食をテーマにビジュアル制作を手がけるフードディレクター&アーティストのKAORUさんがウェディングを開催! こだわったのは今まで見たことのない、新しい食体験でおもてなしすること。クラシカルなバーラウンジレストランを貸し切ってコンセプチュアルな料理を堪能する口福な一日を、あますことなく紹介。
profile:KAORUさん(@dressthefoodkaoru ) フードディレクター&アーティスト。「Dress the Food 」主宰。フォトグラファー大野隼男さんと約9年の交際を経て、2023年春に結婚。2023年11月に銀座の「VILLA FOCH GINZA(ヴィラ フォッシュギンザ)」にて、約50名を招待しKAORUさんが総合演出を手がけたウェディングパーティを、「明治神宮」にて親族を招いた挙式を開催した。
フードディレクターならではの食がアートなパーティを
開演ギリギリの時間まで入念なビジュアルチェックを続けていたKAORUさん。メイン料理“伊勢海老とオマール海老の結婚祝い”をディスプレイ。
モノクロの人物写真の上に野菜などの食材をのせて撮影する作品シリーズ「Food On A Photograph」など、独自の価値観で食材を見つめて表現するフードディレクターのKAORUさん。昨年11月に実現した自身のウェディングでは「ゲストに初めての食体験を」と、自ら総合演出を務めハイエンドな会員制のバーラウンジ「ヴィラ フォッシュギンザ」でプライベートパーティを開催した。
テーマは“クラシカルなフレンチとモダンの融合”。「古いフランスの料理本からリファレンスを探して、見た目がユニークで味も最高においしいものを、尊敬するシェフ達と作り上げました」と語るKAORUさん。一流のシェフ達が腕を奮い、ポップで色鮮やかなビジュアルにこだわったフードはもちろん、スペシャルオーダーしたボディコンシャスなドレスにも注目したい。
ハレの日を迎えたふたりをお祝いするゲストも思わず微笑む、ハッピームード溢れた会場。
KAORUさんが初めてフードディレクターとして撮影を手掛けた際に出会ったのが、パートナーのカメラマン大野隼男さん。9年という長い時間をともに過ごす中で、入籍の計画はしていなかったというKAORUさんにはある理由が。
「大野さんに出会う少し前に、大きな病に罹ってしまって。未来への不安など、プレッシャーを彼に背負わせたくない気持ちがずっとありました。でもふとしたタイミングで、一緒にいることがふたりにとって幸せな選択だと思えたんです」。
近年はパートナーとして、ふたりで作品をクリエイトすることも。KAORUさんが編集長を務め、アート・ファッション・カルチャーとの関わりの中でフードの世界観を表現した雑誌「shichimi magazine」では、フォトグラファーのひとりとして大野さんが参加。ウェディング当日は、KAORUさんの幸せいっぱいの笑顔にシャッターを切る大野さんの姿が印象的!
目にも麗しいフードの数々に視線集中!
宝石のように輝くゼリーのオブジェは全てKAORUさんの作品。会場装花は「ハルカゼフラワー」に相談し、フードとの表現を作り上げた。
KAORUさんがまず相談をしたのは、友人であり料理人としても尊敬してやまないというシェフ・岩崎かしくさん。岩崎さんは日本が誇るグランメゾン「シェ・イノ」の創業者・井上旭(のぼる)シェフのもとで修行を積み、現在は3年連続でミシュラン1つ星を獲得している「フォーシーズンズホテル東京大手町」のシグネチャーフレンチレストラン「est(エスト)」で腕を振るう若きシェフだ。
「かつて私が『シェ・イノ』のキッチンで仕込みをさせてもらっていた時期に出会った旧知の仲。岩崎さんに料理を頼むことは最初から決めていたので、彼女が料理をしやすい環境を重視し、会場はバーレストラン『ヴィラ フォッシュ ギンザ』に。クラシカルな店内の雰囲気がコンセプトにもよくはまると感じました」。
KAORUさんが作るオブジェは芸術品のよう。よく観察すると中にはまるで生きているような鯛が!
KAORUさんと岩崎さんがタッグを組み目指したのは、今では食べられるお店が少ないといわれる生粋のクラシカルなフレンチとモダンが融合した料理。
「まず見た目が面白いお料理を中心に、全体のムードをラフに落とし込むところからスタート。古いフランス料理本に載っている写真や料理名から味の想像を膨らませ、ふたりでアイデアを出し合う……その繰り返し。連日、どの材料でどんな味に仕上げるか、細部まで話し合いを重ねました」。
パーティのシンボルとなるビジュアルは、真っ赤なリボンで結ばれた伊勢海老とオマール海老が楽しいムードに誘う、その名も“伊勢海老とオマール海老の結婚祝い”。 「このメニューはラフで1番初めに描いたもの。伊勢海老が出会ったように盛り付けをし、そこにオマールエビとオランデーズソースを合わせた一品を作っていただきました。周りにはトリュフ入りのウフミモザなどを添えてもらいましたが、試食の時点で悶絶するほどのおいしさ! 」
「シェ・イノ」の手島シェフの代表的な料理”パテ・アンクルート”はパーティーの目玉のひとつ。「中世ヨーロッパで出されていたら、キラキラしていたのではとイメージしながら盛り付けを考えました」。
写真上は、「シェ・イノ」の手島純也シェフに特別オーダーしたという“パテ・アンクルート”。フォアグラ、鴨、パテなどをパイ生地で包み焼き、冷めてから鹿のコンソメジュレで固める古典的なフランス料理で、約40cm×30cmの特注サイズは存在感も抜群。
さらに「鮨スタンド三六五」「成戸鮨」の鮨職人による絶品のお鮨もふるまわれるなど、贅沢な食の時間をゲストとともに楽しんだ。
「ヴィラ フォッシュ ギンザ」のスタッフの手厚いサポートに胸を打たれたというKAORUさん。「熱のこもった様々な準備と、ドリンクのサーブや全てのサポートまで完璧でした」。
まるで映画に登場しそうな高さのある“エクレアタワー”は、約80cmセンチもある巨大サイズ。
そしてコースを締めくくったのは「一見食べられなさそうなのに、食べたら信じられないくらいおいしいフランス菓子にしたい」というKAORUさんのリクエストで実現した、「ガレ ガレ」の大澤智弥シェフによるアートピースのような美しいデザート。
“エクレアタワー”は塔の中心部までおいしく食べたい、幼少期の思い出である“白鳥のシュークリーム”はかぎりなく首を細いフォルムにしてほしいなど、不可能と思われるようなお願いにも挑戦してくれる、大澤シェフの真摯な姿勢に感動を覚えたというKAORUさん。
「大澤さんの働く工房にある1番大きな型で作った“ガレット・デ・ロワ”、レースのような繊細なデザインを特別に施していただいた“ガトーナンテ”など、大澤さんが作るクラシカルなフランス菓子にときめきが止まりませんでした」。パーティ終了後は、ゲストがそれぞれ好きなスイーツを自宅へお持ち帰りしたのだとか。
用意したカナッペは4種類。岩崎シェフによる甘エビのタルタル、大澤シェフのパイ生地、KAORUさん自家製のへべすジャムがマリアージュしたカナッペは、シックな見た目とのギャップも面白くお気に入りの一品。
岩崎シェフの地元・仙台の郷土料理「はらこ飯」。鮭の煮汁で炊いたごはんに、煮込んだ鮭の身とイクラ醤油漬を贅沢にトッピング! 岩崎シェフの実家で三代にわたり受け継がれる家庭の味はゲストに大好評。
噴水のオブジェには、群馬で見つけたという青リンゴ“グラニースミス”をディスプレイ。パーティ後は青リンゴに白いシルクのリボンで装飾して、ゲストに手渡し。
フランス・ナント地方の伝統菓子「ガトーナンテ」。ウェディングをイメージした美しい装飾を施して。
KAORUさんのスケッチによるラフ画をもとに、シェフ達と夢のような料理を作り上げた。
用意したカナッペは4種類。岩崎シェフによる甘エビのタルタル、大澤シェフのパイ生地、KAORUさん自家製のへべすジャムがマリアージュしたカナッペは、シックな見た目とのギャップも面白くお気に入りの一品。
岩崎シェフの地元・仙台の郷土料理「はらこ飯」。鮭の煮汁で炊いたごはんに、煮込んだ鮭の身とイクラ醤油漬を贅沢にトッピング! 岩崎シェフの実家で三代にわたり受け継がれる家庭の味はゲストに大好評。
噴水のオブジェには、群馬で見つけたという青リンゴ“グラニースミス”をディスプレイ。パーティ後は青リンゴに白いシルクのリボンで装飾して、ゲストに手渡し。
フランス・ナント地方の伝統菓子「ガトーナンテ」。ウェディングをイメージした美しい装飾を施して。
KAORUさんのスケッチによるラフ画をもとに、シェフ達と夢のような料理を作り上げた。
未来へ循環できるアップサイクル仕様のドレスをフルオーダー
約半年前からフェティコのデザイナー・舟山瑛美さんにドレスデザインを相談。当日の最終フィッティングまで瑛美さん自身が行い、アクセサリーとのバランスまでチェック。
特別な日の一着に選んだドレスは、友人であるデザイナー・舟山瑛美さんが手がけるブランド「FETICO(フェティコ)」でオーダー。“女性の造形美”にフォーカスしたフェティコの洋服を普段から愛用しているというKAORUさん。
「パーティ後に、違うお洋服やバッグなどにアップサイクルできるような作りにしてほしいと瑛美さんにリクエストしました。完成したドレスは上下のセパレート。それぞれに少しお直しをして着られるようにしてくれて、感激しました」。クラシカルなムードをまといつつ、胸もとの肌見せと大胆な背中の開きが抜け感を演出する特別な一着が完成した。
フェティコらしいカッティングとバックスタイルにも注目が集まった。
「みんなもそろそろドレスアップしてパーティに行きたい時期なんじゃない」という瑛美さんの一言がパーティ開催の後押しに。
ドレスに合うアクセサリーのイメージは、瑛美さんの夫であるスタイリストの山口翔太郎さんがアドバイス。そしてたどり着いたのが「ボッテガ・ヴェネタ」の「SARDINE(サーディン)」という個性的なコレクション。その名の通りかわいらしい魚(ニシン)をモチーフにしたラグジュアリーなピアスを見て、これしかない!と即決したそう。
即興で作るケーキにゲストも大興奮!
ゲストの目の前でパイに生クリームを塗り、旬のベリーを贅沢にトッピング。
司会としてパーティを盛り上げてくれたのは、雑誌や書籍などで活躍する編集者・コピーライターの平井莉生さん。平井さんの助言から、パーティー内でゲストと一緒に楽しめる場面を作ることになり、ふたりがケーキをその場で仕上げて振る舞うダイナミックな演出が実現! さらにフォトグラファーの大野さんが9年間撮り溜めてきた、KAORUさんの日常を切り取った写真で構成した20分の映像をプログラム。ふたりの歴史をゲストと一緒に振り返る、温かい時間を過ごした。 「ムービーは大野さんに全ておまかせしました。素の自分の姿が写っていたので恥ずかしいし、人さまには見られたくない写真ばかりだったのですが、ゲストの中には涙する方もいらっしゃって。画面に映る私越しに、大切な誰かを見つめているような感覚になったのかもしれません」。
昨今では珍しい、レトロなムードの“白鳥シュークリーム”は、今にも折れそうなほど繊細な細さの首が美しい。
ウェス・アンダーソン監督の映画『グランド・ブタペスト・ホテル』をイメージしたカラフルなシュークリームの中身は、キャラメルクリーム。
色鮮やかなラズベリーをのせた厳選のフランス産チーズはまるで花畑のよう。華やかな香りをまとい、修道院の僧侶たちが作りはじめたという「テット ド モアンヌ モンターニュ」など4種類を用意した。
昨今では珍しい、レトロなムードの“白鳥シュークリーム”は、今にも折れそうなほど繊細な細さの首が美しい。
ウェス・アンダーソン監督の映画『グランド・ブタペスト・ホテル』をイメージしたカラフルなシュークリームの中身は、キャラメルクリーム。
色鮮やかなラズベリーをのせた厳選のフランス産チーズはまるで花畑のよう。華やかな香りをまとい、修道院の僧侶たちが作りはじめたという「テット ド モアンヌ モンターニュ」など4種類を用意した。
新たな可能性を創出した特別な一日に
招待したゲストが「こんなパーティには行ったことがない」と喜んでくれるだけでなく、自身のディレクションのもとで関わった料理人、パティシエ、当日のサービスを担当してくれたスタッフにも「刺激的な挑戦だった!」と言ってもらえたことに心から感激したというKAORUさん。
「私の『こんなビジュアルのお料理にしたい!』というリクエストを細かく汲み取って、技術と心を落とし込み形にしてくれたシェフのみなさんの仕事は、まさに一流。最高のウェディングパーティにしようと同じ目標に向かうプロセスは、さながら大人の文化祭のようで、何より私自身が楽しめた刺激的な日々でした」。
フードを軸として、アート、ファッションなど幅広いフィールドで活動するKAORUさん。「今回の経験を機に、パーティの場面など食体験としてのフードディレクションの分野にも挑戦したいですね」と語り、今後の彼女の新しいクリエイションにも注目したい。