リアルな声から未来は変わる。生理の“ホント” を語るとき PART 1

女性同士でも意外と相談しづらい、月経にまつわるアレコレ。リアルな体験を話し合うことで、自分も、社会の未来も変えられるはず。今、改めて生理と向き合おう!

PART 1  それぞれの生理との闘い方

異なる分野で活躍し、それぞれ生理に悩んできた3人。経験をもとに、これから変えていきたいことを熱く語ってもらった

(左から)
中島沙希さん
なかしま さき●ファッションモデル。サステイナブルな情報を発信するプラットフォーム「EF.(イフ)」の共同創設者としても幅広く活動中。

EMILYさん
エミリ●フォークデュオバンド「HONEBONE(ホネボーン)」のボーカルとして活躍中。716日に公開予定の品川ヒロシ監督作、映画『リスタート』で主演を務める。

伊藤華英さん
いとう はなえ●競泳オリンピアン。一般社団法人「スポーツを止めるな」理事。アスリートの生理教育プログラム「1252 プロジェクト」リーダーも務める。

Q オリンピックに生理が重なる! 慣れないピル服用が裏目に…

中島 学校の水泳の授業では、生理中の子は見学していましたけど、水泳選手の方は練習を休めないですよね。みなさん、生理中はどうしているんですか?
伊藤 タンポンをつけて泳いでいる人が多いですね。低用量ピルを飲む選手も少しずつ増えていますが、まだ3割くらい。海外ではピル使用者が多いですよ。私は16歳のとき、海外の選手から「どうしてピルを飲まないの?」と聞かれたことがあって。そのときは、「ピルって何?」というくらい知識がありませんでした。トップアスリートは、大事な大会では月経期間をずらすのがベストであることも多い。でも現役の頃はどうしたら周期をうまくずらせるのか、選手もコーチもちゃんとわかっていなかったですね。
エミリ じゃあ、大会と生理が重なってしまったときは?
伊藤 よりによって北京オリンピックのとき、生理の期間がバッチリ重なってしまったんです。出場が決まって、それが発覚したのが3カ月前。急遽、それまで飲んだことのなかったピルを飲むことにしたんです。低用量ピルではなく、より成分の強いものでした。そうしたら体重が3〜5キロも増えてしまって。競泳は、ちょっとした体重の変化でも、記録が大きく変わる世界。仕方なく食事の量を調整して頑張りましたけど、悔いの残る結果になってしまいましたね。
中島 それは悔しいですね……。
伊藤 ピルは種類もさまざまだし、相性だってある。もっと早くからそれを知っていたら、違う結果になっていたかもしれない。そういう思いもあって、今年「1252プロジェクト」(※1)を立ち上げました。スポーツをする10代の女の子たちやその指導者に、生理の情報を届け、サポートする活動です。自分の苦い経験から、若いうちに知識を得ることが大事だと知ったので、どうしても10代にアプローチしたかったんですね。

Q 壮絶な月経困難症との闘い。ミレーナ®が人生を変えた

中島 私はピルを飲んだことがないんです。モデルをしているので、太るとか、浮腫むとか聞くと怖くなってしまって。エミリさん、ピルを飲んだことはありますか?
エミリ 私は生理人生が壮絶なので、中学生のときからピルを飲んでいましたよ。小6で迎えた初潮は失神するほどの激痛で、親に救急車を呼んでほしいと頼んだほど。始まった瞬間から月経困難症(※2)でした。その後、子宮内膜症と子宮腺筋症が発覚したんです。何しろ経血の量が多いので、貧血になって倒れてしまうし、夜はタンポンとショーツ型ナプキンを併用して、それでも4時間ごとに起きて、替えていたほど。あまりの痛みに、体がけいれんしてしまうこともありました。さらに、生理に伴う気分の上下もすごく激しかったんです。
伊藤 PMDD(※3)ですね。大変でしたね。
エミリ 当時はそういった言葉も知られていなかったから、とにかく不安で。15歳のときに、思春期外来で初めて月経困難症によるうつ症状だと診断されました。そう診断されるまでが本当に大変で、病院に行って嫌な気持ちになることも多かったです。男性の医師に「生理は病気じゃないんだから」と言われたときは、泣きながら帰りましたね。「ずいぶん痛がりだね」ともよく言われました。だからずっと、自分は弱い人間なのかと思っていた。つらかったですね。
伊藤 生理の痛みは人によってさまざまだから、女性同士でもわからない面がありますよね。もうちょっとオープンに語り合えるようになるといいんだけど。
エミリ 最後には子宮全摘出を考えるほど思い詰めてしまって。でも今の主治医に出会い、ミレーナ®(※4)を入れることに。
中島 ミレーナ®を入れている人、初めてお会いしました! いかがですか?
エミリ 入れてから6年たちますが、もう本当に幸せ! 私の場合は経血が完全になくなったので、ナプキンも買わなくなりました。完全に解放されましたね。
伊藤 ミレーナ®を入れるときに痛みを伴う人もいると聞くけど、どうでしたか?
エミリ 私はとても痛くて、入れてからしばらくは鈍痛が続きました。でも、生理の痛みに比べたら全然平気! 女性だからって、生理から逃げちゃいけないわけじゃない。私はミレーナ®を入れて、つらい生理から逃げ切ったという達成感があります。

Q 薬局でナプキンを買える男性がかっこいい!

中島 私は中2の頃に生理が始まって、それから一度も周期が不順になったことがないんです。でも量が多いので、モデルの仕事中は神経を使いますね。ポーズを変えようと動いた瞬間に不意に漏れてしまって、衣装を汚してしまったこともあります。スタイリストさんに申し訳ないことをしてしまってすごく後悔しています。ぴったりしたシルエットの衣装だと生理用ショーツやナプキンがラインに響いてしまうこともあって、悩みます。下着の色の透けも気になるから、安心できる生理用ショーツの上からベージュの下着を重ねばきすることも。さらにロケだと、そもそもトイレに行きづらいという事情があって。着替え用のテントの中でナプキンを取り替えるにしてもにおいが気になってできたことはありません。今も、生理になるたびに悩みながら仕事をしています。
伊藤 過酷! モデルさんは大変ですね。
中島 いえ、それより水着のほうが絶対に大変です(笑)! プールで漏れちゃったりはしないんですか?
伊藤 漏れちゃう子もいましたよ。水から上がった瞬間に経血が出ちゃったりね。みんなでフォローしてましたけど、でも男性のチームメイトやコーチには言えないですよね。スポーツ界全体に言えることですが、指導者は男性が多いんです。生理になると、腹圧が入りにくくなるので、水の中での感覚が変わるんです。キレがなくなるというか。でも当時、そういったことは男性のコーチには相談できなかったですね。
中島 もっと男性とも話し合いたいですね。

伊藤 「1252 プロジェクト」の「1252」は、1年52週のうち、平均12週が女性の月経期間だというところからきています。女性は、1年のうち12週間は血を流しながら生活している。それだけ月経に向き合っているんです。それを男性にも気づいてほしくて、こういうネーミングにしました。おかげですごく反響があって、学校で講義をしてほしいという声も多くいただいています。
中島 素敵ですね! もっと学校でも生理の教育をしっかりやってほしいです。私自身全然学ぶ機会がなかったので……。
伊藤 本当に。性教育の時間も男女一緒に行うことが大事。実際にナプキンやタンポンを触ってみる授業があってもいいですよね。
エミリ 私は、自分の生理があまりにもつらいから、学生時代から男友達にもオープンに話していましたね。だからホネボーンの相方(ギターのカワグチさん)も、一般の男性よりだいぶ詳しいはずですよ。ミレーナ®のことも説明しています。
伊藤 素晴らしい!
エミリ 「生理の話題を敬遠する男性はダサいよ」って言うようにしています。とはいえ、身近な男性に生理のことを話す難しさも感じています。たとえば私の父は、なかなか生理の話を聞こうとしてくれない。仲よしの父ですがそこは世代的にも難しいらしく、仕方ないのかなと割り切っているけれど、少し寂しいですね。
中島 私は、ナプキンをドラッグストアで買える男性ってポイント高いと思う。かっこいいですよね。
エミリ 本当に! 「恥ずかしくて買いにいけない」って言われちゃうと寂しいかも。

Q すべての人に、生理の知識が届く時代に

エミリ 私はミレーナ®を入れていてこの6年は生理がないので、最新の生理グッズからは遠のいていますけど、最近は月経カップや吸水ショーツも話題ですよね。
中島 私は最近、吸水ショーツを使い始めました! 最初は漏れるんじゃないかと疑っていたけれど、全然問題なかったです。経血を吸って乾燥してくれる。オーガニックコットンを使ったタイプもあって、肌にもやさしいし、洗って繰り返し使うからエコでもある。強い味方ができた気分です。月経カップはちょっと怖くてまだ抵抗があるから、私にとっては今のところ吸水ショーツが最適解です。最近は吸水ショーツを手がけるブランドが増えてきました。私のおすすめは、アンダーウェアブランドのayame、フェムテックブランドのNagiとオーガニックコットンブランドのPrestine。特にPrestineのパンティライナーは、月経時以外の日に最も欠かせないアイテムのひとつ。お気に入りのショーツをはいていると、生理中の気分も少しラクになる。こういうツールが、もっと当たり前になればいいですよね。
エミリ ミレーナ®も、すべての人におすすめできるわけではないけれど、私はなるべく多くの人に伝えたいと思っています。選択肢があると知っておくのは、すごく大事。
中島 私は環境問題のアクティビストとして発信をしていますが、エコの話をするときは、絶対に否定的な伝え方はしないようにしています。「ペットボトルは買っちゃダメ」とネガティブに言うのではなく、「マイボトルやマイバッグという選択肢もあるよ」と提案の形で伝えたほうがいいと思って。生理の話も同じだと思っています。現状の問題点や選択肢をみんなが認知していれば、もう発信する必要はないですよね。だから、エコにしろ生理にしろ、最終的にはこういう活動をやめるというのが目標です。
伊藤 すごくよくわかります! 生理にまつわる啓蒙活動も、学校の性教育が充実していたらやる必要がなくなる。生理の知識が当たり前に得られる時代が来るよう、若い世代のために私たちが頑張って変えていきたいですね。

※1 1252 プロジェクト

女子学生アスリートを中心に、10代の若者が抱える生理とスポーツにまつわる課題に対し、トップアスリートの経験や医療・科学的知見をもって教育・情報発信するプロジェクト。監督やコーチ、教師へのサポートも。2021年3月より本格始動。

※2 月経困難症

月経の開始に伴い、下腹部痛や腰痛、頭痛、嘔吐などの病的症状が起こる。子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症などの病気が原因となる器質性月経困難症と、病気が原因でない機能性月経困難症がある。

※3 PMDD(月経前不快気分障害)

生理前に心や体の不調が起こるPMS(月経前症候群)の症状のうち、心の不調が著しく、日常生活に支障をきたすほどの抑うつ気分や不安・緊張、情緒不安定、怒り・イライラが起こる。

※4 ミレーナ®

黄体ホルモンが付加されたT字型の器具を子宮内に挿入する子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS)。持続的に黄体ホルモンが放出され、子宮内膜を薄い状態に保つことができる。受精卵の着床を防ぐので避妊効果はもちろん、過多月経、月経困難症などの症状緩和に効果が。一度挿入すると、5年間は効果が持続する。ただし、排卵がなくなるわけではない。過多月経、月経困難症の治療法として保険適用を認められている。

SOURCE:SPUR 2021年8月号「リアルな声から未来は変わる 生理の“ホント” を語るとき」
photography: Kae Homma illustration: Ran Kobayashi cooperation: Rena Takahashi text: Chiharu Itagaki

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