2016.02.04

パリ、京都 旅する口紅 Vol.2

天球院の「竹に虎図襖」の前で正座するニコラ。彼の正面が礫翔氏が金箔部分を施した高精細複製作品、向かって左は実際の襖絵。現在も複製作業は進められており、今年中にはすべての襖絵と複製作品が入れ替わる予定だ。

革と金箔の出合いと伝統への挑戦

ひとりの芸術家の魂が、同じレベルで共鳴し合える盟友を得たとき、その化学反応は単なる足し算ではなく、掛け算となる。その証左が「ルージュ・ジバンシイ 京都 エディション」だ。レザーに金箔を貼るという試みはもちろん、ジバンシイの伝統と革新と、自らの感性と技巧を融合させるという難問に礫翔氏が打ち勝つまでに、実に1年半。ひとつの口紅に用いられた金箔は10枚以上、独特の奥行きと厚みはここまで手をかけないと生まれない。そして金箔の上に躍る色の多重奏。ニコラがそれまでに手がけた色製品すべてに目を通し、試作と熟考の末に生まれた鮮やかなカラーコンビネーションは、茫洋とした金の海に咲く色彩の宇宙を生み出した。模様を切り取る審美眼も重要だ。革を切り出す最後の作業まで、礫翔氏自らが行なった。礫翔氏はこう振り返る。

「ひとつずつ作品として愛情を込めて創りました。600本の口紅は、ひとつとして同じものがありません。京都の伝統の技術が、フランスのクチュールに出合い、革にあしらわれ、ルージュになった。そしてそれが女性たちの手に取られて新しい所作や物語が生まれる。感慨深いことです」

すべてを受け止める金箔の包容力、そしてわび・さびの慎ましさと、モダンな大胆さとのマリアージュ。日本でもフランスでもなく、どんな国に住んでいる人でも、この口紅の中に自分の美意識を見ることができるのではないだろうか。どれだけ眺めていても見飽きることのない美しく、詩的な口紅を手に、普遍的な美の強さを見た思いがした。

600通りの奇跡のストーリーは、ここで終わりではない。あなたの人生に寄り添いながら、この口紅はアートとして熟成され、変化し、進化する。

旅は、続いていくのだ。

>>Vol.3へ続く

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電話:03-3264-3941
http://www.parfumsgivenchy.jp/

SPUR2016年3月号掲載
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