ありたい社会のために。いま、選択的夫婦別姓を考える PART 4

ジェンダー平等への機運が高まるにつれ、近年さらに活発化している「選択的夫婦別姓」についての議論。より理解を深めるために現状や歴史を参照しつつ、鼎談やインタビューを 通して、"結婚"にまつわる未来のあり方をじっくり考えてみたい

 

PART 4  ふたりで選んだ結婚の形

制度上の問題を内包しながらも、日々生まれる“夫婦”。カップルの数だけ事情があり、結婚の形も違う。さまざまな思いで、いまの形を選んだ2組に話を聞いた

 

CASE-1
大橋未歩さん & 上出遼平さん

photo: Yusuke Abe

“夫婦同姓で問題のない私たちも、問題が生じる人に強制したくない”

「私の場合は、自分も含め通称で仕事をしている人が多い職場環境なので、キャリアの分断について考えずに済みました。あとは兄弟もいるので“大橋姓” を残さないといけないという立場にもなかった。一度離婚も経験した上で、また改姓することにも抵抗はありませんでした」と語る大橋未歩さんは、上出遼平さんと結婚し“上出” に改姓している。コメンテーターとして出演する「ワイドナショー」で選択的夫婦別姓について問われたときには、明確に賛成意見を述べた。「私は人生の転機として改姓も楽しめましたが、選択できるようになれば改姓を苦痛と感じる人の苦痛を取り除くことができるし、そのほうがよいと思っています」。表明したことをきっかけに、新たな気づきもあったという。「さまざまなご意見をいただきました。私たちはまだ子どももいないので、“子どもの姓を選択する負担” については想像が足りなかったと思いますね」と話す。上出さんは、「世界には、ものすごく長い名前を持つ人たちもいる。一つひとつのパートに意味があると思うんですが、どこがどれだけ重要かは僕にはわからないし、姓や名ってどこまで意味があるのかなと思います」と世界の極地を旅してきた体験をもとに語った。「改姓に関しては当事者意識が薄かったのも事実。でも自分が大橋姓を名乗る状況を想像すると違和感を覚えるので、選択肢が増えることは重要ですよね。一方、夫婦間で姓を分けることで共同体としての共通項目が減り弱体化するという反対意見は、わからなくもないような気がするんです」と上出さんが話すと、対して大橋さんは「私は、姓を分けると家族の一体感がなくなると言われることにアレルギーがあるんですよね。多様な生き方自体を否定されている気がしてしまいます」と返した。夫婦は異なる人間の共同体。異なる意見があっても一緒に歩んでいける。ふたりの話は「選ばせる負担もあるけれど、強いられる苦痛を取り除けるなら、選択制のメリットのほうが大きいよね」というところに着地した。

おおはし みほ●1978年、兵庫県生まれ。テレビ東京を退社した後2018年よりフリーアナウンサーとして活動を開始。CMや「5時に夢中!」などに出演する傍ら、パラリンピックの応援大使も務める。
かみで りょうへい●1989年、東京都生まれ。テレビ東京にて不定期で放送中の「ハイパーハードボイルドグルメリポート」シリーズでは企画から編集まですべてを担当している。同名の著書も発売中。

 

CASE-2
水谷さるころさん & 野田真外さん

“私たちらしく生きるために、別姓のまま事実婚で夫婦となった”

1回目の結婚の際に、「(家庭に入ると思われて)クライアントに、仕事に意欲的じゃないと誤解された」、「各種変更手続きの煩雑さ」など改姓のデメリットを感じたという水谷さるころさん。「同姓になったことで自他の境界線が曖昧になり、相手の保護者のような感覚に陥ってしまっていたように思います。離婚後、自分はどう生きたいのかを改めて見つめ直し“事実婚”という選択肢を知ったんです」と語る。現在のパートナー・野田真外さんは結婚を決断した当時をこう振り返った。「僕も再婚ですが、初めの結婚でも改姓を経験していないので、あまり実感がないままに『僕が改姓してもいいよ』と法律婚を持ちかけました。彼女の実家が法律婚を望んでいると思っていたので、それがスムースだと考えたんです」。しかし野田さんも会社を経営する立場上、法人登記の変更などに伴う手続きは計り知れない。結果ふたりは、事実婚を選択した。「私の両親はマジョリティであることに安心するタイプで、初めは別姓を名乗る事実婚に懐疑的でした。あとは娘の私が心配で、法的約束がないと不利だとも考えていたのでしょう。制度上の不便さはないとプレゼンテーションを重ねて説得しました」と話す水谷さんも、いまは1児の母だ。ふたりは、出産のときだけ法律婚をして、その後いわゆる“ペーパー離婚” をした。そうすることによって子どもは野田さんの戸籍にある野田姓で、親権は水谷さんが持っている。「行政書士に相談して、夫婦間がフェアになる一番簡単な方法だと思って決めました。子どもは親が別姓でも“そういうもの”だと思っているようですし、わざわざ父親と母親の名字を確認する人もそう多くないですから、不便はありませんし、ましてや子どもをふびんだとも思いません」と水谷さん。初めは当事者意識が希薄だったと言う野田さんもいまは法改正を目指す活動に参加している。「さまざまな選択が認められる社会になってほしいと思うし、それは女性だけの問題ではありません」とその心中を語ってくれた。それぞれ初めの結婚を経験したあとに、“自分はどう生きたいのか”と真剣に考え、模索して導き出したのがいまのふたりの結婚の形だ。

のだ まこと●1967年、北九州市生まれの映像演出家。CM制作会社を経て、現在は有限会社グラナーテ代表。高校時代より押井守に傾倒しており、2020年には共著『押井守監督が語る映画で学ぶ現代史』を出版。
みずたに さるころ●1976年、千葉県柏市生まれのイラストレーター。コミックエッセイ『結婚さえできればいいと思っていたけど』がネットを中心に話題に。2回目の結婚となる野田さんとは事実婚。1児の母。

SOURCE:SPUR 2021年7月号「ありたい社会のために いま、選択的夫婦別姓を考える」
interview & text: Rio Hirai illustration: Aki Ishibashi

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