野生動物を守るために、知るべきこと【動物ジャーナリスト・森啓子さんインタビュー】

密猟、森林伐採、内戦などにより、世界各地でさまざまな野生動物が脅威にさらされている。自ら声を上げることもなく静かに消えゆく動物たち。しかし生物の多様性を失えば、生態系は崩れ、やがて人間に害が及ぶことに。どうしたら野生動物を守ることができるのか、専門家とともに考えた

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森 啓子

もり けいこ●動物ジャーナリスト、フォトグラファー、映像ディレクター。1990年代より、さまざまな野生動物のテレビ番組を制作。2020年、ゴリラの保護を目的としたNPO法人「ゴリラのはなうた」を設立。

©Jordi Galbany Casals

動物ジャーナリスト 森啓子さんが見た、野生のゴリラの生き様

数々の動物ドキュメンタリー番組を手がけ、20年以上野生の生物を撮影してきた森啓子さん。ルワンダの地でマウンテンゴリラを見つめる彼女に、その奥深い生態を聞く

動物ジャーナリスト 森 啓子
©Keiko Mori / Rwanda Development Board

現在、絶滅危惧種に指定されている野生動物は約6300種類。アフリカ中部に生息する大型類人猿のゴリラもそのひとつ。ゴリラはなぜ危機に瀕しているのか。長年マウンテンゴリラの保護活動に関わってきた森啓子さんにルワンダとのリモート取材で話を聞いた。

中央アフリカの内陸に位置し、緑豊かな丘陵が連なる国・ルワンダ。しかし1990年代、民族対立が激化。ジェノサイドで100万人が殺されるなど、内戦状態が長く続いた。その間、森は荒らされ、多くの野生動物が食用として乱獲されることに。現在は、国の保護政策もあり、ゴリラは増えているものの、新たな問題も生じている。

NPO法人「ゴリラのはなうた」の理事長・森啓子さんは、13年前からルワンダに居を構え、一年の大半をここで暮らしながらゴリラの撮影を行なっている。

「東京には撮影機材のメンテナンスに帰るくらい。ルワンダは雲霧林で湿気が多いので、機材がよく壊れるんですよ。内戦は終わったので危険はないですけれど、水道や電気はしょっちゅう止まるし、ネット環境も不安定で暮らしは不便ですね」

それでもここにとどまるのは、「ゴリラが好きで好きでたまらないから」と笑う。

「ゴリラは、オスだと身長170センチ、体重も200キロほどに育つ大型の類人猿です。性格はやさしくて包容力があって、漆黒の艶やかな毛並みは驚くほど美しい。威風堂々としたその姿は多くの人を魅了しています。

私がフィールドにしている火山国立公園にはゴリラを見学するツアーもあって、1時間1500ドルと高額ですけれど、たくさんの観光客がいらっしゃいます。本物を見ると、皆さん、『こんな素晴らしい生き物がいたのね』と感動して帰っていかれる。私も彼らのひとつひとつの行動を写真と映像に収めたくて頑張っています」

動物ジャーナリスト 森 啓子
©JEAN BOSCO NOHERI @Gorilla Doctors
シルバーバックのラムチョップ
©Keiko Mori

森さんが初めて遭遇したシルバーバックのラムチョップ。物憂げで哲学的なまなざしが印象的

コンゴで森さんが出会った子どものゴリラ・ムコノ
©Keiko Mori

コンゴで出会った子どものゴリラ・ムコノは、罠にかかり、最期は両手を失った

今ではゴリラの保護活動がライフワークとなっている森さんだが、じつは最初から野生動物に興味があったわけではない。大学卒業後はとくにやりたいこともなく、富士銀行(現在のみずほ銀行)に就職。1年半で転職し、フジテレビで料理番組を制作していたという異色の経歴の持ち主だ。ところがドキュメンタリー班に異動になり、なんとか自分の企画を通したくて、当時はまだ人が手をつけていなかった絶滅危惧種の動物をテーマにした企画書を書いた。そのひとつがゴリラだった。

「大学時代、山岳部だったので体力はあったし、秘境にも強かったんですけれど、ゴリラの撮影の厳しさは、まったく理解していませんでした。まずは日本のゴリラ研究の第一人者・京都大学霊長類研究所の山極壽一先生に電話でご相談したところ、『危険だから無理、無理』と一蹴されてしまって。山極先生は当時コンゴ民主共和国でヒガシローランドゴリラの研究をされていたんですが、内戦が激しくて、危ない目に遭われていたんですね。

ところが、私が別のマウンテンゴリラの生息地、ジョンバへ行こうとしているのを知ると、『ジョンバはさらに危ない、僕のフィールドに行ってみましょう』と同行を承知してくださったのです。犬山の研究室をお訪ねすると開口一番、『森さん、君は命が惜しくないのか』って。私は『はい、惜しくないです』と答えました。もう引き返せませんでした。

もちろん覚悟はできていました。つねづね野生動物を取材しながら、いつ何があってもおかしくないと思っていて、まだ小さかった娘にも、『お母さんが動物に襲われて死んでも幸せだったと思って』と言っていたんです。

危険を冒して、先にロケハンに入ってくださった現地のコーディネーターの河邉智弘さんには『ゴリラは命をかけるだけの価値がある動物です』と言われて、そんなに素晴らしい動物なのかと感動して。行く前から期待が高まりました」

目と目で通じ合えるゴリラ。初対面で心を打たれました

緑豊かなルワンダの雲霧林
©Keiko Mori / Rwanda Development Board

緑豊かなルワンダの雲霧林

 

ところが現地に入ってみると、想像以上に過酷な状況だった。森には銃を持った兵士が潜み、ゴリラは人間を恐れて姿を見せない。

「ゴリラの観察には、〝餌づけ〟ならぬ〝人づけ〟が不可欠です。人がそばにいることに慣れさせることで、初めて普段の彼らの暮らしぶりが観察できるんですね。現地のトラッカーやレンジャーがゴリラの群れを日々追跡して、人づけの状態を保ってくれているから研究者はゴリラのそばに寄れるわけです。ところがコンゴは内戦状態が続いていたので、人づけが完全にとれていた。人の気配がすると森の奥へ逃げていっちゃうんです。

また、その森にはゾウがいたのですが、食用のために200頭ものゾウが殺されてしまいました。ゾウがいれば草むらを踏みならしてくれるけれど、ゾウがいないので草木が荒れ放題。私たちは草の茂みをかき分けるように匍匐前進で進むしかありませんでした」

数日が過ぎ、もうゴリラの映像は撮れないかもしれないと諦めかけたある日、一行が藪から抜け出ると、数メートル先に立派な体格のシルバーバックがいた。

「ゴリラのオスは、12歳くらいから背中が白くなり始めて、15歳くらいになると背中が真っ白になるので、成獣のオスはシルバーバックと呼ばれます。このとき出会ったのは、ラムチョップという名前の大きなシルバーバックでした。すると山極先生がスッと私のそばに来て、『シルバーバックが森さんを見ている。見つめ返せ!』って言うんです。サルは見つめると挑戦してると思われて飛びかかってくるけれど、ゴリラは見つめられたら見つめ返さないと失礼なんだと。

続けて山極先生が『目をそらすな! 目で語れ!』と言うので、必死に見つめ返しながら、『私たちはあなたの敵じゃなくて、あなたたちを守るために来たのよ』と目で語りました。そうしたらシルバーバックが『グッフ~ン』と低くうなると、後ろを向いて草を食べ始めたんです。これは納得したときの鳴き声で、山極先生が、『よし、これで撮影ができる!』って。私は『ゴリラって目で通じ合えるんだ』と、すごく心を打たれました」

メスゴリラのファット
©Keiko Mori / Rwanda Development Board

意中のオスとうまくいかず、移籍を繰り返したメスのファット。「恋にアグレッシブな姿勢は、人間の女性も見習うべき」と森さん

ルワンダの火山国立公園
©Keiko Mori / Rwanda Development Board

半分が農地になり、面積が激減しているルワンダの火山国立公園

オスゴリラのドラミング
©Keiko Mori / Rwanda Development Board

オスのドラミング。胸をたたいて、ほかの群れのメスに強さをアピールする

 

ゴリラの群れは、リーダーのシルバーバック一頭にメスが数頭というハーレムのような構成で、危険を察知したときは、まずシルバーバックが出てきてチェックする。ラムチョップの合図で仲間も安心し、メスや子どもたちも撮影することができた。この出会いをきっかけにゴリラに魅了されていった森さん。

「このとき、左手のない子どものオスゴリラと出会いました。人間が仕掛けた罠のワイヤーにひっかかって、手首から先が腐れ取れてしまったんですね。私たちはその子にスワヒリ語で『手』という意味のムコノという名前をつけました。ムコノはすごく可愛くて負けん気が強くて、子ども同士のケンカでも必ず勝つんです。ゴリラの世界では群れを率いるのにドラミングの音や迫力がとても大切です。でもこの子なら片手のドラミングでも群れを率いるようになるかもしれない、10年通ってその姿を撮影したいと思いました」

ところがその後、ショッキングな出来事が。「半年後に森に入った写真家から、『ムコノは右手も失って足で草を食べていた』と聞いたんです。なんて残酷な……と思っていたら、その直後、今度は山極先生が人づけしていた95頭のゴリラが全部殺されてしまったんですね。食べられて、骨が山積みになっていたって……。それ以来、ムコノの姿も見ることはありませんでした」

人間の勝手で、無残にも命を奪われていく野生動物たち。 「世の中には、『野生動物が絶滅して何か困ることがあるの?』って思う人もいます。でも、ゾウが草木を踏みならし、ゴリラが森をかく乱することで雑草が抑えられて、森は本来の形を保てるんです。小さな虫や鳥も木の実を採ったり、土を耕したりして森を育てていて、それがひとつ欠ければ生態系が変わり、森が消滅してしまう。それはやがて地球の裏側にいる私たちの暮らしを脅かすことにもなると気づいてほしいと思います」

国立公園の面積が半分になり、ゴリラの衝突が頻発している

ゴリラのタラジャ
©Keiko Mori / Rwanda Development Board

森さんの人生を変えたタラジャ。オスたちを渡り歩き、強く生きている

 

森さんが再びゴリラの撮影に挑んだのは、それから10年後の2008年。

「内戦が終わり、ルワンダにやっと入れるようになったと、山極先生からご連絡をいただいて、火山国立公園にマウンテンゴリラの撮影に行くことになりました。そのときに『ああ、やっぱり私はゴリラが好きだな』と感じましたね。10年の間にたくさんの大型動物を撮影しましたが、『通じ合う』というような体験ができたのはゴリラだけだったんです」

またこのとき、メスゴリラの自由奔放な生き方に共感を覚えた。

「あるグループに3、4歳くらいの可愛い双子がいたんですけれど、ある日、双子がしょんぼりしているんです。どうしたのかと思ったらトラッカーが『お母さんが昨日、近くの群れに移籍(トランスファー)しました』と。『移籍って?』と聞いたら、メスはオスが気に入らないと簡単に捨てて、ほかのオスの群れに移ってしまうと言うんです。人間でいえば再婚ですね。ただ、子どもを連れていくと、新しいオスに殺されてしまうので、子どもはもとの群れに置いていくと。驚きました。

群れ同士が衝突するインタラクション
©Keiko Mori / Rwanda Development Board

群れ同士が衝突するインタラクションが頻発。多くの子どもたちが犠牲に

殺された我が子を背負って歩くタラジャ
©Keiko Mori / Rwanda Development Board

殺された我が子を背負って歩くタラジャ。傷跡が子殺しの壮絶さを物語る

 

メスのゴリラは、子どもが3歳半くらいでお乳を飲まなくなると、『次は誰の子どもを産もうかな』ってきょろきょろし始めるんです。近くでオスが胸をたたくドラミングの音が聞こえてくると、『いい音を出しているわ。大きいオスなのかしら?』って(笑)。子どもには縛られない。自分の恋のほうが大事なの。しかもメスのゴリラは年を重ねるほどモテるので、死ぬまで何度も移籍するメスもいて。『まあ、素敵。私はやっぱりゴリラを追うわ!』と決めました(笑)」

一方、オスは子育て上手なイクメン揃い。メスに細やかに気を使う。

「メスは子どもが1歳を過ぎたら、子育てをオスに任せちゃうんです。子育てできないオスはモテないので、ちゃんとグルーミング(毛づくろい)をしたり、遊んであげたりする。ゴリラの群れは、体の大きなオスが牛耳っているように見えて、じつはメスがリードしているんです」と感心する森さん。さらにタラジャという名のメスとの出会いが、森さんの人生を大きく変えることに。

「タラジャは15年間で12回も移籍を繰り返したメスです。好きなオスを求めて移籍するならいいのですが、彼女の場合、その多くが群れ同士が出会って衝突するインタラクションによる移籍でした。インタラクションでは、子どもを殺された母親は、殺したオスのほうにつくので、子どもは狙われます。タラジャも5頭のうち4頭が子殺しに遭っています。殺された子どもを背負って、森を移動するタラジャの姿は本当に痛々しくて……。増え続ける子殺しを何とか減らせないだろうかと思うようになりました。『ゴリラに一生を捧げよう』と決めたのはこのときです」

タラジャとその子どもたち 〜移籍と子殺し〜

タラジャとその子どもたち
©Keiko Mori

オスのパブロの群れを発端に、ギラネザ→インシュティ→ギラネザ→マフンゾ……と、12回もの移籍を繰り返したタラジャ。「現在は、自分の子どもを2頭殺したセガシラという若いオスに惚れて幸せに暮らしていますが、それまでに数々のインタラクションに巻き込まれ、4頭もの子どもを失いました」(森さん)

 

実際、ゴリラの子殺しは、なんと以前の5倍にも増えているという。

「原因は、この60年で国立公園の面積が半分以下に減ってしまったことです。一方、手厚い保護により、ゴリラの数は増えているし、内戦が続く隣国コンゴからも逃げてくるので、ゴリラがひしめき合って暮らしています。2007年以降インタラクションの機会が3倍に増え、子どものゴリラが3歳まで生き延びる確率が50%まで落ちてしまいました」

森の食べ物が不足して、ゴリラが畑のユーカリやタケノコを食べてしまうことも問題に。そこで現在、国立公園を広げるために、地域の人たちに働きかけている。

「国立公園の面積が激減した理由は、人口爆発です。ひとつの家庭に平均5~6人の子どもが生まれます。親は子どもに農地を分け与えるのですが、ひとり6分の1の農地では子どもは食べていけません。それで国が森を開墾して農地にする許可を出したんですね。せっかく開墾した土地をゴリラのために出ていけと言われても住民は納得できませんよね。

そこで私たちは、彼らが土地を移っても収入が得られるように対策を講じたり、学校でなぜ森を拡張する必要があるのかを教えています。映像や写真を見て、子どもたちが『ゴリラもお母さんが子どもにキスするんだな』とシンパシーを感じてくれれば、彼らが大人になったときに、きっとゴリラのためになる決断をしてくれる。これは10年後を見据えた教育活動で、私の使命だと思っています」

「ゴリラのはなうた」というNPO法人の名前にもあるように、「ゴリラは機嫌のいいときには、はなうたを歌う」のだそう。 「大好きなアザミの葉っぱなんかを食べているときに、自然と歌が出てくるんですね。ゴリラがいつもはなうたを歌っていられるような環境に、アフリカの森がいつかなってくれることを願っています」

森さんが教育活動している小学校の生徒たち
©Keiko Mori

森さんが教育活動している小学校の生徒たち。授業では写真や映像でゴリラの生態を解説している

※今回の企画にあたり、ご協力いただいたダイアン・フォッシー国際ゴリラ基金様、カリソケ研究所様、ルワンダ開発庁様及び火山国立公園様にお礼申し上げます

過剰な野生動物のペット利用が生態系の多様性を壊す

日本でも珍しいペットとしての需要が高まっている野生動物。そんな人間の欲望が、彼らの絶滅の危機を加速させていた

ペット利用が野生動物を絶滅の危機に!?

所狭しと動物たちが展示、販売されているペットフェア
©TRAFFIC

所狭しと動物たちが展示、販売されているペットフェア。日本の至るところでこうしたイベントが行われているという。「世界では爬虫類の3割以上が展示され、その中の9割で野生由来の個体が流通していることが確認されました」(浅川さん)

「近年日本では、野生動物がペットとして人気を集めています。飼われているのは東南アジアに生息するオオトカゲからアフリカ原産のサルまで多種多様で、その市場は拡大しています。昔はコレクターを中心に需要があったのですが、最近は至るところでペットフェアなどが開催されていて、誰でも気軽に野生動物を見て、触れ合えるようになりました」

そう語るのはWWFジャパンで野生動物のペット利用の問題に取り組む浅川陽子さん。確かにエキゾチックアニマル(犬や猫以外の小動物)は、今やちょっとしたブーム。しかしその中に含まれる野生動物のペット利用には、さまざまな問題が潜んでいるという。「たとえば絶滅危惧種に指定された野生動物(※)のうち11パーセント(約1900種)がペットまたは展示利用されていることがわかっています。乱獲や密猟によって野生動物が減少、絶滅すれば、生物多様性に大きな影響を及ぼします。またペットの野生動物が逃げ出したり、飼い主が遺棄してしまうことの害も大きいですね。放たれたペットが、その地域に生息していた在来種を脅かしたり、農作物を荒らして経済的な打撃を与えたり。中には危険なウイルスを媒介する動物もいます。自然環境や生態系に悪影響を及ぼすことを考えると、野生動物のペット利用の在り方を社会全体で見直す必要があると思います」

もちろん野生動物の取り扱いには規制もある。ワシントン条約は、絶滅の恐れがある野生生物の国際取引(輸出入)を制限する条約だ。「取引を制限することによって野生生物を絶滅から守ります。規制対象種の中にはペット利用される動物も含まれていますが、その規制を守らずに日本に違法に持ち込まれることがあります。数年前、絶滅危惧種のコツメカワウソの人気が高まったときには、日本向けの密輸が急激に増え、2019年に取引禁止というさらに厳しい規制下に置かれることになりました。また、同じく絶滅危惧種のハコガメ39匹が中国から日本に違法に持ち込まれたこともあります。密かに運び込まれている野生動物はほかにもまだまだたくさんいると思います」

厚生労働省の輸入動物統計
©WWF JAPAN

厚生労働省の輸入動物統計から、家畜化された動物を除く哺乳類(フェレット、ハムスターなど)、鳥類の輸入頭数を抽出。財務省 貿易統計から生きた爬虫類、両生類の輸入頭数を抽出。概算ではあるが、野生動物の輸入が年々増えていることがわかる

可愛いから、と安易に飼育することの危険性

日本でも人気のコツメカワウソ
© David Lawson / WWF-UK

日本でも人気のコツメカワウソ。東南アジア、南アジアの湿地帯で暮らしていて、飼うには大量の水が必要。水道代は月10万円以上!? 餌も新鮮な魚介類が必要で、ペットにするのは難しい

違法行為が後を絶たないのは、それを下支えする需要があるからだ。たとえば密輸が確認されたペレンティーオオトカゲという大きなトカゲは、当時の末端価格が600万円。密猟者に「絶滅危惧種の保護」を訴えても響かないだろう。では、どうしたら歯止めをかけられるのか。浅川さんは、飼う側の意識を変えることが大事だと考えている。

「野生動物は、犬や猫を飼う以上に飼育が難しいことを知ってもらいたいです。かつて日本ではテレビアニメの影響で、アライグマがペットとして大ブームになり、たくさんのアライグマが輸入されました。でも、可愛い見た目とは違って、アライグマの気質は攻撃的で力も強い。手に負えずに捨ててしまう人が後を絶ちませんでした」。餌が特殊で簡単には手に入らなかったり、飼うために特別な環境を用意する必要があったりする野生動物もいる。そうとは知らずに「可愛いから」「癒やされたいから」と安易に野生動物を飼えば、お金も手間もかかって大変なことに。何より動物たちが不幸になってしまう。「最近では、ペットの野生動物を披露して、人気を集めるSNSもあります。以前、スローロリスというサルがバンザイするポーズが可愛いと話題になっていました。でも、じつはこの両腕を上げる行動は危険を感じたときの防御姿勢だと指摘されています。さらに、夜行性のため暗闇でもよく見えるように集光性の高い目を持っているので、昼行性の人間との生活を強いられることで目に負担をかけている可能性があります。飼う前に生態や習性、生息している環境などをきちんと確認して、ペットにすることがその動物に負荷をかけないか、という点も考えてもらいたいです」

WWFジャパンでは、野生動物を飼うことの難しさも知ってもらえるように、ウェブサイトなどを通じて情報を発信している。「野生動物を飼いたいと考える方にアンケート調査を行なったところ、野生動物を飼うことに対し、周囲は好意的に受け止めていると答えた人が多くいました。けれどもし、珍しい動物を飼いたいという家族や友達がいたら、『絶滅の心配はない?』『そもそも自然の中に暮らす動物だよね?』と問いかけてみてください。その一言が野生動物の未来を救うかもしれません」

エキゾチックペットガイド
©WWF JAPAN

WWFジャパンが制作した「エキゾチックペットガイド」。それぞれの野生動物について、外来種問題やペットにしたときのリスクがわかるスグレもの。チェックしてみよう!

※国際機関IUCN(国際自然保護連合)が公開している「レッドリスト」掲載動物のうちのCR,EN,VUに該当する動物種(2024年1月現在)。

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