あなたが欲しいのは金木犀? 銀木犀? オスマンサス香水のホントの話
秋の訪れを告げる金木犀ことオスマンサス。10月でも暑かった今年はようやく出番? ここ数年、トレンドとなっている金木犀の香りってどんな香りなのか? なぜこれほどウケているのか? 今、知りたい金木犀フレグランスのあれこれを、セミナーやカウンセリングなど多方面で活躍するフレグランスアドバイザーのMAHOさんに聞いた。
オスマンサス=金木犀?
タイラ 金木犀というか、オスマンサスというか流行っていますね。ひと昔、いやふた昔前は民家の裏庭に咲いている光景をよく見た記憶……。ザ・昭和(笑)!
MAHO 本当に。実はオスマンサスというのは、キンモクセイ科モクセイ属を指すので、金木犀も銀木犀も入ります。香り立ちの強い花なので、「金木犀」と聞くとパッと思い浮かびますよね。ちなみに銀木犀は、鼻を近づけないとわからないくらいの香りで、金木犀ほど強くありません。なので、フレグランス製品は主に金木犀を彷彿とさせるものが多いですが、中には銀木犀をテーマにしたものもあります。
日本でのオスマンサスのヒットに関して言えば、親しみやすい、懐かしいというのも要因かも。
タイラ 日本に関して言えば、ということはほかの国では違うのですか?
MAHO 香水、特に香料の世界ってやはりヨーロッパが先進なんですね。金木犀は主に、中国で採れる花の香料。世界の調香師はいろんな香りの素材を常に探していて、「なんだ、アジアにはこんなにいい匂いのする花があったんだ」と金木犀の香料を使い始めました。その後ヨーロッパ以外の市場も見据えるなどの理由で、オスマンサスを起用した製品が増えたんですね。エルメス時代のジャン・クロード=エレナが手掛けた「オスマンサス ユンナン」や「李氏の庭」とか。
タイラ たしかに。そのあたりは中国マーケットを見据えているのかなと思っていました。
MAHO もちろん、それもあるでしょうね。中国では金木犀はその開花が幸運をもたらすと言われていて、とても人気の高い花なんです。フレグランスの香料としてだけではなく、桂花陳酒やお茶の香りづけに使われますし、ニーズがとても高い。この秋、話題なのは【ル ラボ】の京都限定 「オスマンサス 19」ですね。京都とオスマンサス、「秋にバズる2大ワード、来ました~」的な……!
タイラ 本当。でも香りは、ザ・金木犀というよりはアロマティックな印象です。
MAHO そこが【ル ラボ】の上手さ。インセンスやラベンダーを合わせ、京都の幽玄なアトモスフィアを表現しているのがなんとも今っぽい。
アロマティックなアレンジの金木犀フレグランス
タイラ 王道の金木犀の香りとは、言葉で説明するとどういうものでしょうか。
MAHO 金木犀はお花ですが、フルーティな甘さがあるので、ファセット(※18に分けた香調のこと)としてはフルーティに分類されることもあります。ですが、アブソリュートになると今度はぐっとレザー調に。ファッティなフローラル感と、力強いウッディ感が濃密になると、アニマリックな要素が出てきてます。妖艶なイメージになりますね。
タイラ 王道の中でも2タイプあるのですね。フレッシュな金木犀フレグランスだと、お勧めはありますか?
MAHO 【アクア ディ パルマ】の「オスマンサス」かな。このブランドが得意とするシトラスをあわせて、オスマンサスがもともと持っているアプリコットやカシスの香りに通じるフルーティな要素を引き立てています。
タイラ すっきり爽やか。フレッシュで使いやすそう! 香りを嗅ぐと金木犀の鮮やかなオレンジレッドの花が目に浮かびますね。
フルーティフローラルの金木犀フレグランス
MAHO 日本ではオレンジレッドの金木犀がメジャーだけど、中国で香料として最高品質なものはクリームイエローの花びらのものなんですよ。そんな薄いクリームイエローの金木犀をイメージしたフレグランスが、【エスティ ローダー】の「パラダイスムーン」。
タイラ エスティ ローダー、フレグランスを刷新したんですよね。パラダイスムーン、知りませんでした。
MAHO なぜ、オスマンサスでムーンという名前なのかというと、中国では金木犀は月で咲いていて、その巨木に咲く花の色が月の色として見えているという伝説があるからなんです。
タイラ 月の光がこぼれて地上に舞い降り、地上にも金木犀が育つようになったという話もあるとか。そして桂花陳酒の桂花って金木犀のことだったの!?
MAHO そうです。中国語で金木犀が桂花なんですね。
タイラ なるほど~。月の色をした桂花だから「パラダイス ムーン」なんだ。
レザリーな金木犀フレグランス
フルーティ or レザリー、あるいはアンバリー?
タイラ 金木犀フレグランスで検索すると本当、結構な数ありますね。フルーティ調かレザー調と個性が分かれるのが面白い!
MAHO フルーティの代表で忘れてならないのが、【ルイ・ヴィトン】の「エトワール・フィラント」。
タイラ 天才調香師ジャック・キャバリエさんもオスマンサスを作っていたのですね!?
MAHO 金木犀に透明感のあるマグノリアを合わせて、きれいな花の香りでまとめつつ、グルマンともフルーティとも言えるレッドストロベリーを。とろんとした甘さを添えているのが、なんともキャバリエさんらしい調香ですね。金木犀のアジアンビューティな異国さを醸しながら、欧米の人も好むオールラウンドに対応できている。キャバリエさんの香りは難解ではないのに、印象深い。そこが天才たるゆえんなのかも。
タイラ ルイ・ヴィトンのコレクションにはたくさんの香りがありますが、金木犀フレグランスを探しているなら、これはトライする価値ありですね。
フルーティフローラルな金木犀フレグランス
MAHO ルイ・ヴィトンの透き通るようななめらかな金木犀フレグランスの対極にあるのが【ジバンシイ】の「ギャルソン マンケ」。オスマンサスアブソリュートを用いて、思い切りレザリーに振っています。
タイラ 本当だ。同じオスマンサスといっても全然、印象が異なりますね。ちょっとメンズライクというか、香りも濃密。
MAHO 「ラ コレクション パティキュリエ」の、「ド ジバンシイ」シリーズは、濃密な香りがお好きな方にはたまらない香りの宝庫。インテンスな金木犀が好みの方はこちらをチェック。
レザリーな金木犀フレグランス
MAHO もうひとつ、知られざるオスマンサス派を。オスマンサスをアンバリーに振った【ブルガリ アレーグラ】の「ロックン ローマ」はいかが? こちらもキャバリエさんですね。
タイラ ブルガリのリュクスなシリーズですね。ボトルが美しくて、さすがジュエラーのフレグランス! そして、これもキャバリエさんらしく、麗しく美しい香りですね。花と果実のフレッシュな香りに甘みが加わってくるような……。
MAHO そうそう、花の香りの後に樹脂の甘みをベンゾインで添えていて、いわゆるアンバリーのファセットに分類されます。
アンバリーな金木犀フレグランス
数年前から大ブレイク中のオスマンサスフレグランス。香りのもつさまざまなニュアンスの中から、どの部分にフォーカスするかによって香りの印象が大きく変わる。たまたま嗅いだオスマンサスフレグランスが好みでなかった場合も、オスマンサスNGと決めつけるのは早計かも!? フルーティなものを嗅いで違うと感じた人は、アブソリュートによるレザリーなノートを試してみるのもいいだろう。アジアを代表する花の香りが世界を席巻しているのは日本人としてちょっと誇らしくもある。お気に入りのオスマンサスフレグランスを見つけてみて。
日本フレグランス協会常任講師。香水のイベントやセミナーのほか、国内外・新旧合わせて500種以上の香水と天然・合成香料をそろえるサロン、プライベートトワレ主宰。フレグランスの経験値や嗜好を対話から探り、その人に合ったフレグランスを紹介する個人カウンセリングも大人気。
取材歴30年。SPURのフレグランス企画の連載担当ライターとして活躍。この連載を機にフレグランスの世界に見せられ、現在は資格取得を目指してフレグランスの歴史やトレンドを学び直し中。