愛憐 ―萩原朔太郎―

きつと可愛いかたい歯で、
草のみどりをかみしめる女よ、
女よ、
このうす青い草のいんきで、
まんべんなくお前の顔をいろどつて、
おまへの情慾をたかぶらしめ、
しげる草むらでこつそりあそばう、
みたまへ、
ここにはつりがね草がくびをふり、
あそこではりんどうの手がしなしなと動いてゐる、
ああわたしはしつかりとお前の乳房を抱きしめる、
お前はお前で力いつぱいに私のからだを押へつける。
さうしてこの人気のない野原の中で、
わたしたちは蛇のやうなあそびをしよう、
ああ私は私できりきりとお前を可愛がつてやり、
おまへの美しい皮膚の上に青い草の葉の汁をぬりつけてやる。

【解説】 欲望と情交が、野原や青い草という言葉が印象的な自然の情景の中で描かれる。生命感のある、肉感的な描写。現代から見ると少しユーモラスにも思える表現だけれど、詩集『月に吠える』刊行時(大正6 年・1917年)、この詩はほかの一篇とともに検閲で問題作と判断され、発禁処分となった。
出典:『萩原朔太郎詩集』(岩波書店) 三好達治選

名前はフランス語で“禁じられた庭”。その香りは人の出入りが禁止された庭に息づく花々や果実が作り出すフレッシュな空気を思わせる。高ぶる胸の鼓動を抑えて愛しい人に会いに行くときにつけたい。
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2016年2月号掲載
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