナーシップを経て、世界各地で養蜂技術を学ぶ女性たちのゴッドマザーに就任。「フレグランスも自然界と密接な関係がありますし、エレガントで豊かな歴史を持つゲランのようなブランドがミツバチの保護に取り組むことに、私は詩情のようなものを感じます」と話す。

「このプログラムに私が惹かれた理由がいくつかあって、まずは女性のエンパワーメントだという側面。また今の世界で若者は無力感を抱くことが多いと思うんですが、そういう意味で、ミツバチの世話をして自然の中で過ごすというライフスタイルそのものが、人間の魂にとって有益だと感じるんです。それに、もしもミツバチが世界から消えてしまったら、そこに待ち受けているのは、ぞっとするような現実。たくさんの動植物が死に絶え、飢餓を引き起こし、大規模な人口移動で難民が増加……というように、すべてがつながっている。だからこそ、ミツバチの保護を自然界の営みの中心に位置づけるべきだと考えています」

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日本で実施された「WOMEN FOR BEES」の卒業生たちと交流するアンジェリーナ(中央) ©Kei Nakajima

そんな思いを抱いて、ゴッドマザーとして世界中の女性たちと交流し、時には訓練に立ち会い、サポートしてきたアンジェリーナ。さる2月には密かに来日し、東京と大阪でそれぞれ「銀座ミツバチプロジェクト」と「梅田ミツバチプロジェクト」の協力のもと、「WOMEN FOR BEES」卒業生たちと対面。大阪では、ミツバチについて学び保護意識を高めてもらうため、ゲランが小学生を対象に開催している、Bee Schoolにも参加した。

「これまでに私が参加したBee Schoolの中でも、日本の子どもたちには特に深い感銘を受けました。彼らは大切なことを学んでいるのだと認識していたのか、すごく熱心で。きっと日本の教育制度が充実しているからなのでしょう。日本の女性たちも皆さん有能で優しくて、素敵な時間を過ごすことができました。これまでに世界各地を訪れましたが、印象深かったのはやはり、女性たちがそれぞれの体験から得た知識を分かち合い、友人関係を結んでいくプロセスに立ち会えたことですね。シスターフッドが広がっていると実感します。それにミツバチの世話は一見ソフトな仕事のようで、実際は科学的で、かつハードワークでもある。そういう仕事に女性たちが携わり、生態系の保全の最前線に身を置いているということに興奮します。思えば、体内で子どもを育てる性である女性にとって、慈しみ育てることは生来の能力。機会を与えられれば、他者を支えることを単に自分に求められる役割として捉えるのではなく、積極的に楽しめるのではないでしょうか」

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Bee Schoolに参加したアンジェリーナと、ゲランのジャパン アンバサダーである桐谷美玲 ©Kei Nakajima

女性の力を否定することは社会の前進を妨げること

また「WOMEN FOR BEES」を通じて彼女は、「世界中で特別な体験を分かち合い、今までにない形で女性たちと共感できた」と語り、苦難を乗り越えて前へ進もうとする女性の粘り強さを、再認識したとも言う。

「そもそも私は、女性の力と知性に疑いを抱いたことはありません。偉大な女性に育てられ、3人の素晴らしい娘に恵まれていますし、苦難に直面したときには女性たちの力を借りて克服しています。だから、いまだに女性の能力を軽んじる人がいることに困惑させられるんです。女性の力を否定すれば、自分の国の成長と社会の前進を妨げることになるのに。他方で、女性たちがお互いを支え合える仕組みを整える必要もあります。先ほども言ったように女性は元来慈しみ育てる性であり、力を合わせれば素晴らしいことを成し遂げられる。なのにこの世界は女性にとって生きにくい場所で、団結しにくい状況がつくり出され、女性同士で競い合わなければならないポジションに追い込まれがちですからね。私は男性たちを愛していますし、彼らが持つ力を高く評価しています。息子たちにも強くなってほしい。けれど、女性たちが同じだけの力を与えられ、発揮することの重要性も理解してもらえると信じています」

「WOMEN FOR BEES」はまさに、世界を女性にとって生きやすい場所にする試み。「参加した女性たちが今後も絆を維持し、習得したスキルをビジネスとして成立させて、自立の手段に役立ててもらえたらと願っています」と、アンジェリーナは未来への希望を語る。

「それにミツバチの保護には、誰でもいろんな形で貢献できます。花や木の苗を植えるのも素晴らしいし、生物の多様性について学ぶことも役に立ちます。まずは自然界で起きていることに敏感になることが重要ですね。その上で自分なりに可能なことを見つけ出してほしい。知ることで問題の深刻さに気づき、よりよい選択ができるようになるはずです」

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©Ian Gavan