【ルーシー・リューとフィリップ・リム】“自分らしい居場所”の作り方。“アジア系アメリカ人”のひとつの視点から

俳優とデザイナー。それぞれの道で開拓者であったレジェンドの二人。マイノリティとして葛藤し、アイデンティティのあり方を模索してきた。こうしてたどり着いた表現は、誰もが自分らしく生きるために必要な哲学へと通じている。その道筋を改めて語り合った。

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Lucy Liu

ルーシー・リュー●俳優。1968年、NYのクイーンズに生まれる。両親は台湾からの移民で、3人兄弟の末っ子。「アリー my Love」への出演で脚光を浴び、エミー賞の助演女優賞にノミネート。映画『チャーリーズ・エンジェル』(’00)、『キル・ビル』(’03)などに出演し、世界的に活躍。アジア系の役柄に対するステレオタイプを打ち破ってきた。

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Phillip Lim

フィリップ・リム●ファッションデザイナー。1973年、タイ生まれ。カリフォルニア州育ち。両親とカンボジアから移住した中国系アメリカ人。2005年にNYファッションウィークで「3.1 Phillip Lim」を始動。以後、世界的ブランドとして広く人気に。"グローバルシチズン"のために、持続可能なファッションの可能性を探り続けている。

社会のカテゴライズと向き合い、はね返してきた

90年代にアメリカンドラマを契機に飛躍したルーシー・リュー、2005年にNYでブランドをスタートしたフィリップ・リム。互いに惜しみないリスペクトを送り合う二人が、"居場所"を作ってきた歴史とは。

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ニューヨークのノーホー地区にあるフィリップ・リムの旗艦店。ストリートに面した巨大な窓から心地よい光が入る日に、フィリップとルーシー・リューの取材が行われた。長年の友人である二人の対話はすぐに弾み、心を開いた会話が交わされた。フィリップは、友人に「今日ルーシー・リューに会う」とメッセージを送り、改めて感慨深くなったこと、ルーシーは15年前から持っているフィリップの服が今もモダンで愛用していることなどを楽しそうに語り、お互いへの深い敬意も伝わってきた。実は、今回はアイコンであり、パイオニア的存在である二人が、昨今のアジア系カルチャーの隆盛にいかに影響を与えたのかを聞く予定だった。しかしそれについて尋ねると、こう即答した。ルーシーは「今の若い世代は、私たちの助けや、存在がなくても 素晴らしい活躍をしています」と語り、フィリップも「彼らから学んでいることのほうが多いんです」と続ける。

“アジアらしさ”を拒否して サバイブしてきた

「アリー my Love」
「アリー my Love」は1997年から2002年まで放送されたコメディドラマ。ボストンにある法律事務所で働く女性弁護士の恋愛模様、法廷での活躍を描いた。数々の賞を得た人気作品。ルーシーは主人公の同僚の弁護士役で出演し(上写真・左)、一躍有名に

ルーシー(以下L) 両親は移民という背景があり、私も若くしてNYに来たので、自然と「やるしかない」という意識があり、その渇望が機動力になっていました。

フィリップ(以下P) カリフォルニア州でアジア系アメリカ人というマイノリティとして育ってきた自分は、移民である親の文化を引き継いでおらず、恥ずかしく感じていました。けれど、ルーシーのように、目標に向かって突き進みたいという生まれながらの衝動があったんです。自分には何かができるとわかっていたし、とにかく行動するしかないと思っていました。

L その衝動をいつから自分のフィールドでうまく活かせるようになったの?

P 2004〜’06 年頃にデザイナーとして仕事をするようになったとき、「中国の服はデザインできますか?」または「ドラゴンや赤があなたの好きなモチーフですよね」と言われることがありました。私たちのカルチャーには、ときに偏見さえも受け入れ、謙虚な心持ちで黙々と仕事をするという特徴もあります。が、私はそのステレオタイプには反発し、自分の威厳を尊重しました。

 私は「アリーmy Love」(’97 〜)(1)でリン・ウーの役を演じたときを覚えていて。彼女は正直で、率直で、生き生きした役だったのに、メディアが彼女を激しいキャラクターとして“ドラゴン・レディ”と呼び続けていたんです。作品には、もっと激しい性格の役がいたのに。つまり人種が理由だったんですね。それがすごくショックで、同時に社会がそういう見方をしている部分が大きいのだと思いました。“オリエンタル・ドラゴン・レディ”と呼ぶ人もいたくらいで。でも誰も侮辱とは思っていなかったのです。むしろ、みんな私をそう分類して呼ぶ権利があると考えていた。あなたが「赤が好きだよね」と言われたのと同じように。だから、「威厳を持つことが大事」だと共感するんです。今はその呼び方はされません。

P 本当に。それからはどんなモチベーションで仕事をしていたんですか?

 キャリアを始めたばかりの頃に、「あなたはアジア人だから、演じる役は決まっている。慣れるしかない」と同じアジア人俳優に言われて。その瞬間に「そんな役だけは絶対に演じない」と誓った。だから、自分で自分の居場所を作るしかないとずっと感じていたんです。

 私はデザイナーを始めたばかりの頃、仲間から「商業的ではない服を、誰のために作っているのか?」というようなことを聞かれたのが記憶に残っています。でも私には、自分の服を着てくれる女性が見えていたから、彼らのために作っていると答えたんです。クリエイターという自分を通して、コミュニケーションを取っていると。

L “商業的”って、面白い。それ以外では認められないの? たとえば、リック オウエンスは商業的なのかしら。売れたら商業的なの? 何を基準に分類しているの? その分類は数えるほどしかないの? 私たちには、〝ドラゴン・レディ〟と〝オタク〟の役しかないの? 赤以外はないの?と。そうやって私たちをカテゴライズすることが心地いいのですよね。私たちをありのままで受け止めるより。

L 私たちは、正真正銘のアジア系だから改めてこの問題を語る必要はないと思うんです。アーティストとして、人間として、話すだけで十分だから。さらにマイノリティとして、大変さを背負ってしまうから。その言葉自体が時代遅れだと思うので、私はもう使わないんです。マイノリティには“大半ではない”というほかにすごく小さいもの、という意味もあって。対象をより小さなものとして、カテゴライズしてしまう。

 枠を取り払ったほうが想像を広げられますよね。

 そう。たとえば誰かに「そのルックが好き」と言われたら、それを洗練させることばかりを考えてしまう。そうではなくて、あなたがしていること、コレクションが好き、と言われるようになれば、特定のイメージに縛られずに、自分自身をもっと高められる。

 あなたが昔“ファック・ユー・マネー”(俳優としてやりたくない仕事に“ファック・ユー”と言えるようにその他の仕事で貯金すること)について語った映像が、TikTokでバズったのを知っていますか? 俳優として、お金のためだけの仕事をしないこと。威厳を大事に妥協しないことなどを語っています。役の選び方については「成功するというのは、自分に決断権があること」と伝えていました。最高な真実ですよね。

L 以前は、できる仕事は何でもやりました。レストランで働いて、週末はTシャツを売って。俳優として自分の居場所を妥協せずに確保したかったから。今は、どんな人と仕事するのかを重視しています。経験や環境はもちろん大事ですが、自分が関わった仕事に関して、いい気持ちでいたい。

——きっと今脚光を浴びる人たちも影響を受けたのではないでしょうか。

 私たち以外のアジア系俳優やクリエイターも、自分たちの力で成し遂げてきました。だから私が彼らの先駆者だったとは絶対に言えません。それぞれが努力して成功を手にしたのです。

 (今活躍している)彼らは、自分たちでやりたいことが見つけられて、商業的にも成功したということだと思うから。

 象徴的な存在は大切ですが、私が象徴しているのは、ほかでもない私自身。アーティストとしての自分を探した結果が誰かに影響を与え、その人がまた違う未来を進むことになるのは、どんな表現者にも起こりうること。それはあくまで一人ひとりの旅路なんです。

 私も自分らしさを追求するために、4年間ランウェイを休止したんです。表向きの自分が、本来なりたかった姿ではないとわかったから。仕事の理想像があったのに、そこから徐々に遠ざかっていることに気づいて。

L 自分が操り人形になったように感じたということ?

 そうなんです。仕事がただ“仕事”になって、締め切りのために同意したり、言われるがままのことをしたり。その結果に誇りが持てなくなっていました。だからこそ、自分らしくあることこそ大事だという原点に返ったんです。

L 勇気を持つためには、内面の強さが必要ですよね。客観性もなければならないし。

 そうですよね。マイノリティという言葉に戻ると、休んで外の世界に出て初めて、自分たちはマジョリティだ!と認識する部分もあって。それが非常にパワフルな体験でした。

——あなたの復活となった2024年春夏シーズンのショー(2)は喜びにあふれていると絶賛されました。

 休止した後、ランウェイに復帰しコレクションを見せるときに、絶対にチャイナタウンで開催すると決めていました。さらに、最初に登場する5人は、絶対にアジア系モデルを選ぶと。全員がすごくキュートで美しいチャイニーズ・スリッパを履いて。それがどんなに強烈でかっこいいかを、小さな女の子たちに見せたかったのです。「あなたたちは、頑丈な靴を履かなくても、すでに美しい、強い心を持っているんだよ」と伝えることこそを大切にしていたから。

 ちょうど今朝、同じようなことを人に伝えたところでした。自分のか弱さを認識することが、自分をより強くしていると気づいたと。

——ドラマ「アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記」(’23 )(3)では一緒に仕事もしましたね。

 衣装を私が手がけました。そのとき思ったのですが、ルーシー、映画やドラマ産業って、本当にクレイジーですね! 制作に5年ほどかかることもあるわけですよね。あんなに長い間どうやって緊張感を維持できるのだろうと驚きました。あなたは第6話で監督を務めてくれましたが。

 監督の仕事はカオスでした! でも、一度乗ったら走り続けてしまうから、あなたのように、一歩下がってみることや、ノーと言うことも大事。このプロジェクトでは、物語が重要だと思えたことがよかった。寓話ですが、アジア系アメリカ人にとっては共感できるストーリー。そういう作品は特別なんです。脚本家も才気あふれていて、画期的なシリーズでした。これからもさまざまな影響を与え続けて、いつか、この作品が種を蒔いたおかげで新しい花が咲いた、と言われるようになるはず。

P 漫画家のジーン・ルエン・ヤンの原作も重要でした。多様なジャンルが入り混じり、すでに幅広い世代の人に読まれ、大きな影響を与えてきた作品だから。

——お二人は数々の困難を乗り越えてきましたが、作品を通して伝わってくるのは常にアートへの愛や祝福ですよね。

L それは素晴らしいまとめ方! 私が作品を通して届けたいのは「過去よりも自分はよくなれると知ること」。もちろん歩んだ道を認識し、感謝をしながら。

P 表現を続けて、人生で起きた大事なことをチャームとして増やしていけば、最後には美しいブレスレットができる。でもそれもずっと握っているのではなく、いつかは手放さなくてはならないときが来るかもしれないけれど。


L 今終えたばかりのプロジェクトが素晴らしかったんです。実話を元にしたアジア系コミュニティの家族とメンタルイルネスに関する作品で、2日前に終えたところ。この作品のおかげで自分がこれまでとは違う人間に、さらに自由になれた気がして。今仕事をする上で、大事にしていることなんです。

P もっと詳しく教えてください!

L 私はプロデューサー兼俳優として出演しました。5年間も制作に関わったので、今は産後の回復中みたいな気持ち(笑)。『Rosemead』という映画なの(編集部注:ルーシー演じる移民で末期がんの母が、大量虐殺に興味を持つなど精神的に不安定になった10代の息子を救おうと葛藤するストーリー)。

——公開を心待ちにしています。未来にはどのような展望をお持ちですか?

 将来は、海辺で何かを売っていたい(笑)。自分がしたいことを続けられる自由が一番大事。究極的に求めることのために、いかにしてその場所にたどり着けばいいのか。同時に自分がこの社会という〝庭〟にどう役に立てるのかも常に考えています。ただ水だけあげればいいものではないし、放っておけば枯れてしまう。かと言って、何に対しても問題提起をするべきだとも考えていません。自分が何にどんな影響を与えたいかを選ぶべきで。たとえば、動物行動学者のジェーン・グドールのように。彼女は世界に希望がないと感じたら、身近なところで活動しなさいと話すんです。地元の子どもたちや周囲の人に影響を与えられたら、自分の役割は果たせていると。

L そうね。大きな問題を前にすると、自分の存在が小さく感じられてしまうもの。だから私も周囲の人たちと関わり合いながら、できることから少しずつ変えていきたい。口にすることは簡単だけれど、実際自分がどうやって生きているのか? 世界がこうあってほしいという理想に沿って、行動や生き方を選ぶことが大事なんです。

P 私は服作りを通して物語を語り続けたい。コミュニティでのイベント、メンタルヘルスについての支援も。正しい情報を広めて、私たちの文化の中で語られていることや、文化そのものについての語りを前進させたいですね。個人がストーリーを語れる場所を設け、人間がいかに複雑かを伝えるのも大事だと思っています。映画界に顔を出して、あなたのような友人と仕事をして、いろいろなタイプの主人公が輝ける作品の提案もしたい。今やっていることは、すべてそのゴールとつながっています。ルーシーが、物語を伝え、人と共有しているように。世界は、自分が望むような筋書き通りには簡単に変えられない。だからこそ、一つひとつ語り続けることが大事だと感じるんです。

【ルーシー・リューとフィリップ・リム】“の画像_3

ランウェイを休んでみて、 自分らしさが大事という原点に返った
ーーーーーーフィリップ・リム

自分の居場所を守るために、 一時休止したり見直す時間も必要

L 私たちは、正真正銘のアジア系だから改めてこの問題を語る必要はないと思うんです。アーティストとして、人間として、話すだけで十分だから。さらにマイノリティとして、大変さを背負ってしまうから。その言葉自体が時代遅れだと思うので、私はもう使わないんです。マイノリティには“大半ではない”というほかにすごく小さいもの、という意味もあって。対象をより小さなものとして、カテゴライズしてしまう。

P 枠を取り払ったほうが想像を広げられますよね。

L そう。たとえば誰かに「そのルックが好き」と言われたら、それを洗練させることばかりを考えてしまう。そうではなくて、あなたがしていること、コレクションが好き、と言われるようになれば、特定のイメージに縛られずに、自分自身をもっと高められる。

P あなたが昔“ファック・ユー・マネー”(俳優としてやりたくない仕事に“ファック・ユー”と言えるようにその他の仕事で貯金すること)について語った映像が、TikTokでバズったのを知っていますか? 俳優として、お金のためだけの仕事をしないこと。威厳を大事に妥協しないことなどを語っています。役の選び方については「成功するというのは、自分に決断権があること」と伝えていました。最高な真実ですよね。

L 以前は、できる仕事は何でもやりました。レストランで働いて、週末はTシャツを売って。俳優として自分の居場所を妥協せずに確保したかったから。今は、どんな人と仕事するのかを重視しています。経験や環境はもちろん大事ですが、自分が関わった仕事に関して、いい気持ちでいたい。

2024年春夏コレクション フィリップ・リム
4年ぶりのランウェイの披露となった2024年春夏コレクション。テーマは変わり続けるNYと、そんな都市への"ラブレター"。シアーなチャイニーズ・スリッパはラベンダーカラーや花柄で登場した

——きっと今脚光を浴びる人たちも影響を受けたのではないでしょうか。

L 私たち以外のアジア系俳優やクリエイターも、自分たちの力で成し遂げてきました。だから私が彼らの先駆者だったとは絶対に言えません。それぞれが努力して成功を手にしたのです。

P (今活躍している)彼らは、自分たちでやりたいことが見つけられて、商業的にも成功したということだと思うから。

L 象徴的な存在は大切ですが、私が象徴しているのは、ほかでもない私自身。アーティストとしての自分を探した結果が誰かに影響を与え、その人がまた違う未来を進むことになるのは、どんな表現者にも起こりうること。それはあくまで一人ひとりの旅路なんです。

P 私も自分らしさを追求するために、4年間ランウェイを休止したんです。表向きの自分が、本来なりたかった姿ではないとわかったから。仕事の理想像があったのに、そこから徐々に遠ざかっていることに気づいて。

L 自分が操り人形になったように感じたということ?

P そうなんです。仕事がただ“仕事”になって、締め切りのために同意したり、言われるがままのことをしたり。その結果に誇りが持てなくなっていました。だからこそ、自分らしくあることこそ大事だという原点に返ったんです。

L 勇気を持つためには、内面の強さが必要ですよね。客観性もなければならないし。

P そうですよね。マイノリティという言葉に戻ると、休んで外の世界に出て初めて、自分たちはマジョリティだ!と認識する部分もあって。それが非常にパワフルな体験でした。

——あなたの復活となった2024年春夏シーズンのショー(2)は喜びにあふれていると絶賛されました。

P 休止した後、ランウェイに復帰しコレクションを見せるときに、絶対にチャイナタウンで開催すると決めていました。さらに、最初に登場する5人は、絶対にアジア系モデルを選ぶと。全員がすごくキュートで美しいチャイニーズ・スリッパを履いて。それがどんなに強烈でかっこいいかを、小さな女の子たちに見せたかったのです。「あなたたちは、頑丈な靴を履かなくても、すでに美しい、強い心を持っているんだよ」と伝えることこそを大切にしていたから。

L ちょうど今朝、同じようなことを人に伝えたところでした。自分のか弱さを認識することが、自分をより強くしていると気づいたと。

ルーシー・リュー

私が象徴しているのは、 アーティストとしての私自身
ーーーーーールーシー・リュー

アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記
ミシェル・ヨー&キー・ホイ・クァンが共演したディズニープラスで独占配信中のドラマ「アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記」(’23)。平凡な高校生活を送る若者ジン・ワンが中国神話の神々の戦いに身を投じる全8話の物語。フィリップは衣装を、ルーシーは6話の監督を手がけた

——ドラマ「アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記」(’23 )(3)では一緒に仕事もしましたね。

 衣装を私が手がけました。そのとき思ったのですが、ルーシー、映画やドラマ産業って、本当にクレイジーですね! 制作に5年ほどかかることもあるわけですよね。あんなに長い間どうやって緊張感を維持できるのだろうと驚きました。あなたは第6話で監督を務めてくれましたが。

 監督の仕事はカオスでした! でも、一度乗ったら走り続けてしまうから、あなたのように、一歩下がってみることや、ノーと言うことも大事。このプロジェクトでは、物語が重要だと思えたことがよかった。寓話ですが、アジア系アメリカ人にとっては共感できるストーリー。そういう作品は特別なんです。脚本家も才気あふれていて、画期的なシリーズでした。これからもさまざまな影響を与え続けて、いつか、この作品が種を蒔いたおかげで新しい花が咲いた、と言われるようになるはず。

 漫画家のジーン・ルエン・ヤンの原作も重要でした。多様なジャンルが入り混じり、すでに幅広い世代の人に読まれ、大きな影響を与えてきた作品だから。

——お二人は数々の困難を乗り越えてきましたが、作品を通して伝わってくるのは常にアートへの愛や祝福ですよね。

 それは素晴らしいまとめ方! 私が作品を通して届けたいのは「過去よりも自分はよくなれると知ること」。もちろん歩んだ道を認識し、感謝をしながら。

 表現を続けて、人生で起きた大事なことをチャームとして増やしていけば、最後には美しいブレスレットができる。でもそれもずっと握っているのではなく、いつかは手放さなくてはならないときが来るかもしれないけれど。

未来への展望と、自らの使命感

ルーシー・リューとフィリップ・リム

L 今終えたばかりのプロジェクトが素晴らしかったんです。実話を元にしたアジア系コミュニティの家族とメンタルイルネスに関する作品で、2日前に終えたところ。この作品のおかげで自分がこれまでとは違う人間に、さらに自由になれた気がして。今仕事をする上で、大事にしていることなんです。

P もっと詳しく教えてください!

L 私はプロデューサー兼俳優として出演しました。5年間も制作に関わったので、今は産後の回復中みたいな気持ち(笑)。『Rosemead』という映画なの(編集部注:ルーシー演じる移民で末期がんの母が、大量虐殺に興味を持つなど精神的に不安定になった10代の息子を救おうと葛藤するストーリー)。

——公開を心待ちにしています。未来にはどのような展望をお持ちですか?

P 将来は、海辺で何かを売っていたい(笑)。自分がしたいことを続けられる自由が一番大事。究極的に求めることのために、いかにしてその場所にたどり着けばいいのか。同時に自分がこの社会という〝庭〟にどう役に立てるのかも常に考えています。ただ水だけあげればいいものではないし、放っておけば枯れてしまう。かと言って、何に対しても問題提起をするべきだとも考えていません。自分が何にどんな影響を与えたいかを選ぶべきで。たとえば、動物行動学者のジェーン・グドールのように。彼女は世界に希望がないと感じたら、身近なところで活動しなさいと話すんです。地元の子どもたちや周囲の人に影響を与えられたら、自分の役割は果たせていると。

 そうね。大きな問題を前にすると、自分の存在が小さく感じられてしまうもの。だから私も周囲の人たちと関わり合いながら、できることから少しずつ変えていきたい。口にすることは簡単だけれど、実際自分がどうやって生きているのか? 世界がこうあってほしいという理想に沿って、行動や生き方を選ぶことが大事なんです。

 私は服作りを通して物語を語り続けたい。コミュニティでのイベント、メンタルヘルスについての支援も。正しい情報を広めて、私たちの文化の中で語られていることや、文化そのものについての語りを前進させたいですね。個人がストーリーを語れる場所を設け、人間がいかに複雑かを伝えるのも大事だと思っています。映画界に顔を出して、あなたのような友人と仕事をして、いろいろなタイプの主人公が輝ける作品の提案もしたい。今やっていることは、すべてそのゴールとつながっています。ルーシーが、物語を伝え、人と共有しているように。世界は、自分が望むような筋書き通りには簡単に変えられない。だからこそ、一つひとつ語り続けることが大事だと感じるんです。

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