2021.10.22

尊重されるべき意思がある 。知っておきたい、「性的同意」のこと PART 2

最近頻繁に耳にするようになった「性的同意」というワード。テレビの向こう側にあるニュースの世界だけではなく、大人になった私たちの日常とも密接に関わっている。誰しもが尊重し合う社会のために、その必要性を再確認したい。

※本特集内には、性的同意に関連する被害の描写が一部含まれています。フラッシュバックなどの心配がある方は注意してご覧ください。

PART2 心理学と男性学の専門家と考える

パートナー同士、特に異性間カップルにおいて問題になることの多い"性的同意"について。男性学の教授として教鞭を執る田中俊之さん、臨床心理士のみたらし加奈さんとともに考える

田中俊之さん
たなか としゆき●1975年、東京都生まれ。男性学の視点から、多様な生き方を可能にする社会を提言している。著書『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社)ほか、共著など多数。

みたらし加奈さん
みたらし かな●1993年、東京都生まれ。臨床心理士。メンタルヘルスや性被害の正しい認知を広める活動をしている。著書に『マインドトーク あなたと私の心の話』(ハガツサブックス)がある。

「性的同意」が必要だとみんなが理解するために

――ここ最近「性的同意」という言葉を耳にする機会が増えました。社会の認識はどう変化しているのでしょうか。

田中俊之さん(以下T) 私も参加している内閣府の「男女共同参画局」が進めている「女性に対する暴力をなくす運動」(通称、パープルリボン運動)の2020年度のポスターが「性的同意」をテーマにしたものでした。「婚姻関係にあっても恋人同士でも、合意のない性行為は性暴力だ」というメッセージを前面に打ち出したものです。ただ一人ひとり、実感を持つまで届いているかというと、まだまだなのが実情でしょう。これからいかに認知を広げていくかが課題ですね。

みたらし加奈さん(以下M) 大学生の団体も増えていて学内で活動をしているところも多いです。「どこからが性暴力か」という認知が広がり、次に「相手とどう話そう」という段階ではないでしょうか。私の周りの人たちだと、女性同士のカップルのほうが「性的同意」について話しやすいムードがある気がします。痴漢や性的ハラスメントの被害経験のある女性も多く、不快な性的行為に実感があるからでしょうか。

 「性的同意」についての認識が足りていない現状の原因はやはり、日本の性教育が足りていないということに尽きると思います。僕ら世代はもちろん20代、30代であってもそう。もちろん誰もが性行為をする必要があるわけではないし、性的な欲求を抱かない人もいますが、日本で育ってきて性行為の可能性がある年齢に達している人は等しく性に対する教育が足りていません。

――そんななか、被害にあわないようにするにはどうしたらよいでしょうか。

 基本的には、知らない人にナンパされたり声をかけられたら走って逃げましょう。物理的に距離を取ることが重要です。子どもの防犯標語である「いかのおすし」(「知らない人について“いか”ない」「他人の車に“の”らない」「“お”おごえを出す」「“す”ぐ逃げる」「何かあったらすぐ“し”らせる」)と同じですね。元も子もないと言われそうですが、仕事関係の人やパートナーであっても、相手を変えようとするよりも、「離れる」のが最善策だと思います。あとは、然るべき機関に相談することです。

 私も田中さんに同意します。逃げてもついてくるようであれば、24時間営業のコンビニなど第三者の目があるところに逃げ込む。パートナーであっても、同意なく強要してくる相手とは距離感を考えたほうがいいですね。強要してくる相手は、「これをしてもつき合ってくれるんだ、こうすればセックスができるんだ」という成功体験が過去にあるから今そうしてくるのだと思うので、その価値観を壊す必要があります。そこまでする覚悟があれば、カウンセラーなどを介在させて、二者関係で完結せずに解決する方法を探る手段はあるかもしれないですね。

 二者関係に終始してしまうと状況が客観的に見られなくなり、話し合い自体ができないというのは異性愛のカップルにおいてとても多い悩みですね。

 個々に対人コミュニケーションの癖があります。お互いが持つその癖でコミュニケーションをとっているので、相手の出方に合わせてこちらの出方を変えたほうが話し合いがスムースにいくことは多いです。たとえば、エモーショナルな言葉を使う人にはエモーショナルな言葉を返したほうが伝わりやすい。「なんでこちらばかり譲歩しなくてはならないの」と思ってしまいますが、対等な関係性を築きたいのであればコミュニケーションの方法を変えると、あるときうまくいったりしますよ。不機嫌になってしまう人は、言語化できないからふてくされることがある。たとえば「コンドームをしてほしい」という要望に対して不機嫌になる相手には、論理的に訴えたとしてもうまくいかない場合も。そんなときは「自分も不機嫌になる」など相手のしている対応をまねてみるのもひとつの方法。そうすると客観視できるようになって改善されることもあります。それでも難しい場合は、見切りをつけるのも重要です。

反論されてこなかった成功体験を覆す

 異性間で女性が被害者になる場合、男性側が「女性を甘く見ている」というのが原因のひとつだと思います。だからこそ、言い返すときくかもしれません。言い返してあえて波風を立てない限りは、甘く見られていることを覆すのは難しい。「不快です」と明確な意思を伝えてぎょっとさせるのも手ですね。関係性としてなかなかそこまでできない場合は、たとえば妻帯者で子どもがいる相手には「お子さん何歳でしたっけ?」と言うなど、相手を萎えさせて男女関係の範疇に入れられそうになることから逃げてみたり……。

 一番静かな反抗は、まずは「笑わない」こと。真顔で見つめるだけでも、ぎょっとするはず。また、メールなどのメッセージは保存して、必要なときに第三者機関に証拠として提出できるようにしておきましょう。口頭の場合には、音声メッセージを録音できるといいですね。

 いまだに「女は主張しない生き物だ」と思っているから、女性アスリートのメダルを勝手に噛む政治家がいたりするんですよ。性行為に関しても自分が強要される経験をしないとわからない。「悪気はなかった」という言い訳が使われますが、悪意の有無は加害性とは無関係。言い訳として成立すると思っているのが問題です。対人関係で相手を傷つけないようにするには「加害者になる可能性がある」と自認しないといけません。

 加害行為に悪意が伴っているかが問題になるのは司法の場だけです。相手が不快だと感じたら、それは性被害と言えます。見落とされがちな婚姻関係やカップルでも性的同意は必要ですし、頻度やしてほしくないことなど、お互いの希望を話しておけるといいですね。

こんなときはどうすれば?

実際に性被害が起きてしまったとき、どうしたらいいのか。具体的な対処法をみたらし加奈さんがレクチャー。

Q 性暴力を受けました。どうしたらいいですか?
A まずは身の安全を確保してください。相手から離れ、物理的距離を置きます。相手が逆上する、追いかけてくる不安があれば、コンビニやスーパーなど、第三者が常駐しているところへ。次に、警察の性犯罪被害相談電話「#8103(ハートさん)」または性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターに電話しましょう。被害にあってから相談までの時間が短いほど、性的同意がなかったと認定されやすい場合もあります。警察署や病院へ行く際には、なるべく体を洗わず、着ていた衣類なども保存しておいてください。証拠となります。

Q ほかにも証拠になるものはある?
A  上に述べたとおり、被害にあったときの体や着ていた衣類は、有効な証拠になり得ます。被害者の体や衣類には、加害者のDNAや服の繊維が付着している可能性が高いからです。ほかには、動画や写真、ボイスレコーダー、防犯カメラの映像、メールやSNSの文面、被害にあった時間や場所を記したメモなども有効です。さらに、目撃者の証言も証拠となります。もし目撃者がいたら、連絡先だけでも交換しておくとよいでしょう。

Q ワンストップ支援センターってどんな機関ですか?
A 性犯罪・性暴力被害に関する総合窓口です。状況やニーズに応じて、警察や産婦人科医師、カウンセラー、弁護士などの専門家へつないでくれます。たとえば、センターが連携している産婦人科を受診すると、レイプの証拠保全とアフターピルを処方してもらえます。現在ではすべての都道府県に設置されていて、都道府県から医療費や相談費の助成が出ることもあります。居住地や勤務地、事件発生地など、ご自身や事件に関係がある地域のセンターに連絡するのがおすすめです。電話が苦手な人はSNSやメールで相談できる窓口もあります。また、被害にあってから時間がたっていてもOK。まずは気軽に相談を。

Q 相談窓口ってたくさんあるけど、どう選ぶべきでしょうか
A ポイントは、専門家が関わっているか。ウェブサイトなどで弁護士や産婦人科医、精神科医、カウンセラーなどと連携を取れているかを確認してください。それでもどこがいいかわからないという方は、内閣府が助成している団体を選ぶのもおすすめです。内閣府には性犯罪の専門家が在籍し、厳しい規定にのっとって助成する団体を選んでいます。

安心できるおすすめ機関
・身の安全を確保したいとき:#8103(ハートさん) 性犯罪被害相談電話(☎#8103)
・最大規模のワンストップ支援センター:性暴力救援センター・SARC東京 (☎03-5607-0799)
・心理的なケアを受けたいとき:よりそいホットライン(0120-279-338 岩手県・宮城県・福島県からは0120-279-226)
・電話での相談が難しいとき:Cure time(https://curetime.jp/
・性暴力を目撃したとき:ちゃぶ台返し女子アクション(http://www.chabujo.com/

Q これって性暴力?相談の基準がわかりません
A 性暴力に度合いはありません。内閣府のウェブサイトでは、性暴力を「望まない性的行為のすべて」と定義しています。挿入を伴う行為以外にも、路上でいきなり性器を見せつけられたり、パートナーが避妊に協力してくれなかったり、友人から裸の写真を送るよう強要されたり、上司に無理やり風俗店に連れていかれたりすることも含まれています。不快感を抱いた時点で、それは性暴力の可能性が高いのです。

Q 友人や知人が性被害に……。自分に何ができますか?
A 一緒にいてあげるだけでOK。ワンストップ支援センターに代わりに電話したり、病院や警察署に同行したりすることもできます。ですが、ただそばにいて、ごはんを作ってあげるだけでも励みになるかもしれません。被害について詳しく話すなら、専門家の前のほうが安心です。被害状況を話したり、聞いたりすることは、あなたの友人やあなた自身にとってもつらいこと。お互いにとってのトラウマにもなりかねません。

Q 街で性暴力を目撃! どうしたらいいですか?
A 公共の場で起きる性暴力を「ストリートハラスメント」と言います。体をさわられる、相手の体を押しつけられる、罵声を浴びせられる、性的なからかいを受ける……などはすべて該当します。こうした行為を目撃したときのために、第三者ができる「5D」が非営利団体のHollaback!により提唱されています。「Distract」は、友達のふりをしたり、道を尋ねたりして注意をそらすこと。「Delegate」は、周囲に助けを求めること。「Document」は、写真や動画を撮って証拠を残す手伝いをすること。「Direct」は、間に入って守ったり注意をしたり助けを呼ぶこと。「Delay」は、事件後に被害者に声をかけ寄り添うこと。行動するには勇気がいりますが、ぜひ覚えておいてください。

第三者にできる5D
Distract(注意をそらす)
Delegate(依頼)
Document(証拠を残す)
Direct(指導する)
Delay(後で)



SOURCE:SPUR 2021年12月号「知っておきたい、「性的同意」のこと PART 3」
illustration: Naomi Nose interview & text: Rio Hirai, Miho Oashi

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