映画『サブスタンス』の“生みの親”、監督コラリー・ファルジャさんに突撃インタビュー【ネタバレあり】

『サブスタンス』の脚本、監督を務めたコラリー・ファルジャさんを独占取材。作品に込めた実体験に基づく思いを聞いた

『サブスタンス』の脚本、監督を務めたコラリー・ファルジャさんを独占取材。作品に込めた実体験に基づく思いを聞いた

映画『サブスタンス』 監督コラリー・ファルジャ
©Philippe Quaisse MUBI - Fargeat-Quaisse(Coralie)

「きれいでなければならない」それは社会構造からの要請

——この映画がここまで絶賛されたことを、どう受け止めていますか?

コラリー・ファルジャ(以下同) 脚本を書きながら、そうなるといいなと願っていました。これは国境を越えた、人間、とりわけ女性についての深い話だと思いましたから。望んだ通り、皆さんの心に響いたようです。

——自分の体からもうひとりの若く美しい自分が生まれるというアイデアは、どのように思いついたのですか?

私が昔から持っていた妄想です。少女の頃から、自分は、テレビや雑誌が伝える美の基準に達しないと感じてきました。私たち女性は、そう教えられて育ちます。人生のどの段階であってもそう。若いときは、胸が小さいと悩む。年を重ねると、顔にシワがあると悩む。いつだってリアルな自分に満足できません。もっと若くて、きれいで、セクシーな自分自身を作り出して、世の中に送り込むことができたらと、私はよく想像したものです。

——確かに、美貌を持つ俳優さんやモデルさんが美容整形をして、「必要ないのになぜ?」と思うこともありますよね。

その通り。誰もそのプレッシャーから逃れられないのです。社会が押しつけてくる非現実的な基準にみんなが苦しめられている。

——ウォーク・オブ・フェイムに星を据える作業をするのは移民ですが、デニス・クエイド演じるプロデューサー、ハーヴェイや株主は白人の中年男性。テレビに出る人間を決めるのは特定の人物たちであるという現代社会のリアルも描かれます。また、これはひたすら消費を促す社会についても語っているのでしょうか?

私が指摘したかったのは、〝支配的なシステム〟です。少しずつ進化は見られるとはいえ、まだ確実に存在します。一部の中年男性たちは社会を思い通りに支配できるように形作っている。そして女性を物体として、消費の対象にしている。エクササイズの番組で主演を務めるスーは、まさに彼らに消費される商品です。女性は、男性に望まれるようでなければ価値がないと自分でも思わされている。誰だって、社会の中で存在価値を持ちたいですよね。セクシーであることが価値であるのなら、そうならなければと思うものです。そんなふうに、世の中は、今もまだ男性が決めたルールのもとに動いています。

映画『サブスタンス』の“生みの親”、監督の画像_2

——冒頭ではエリザベスを前にしてエビをほおばるハーヴェイが、中盤では大量の料理を作ってむさぼるエリザベスが描かれます。食べ物は何のメタファーなのでしょうか?

それらはシンボルです。私は、セリフでなく、ビジュアルやサウンドを通して語ることを好みます。ハーヴェイがレストランでエビをほおばる様子は暴力的とも言えますよね。あれは彼の人柄を表していて、彼がエリザベスをどう扱っているのかが垣間見られます。エリザベスの年齢から、彼は彼女を残酷に扱ってもいいと思っているのです。それに、彼が食べ終わったあとのテーブルは汚いですよね。彼はそういうことも気にしません。

エリザベスと食べ物の描写も、非常に大事なポイント。女性は、人生のどこかの時点で、食べ物と不健全な関係を結んでしまうもの。拒食だったり、過食だったり、極端なダイエットをしたり。一度もそんなことがなかったという女性はいないのではないでしょうか。食欲をコントロールできれば、成功。カウチで好きなものを食べ続けたら、自分が嫌いになる。表向きには平静を装っていても、内面で女性は食べ物と戦っているのです。ダイエットに成功したとて、それは終わらない。痩せることができたら、次は肌、あるいは髪。女性は、自分自身に戦いを挑み続けます。だけどそれは自身が望んでやることではない。社会のシステムが女性にそうさせるのです。

――ラストシーンで空を見上げるエリザベスは、幸せそうに見えますね。

エリザベスは、どう頑張っても、社会に気に入られることはないのだと悟ります。そして「もうどうでもいい」と思います。怒りを爆発させ、血を流し、本当の自分自身を受け止めます。その段階で、彼女には体がありません。彼女はあそこで安堵するのです。自分がどう見えるのか、気にしなくてよくなったから。これは悲劇でもあります。その気持ちに到達するのに、彼女は自分自身を破壊しなくてはなりませんでした。ですが、同時に、あそこでようやく打ち勝ったのです。

Coralie Fargeatさんプロフィール画像
Coralie Fargeatさん

コラリー・ファルジャ

パリ出身の監督。パリ政治学院と、映画学校ラ・フェミスで学ぶ。長編映画『REVENGE リベンジ』(’17)で注目を浴びる。『サブスタンス』(’24)は第77回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞し、第97回アカデミー賞では5部門にノミネートされた。

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