そもそもなぜ、私たちには筋肉が必要なのだろう? その答えを得るべく、女性の身体と筋肉の関係に詳しい鯉川先生にインタビューした。
――女性が筋肉を鍛えることでの、いちばんのメリットはなんですか?
「まずは、筋肉が増えることによって基礎代謝が上がるというのがひとつ。ヒトは臓器によって、エネルギーの代謝が違います。安静時、筋肉は1㎏あたり13㎉も代謝しますが、脂肪はたったの4.5㎉しか代謝してくれません。筋肉を増やせばそのぶん代謝量が増え、太りにくくなるというわけです」
――運動能力にも違いは出てきますか?
「女性の筋肉量は20歳でピークになるといわれていて、アスリートでなければ、普通の女性は男性よりも早く筋力が低下し始めます。特に落ち方が顕著なのは、脚伸展力、背筋力のふたつ。それと、筋力が落ちると、そのぶん骨にダイレクトに負担がきます。ただ、女性はエストロゲンというホルモンが骨が壊れるのを防いでいるんですが、閉経後はそれがゼロになる。そうすると、一気に骨密度が低下していきます。アジアの女性はスポーツをする頻度が少ないので、特に骨粗鬆症が多いといわれている。そのため若いときからスポーツする習慣をつけることはアンチエイジングにも効果的です」
――疲れにくくなるとも聞きました。
「そのとおり。ヒトの動きはすべて筋肉がサポートしていますよね。筋肉が少ないと、その少ない筋肉が必死に頑張るのでどっと疲れますが、筋肉が多くあると、余力が生まれて疲れにくくなるというわけです。疲れにくくなって活動的になるということは、もう一歩先まで行ってみようとポジティブな気持ちになるということでもあります」
――ということは、メンタルにもいい影響があるということでしょうか?
「もちろん! 筋肉には、ホメオスタシス(恒常性)を安定させる特性があるんですが、自律神経とも密接に関係しています。冷え性だとか、風邪をひきやすいとか、20代の後半あたりからこのような症状が見えてきたら、『あ、自分は筋肉が減ってきているんだな』と自覚するべきですね」
――筋量がアップするといいことばかりで俄然筋トレしたくなってきました!
「トレーニングを習慣づけるということは、結果的に健康寿命が長くなるということでもあります。毎日特別なことをやらなくてもいい。地下鉄やビルでは階段を使うことを心がけるだけでも違います。最初はきつくても、毎日続ければラクになってきます。すると、動きやすい靴を選ぶようになって積極的に歩くようにもなり、走れるようにもなってくる。10分走って5分歩くのが平気になってきたら、次は15分走って5分歩くというように徐々に距離も延びていきます。このように、段階的に負荷を上げて効果を出すことを『漸増負荷(ぜんぞうふか)』といいます。小分け運動は、連続運動と同じ効果があるといわれていますから、まずはできるところから始めましょう。大事なのは、運動を習慣づけて継続することです。
お話を伺ったのは…
鯉川なつえ先生(順天堂大学先任准教授)
福岡県生まれ。筑紫女学園高等学校、順天堂大学在学中に中長距離で新記録を数多く樹立。現在は順天堂大学スポーツ健康科学部先任准教授、同大陸上競技部女子監督。女性トレーニングに関する研究の第一人者でもある。
『女の友情と筋肉』1〜3巻 KANA著(星海社/各640円)
アパレルショップスタッフのマユ、メーカー勤務のイオリ、商社OLのユイ。マッスルだけどキュートでやさしい3人の女の子が繰り広げる大人気4コマ漫画。今特集では3人と、イオリの部下の柴田が特別出演。
SPUR2016年6月号掲載
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