街の書店の“これから”を考える。【尾崎世界観】さん、【高瀬隼子】さんが愛する書店を紹介

本を愛し、本を守る場所

ネット通販の台頭や少子化などで小規模書店の危機が続く。その中でも地域に溶け込む地道な方法を模索したり、個性的な選書の個人店ができたり。先を見据えて、文化を守るための努力が広がる街の書店の現状を追った

本を愛し、本を守る場所

ネット通販の台頭や少子化などで小規模書店の危機が続く。その中でも地域に溶け込む地道な方法を模索したり、個性的な選書の個人店ができたり。先を見据えて、文化を守るための努力が広がる街の書店の現状を追った

街の書店の声

地域に根差した老舗書店の取り組みと独立系書店の、街とのしなやかな関わり方

今野書店 今野英治さん × エッセイスト 平松洋子さん

今野書店 今野英治さん × エッセイスト 平松洋子さん

住民が書店の雰囲気をつくり書店が街のイメージをつくった

平松 お店はいつ創業でしょうか。

今野 最初は上野にあって、西荻窪に移ってきたのは1973年です。

平松 当時は目の前の道を少し西に行ったところにありましたね。私は大学の帰り道によく利用していたから、もう40数年のおつき合いになります。

今野 僕は1985年に書店修業から戻ってきて店を継ぎました。その頃は本がすごく売れていて、注文を出しても入荷しないから、毎週のように仕入れに出かけていたのを覚えています。

平松 家族代々で利用されているお客さんが多くて、そこは大きな特徴ですよね。子どもから大人になって、見るものや買うものが変わっても、ずっと受け皿のようにしてある。本当にすごいことです。西荻窪のあちこちにあった書店が一つずつ消えていくのを全部見ているので、余計にありがたい。

今野 うちにも何度か危機があって、西荻窪駅の反対側に大型書店ができて売り上げが下がったとか、僕の代になってからも「颯爽堂」など優れた書店があって大変でした。

平松 閉店してしまいましたね……。

今野 ほかの書店は人文書をしっかり揃えるなど、それぞれに個性を出していました。でも運がいいのは、うちは優れたスタッフに恵まれていること。本の好きなスタッフが棚の品揃えをすると、本好きが買ってくれるようになったんです。その人はそういう心の琴線に触れる本がすっと棚に入っているような、小さいながらもスパイスのきいた棚をつくるのがうまかった。今いるスタッフの中にもそんな才能のある人がいます。毎日棚をつくるとか、そういう部分から文化が発信されて、街の空気がつくられる土壌を耕したのかなと感じます。

平松 今野書店では「さすがにこれは置いていないだろう」という本も見つかることが多いんです。いろいろなお客さんが同じ経験をしているはず。

今野 この地域には作家さんや漫画家さん、出版関係の方が多く住んでおられますが、うちだけでなく、なくなった書店の影響もある。そういう相互関係によって街の特色がつくられ、うちの店も個性が育まれた。

平松 どの本とどの本を横並びに置いているかで、棚をつくった人の考え方や、書店の理念を無言のうちに受け取るものです。だから直接会話をしなくても多くの言葉を交わし、その中身が濃いと行きたくなるし買いたくなるんですよね。ここがいい循環を維持しながら集客し続けているのは、そこに大きな理由があるのかなと思っています。

今野書店

構造の根本的な問題に取り組む段階に来ている

平松 NHKテキストや週刊誌、漫画雑誌など生活に密着した出版物を定期購読している地元のお客さまの存在も大きい気がします。街の書店は目配りのきいた棚づくりと、住民の生活を支える役割と、両方が必要ですよね。

今野 そうですね。平松さんのような本好きな人たちに来ていただく、というのは一番の念頭にあります。そして、子どもたちから高齢者まですべてのお客さんにこたえられるようにというのがコンセプトの中にあるので、家族全員で来店していただいても満足できるくらいの品揃えはしたいです。

平松 今野さんは西荻一番街商店会の会長もされていますよね。

今野 本業の合間を縫って盆踊り大会などを主催しています。あと書店仲間でつくる「NET21」というグループの社長もしています。街の書店には取次から欲しい本が配本されにくいので、数軒が集まって一つの会社組織をつくり、共同である程度のボリュームを仕入れています。こういった問題だけでなく、書店を取り巻く状況は今大変厳しい。書店の利益構造は、出版社が本の定価を決めて、そこに書店が20%強、取次に7〜8%と利益が決まっています。でも固定費は増える一方。キャッシュレス化も進んでいますが手数料3%は書店持ちですし、人件費率も上がっています。売り上げが横ばいであっても構造的に赤字になる状態なんですよね。これを改善しないと。

平松 構造の欠陥や法律の不備を変えるには、根源的な改革に取り組む必要があると思いながら、書店をめぐる動向を注視しています。書き手としてできるのは、応援につながると信じて、注力していいものを書くことです。

今野 店の努力としては、地下をトークイベント会場にしていろいろな企画を進めています。別の場所にあったカルチャースクールも隣に移動させましたので、書店に縁のなかった人が来てくれるかもしれません。お客さんの幅が広がるといいなと考えています。

今野書店

東京都杉並区西荻北3の1の8
03-3395-4191 
営業時間:10時~22時、~21時(日・祝)
無休

今野英治さんプロフィール画像
今野書店今野英治さん

こんの えいじ●大学卒業後、大手書店に勤めた後「書店学校」で書店経営を学ぶ。25歳で地元に戻り家業の今野書店の仕事に携わり始め、1995年、34歳で2代目社長に就任。

平松洋子さんプロフィール画像
エッセイスト平松洋子さん

ひらまつ ようこ●東京女子大学文理学部社会学科卒業。2012年『野蛮な読書』で講談社エッセイ賞、2022年『父のビスコ』で読売文学賞を受賞。著書に『おあげさん』ほか多数。

フラヌール書店 久禮亮太さん × 蟹ブックス 花田菜々子さん

フラヌール書店 久禮亮太さん × 蟹ブックス 花田菜々子さん

自分がやりたいことに対して、街の人たちのアンサーがある

花田 書店が厳しいといわれる時代になぜやっているのかと聞かれると、正直なところ書店しかできないんです。

久禮 同じです。不動前で書店をやっていますが、夫婦それぞれが仕事をして、子育ても家事も半分ずつにしたい場合、自分にとってはそれを許す働き方が、キャリアなどいろいろ考えると最終的には今の店でした。

花田 うちは東京の高円寺にあるのですが、ここに出店したのは偶然。新宿から吉祥寺くらいの間はいい書店がたくさんあるからと最初は避けていたんです。でも安くていい物件を見ている中で、久しぶりに歩いてみたら、街が元気そうな感じが伝わってきました。

久禮 僕は自宅近くで探して、不動前になりました。たとえば家族の食事を作るとか、学校から子どもが誰もいない家ではなく店に帰ってこられるとか、そういうことを考えると、自分の住んでいる街や生活そのものに近いほうが魅力的だと思ったので。

花田 不動前はどんな客層なんですか。

久禮 地元の人、ここまで足を延ばしてくれる本好きの人、東急線沿線散歩が好きな人。主に3つに分けられます。

花田 うちは幅広い。社会問題に関心の強いエリアで、そういう本も動きますし、エッセイや日記、短歌、人文系の棚に並びそうなものの中から少し軟らかめの本が売れている印象です。

久禮 たとえば品揃えについて思うのは、年配の人が来たときに、時代小説や『暮しの手帖』は置いていないから買わないだろうと思い込むのはお客さんを侮っているなと。そういう人が池田晶子の哲学エッセイや翻訳家の藤本和子の本を買ってくれる。近所の生活者も読み手として多くの側面を持っていると気づくことはたびたびあります。

花田 高円寺駅前に総合書店があるので雑誌やコミックなどのジャンルは安心して手放せるし、品揃えは多少偏っていても大丈夫という気持ちになりますね。街の書店同士、そこはライバルではなくて横を気にしながら、うちの守備範囲はここからここまでね、というのを各店でやっている。自分がやりたいことに対して、街の人たちのアンサーがある、という感じです。

久禮 このジャンルを扱うのならこの著者の本は置いておかないと、という一群がありますが、固執しすぎてもよくなくて、売れなければ変えていかなければいけない。そこはお客さんとの関係性の中で増減や伸び縮みとかをいじっていくところです。

花田 難しいけれど、変わっていく過程が面白い部分もありますね。

蟹ブックス

店で子どもが宿題をする家族経営の個人書店が再び

久禮 蟹ブックスが偉いなと思うのは、来店すれば著者に会えるとか、原画を見られるとか、トークイベントを頻繁にするとか、このお店に来てみようかなと思う人に足を運んでもらうきっかけづくりを熱心にしているところ。

花田 でも一人でできることには限度があって、何かを優先しながら何かを後回しにしていくことになります。

久禮 確かに。稼がないわけにはいかないけど、僕は自分や家族のペースで生活が送れることを優先したい。

花田 フラヌール書店ではカウンターの横のスペースでお子さんが宿題をしていることがありますよね。その状況は今の生活の理想形。昭和時代は店が家を兼ねていて、奥で一家がごはんを食べている様子が見えるような家族経営の個人書店がありました。形は変わりますが、そのほうが街の人を含めてみんなの気持ちに合っているのかも。

久禮 近所のお客さんも親しみを持って気軽に接してくれている気がします。

花田 最近この街には小さい書店がいくつかできて、雑誌の書店特集でも高円寺でページを作ってくれることもあって。街を魅力的にすることに一役買えたらいいなという気持ちはあります。

久禮 書き手の人が店番をしているから、来店すると会えるのも面白いです。

花田 毎週水曜の夜に「もくもく原稿会」といって、私たちとお客さんとで集まり、それぞれの原稿書きや作業をするということもやっています。

久禮 いいですね。書店の危機といわれ始めてから長いですが、それでも好きだからうっかり始めちゃった人が多いし、新しい店ができたら来て楽しんでくれるお客さんも大勢います。

花田 自分たちのような独立系書店も総合書店も、それぞれで人が気分や用途に応じて使い分けられるような未来が来るといいですよね。自分たちは、書店に来ると楽しいとか、読みたい、また来たいと思ってもらえるような体験を提供できればいいなと思います。

蟹ブックス

東京都杉並区高円寺南2の48の11 2F
03-5913-8947
営業時間:12時〜20時
定休日:木曜

フラヌール書店

東京都品川区西五反田5の6の31
営業時間:12時〜20時
定休日:水曜、第1・3火曜

久禮亮太さんプロフィール画像
フラヌール書店久禮亮太さん

くれ りょうた●1975年生まれ、高知県出身。あゆみBOOKSなどに勤務後「久禮書店」の屋号でフリーランス書店員に。2023年、東京・不動前に「フラヌール書店」を開店。

花田菜々子さんプロフィール画像
蟹ブックス花田菜々子さん

はなだ ななこ●1979年東京都生まれ。ヴィレッジヴァンガード、日比谷コテージなどの書店を経て、2022年、東京・高円寺に「蟹ブックス」を開店。著書に『モヤ対談』など。

あの人が通い続ける街書店

作家が愛して足を運ぶその魅力と理由は癒やしの力と、応援のための優れた企画術

高瀬隼子さん × 南天堂書房

高瀬隼子さん × 南天堂書房

ふらりと立ち寄ることがもう生活に組み込まれている

「仕事の関係で一時期このあたりによく来ていたんです。嫌なことがあって落ち込んだときも、帰りにこの書店に入って本を目の前にするとうれしくなって、ずいぶん気持ちがリセットできました。その日の自分のお供になる本を買って、素敵なブックカバーをつけてもらう。そして、家で読み進めるうちにだんだん生活が切り替わって救われていく感覚がある。だから、ふらっと立ち寄れる書店があることはすごくいいですね。今でも白山に来たときは必ず寄ります」と話しながら、楽しそうに本を手に取っては戻しを繰り返しつつ、中へと進んでいく高瀬隼子さん。南天堂書房を訪れると、入り口の新刊本コーナーから単行本、一番奥の漫画の棚を見て、文庫まで戻ってくる。その間に何冊かを選び、中央のカウンターへ。勝手知ったる感じの動線だ。

「ぐるっと一周して全部の棚を見ます。小説が好きだから単行本の棚はもちろん、ハーブの育て方とか楽しいピアノレッスンとか、児童書や絵本など、普段自分で選びにいかない本が表紙の見える形で並んでいます。ちょうどいい広さで、『こんな新刊があるんだ』と新鮮な気持ちで本と出合えるのは街の書店ならでは。幅広い年代の人が訪れていて、近隣住民に愛されている感じが伝わります。素敵なカフェも近くにあって、ここで本を買ってカフェで読むコースが出来上がっています」

幼少期から家の近所の書店で、さまざまな本と出合っていた。その書店がなかったら、本好きになっていなかったかもしれないという。

「大きい書店には本を絶対買って帰るという気持ちで行きますが、街の書店との関わり方はそれとは違います。通りかかると引き寄せられ、棚を眺め始めてしまう。一周回って買う日もあれば買わない日もあって。もう生活に組み込まれている感覚です」

作家になってからも、書店では「いつも本を買わせてくれる本屋さん、ありがとう」という、完全に“お客さん”の気持ち。だから街の書店が減っているニュースを聞くと胸が痛む。

「一度二度と通ううちになじんで好きになる書店ができる。それが私にとっては南天堂書房でした。行きつけの書店を持つの、おすすめです! 生活がきっと豊かになります。近所にない場合でも電車に乗ってお気に入りの書店に行き、そこで買い物をする。書店がなくなるのは悲しいし困るので、とにかく応援したいです」

南天堂書房

<書店員さんの声>奧村麻理さん

創業は明治時代。大正時代には上階に文豪が集うカフェやレストランがあり、昭和になって私の祖父が店を受け継いで今に至ります。昨年リニューアルオープンしたのですが、その際に明るく開放感のある空間であると同時に、安心感のある店でありたいと、フロアの中央に四角いカウンターレジを設置しました。店に来られる方、お問い合わせされる方とのコミュニケーションが取りやすく、奥にある学習塾やピアノのレッスンに来た子どもたちにも安心して通ってもらいたいと考えたからです。高瀬さんにも気に入っていただいているブックカバーは、昭和30年代からデザインを変えていません。

南天堂書房

南天堂書房

東京都文京区本駒込1の1の28 
03-3811-2428
営業時間:10時~20時、11時~19時(土・日)
定休日:祝日

高瀬隼子さんプロフィール画像
高瀬隼子さん

たかせ じゅんこ●1988年愛媛県生まれ。2019年『犬のかたちをしているもの』ですばる文学賞を受賞しデビュー。2022年『おいしいごはんが食べられますように』で芥川賞受賞。最新刊は『新しい恋愛』。

尾崎世界観さん × 紀伊國屋書店 横浜店

尾崎世界観さん × 紀伊國屋書店 横浜店
ジャケット¥143,000・トラウザーズ¥83,600・シャツ¥75,900/スタジオ ニコルソン 青山(スタジオ ニコルソン)

書店員の企画力で魅了する、日本で最も尾崎本が揃う店

子どもの頃から本が好きで、家の近所にあった個人書店に通っていた尾崎世界観さん。

「街の書店としては結構大きな規模で、とても好きな場所でした。そこで山田詠美さんの小説『ぼくは勉強ができない』を見つけて、自分も勉強ができなかったので気になり手に取ってみたのですが、小学生には早すぎて全然わからない。でも、理解できなくても読んでいること自体が楽しかったんです」

紀伊國屋書店 横浜店との関わりは、2016年に『祐介』で尾崎さんが作家デビューしたときにさかのぼる。『祐介』を熱心にすすめてくれている書店員がこの店にいると聞いて遊びに来たところ、それがクリープハイプのファンである川俣めぐみさんだとわかり、その出会いをきっかけに販売のためのさまざまな取り組みをやってみよう、ということに。以来、日本で一番尾崎さんの本を扱う書店となって、新刊が出るたび、ここならではの個性的な企画を立ち上げて大きく展開している。

「“世界観文庫”という企画では、好きな本に推薦コメントとサインをプリントしたカバーをかけて、タイトルや作者を伏せた状態で販売しました。今夏に出た『転の声』では、レシートに印刷されているQRコードを読み取ってリンクへ飛ぶと、尾崎世界観が小説の裏側について話すオリジナル音声を聴くことができる。企画はその都度、川俣さんとアイデアを出し合って決めていくのですが、いつも柔軟に仕掛けを考えてくださるのでありがたいです」

そもそも書店としての魅力も、尾崎さんの心の琴線に触れるものだった。

「『本の雑誌』の企画で、3万円分好きな本を買うというのがあって、ここで選ばせてもらったんです。そのとき、長時間売り場を歩いて見えてきたのは、大型書店なのにすごく色があるということ。とにかく小説に力を入れていて、それが店内でしっかり目立っているんです。本を厳選して置く独立系書店ならわかりますが、そうではない大型書店でここまでしっかり小説が並んでいるのは、書く側としてもうれしい」

もちろん、企画の継続を含めて、書店員にこの作品を売りたいと思ってもらうためにも、いいものを書いていかなければ、という緊張感は常にある。

「通っていた書店がなくなる寂しさは何度も経験しています。一方でいろいろな試みもあって、最近は書店の強さに驚かされることも多いです。数が減っているからといって、すべてがゼロになるわけではないと思っています」

紀伊國屋書店 横浜店

<書店員さんの声>川俣めぐみさん

『祐介』の単行本発売時に読んで、作家・尾崎世界観のファンになりました。たくさんの人に読んでほしくて、店内で目立つ展開をしていろいろな人にすすめていたら、尾崎さんの耳に届いて来店してくださったんです。そこから共に企画を考えるようになりました。どんな仕掛けにするかは毎回尾崎さんと相談しながら決めています。尾崎さんもお忙しい方なので、お互いの負担が少なくて、なおかつお客さまに喜んでもらえる企画を考えるのは、なかなか大変ですが楽しくもあります。クリープハイプファンの方もよく来店してくれて、とてもありがたいです。

紀伊國屋書店 横浜店

紀伊國屋書店 横浜店

神奈川県横浜市西区高島 2の18の1 そごう横浜店7F
045-450-5901
営業時間:10時〜20時
無休

styling: Akihiro Iriyama hair & make-up: Natsuho Makino 

尾崎世界観さんプロフィール画像
尾崎世界観さん

おざき せかいかん●1984年東京都生まれ。2001年結成のロックバンド、クリープハイプのヴォーカル&ギター。2016年初の小説『祐介』で作家デビュー。2020年『母影』に続き、2024年『転の声』でも芥川賞候補作に。

今すぐ行きたくなる、口コミ街書店

言葉に傾倒する人たちがつい足を向ける品揃え、企画力など引力の強い街の書店4選

東京堂書店

東京堂書店

自分は書評の仕事をすることが多いのですが、売れ筋の本ばかりが目立つのでもなく、とにかくたくさん網羅的に置いてあるのでもなく、その中間にある書店というのは意外と少ない。ここは書店員さんの「この本を届けたい、読んでほしい」という思いがすみずみまで込められていて、それでいて新刊本も網羅していて、「こんな本があるのか!」と発見が続きます。本の街・神保町のど真ん中にあることも影響しているはずですが、お客さんと売り場の間に流れる、(あくまでも妄想ですが)「これはどうでしょう?」「ほほう、そうきましたか」的な緊張感が店内に広がっているような気がして、それが好きです。外のディスプレイに、前週の「売り上げベスト10」の書籍が置かれているのですが、毎回本をじっくり選ぶ人たちが何を買い求めたのかがよくわかって、「あちこちの書店の売り上げベストがこんな感じだったらいいのにな」と思わせるラインナップ。だから自分の本がそこに入ると、とてもうれしいです。

東京堂書店

東京都千代田区神田神保町1の17
03-3291-5181
営業時間:11時〜20時、〜19時(土・日・祝)
定休日:年始

武田砂鉄さんプロフィール画像
武田砂鉄さん

たけだ さてつ●ライター。1982年生まれ。2015年、『紋切型社会』で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。他の著書に『なんかいやな感じ』など。

八重洲ブックセンター阿佐ヶ谷店

八重洲ブックセンター阿佐ヶ谷店

書店に親しみを抱くことはあまりないのですが、仲のいい人が阿佐ヶ谷に住んでいて、その影響でこの書店へ通うようになりました。こぢんまりとした入り口から入ると、中は想像以上に広い。大型書店に負けない品揃えで頼もしいです。街を舞台にした漫画や、周辺で活躍している芸人さんが登場する雑誌が取り揃えられているのも、地元の書店ならでは。街関連のイベントがあれば、それに沿った特集が組まれていることもあります。その人の家にあった近藤聡乃さんの『A子さんの恋人』は舞台が主に阿佐ヶ谷で、作中にこの店も登場します。そのシーンの原画が店内に飾られていて、前を通ると「聖地だ~」とうれしくなります。ここは以前「書楽」という書店で、私はその頃を知りませんが、ずっと住んでいる人いわく「特に変わりない」とのこと。私にとって新しい何かを書くためのセーブポイントのような場所になっています。

八重洲ブックセンター阿佐ヶ谷店

東京都杉並区阿佐谷南3の37の13 大同ビル1F
03-6915-1951
営業時間:9時30分~23時、~22時(日・祝) 無休

伊藤亜和さんプロフィール画像
伊藤亜和さん

いとう あわ●文筆家。1996年横浜市生まれ。学習院大学文学部フランス語圏文化学科卒業。今年、エッセイ集『存在の耐えられない愛おしさ』が話題に。

誠光社

誠光社

自分の頭の中にある「読みたい本リスト」が具現化したみたいな、必要な本に出合える書店です。訪れると、まず入ってすぐのところにある平台の新刊をチェックします。そして、その左の棚には絵本のコーナーがあり、子どもにも何か一冊買おうかなと必ず一度は見てしまいます。ここで購入して印象に残っているのは、レスリー・カーン著、東辻賢治郎訳『フェミニスト・シティ』。新刊書のことはだいたいSNSでタイトルくらいは見ているのですが、この本のことは知らなくて、たまたま手に取りました。読んでみたらとても面白くて、自分にとって大切な本になりました。奥には小さなギャラリーがあり、展示を眺めるのも楽しみの一つ。展示もイベントも本当にいろいろなことをやっているので、誰でもきっとどれかは関心のあるものが見つかるはずです。イベントには私も何度も登壇させていただいていますが、ここでは毎回リラックスして臨めています。

誠光社

京都府京都市上京区中町通丸太町上ル俵屋町437
075-708-8340
営業時間:10時〜20時
定休日:年末年始

藤野可織さんプロフィール画像
藤野可織さん

ふじの かおり●作家。1980年京都府生まれ。2006年『いやしい鳥』で文學界新人賞を受賞しデビュー。2013年『爪と目』で芥川賞受賞。『ドレス』など著書多数。
©森山祐子/anan

くまざわ書店 武蔵小金井北口店

くまざわ書店 武蔵小金井北口店

武蔵小金井市は、自分が東京に来て初めて住んだ場所。その街の書店なので、とても思い入れがあります。ここはMEGAドン・キホーテの中にあって、そのときに働いていたアルバイト先が近かった。だから、早めに家を出て本をチェックしてからバイトに行く、というコースができていたほど、立ち寄るのが習慣になっていました。確か週に5回は行っていたはず。地下にあるためエスカレーターを下りていく途中で、店の全景が目の前にパッと広がるときのワクワク感はたまりません。気になる本をチェックしながらいろいろなコーナーに足を運びますが、必ず見るのは俳句と短歌の棚。ここで買った本で一番印象に残っているのが西加奈子さんの『炎上する君』です。それまで西さんの小説は読んだことがなかったのですが、この本ですっかり魅了されて西さんの作品にハマっていったので、強く記憶に残っています。

くまざわ書店 武蔵小金井北口店

東京都小金井市本町5の11の2 MEGAドン・キホーテ武蔵小金井駅前店B1
042-385-2351
営業時間:10時~21時 無休

加賀 翔さんプロフィール画像
加賀 翔さん

かが しょう●芸人。1993年岡山県生まれ。相方の賀屋壮也と2015年に「かが屋」を結成。短歌と自由律俳句にも傾倒。著書に『おおあんごう』がある。

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