好きな人と一緒に人生を歩みたい。そう思っても、今の法律や制度ではその権利が認められていない人たちがいる。「同性婚」をめぐる議論の歴史や当事者の声を通して、望む未来の実現に向けて一歩前進しよう。
PART 1 同性婚、今どうなっている?
賛成多数の「同性婚」がいまだに実現していないのはなぜ? パートナーシップ制度とは何が違うの?日本の同性婚をめぐるトピックや論点を識者に聞いた。
話を伺った人
松岡宗嗣さん
まつおか そうし●1994年生まれ。政策や法制度を中心としたLGBTに関する情報を発信する一般社団法人fairの代表理事。著書に『LGBTとハラスメント』(集英社)がある。
結婚の平等を考えるために 日本の30年を振り返る
ここ数年、「同性婚」に関するニュースをよく目にするようになった。性別を問わず結婚ができるよう求める「結婚の自由をすべての人に」訴訟(同性婚訴訟)は2019年2月から始まっている。東京、大阪、札幌、名古屋、福岡の5つの裁判所で今も裁判が進行中だ。過渡期を迎えている日本の同性婚は、現在に至るまでどのような議論や活動を重ねてきたのか。性的マイノリティに関する法律や政策の情報発信を続けている一般社団法人fairの代表・松岡宗嗣さんは、「それ以前にもさまざまな動きがあった」という前置きをしたうえで、次のように話す。「1990年にWHOが同性愛を精神疾患からはずす決議をしたのは大きかったと思います。それまで同性愛は病気とされていました。その認識で教育を受けた世代とそれ以降の人たちでは、同性愛者に対しての考え方にギャップがあると感じます」
司法の側面からは、1991年に提訴された「府中青年の家事件」裁判が画期的だったという。
「同性愛者の団体が府中青年の家に宿泊したところ、別の団体から差別的な嫌がらせを受けました。抗議も聞き入れられず、さらに施設や東京都から宿泊利用を拒否されたことに対して、団体側が訴訟を起こしたんです。そして1994年の東京地裁、1997年の東京高裁で勝訴。判決では“行政は、同性愛者の権利を守ることが求められ、無関心や知識がないことは許されない”とはっきり指摘されました」
松岡さんが次の転機として挙げるのは、2012年頃。ビジネス誌で、LGBT特集が組まれたことだ。
「ここで“LGBT市場”が注目を集めるように。社会的に認知されるという面ではインパクトがあったといえますが、取り上げられ注目されるのはゲイばかりであったり、経済主導の動き自体に批判もあります」
賛成多数でも変わらない 「同性婚」の難しさ
「さらに大きな転換点となったのが、2015年に渋谷区・世田谷区で制定されたパートナーシップ制度(2)。そこから性的マイノリティに関する報道が急増します。全国紙とNHKのデータによると、2006-’10年で『LGBT』という文字が入っている記事は27件だったのが、2011-’15年で666件、2016-’20年には4662件と桁違いに増えているそうです」
同年アメリカでは、連邦最高裁が全米で同性婚を認める判断を下した。
「世界の動きと連動しているんです。日本で同性婚訴訟が起こったのが2019年2月で、その3カ月後には台湾でアジア初の同性婚を認める法案が可決されました」
日本もあと一歩、と思いたいところだが、まだまだ道のりは長そうだ。
「2019年の意識調査(3)で、同性婚に賛成する人の割合は72・5%、男女別で見ても賛成が多数派を占めています。それでも同性婚が認められない。周りからも『なんで認められないの?』とよく聞かれますが、なぜか。それは、同性婚を認めると“伝統的な家族”の概念が崩れると考えている人たちが今の政治を担っているから。選択的夫婦別姓の議論とも通じる問題で、性的マジョリティの年配の男性などが政治の中枢を担っている状況が、大きな壁になっているんです」
だからこそ、同性婚に賛成の議員を増やすことが必須だと松岡さんは言う。
「秋頃までに衆院選があると言われているので、同性婚賛成の議員に投票してほしいですね。それから、同性婚の法制化を目指して活動しているMarriage For All Japanなどの団体への寄付や、性的マイノリティにサポーティブな企業(4)に注目するのも大事。地元の議員に手紙や電話で同性婚についての意見を伝えるのも有効です。マイノリティの問題はどうしても当事者の数が少なくなってしまうので、周りの人たちが声を上げたり、投票で意思表示をしたりすることが重要なんです」
※参考:「国際人権法の視点『世論が法律を作るのではない』性的マイノリティの人権、国家に求められる責務」
1. 同性婚ができないと……
愛し合っているなら結婚にこだわらなくてもいいじゃないか、で済まないのが同性婚の問題。相続ができなかったり、親権がなかったり。男女で結婚したら持つことができる当然の権利が、パートナーが同性であるというだけで得られないのだ。G7で同性間のパートナーシップを法的に保障していない国は日本だけ。意識調査(3)では同性婚への賛成が多数な中、いまだに法整備がされないのは、多様性と人権意識に欠ける政治家からの反対にも原因がある。
2. パートナーシップ制度と婚姻制度、何が違う?
同性婚と混同されがちなのが自治体による「パートナーシップ制度」。中身はまったくの別物だ。法的な効力はないため、遺言がなければ財産の相続が認められず、配偶者としての控除を受けることもできない。子どもを育てている場合も親権を持てないのが現状だ。それでも、行政が同性カップル等の存在を認めることの意義は大きく、当事者のエンパワーメントにもつながっている。パートナーシップ制度が広がっていくことは、同性婚へのステップになるはずだ。
3. 2019年には賛成多数の結果も
一般社団法人Marriage For All Japanが2019年に外部の調査会社を通じて実施した国内の同性婚に関する意識調査(1,495名が回答)では、全体の7割超が同性婚に賛成している。興味深いのは賛否の変化で、賛成と回答した人のうち4割は「以前は考えたこともなかった」という。同性婚に関する問題への認知が高まっている証拠だといえるだろう。また、同性婚が実現した場合、⾃分にとって「困る」と回答した⼈は全体の約3割だった。賛否の男女比は左のとおり。
4. 企業の動きもチェックして
法律がないなら、自発的に制度を用意すればいい。近年、同性カップルに法律婚と同等の福利厚生を提供する企業が増えている。KDDI株式会社では、同性のパートナーも配偶者として認め、祝い金や休暇など異性配偶者に適用する社内制度などを同性カップルにも適用している。性的マイノリティへの取り組みに積極的な企業は、毎年発表される「PRIDE指標」も参考になる。パートナーシップ制度の欠落を積極的に補う企業の動向にも、ぜひ注目してみたい。
SOURCE:SPUR 2021年10月号「 同性婚の今を知る」
edit: Sogo Hiraiwa illustration: Fuyuki Kanai