外を歩くのも心地よい秋の休日は、パートナーと感性を磨くアートスポットへ出かけよう。紹介するのは記念日やハネムーンなどに宿泊したい、名建築家が手掛けた話題の宿や美術館併設のホテル。心を潤す美しい空間で、ふたりの思い出を鮮やかに彩ろう。 2023年春に誕生。瀬戸内海を彩る8色の動く展示室【広島|SIMOSE】 坂 茂氏が瀬戸内海に浮かぶ島々から着想を得た可動展示室。©SIMOSE 水盤に並ぶ鮮やかなイエロー、ピンク、ブルー。瀬戸内海のランドスケープを鮮やかに染める8つのキューブの正体は、建築家・坂 茂氏がデザインした可動展示室。ここは広島県大竹市に2023年4月にオープンした「Simose Art Garden Villa」。「下瀬美術館」を中心に、10棟の宿泊ヴィラとレストランを構える広大な複合施設だ。 美術館入口の「エントランス棟」。ミラーガラス越しに外が見える開放的な空間。©SIMOSE “アートの中でアートを観る”。そのコンセプト通り美術館に足を踏み入れると、大木が枝を広げたように梁と柱が一体となった空間が一気に人々を惹き込む。館内には館長である下瀬ゆみ子氏とその両親が収集した500点以上の伝統工芸品や近代絵画を収蔵・展示。幅広いコレクションと企画によって姿を変える可動展示室が、訪れるたびに新鮮な出会いを与えてくれる。 施設内のヴィラ「壁のない家」。1997年に建てられた坂 茂氏の名作をヴィラとして再設計。©SIMOSE 「キールステックの家C」など、5つの棟が瀬戸内の島々を眺めるように並ぶ「水辺のヴィラ」。©SIMOSE そんな同施設に点在する10棟のヴィラは、建築好きにはたまらない坂 茂氏の代表作、新作が一堂に集結。中でもすべての壁を排除し、自然と繋がる非日常な体験ができる「壁のない家」や、テラスのジャグジーバスでリトリートを堪能できる「キールステックの家C」は、パートナーとのハネムーンにぴったり。 未知なるアート体験に気づくと五感がそよぎ、瀬戸内海の心地よい風が心の奥まですっと通り抜ける。一度訪れたらまた来たくなる、新たなアートスポットにぜひ大切な人と訪れたい。 宿泊料金:¥160,000~(1棟2名利用時、夕・朝食付き、客室内のドリンク、ラウンジでの飲食、美術館入館チケットを含むオールインクルーシブ、サービス料込み) Simose Art Garden Villa広島県大竹市晴海2-10-50https://artsimose.jp/villa/0120-907-090 夜になると鮮やかに発光する可動展示室。宿泊時にゆったりと眺めたい景色のひとつ。©SIMOSE 散策も楽しい「エミール・ガレの庭」。エミール・ガレ氏の作品に登場する草花が瑞々しく広がる。©SIMOSE 地元の幸が味わえる広々としたレストラン。オープンキッチンのライブ感も食欲をそそる。©SIMOSE 夜になると鮮やかに発光する可動展示室。宿泊時にゆったりと眺めたい景色のひとつ。©SIMOSE 散策も楽しい「エミール・ガレの庭」。エミール・ガレ氏の作品に登場する草花が瑞々しく広がる。©SIMOSE 地元の幸が味わえる広々としたレストラン。オープンキッチンのライブ感も食欲をそそる。©SIMOSE 名作チェアやアートが潜む、世界的建築家の初の宿【長野|ししいわハウス軽井沢 №03】 建築家・西沢立衛氏がはじめて宿をデザイン。4つの緑豊かな中庭から、ゆとりの“間”が漂う “タイパ”という言葉が浸透するほどに、余白を排除するムーブメントが続いている今。そんな流れの中でふと一呼吸おきたいとき、パートナーと訪れたい宿が2023年6月に誕生した。場所は奥深い軽井沢の森に建つ「ししいわハウス軽井沢」。これまでに坂 茂氏が手掛けた同施設内の「№1」「№2」の宿に続き、待望の3作目となる「№3」は西沢立衛氏が担当。 日本を象徴する木材・ヒノキで仕立てられた客室に、陽光が燦々と降り注ぐ はじめての本格的な宿設計に西沢立衛氏が掲げたのは、“伝統的な日本旅館を現代の解釈で表現すること”。 それを象徴するように、客室の壁や床、造作家具まで、素材はすべて岐阜県産の無垢なヒノキを使用。穏やかな木材の芳香に癒されたら、優雅に佇むピエール・ジャンヌレ氏作の「イージーチェア」で、読みたかった本のページをめくろう。ミッドセンチュリーの名作椅子に体を預けると、自然と心もスローなリズムを奏ではじめる。 お茶会を現代風のスタイルで気軽に楽しめる「ティーハウス」 半屋外の回廊でゆるく繋がる全10棟のパヴィリオンには、オーナーがコレクションした版画、掛け軸など日本美術の作品を数多く展示。特に目を見張るのは「ティーハウス」の顔となる艶やかな屏風。日本古来の美意識に五感で浸れるひとときに、アート好きのふたりの感性も刺激される。 同施設内の「ザ・レストラン」。四季折々の風景と旬の食材に英気が養われる 隣接する「№2」のレストランや共用スペースではウェディングも行える「ししいわハウス軽井沢」。愛する人との未来を誓い合う、門出の場としても注目を。 宿泊料金:¥83,490~(1室2名利用時、朝食付き、サービス料込み) ししいわハウス軽井沢 №03長野県北佐久郡軽井沢町長倉2147-40 SSH No.3https://www.shishiiwahouse.jp/0267-31-6658 緑豊かな軽井沢の地に馴染むよう、焼杉板の黒いファサードで設計された外観 付かず離れず。宿全体に心地よい繋がりを生む、半屋外の回廊 畳の寸法に合わせた画期的な建築スタイル。足裏から伝わる畳の風合いにも浄化される 緑豊かな軽井沢の地に馴染むよう、焼杉板の黒いファサードで設計された外観 付かず離れず。宿全体に心地よい繋がりを生む、半屋外の回廊 畳の寸法に合わせた画期的な建築スタイル。足裏から伝わる畳の風合いにも浄化される “藤森建築”で暮らす。世界でここだけの幸福な時間【長野|小泊Fuji】 世界中で評価される建築家・藤森照信氏初となる宿が、長野県富士見町にオープン どこかおとぎ話に出てくるような世界観で、周囲の自然と優しく手を取り合う藤森照信氏の建築。その温かな魅力を物語るように、2023年8月「小泊Fuji」が開業するまでのストーリーにも、人々の情熱や優しさがあふれている。 1日1組限定(定員5名)の宿。室内の暖炉や家具も藤森氏が自らデザイン はじまりは“藤森建築”に魅せられたオーナー・山越典子氏の、藤森氏本人への一世一代の告白から。“藤森建築で宿を営みたい”と、2010年から3年にわたり想いを届け続けた末にもらったチャンス。資金の一部となったのはオーナーが発起人となって行ったクラウドファウンディング。リターンとして支援者自らが参加できる貴重な作業機会を設け、たくさんの人々が笑顔を浮かべながら完成させた宿。温かな手仕事の残り香は、漆喰の壁の風合いなど、今も部屋の随所に感じとれる。 非日常な時間を過ごしてほしいと部屋に並べられた、作家物の抹茶道具 室内には、茶室を多く手掛ける藤森氏に因んで抹茶の道具を用意。部屋の雰囲気にもマッチした茶碗の数々は、宿と同じ苗字の小泊 良氏に制作を依頼したという、ひとつひとつのエピソードにも心が躍る。 愛らしい椅子に座って過ごす贅沢な時間。夕食・朝食も部屋で食事ができるので完全プライベート空間に 椅子の一脚一脚にも、それぞれの表情と魅力が宿り、過ごすほどに愛着が募っていく藤森氏の国内初の宿泊施設。“建築は誰にでも関われる仕事があるから面白い”。藤森氏の言葉から、2024年8月末まで天井に炭の欠片1ピースを貼れる宿泊記念も実施中。アートな想い出作りにもぜひ。 宿泊料金:基本料金¥66,000〜(1日1組1棟貸し(定員5名)、朝食付き)+宿泊料金¥8,800/1名につき※基本料金は季節に応じて変動あり 小泊Fuji長野県諏訪郡富士見町(住所の詳細は宿泊時にお知らせ)https://kodomari-fuji.jp/ 翌朝は部屋に用意されたホットケーキミックスとグラノーラでのどかな朝食を 宿の近くに樹齢300年の枝垂れ桜があることから、屋根には桜の木を植栽 滞在中はデッキから南アルプス、富士山を眺めながら、新鮮な空気を体いっぱいに取り込もう 翌朝は部屋に用意されたホットケーキミックスとグラノーラでのどかな朝食を 宿の近くに樹齢300年の枝垂れ桜があることから、屋根には桜の木を植栽 滞在中はデッキから南アルプス、富士山を眺めながら、新鮮な空気を体いっぱいに取り込もう 芸術が渦巻く、温泉街のアートホテルに迷い込む【大分|ガレリア御堂原】 モダンな美術館のような雰囲気が漂うホテル内。独特な土色の壁で、周辺の大地との繋がりを生む 国際芸術祭が毎年開催され、近年アート愛好家からも一目置かれる温泉地・別府。新たな芸術を求めにこの地を訪れるなら、さながらホテル全体が美術館のようにデザインされた「ガレリア御堂原」にステイしてみては。 館内にはここでしか出合えない、12組のアーティストの作品を恒久展示。あえて複雑に設計された空間構造に、気分はまるで温泉地の路地に迷い込んだような不思議な感覚に。巡るほどに新たな景色や作品が目の前に飛び込み、大人の好奇心をぐっと掻き立てる。 ロビーに浮かぶ巨大な球体は大巻伸嗣氏の作品。別府の湯けむりなどからくる“ゆらぎ”を光で表現 写真家・西野壮平氏が別府の温泉を100湯以上撮影し、作り上げた「別府温泉世界地図」(写真左)。銀河、温泉の湯気などを表現した鈴木ヒラク氏の「揺らぎから光へ」も展示(写真右) 希望する宿泊者には、館内のアートツアーを毎夕開催。広々としたロビーを照らす大巻伸嗣氏の球体作品をはじめ、別府の地からインスピレーションを受けた作品をじっくりと鑑賞できる特別なひととき。スタッフからアーティストの作品への想い、エピソードが聞けるのもアート好きにはたまらない。 メゾネットスタイルで、自宅のように寛げるプライベート感も魅力のスイートルーム パートナーとの記念日、誕生日にはぜひスイートルームに宿泊を。シンプルにそぎ落とされたデザインの中に、確かな手触り感や手仕事を宿した上質な空間。そこには別府の“森”と“水”をテーマに制作された作品も飾られ、アートと過ごす豊かな時間をふたりで共有できるのもうれしい。 もちろんお風呂は天然温泉を常時かけ流し。古来より愛されてきた温泉と、新たな風を吹き込む芸術の熱量に、気づけば心身ともにぽかぽかとエナジャイズされているはず。 スイートルーム宿泊料金:¥143,500~(1室2名利用時、素泊まり、入湯税・サービス料込み) ガレリア御堂原大分県別府市堀田6組https://beppu-galleria-midobaru.jp/0977-76-5303 スイートルームにはキッチンも併設。ここを拠点にした別府のロングステイもおすすめ アートツアー後に夕食を堪能したら、最後は館内のバーでオリジナルカクテルを スイートルームにはキッチンも併設。ここを拠点にした別府のロングステイもおすすめ アートツアー後に夕食を堪能したら、最後は館内のバーでオリジナルカクテルを “癒・食・知”を軸にした複合施設でアートな感性を磨く【三重|VISON】 敷地内にある「KATACHI museum」。真っ白な空間に“食の道具”を展示するユニークな博物館 例えば、日常で何気なく触れる食べ物や道具。これらに深い美意識をもって向かい合うことができれば、ライフスタイルはアートな出合いに満ちている。そんな気付きを与えてくれるのが、三重県・多気町に2021年にオープンした複合施設「VISON」だ。 一日では回りきれない約70の店舗からまず注目したいのは、陶芸家・造形作家の内田鋼一氏がプロデュースした博物館「KATACHI museum」。ここでは国籍も時代もバラバラの食にまつわる道具たちを、アート作品のように展示。キッチンにさりげなく置かれるやかんさえも、見せ方を変えるだけでオブジェとしての造形の美に気づかせてくれる。 スペインのサン・セバスチャン市と友好関係を結ぶ多気町に因んで、バスク料理をふるまう「イスルン」。恋人とのディナーにも最適 毎日を彩る“食”は同施設でも重要なエッセンス。地元産の食材を販売する「マルシェ ヴィソン」や、日本食を軸にした「和ヴィソン」など、多種多様な飲食店で食文化の魅力を伝えるエリアは、活気にあふれた賑やかなムードに。 ホテル棟に飾られた作品はスペインの現代彫刻家・エドゥアルド・チリーダ作。2本の手で人と人との繋がりを創造させる 「minä perhonen」のコンセプトルーム。椅子、照明、カップなどあらゆるアイテムからブランドの個性が感じ取れる 忘れてはいけない同敷地内の宿泊施設にも、アートとの出合いは訪れる。まず出迎えるのはホテル棟のフロントロビーに対になって飾られているふたつの大作。多彩なラインナップを誇る客室の内、旅籠棟では「minä perhonen」のコンセプトルームも展開し、ブランドオリジナルのファブリックが張られた家具のあつらえにも感性が光る。 日々の生活に隠れた“美”を改めて発見できる「VISON」。近隣に住む人にはデートスポットとして、遠方に住むカップルには観光名所として今後も期待が高まる。 「旅籠3 minä perhonen room by vison direction」宿泊料金:¥66,000~(1室2名利用時、夕・朝食付き、サービス料込み) VISON三重県多気郡多気町ヴィソン672番1https://vison.jp/0598-39-3190 <宿泊のお問い合わせ>HOTEL VISON / 旅籠ヴィソンHOTEL VISON:三重県多気郡多気町ヴィソン672-1 ホテルヴィソン旅籠ヴィソン:三重県多気郡多気町ヴィソン672-1 サンセバスチャン通り5https://vison-hotels.com/0598-39-3090 エドゥアルド・チリーダ氏の作品にインスピレーションを受け、新城大地郎氏が対となるアートを制作 東京ドーム24個分の広大な敷地。1年を通してこの土地ならではの72種類の薬草湯を体験できる温浴施設も見どころ 「Gallery 泛白 uhaku」(写真左)の外観。2023年10月13日(金)より“白”をテーマにしたイラスト展を開催予定 エドゥアルド・チリーダ氏の作品にインスピレーションを受け、新城大地郎氏が対となるアートを制作 東京ドーム24個分の広大な敷地。1年を通してこの土地ならではの72種類の薬草湯を体験できる温浴施設も見どころ 「Gallery 泛白 uhaku」(写真左)の外観。2023年10月13日(金)より“白”をテーマにしたイラスト展を開催予定 偉大なアーティストの美術館で永遠の愛を誓う【山梨|中村キース・ヘリング美術館】 象徴的なエントランスのネオンサイン。ニューヨークの地下鉄など街並みにアートを生み出した当時の活躍に思いを馳せる 2007年4月、ニューヨークを拠点に活躍したキース・へリング氏の世界で唯一の美術館として誕生した「中村キース・ヘリング美術館」。わずか31年という短い生涯ながら、エネルギッシュな作品で平和へのメッセージを後世に残した彼の想いに応えるように、同施設では愛を讃える結婚式のセレモニーが行える。 挙式が行える屋上スペース。シンボリックな建造物がセレモニーに華を添える 挙式の場になるのは、国際的建築家・北川原温氏が設計したユニークな美術館の屋上や中庭、それと八ヶ岳の自然に包まれる開放的な裏庭と森のエリア。カップルで好みのプランナーやプロデュース会社を手配してセレモニー空間の演出を創ることができるので、唯一無二のふたりらしい挙式で未来への一歩を踏み出せる。 約800点に及ぶ作品から、毎年異なるテーマによるコレクション展や現代アーティストを迎えての企画展を開催。All Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation Courtesy of Nakamura Keith Haring Collection 屋外展示は八ヶ岳の風景とのマリアージュも魅力的。All Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation Courtesy of Nakamura Keith Haring Collection 式前や式後はゲストが無料でアート鑑賞を楽しめるのも、ミュージアムでのウェディングならでは。館内全体を巡ることで、キース・へリング氏の人生を体感できるように設計された美術館。混沌とした時代の中でも未来への希望を発信し続けた彼の歩みは、ゲストの心にも力強いメッセージを届けてくれる。披露宴は美術館のすぐ隣にある「ヴィラキーフォレスト」での開催をリコメンド。イベントホール付きの宿泊施設で同エリアには「ホテルキーフォレスト北杜」もあるので、パーティ後はそのまま皆で滞在を楽しむのも粋なプラン。 長年LGBTQ+コミュニティへの支援や、環境問題についてもアクションを起こしてきた、今新ためて注目したいスポット。ウェディングを考えているふたりもぜひ一度訪れてみては。 施設利用料金(中庭・屋上・裏庭):¥100,000/1時間※9:00~17:00以外の時間は¥150,000/1時間※全館貸し切りも対応可※キャンセルは開催日の3ヵ月前まで受付(それ以降はキャンセル料100%) 中村キース・ヘリング美術館山梨県北杜市小淵沢町10249-7https://www.nakamura-haring.com モダンな雰囲気を好むカップルは、コンクリートでデザインされた中庭で挙式を 自然のランドスケープを活かした傾斜が特徴の建物。結婚式のフォトスポットとしても活躍 モダンな雰囲気を好むカップルは、コンクリートでデザインされた中庭で挙式を 自然のランドスケープを活かした傾斜が特徴の建物。結婚式のフォトスポットとしても活躍