女性として"関係ない"ではいられない。今こそ、 中絶について話し合おう

産むことも、産まないことも、自分の意思に従って選択できるように。現代を生きる女性としてきちんと知識を得て、深く考えたい妊娠中絶のこと。

産婦人科医・高尾美穂さんに聞く
中絶についてのQ&A

中絶の方法や費用、身体への負担について、まずは疑問を解消しよう

高尾美穂さん
たかお みほ●女性のための統合ヘルスクリニック  イーク表参道副院長。医学博士。産婦人科医として専門知識をわかりやすく伝える啓発活動に精力的に取り組んでいる。音声配信チャンネル「高尾美穂からのリアルボイス」も毎日更新中。

Q1 日本では中絶は認められていますか?
A 日本の刑法には堕胎罪があり、中絶は原則的には犯罪とされます。ただし、母体保護法の定める範囲で身体的・経済的理由により妊娠の継続が困難だと判断された場合など、妊娠満22週未満に限り、資格のある医師の処置による中絶が認められています。現在の日本では年間約15万件(2019年)の中絶が行われていますが、そのほとんどは経済的理由によるものという建前で行われています。母体保護法(当時は優生保護法)は1948年にできた法律で、現状にそぐわないことは否めません。妊娠を継続しないと自分で決めること、そして中絶することは、守られるべき女性の権利です。
Q2 日本で中絶するにはどんな方法がありますか?
A 日本では大きく分けてふたつの手術方法があります。ひとつは掻爬(そうは)法で、スプーン状の器具を使って子宮の中から内容物をかき出す方法。もうひとつは吸引法で、子宮内に管を入れて吸い取る方法です。これには電動と手動の2種類があります。日本では掻爬法が主流でしたが、吸引法に比べて子宮穿孔が起きやすいといった報告もあり、WHOは掻爬法を行うべきでないと以前から勧告しています。現状は、掻爬法から吸引法メインに移行しつつあります。受診する側も正しい知識を得た上で、医療機関を選ぶことが望ましいでしょう。
Q3 中絶するために必要なものは何ですか?
A 費用は医院によって異なるという前提がありますが初期は7万~20万円。中期だと40万円ほどかかり、出産育児一時金の適用を受ける場合は相殺されます。日本では、中絶に保険が適用されません。保険給付の対象になる「病気やけが」にあたらないからと考えられます。海外に比べて、割高に感じるかもしれません。これには多くの医療機関が保険診療報酬だけでは経営していけず、自費診療分の収益が大きいという医療システムの矛盾も関係しており、国が主導して変えていくべき問題です。また日本は、中絶に配偶者、パートナーの同意書が必要。WHOは当事者以外の同意は不要としているので、こちらも今後、改善されていくと思われます。
Q4 話題の「経口妊娠中絶薬」とはどんなものですか?
A 日本では今のところ認可が下りていない経口妊娠中絶薬ですが、海外ではすでに広く使われています。妊娠が確認されてから服用する薬で、手術することなく中絶が可能です。緊急避妊薬(アフターピル)と混同する人もいますが、こちらは性行為後72時間以内に飲むことで妊娠成立を防ぐ薬で、経口妊娠中絶薬とは別のものです。日本では昨年末に承認申請が始まり、順調にいけば1年ほどで認可される予定です。運用方法や価格についてはまだまだ議論が必要ですが、中絶の方法を選ぶのは女性の権利です。選択肢のひとつとして日本にも経口妊娠中絶薬があるべきですし、なるべくアクセスしやすい価格で提供されることが望ましいと言えるでしょう。
Q5 一度中絶をしてもまた妊娠することはできますか?
A 中絶に限らず医師は手術前に起こりうるすべてのリスクについて必ず説明をしなければならないので、不安になってしまうかもしれませんが、基本的に中絶後も妊娠は可能です。中絶によるリスクとしては、たとえば子宮内膜が薄くなることで受精卵が着床しづらくなってしまうケース、傷ついた内膜が癒着して妊娠の維持ができにくくなるケース(アッシャーマン症候群)などが起こりうる可能性はあります。ただし、実際にはかなりのレアケースです。

 

それぞれの国で、それぞれの悩みを抱えている
世界各国の中絶事情

中絶をめぐる状況や考え方は、国によって異なる。「中絶という女性の権利を勝ち取る戦いは、今も世界中で続いているし、これからも継続していく必要があります」と話すアクティビストの福田和子さんに世界各国の現状を聞いた

福田和子さん
ふくだ かずこ●「#なんでないのプロジェクト」代表。大学在学中の2018年5月に同プロジェクトを立ち上げ、女性の権利を訴える活動を始める。「#緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表。スウェーデン・ヨーテボリ大学大学院公衆衛生修士課程修了。

スウェーデン
中絶は、すべての妊娠した人の権利
中絶のための医療サービスが無料で提供されているスウェーデン。日本との違いは何より「中絶をする権利への意識の高さ」だと福田さんは言う。「スウェーデンには、1177という医療相談のためのコールセンターがあり、この機関が健康に関する情報提供も担っています。1177の『中絶』のページを開くと、最初に『スウェーデンでは中絶の自由が認められています。妊娠を終わらせるかどうかはあなた(妊娠した人)が決めるべきことです』と記載されています。中絶するのに理由は問われず、当事者以外の承認も必要ありません。さらに中絶する権利はスウェーデン国籍を持つ人に限らず、国内にいるすべての妊娠した人に当てはまります。これは心強いですよね」
スウェーデンでは2014年に、ある助産師がキリスト教の信仰を理由に中絶手術を担うのを拒否し、病院から解雇されたことを不服として、裁判を起こした。結果は、助産師側の敗訴に終わった。「信仰が理由であっても、中絶手術という職務を放棄するのは許されないと裁判所が判断したわけです。現地でも大きなニュースになりました」
そんな先進的なスウェーデンであっても、今、中絶の権利が危機にさらされているという。
「現在、支持率を伸ばしている政党には中絶に対して否定的なスタンスをとる層もいます。この政党の影響力がさらに拡大すると、現在認められている中絶の権利も制限されるかもしれません。現地のアクティビストたちが不安視しています」
ルワンダ
終身刑になることも。違法処置が蔓延
福田さんは昨年秋から半年ほど、ルワンダに滞在。女性の生殖にまつわるケアやサービスを積極的に推進していることで知られるルワンダだが、中絶は合法化されていない。中絶をした女性は場合によっては終身刑になることもあるという。
「未成年であれば中絶はできますが、成人は性犯罪・近親相姦・強制結婚による妊娠、または母体の健康を守るためといった理由以外での中絶はできません。それもあって、避妊法は豊富に用意されていて、無料で比較的簡単にアクセスできる状態が整っています。ただ、それでも中絶が必要になるケースはありますし、ルワンダでは年間6万件の中絶が行われているともいわれています。そのほとんどは、闇医者にかかるなど違法で危険な手段を用いています。この国でも中絶は社会のタブー扱いで、声を上げにくいテーマのまま。女性たちが危険にさらされ、とても根深い問題です」
アメリカ
中絶問題が政治のメイントピックに
「米国で中絶は政治イシューのひとつ。選挙の際には毎回、銃規制の問題などと並んで大きな議論を呼んでいます」と福田さん。1973年以来、最高裁判所は妊娠23週前後までの中絶を女性の権利として認めてきた。だが2017年のトランプ政権発足以降、中絶を規制する法案が通りやすくなっている。昨年12月には、妊娠15週以降の中絶を禁止するミシシッピ州法が最高裁で審理にかけられた。これが合憲だと認められると、半世紀ぶりに米国の中絶の基準が変わることになる。また昨年9月には、テキサス州でハートビート法と呼ばれる州法を施行。胎児の心拍が超音波で確認できるとされる妊娠6週目以降の中絶が禁止に。このハートビート法はルイジアナ、ジョージアなどの州でも可決されている。
「背景にあるのは、キリスト教保守派による激しい中絶反対運動。保守派の影響力が強い州で中絶医療行為に従事している人たちは、身の危険を感じながら生活していると聞きます」と福田さん。
一方で新たな試みとして、米食品医薬品局(FDA)は経口妊娠中絶薬の処方の際、オンライン診療に加えて郵送を解禁。自宅にいながらにして薬を手に入れることが可能など、州によって規制が異なるのが現状だ。
韓国
市民運動により、中絶が脱・犯罪化
日本と同様に堕胎罪が存在し、法の穴をかいくぐる形で中絶が行われていた韓国。だが2019年に堕胎罪が違憲と認められ、’21年1月から無効に。ただ、経口妊娠中絶薬の承認はまだ下りていない。
「堕胎罪の無効は近年のフェミニズム運動の高まりを受けて徐々に市民運動が広がり、その結晶のような形で起きた変化でした。SNSなどを通じて運動のネットワークが大きく広がったと聞いています。アクティビズムの喜ばしい勝利ですね」
ポーランド
政権交代により、中絶禁止が厳格化
以前から、ヨーロッパで最も厳しい中絶規制を行なっていたポーランド。2020年10月憲法裁判所が、それまで認められていた胎児の先天的異常を理由とする中絶を違憲とする判決を下した。これで、性暴力による妊娠や、妊娠している人の命にかかわる場合を除き、ほぼすべての中絶が禁止に。首都ワルシャワでの大規模な反対デモは、世界中のメディアでも大きく取り上げられた。
「2015年の政権交代が中絶厳格化の大きな契機となりました。アジアに住む私たちにとってヨーロッパは女性の権利に関して先進的な印象がありますが、その現状にも決して安心していられないという思いを新たにする出来事です」

 

"妊娠中絶後進国"といわれていることを知っていますか?
日本における中絶の問題と向き合おう

医療の技術面では先進国であるはずが、中絶に関するインフラが整っていないのが日本の現状。世界各国のように積極的な議論を交わすことで、未来を変えていこう

塚原久美さん
つかはら くみ●中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、大学非常勤講師。2020年9月RHRリテラシー研究所を立ち上げ、2021年3月には内閣府研修講師も務めた。著書に『中絶技術とリプロダクティヴ・ライツ―フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)など。

長田杏奈さん
おさだ あんな●1977年生まれ。ライター。美容をメインに、文化人のインタビューやフェムケアなど、幅広いジャンルの記事を執筆。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)。責任編集に『エトセトラ VOL.3 私の私による私のための身体』(エトセトラブックス)。

中島沙希さん
なかしま さき●1995年生まれ。雑誌やWEBメディア、広告などで多彩に活躍するファッションモデル。 2020年にモデルの SONYAとサステイナブルな情報を発信するプラットフォーム「EF.」を立ち上げ、環境問題に取り組む活動も注目を集めている。

中絶は現代女性にとって、必須のセルフケアです

長田 いきなりですが、中島さんは中絶の話を友達としたことはありますか。

中島 いえ、ないですね。避妊について話しても、中絶は話題にのぼりません。人には言いづらい話だから、経験があっても黙っている人が多いと思います。ただ、以前、放送されていた「透明なゆりかご」というドラマを最近見て、産婦人科医院の実情を知り衝撃を受けました。実際には、さまざまな事情を抱えて中絶する方が、たくさんいるんですよね。

塚原 そうですね。2020年のデータ(※1)を見ると、中絶件数は14万5340件で、1日約400件となります。決して少なくないですよね。だからこれは誰にでも起こり得る問題で、まずは、自分事として考えてほしいということですね。

長田 中絶をする人が何も特別ではなくて、避妊をしていても望まない妊娠というのは、一定の確率で起こり得ることがわかっています。たとえば海外は避妊用ピルが一般的ですが、日本で主流の避妊方法はコンドームです。コンドームは破損することがあるし、男性に主導権のある避妊法だから、女性が望まない妊娠をする確率は日本ではより高くなると考えられますよね。

塚原 はい。現代は、セックスのパートナーとの関係もさまざまなケースがあり、未婚だったり、低年齢だったりで、「産めない」という状況に追い込まれてしまう人はいると思います。だから避妊や中絶の問題は、現代女性にとって、必須のセルフケアなんですね。

中島 でも、日本では中絶の方法が遅れていると聞きました。先進国だし、医療の技術面ではむしろ進んでいると思っていたんですけど……。

塚原 残念ながら、私の認識では世界に比べて50年くらい遅れています。日本では、掻爬法と言って、金属の道具を使って、胎児を「かき出す」という方法がいまだ採用されています。ところがこの方法は、ある程度、胎児が大きくならないとできません。実は私は1980年代に中絶を経験しましたが、妊娠4週目くらいに気づいたのに、8週目まで待たされました。体にとって負担も大きいし、胎児はヒトの形になっていきますから、やはり罪悪感も生まれます。そういうところも、日本で中絶をタブー視する風潮につながっているように思います。海外では、70年代から吸引法といって、子宮に管を差し込んで吸い出す方法が使われていました。これだとまだヒトの形をしていない段階で処置できるので、心身ともに負担が少ないんです。これを知ったときは、本当にショックでした。

長田 母体に影響の大きい方法がいまだに使われているということは、体の権利が後回しにされてきたということですよね。吸引法も近年になりようやく選べる場所も増えてきつつあるものの世界的には経口妊娠中絶薬の時代になっています。

中島 私たちは、どんな方法があるのか、知っている選択肢が少ないので遅れていることすら気づかない感じですね。

塚原 今は、妊娠の初期に経口妊娠中絶薬を飲むのが、女性の体に最も負担が少ないと、WHOも推奨している時代なんですね。さらに今年3月に10年ぶりに発表された中絶に関する新しいガイドライン(※2)を読むと世界との差がより広がった印象です。ガイドラインでは、女性と少女の人権保護を軸に、安全な方法の中から、女性自身の価値観で、中絶の方法を選びましょうと記載されている。今やそういう時代になったんです。また、中絶を禁止している法律や、週数の制限も全部なくすよう提言されています。これと照らし合わせると、日本で行われている中絶医療がいかに時代遅れかが浮き彫りになります。

 

女性の人権や健康より、ビジネスが優先されている

中島 今、経口妊娠中絶薬の話が出ましたが、日本でも近い将来に、認可されそうだという話を聞きました。

長田 経口妊娠中絶薬は、欧米では1980年代頃から一般的に使われていますから、本当に「やっと」という感じですね。日本に入ってくるのに時間がかかったのはなぜでしょうか?

塚原 日本の場合、製薬会社が国に申請をするところから始まるんですが、昨年まで申請がなかったんです。日本の医師や女性たちが十分に声を上げてこなかったという状況もありますが、もうひとつは日本ではビジネスにならないんじゃないかと製薬会社が目算していたことが理由のひとつと考えられます。というのも、日本ではそもそも経口避妊薬(ピル)の使用率がとても少なく、今でも2〜3%(※3)です。そうすると、日本では経口妊娠中絶薬が売れないだろうと製薬会社は判断して、申請しなかったと考えられます。

長田 日本は最後の秘境みたいになってしまったんですね(苦笑)。でも、経口妊娠中絶薬が入ってきても、アクセスが悪いと使いづらいですよね。海外では、若い人たちに無料で処方したり、保険が適用されたりして、比較的安価で手に入るといわれていますが、日本では10万円くらいになりそうという報道もありました。

中島 ええっ、10万円?

塚原 そもそも日本では、中絶は保険がきかなくて、全額自費負担です。医師が自由に値段を決められるので、諸外国と比べると高いんですね。そこから考えると、経口妊娠中絶薬も高く設定しないと……という発想なんだと思います。日本の医療制度の構造上、中絶手術などの自費医療に頼らざるを得ない病院もありますから、経口妊娠中絶薬を安くすることができないのではないでしょうか。

中島 ビジネスが優先されている側面もあるということですか。

塚原 そうとも言えます。

長田 つまり女性の権利や健康よりも、時には製薬会社や医療側のビジネスが優先されてしまったり、子どもを増やして国力を強くしたいという国の思惑に翻弄されてきたのが日本における「中絶」なんですよね。結果、女性の人権がないがしろにされていると言えるのではないでしょうか。以前、発展途上国に人道支援に行った産婦人科の医師が、日本のピルや中絶薬のアクセスの悪さを耳にした現地の人に、「日本の女性は大丈夫?」と逆に心配されたと聞きました。避妊、中絶に関しては、支援に行った先で心配されてしまうレベルだということですよね。

塚原 日本とのギャップがありすぎて驚くかもしれませんが、コロナ禍で世界はさらに先へ進んでいます。病院に行かなくていいように、自宅に経口妊娠中絶薬を郵送してもらい、自分で飲むこともできるようになりました。そういう状況も大きく報じられていなくて残念ですね。

中島 ところで、そもそもなんですが、「中絶」というのは、日本では、法的にはどういった扱いなのでしょうか?

塚原 じつは日本には、今でも「堕胎罪」というものがあります。これは100年以上前、明治時代にできた刑法ですが、いまだに有効となっていて、中絶は罪になるんですね。その一方で抜け道が用意されていて、理由があれば中絶が可能になっています。それが第二次世界大戦後の1948年に成立した「優生保護法」で、1996年からは「母体保護法」と名前を変えて施行されています。
母体保護法では、妊娠の継続や分娩が、身体的、または経済的な理由で、母体の健康を著しく害する場合に、中絶が許されることになっています。性暴力による妊娠も中絶が可能です。現在は、経済的な理由を掲げて中絶する人がほとんどだと思います。

長田 でも、実際は経済的な理由ばかりではないんですよね。

塚原 別の事情で望まない妊娠をした人も、表向きは「経済的な理由」ということにして偽っている。法律のせいで、そういう後ろめたい気持ちにさせられるところも、日本で中絶がタブー視されている原因のひとつだと思います。

 

どんな選択をしてもスティグマにならない社会をつくりたい

中島 なるほど。ただ、若い世代だと、望まない妊娠をしたときに、悪いことをしてしまったとか、恥ずかしいと思ったりして、なかなか親にも言えなかったりしますよね。そういう方に対してのアドバイスはありますか。

長田 私は望まない妊娠をした人が悪いわけではなくて、ひとりで悩まなければならない状況をつくった社会や周囲の大人たちに責任があると思うんですね。自分を責める必要はないし、話せる関係が築けていないなら何も親に打ち明けなくてもいいので、信頼できる大人に相談してほしいと思います。北欧などには、ユースクリニックという場所があるんですね。若い人たちが体のことを相談できるところで、アクセスのいい場所にある。小学校の高学年になると、遠足みたいにみんなで見学に行って、「あなたのかかりつけはここです。性の悩みがあればいつでも来てね」といった感じで。たくさんの種類のコンドームが選べる部屋があったり、子宮内避妊具も無料で装着してもらえるそうです。

中島 いいですね。日本にもあったら、すぐに相談できるのに。

塚原 だから中絶の話はやはり性教育とセットだなと思います。包括的な性教育があり、性について自由に語られる土壌があって、初めて中絶も日常のこととして語られるようになるんですよね。

中島 今日は勉強になりました。これまで世間的に中絶は話しづらいタブーのようなものだと思っていたのですが、そこにはいろいろなバイアスがかかっていたことがわかりました。日本における中絶の議論の機会の少なさや健康という視点から見ると別のものが見えてきました。

長田 私たちの体や性の権利を語る上では、とても大事な話ですよね。望まない妊娠をして、中絶したいと思ったときに、世界標準の安全な選択肢がいくつかあるべきだということ。それを当事者が主体的に選ぶことが可能で、どの方法にも簡単にアクセスができる制度をつくっておきたいよね、ということです。いろいろな人に話を聞くと、家族にも友達にも話せなくて、ひとりで悩んできたという人が本当に多いからこそ、当事者同士がつながるのも難しくて、問題が可視化されづらい。妊娠はひとりではできないのに妊娠した人にばかり負担と責任を負わされてしまう今の状況は変えていかないと。

塚原 そのとおりですね。タブー視されない選択肢がたくさんあって、どの選択肢を選んだとしてもスティグマ(烙印、汚名)にならない社会をつくっていかなければなりません。産むか、産まないか、という選択肢を女性が自由に持てて、どっちを選択したとしても差別されずに、支援される制度を整えることが今、早急に求められていると思います。

長田 道のりはなかなか遠いですね。

塚原 でも、声を上げないことには、変わっていかないですから。今はSNSなどもあるので、昔の「草の根運動」に比べたら、社会に拡散するスピードも速くなっています。そういうツールをうまく使いながら、これからの女性たちのために社会を変えていきたいですね。

中島 はい。私もまだまだ情報が整理されてなくて、もやもやするところがありますが、もっと勉強して、SNSなどでも発信していけたらと思います。

※1 厚生労働省による「令和2年度の人工妊娠中絶数の状況について」より。

※2 「中絶を安全なものとするためのガイドライン」
https://www.who.int/news/item/09-03-2022-access-to-safe-abortion-critical-for-health-of-women-and-girls
※3 国際連合による「Contraceptive Use by Method 2019」より。

 

『中絶がわかる本 MY BODY MY CHOICE』(アジュマブックス/2,750円)

ノンフィクション作家であるロビン・スティーブンソンによる、女性の権利の視点から中絶を考える性教育と人権の本。塚原久美さんが翻訳を、福田和子さんが解説を担当し、出版元であるアジュマブックスの代表・北原みのりさんが監修を務めた。写真やイラストなどを用いながら世界における中絶についての情報がわかりやすく解説されているほか、日本の現状についても加筆され説明されている。

 

SOURCE:SPUR 2022年7月号「女性として"関係ない"ではいられない 今こそ、 中絶について話し合おう」
illustration: Ayumi Takahashi text: Chiharu Itagaki (中絶についてのQ&A,世界各国の中絶事情), Hiromi Sato (日本における中絶の問題と向き合おう)