ヘアに精通するプロたちがスペシャル座談会「時をかけるセンシュアル・ショート」

ヘアの最前線を見続ける、プロフェッショナルな3人が今宵集結! ショートヘアの過去、現在、未来を通し、その魅力を余すところなく語り尽くす。

▸▸ 大城祐樹 / HAIR ARTIST有名ヘアサロンで美容師として活躍後、ヘアアーティストに転身。さまざまなテイストのスタイルを自在に操り、メイクアップアーティストからの指名が絶えない。現在も撮影の合間を縫って、ヘアカット等を行うこともあるそう。

▸▸ Rie Shiraishi / HAIR MAKE-UP ARTIST
本誌をはじめ、数多くの媒体や広告等で活躍。モデルやアーティストからの指名が絶えない、売れっ子ヘアメイク。かつては、美容師としてハードにサロンワークをこなした経験もあり。ご本人の髪型遍歴も、かなりのものだとか。

▸▸ 大川英伸 / HAIR DESIGNER
代官山の路地裏にひっそりと佇むヘアサロン「Praha」「moonlight」のオーナー兼美容師。“自分の髪を切ってほしいと美容師が憧れる美容師”として、業界内でも注目を浴びる存在。常に先を見据えながら、その人に寄り添うスタイルを提案し続けている。

唯一無二の“個”を求めて。ショートヘアにする時代

大川 ショートってすごく世代でも求められるものが違うなと思っていて、ここ最近は20代ならストリート、30代や40代はモードとカジュアルの傾向が強い気がするなぁ。
Rie “個”が求められている今、髪型で表現しようとする人が多いですよね。そこでショートが人気なのは、ロングやミディアムよりメッセージ性が強いからだと思います。
大城 今、ミレニアル世代を超えてZ世代が登場しているけれど、彼らにとっていちばん大事なのは「唯一無二」であること。僕自身も美容の専門学校に通っていたけど、当時と比べ物にならないぐらい、今の現役の子たちの髪は……激しい!(笑)。
大川 確かに最近はブリーチ剤とかも含めて薬剤が各段によくなっているし、髪が傷みにくくなったからハイトーンにする人もまた増えてきた。SPUR12月号の「一周回ってこれが好き!」っていう大特集テーマを見て、ヘアもそうだなと思いました。それぞれの年代で自分がしっかりと確立されてきて、じゃあどんなヘアにしよう?って積極的にみんなが考えている。

ショートにすると性格が変わる!? 切る側は、実は結構大変(笑)

大城 ところで、ショートヘアの魅力って何だと思いますか?
大川 やっぱり、おしゃれになることかな。断然服がキマりやすくなる。
Rie ギャップが生まれるところですね。ショートって本来メンズっぽさが強調されるイメージだったけれど、テクスチャーやシルエットに工夫がされて、今はむしろ女性らしさや、まさにセンシュアルな魅力を後押ししてくれるものになっていますよね。
大川 そう思います。ショートにしたことで、性格が変わる人もいますもんね。そぎ落としていく、シンプルの極み。だからこそ魅力的なんだろうなぁ。コンプレックスで隠したい部分が、逆にポジティブに際立ってきたり。
Rie まさに! ショートのスタイルをつくるのは「建築」の過程に似てるんですよね。ボブとかロングよりも本当に難しいんです。だから……上手な人に切ってもらったほうがいい(笑)。
大川 本当に、ショートは建築物。切る側の技量は確実に試されますね。

もはやレングス概念が崩壊! ショートヘアが得た、無限の可能性

大川 ちょっと前までは「ショート・ミディアム・ロング」みたいに、レングスに対してすごく忠実だったけれど、ここ最近その概念がなくなってきてませんか? インスタグラムが普及してハッシュタグをつけるようになって、ショートでないものにも「#ショート」ってついてますよね。だからか、サロンにくるお客さんが見せる画像が、僕にとって明らかにショートじゃないことが増えたんですよ。
大城 なるほど。実際に今回4つのサロンの方が提案しているスタイルも少し長めですし! これまでの枠にとらわれないスタイルが今後メインストリームになっていくのかもしれない。
大川 新しいスタイルを考える上で、よく「ベリーショートはボーイッシュで攻め、伸ばすとフェミニンで守り」という考え方が潜在的にあるけれど、それを一度壊して、発想の転換が必要な時期。もはや今はそんなに簡単な方程式ではないし、男性が女性側に近づいてきているような気さえするんです。
大城 それ、わかります。

オイルからジェルへ。ウェット質感はまだ継続しそう

Rie 今、ヘアプロダクトにもちょっとした変革が起こっていて、サステイナブルであることをアピールするものがすごく増えていませんか? ただ髪がキマればイイだけじゃなくて、体にも環境にもよくてオーガニック志向。
大川 そうですよね。全身に使えるものがすごく多くなった。ウェットブームが続いてオイルがすごく充実していたけど、質感はそのままに、そろそろ毛を動かしたくなってきている空気も感じていて。今後、オイルとジェルの中間のようなものが増えていきそう。
大城 新しいオイルウェットジェル、気になりますね!
Rie ウェットすぎず固まりすぎずなほどよいテクスチャー感、いいですね。
大城 あるいはこれも“個”を追いかける流れかもしれないけれど、逆にドライにする人とかが出てくる可能性も十分にある。もっと自由な感じで。

3人が選ぶ“名”ショートヘア

たとえるならば名曲か、ヒット曲か

Rie 今、ショートヘアの子、多いですよね。そのスタイルもただボーイッシュというだけでなくて、やわらかな、女性らしい線がある。そして、そのムードが備わった印象的なアイコンって、時代を遡ると結構いませんか?
大川 印象的なのは、ジーン・セバーグやジェーン・バーキン。それまでのスタイルの型を破ってショートにしたのは、革命だったと思います。
大城 僕にとってアイコニックなショートというと、エドワード・ファーロングなんです。彼の髪型、今も男女問わず人気ですよね。あとはメグ・ライアン。あのドライで引っ掛かりのある質感がいい。男の子っぽいムードと、センシュアルさが共存したスタイルだからこそ、性別関係なく、愛される理由なのだと思います。
大川 僕は90年代のクロエ・セヴェニーと、年を重ねてよりショートが似合っているシャルロット・ゲンズブール、あとモデルのサラ・カミングスかな。クロエが感じさせるカルチャー感は、どんなものでも自分のものにしてしまう強さがあるし、サラは最近のジェンダーレスなショートヘアの流れをつくったひとりだけど、実はずっとマイナーチェンジを続けて進化しているんです。男である僕から見ても、憧れます。
Rie あのクロエのショートに憧れて真似したことがあるんですけど、トラウマレベルに大失敗して記憶の彼方に追いやってます(笑)。個人的には映画とリンクしていて、『ローズマリーの赤ちゃん』(’68)のミア・ファロー、『橋の上の娘』(’99)のバネッサ・パラディとかですね。あと、やっぱりツイッギーはアイコンとしてはずせないですよね。思えば、彼女たちのスタイルって毛の流れが独特。ぴたっと張りついたコンパクトさが愛らしいし、個性を押し出してくれる。
大川 どれも最高ですね。ショートヘアのアイコンって、時代は違えど、それぞれのスタイルに彼女たちの生き様やパーソナリティが反映されている。
大城 今「アイコニックなショート」と言われてパッと頭に浮かぶのって、やっぱり彼女たちなんですよね。普遍的というか。今後、そういうスタイルって生まれるんでしょうか。
大川 多分、名曲とヒット曲の違い、みたいな感じじゃないかな。どんなに新しいスタイルが生まれても、それらに負けない色あせない魅力がある。
大城・Rie 確かに! 名言ですね。