「服を捨てない」ことで環境や社会に貢献するべく、販売した商品を回収、リユースする活動を20年近く続けているユニクロ。2020年からは「RE.UNIQLO」として、回収した服を新たな商品に生まれ変わらせる取り組みがスタートした。その第一歩となるのが、東レと共同開発したダウンのリサイクル技術。着られなくなったダウン商品から、効率的に羽毛を取り出し、リサイクルすることを可能にした独自のテクノロジーとは? ユニクロのダウンをリサイクルしている、滋賀県大津市にある東レの瀬田工場にSPUR.JPが潜入取材。服のリメイクが趣味というタレントの井上咲楽さんとともに、製造過程の一部をレポート!
「RE.UNIQLO」の一環として、これまでに100万着以上のダウン製品を回収
ユニクロを代表する冬のアイテムといえば、バリエーション豊富なダウン製品。ユニクロ各店舗に設置されている「RE.UNIQLO回収ボックス」を通じて、2019年からこれまでに回収されたダウンアイテムは、なんと100万着以上。提携倉庫で検品し、選別されたものが、東レの瀬田工場の保管スペースに運ばれてくる。
選別されたダウンは、一着ずつ金属探知機を使って、手作業で最終点検される。リサイクルの妨げになる残留物が残っていないかを確認したら、独自に開発された装置に投入。中に入っている羽毛(ダウンとフェザー)を取り出していく。
ゼロから開発した世界初の装置で、ダウンとフェザーを効率的にリサイクル
ダウンリサイクルの手法は、羽毛布団を手作業でかき出す作業が一般的。一度の作業で多くのダウンやフェザーを取り出せる反面、羽毛の吸引による健康被害のリスクが大きいことが指摘されている。また、縫製の複雑なダウンジャケットから、一着ずつ手作業でダウンとフェザーを取り出していては、時間もコストもかかってしまう。服から服への循環を目指すユニクロは、リサイクルダウンジャケット商品化のためには、機械で効率良く羽毛を取り出す必要があると考えた。そこで東レと共同開発したのが、この世界に一台しかないダウンリサイクル装置だ。
最終検品の終わったダウンの古着をコンベアにのせると、ファスナーもろとも裁断され、ダウンとフェザーを取り出すのに効率の良いサイズにカットされる。そのまま自動搬送で分離装置へ。気流をコントロールする特殊技術で攪拌し、生地とダウン/フェザーを分離し、ダウンとフェザーだけを取り出していく。静電気などで取りきれなかった細かいものを除けば、もともと入っていた羽毛の90%以上を自動的に抽出し、リサイクルに回すことができる、実に画期的な仕組みだ。
東レの設備開発を担当するエンジニアリング開発センターの岡尚樹さんは、装置の実現化までの道のりをこう振り返る。
「機械化の依頼を受けたのが2017年。まったくのゼロからの出発で、実験と改良を繰り返し、試行錯誤しながら、2020年にやっと生産化することができました。最初は、生地を裁断することにはすごく抵抗がありました。なぜなら、カットすることによってダウンやフェザーがつぶれてしまい、品質が下がってしまうからです。刃の材質や形状、切り方などに徹底的にこだわり、理想を突き詰めた結果、羽毛をつぶさずにきれいに切ることができるようになりました。裁断されていても、その品質はバージンダウンとほとんど変わりません。私たちが開発したこの装置を使えば、月に8万着のダウンのリサイクルが可能です。おそらく今、リサイクルダウンジャケットをこのようなかたちで量産できるのは、ユニクロだけだと思いますよ」
機械で取り出されたダウンとフェザーは、真空包装機で圧縮して袋に詰めて出荷し、ゴミや汚れを取り除く洗浄・乾燥工程を経て、縫製などを行う海外の工場へ出荷される。
リサイクルされたダウンを使用することによって服の廃棄量を抑えられるだけでなく、生産工程で排出されるCO2が20%削減できる*のもポイントだ。さらに羽毛を取り出した後の裁断くずやファスナー片においては、原料ポリマーに戻してから糸として再生する方法も検討されている。
*2021年秋冬 リサイクルダウンジャケット 羽毛製造工程におけるLCA算出値(東レ調べ)
目指すはサステイナブルな循環型社会。2030年度までに全使用素材の約半分をリサイクル素材などへ
ダウンを再利用し、新たに生まれ変わったリサイクルダウンジャケットは、バージンダウンを採用した製品と変わらない保温性を発揮。軽やかに羽織れてインナーダウンとしても活躍し、コンパクトに持ち歩けるのもうれしい。革新的な技術で効率良くリサイクルを進めるユニクロが目指すのは、2030年度までに全使用素材の約50%をリサイクル素材などに切り替えること。もしもクローゼットに眠っているユニクロのダウンがあれば、次に生かしてみてはどうだろう。